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【24-31】三中全会と中国人民銀行の金融政策

2024年07月25日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 7月15日から18日の間、北京で中国共産党の三中全会が開催され、それを受けて7月19日に中国人民銀行党委員会が開催した会議の内容が公表された。今回はこれらの内容について検討したい。

三中全会公報

 三中全会の正式名称は「中国共産党第20回中央委員会第3回全体会議」である。中国では5年に一度、共産党全国代表大会が開催され、その閉会中は共産党中央委員会が全国代表大会で決定された政策に従い、様々な政策を具体的に決定する。今回は2022年10月に開催された共産党第20回全国代表大会の下で行われた第3回目の中央委員会全体会議である。三中全会では通常、主に経済政策について取り扱われる。

 三中全会の最終日に公表された公報によると、今回の会議で『改革の全面深化を一歩進め、中国式現代化を促進することに関する中共中央の決定』(以下「決定」)を審議、承認した。今回の会議では2035年までに高水準の社会主義市場経済体制を達成、社会主義現代化を基本的に実現し、21世紀中ごろ、つまり2050年ごろには社会主義現代化強国の堅実な基礎を固めることとされた。また、「決定」の定める任務については2029年までに完成することとされた。

 公報において、金融政策に関連するポイントをピックアップすると、まず、科学的マクロコントロールと有効な政府のガバナンスが社会主義市場経済体制の有利性を発揮する内在的要因であると指摘されている。そして、マクロコントロールメカニズム体系を改善し、財務・税制、金融など重点領域の改革を全面的に計画・配備し、マクロ政策間の方向性の一致を促進することが必要であり、国家戦略計画システムと政策間の調整配置メカニズムを改善し、財務・税制改革と金融改革を深化させ、地方間の協調発展戦略メカニズムの実施を改善しなければならないとしている。

 そして、良好なマクロ経済政策を実施し、国内需要を拡大すること、不動産、地方政府債務、中小金融機関などの重点領域のリスクを防止、抑制する各種施策を適切に実施しなければならないとしている。

「決定」の金融部分

 7月21日の新華社電は、「決定」の全文を報じた。金融については第5部分、「マクロ経済ガバナンス体系を健全なものとする」の中で取り上げられており、その要点は以下のとおりである。

 金融体制改革を深化する。中央銀行制度の改善を加速し、金融政策の伝達メカニズムをスムーズなものとする。フィンテック、グリーン金融、金融包摂、養老金融、デジタル金融を積極的に発展させる。各種金融機関の機能を明確にし、ガバナンスを改善する。株式資金調達の多元化、多層的レベルの債券市場の発展を図り、直接金融の比重を高める。国有金融資本管理体制の改善を図る。上場企業の質の向上を図るなど資本市場の機能を高める。

 金融法を制定し、金融監督制度を改善し、法に基づきあらゆる金融活動を監督管理の対象とする。金融の高水準の開放を促進し、人民元の国際化を慎重かつ堅実に実施し、人民元オフショア市場を発展させ、デジタル人民元の研究開発と応用を適切に促進する。上海国際金融センターの建設を加速する。条件を満たす外資金融機関の金融業務試験地点への参入を促進する。自主的にコントロール可能なクロスボーダー決済システムの構築を加速し、開放的な条件の下での金融安全保障メカニズムを強化する。国際金融ガバナンスに積極的に参加する。

中国人民銀行党委員会会議

 三中全会閉会翌日の7月19日に中国人民銀行はウェブサイトで「中国人民銀行党委員会は会議を開催し、党の20回三中全会の精神を伝達・学習した」と題する文章を公表した。その要点は以下のとおりである。

 金融領域の改革は中国が改革を全面進化させることの重要な構成要素である。三中全会では、金融の質の高い発展の促進、金融強国建設という目標の加速、金融体制改革について予測性、系統性のある高いレベルでの計画を作成することを定めた。中国人民銀行は、各種業務を改革の全面深化という大局の中で計画推進していく。

 第1に、党中央の金融業務に対する集中統一した指導を堅実に実行し、業務の各方面、全過程に党の指導を貫徹させる。

 第2に、中国の特色ある現代金融政策の枠組みの完成を加速させる。金融政策の穏健性を保持し、金融政策の道具箱の充実を図り、金融政策の伝達メカニズムを改善し、資金の使用効率を高める。経済の持続的回復と質の高い発展に対して良好な通貨金融環境を創出する。市場の需給を基礎にバスケット通貨を参考に調節する管理された変動為替レート制度の改善を進め、為替レートの合理的均衡水準での基本的安定を保持する。金融政策の伝達経路を健全化し、市場の期待を安定させ誘導する。

 第3に、マクロプルーデンス政策の枠組みと金融システミックリスクの防止メカニズムを健全化し、システミックな金融リスクを発生させないという最低ラインを守る。強制性のある金融リスク早期是正措置の整備を行う。

 第4に、金融制度の供給サイドの改革を引き続き促進する。政策の全面的計画・配備とインセンティブメカニズムを強化し、金融資源の適切な配分を促進する。債券市場の建設を強化し、資金調達構造を改善する。

 第5に、より高い開放レベルの金融新制度を構築し、グローバルな経済金融ガバナンスに積極的に参加する。金融領域の制度的な開放を深化させ、貿易と投資の簡便化を一層進める。人民元の国際化を慎重に推し進め、オフショア人民元市場の整備を図り、クロスボーダー人民元業務が実体経済により貢献できるようにする。重大な国際金融ルールやスタンダードを制定する際の中国の影響力を向上させる。

いくつかの着目点

 2023年3月に中央金融委員会と中央金融工作委員会が設立され、金融関係の事項が国務院ではなく、共産党において決定されることとなったが、今回の人民銀行の文章でも、党の全面的な指導が強調されている。金融分野の改革や金融政策を実施するにあたって、党が全体をコントロールし、各マクロ政策が各分野、各地方の間で齟齬のないようにうまく調整するという手法が、社会主義市場経済における政策の在り方であり、それが有利性を持つという考え方が示されている。

 金融政策については穏健な金融政策を継続し、経済の回復をサポートするとされており、当面緩和的な金融政策を実施することが示唆されている(7月22日に銀行の貸出金利の基準であるLPR1年物と5年以上物がそれぞれ0.1%引き下げられた)。また、金融政策手段の道具箱の充実を図ると表現しており、今後も従来と同様、金利、預金準備率、構造性金融政策手段(2023年3月のコラム 参照)など様々な手段を駆使していく方針と見られる。また、人民元為替レートの変動について、金融政策の部分で言及されている。2023年10月のコラム でも説明したとおり、人民元為替レートは人民銀行が十分コントロールできるものであり、金融政策手段の一つと位置付けられていることが見て取れる。金融政策の手法について、先進国の通常の手法である短期金利を主要な金融政策手段とするやり方を目指すのであれば、預金・貸出金利の自由化や人民元為替レートの完全変動相場制への移行などが必要であるが、当面はそのような方向を目指すのではなく、現状どおり、多様な金融政策手段を使用し続けるものとみられる。

(了)


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