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【19-005】なぜ中国では変化が続くのか(その2)

2019年5月20日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

その1よりつづき)

戦略的発想による対応の巧みさ

 前回の日中論壇で中国の戦略の巧みさを取り上げた。大胆な戦略でいろいろな物事の進展に相乗効果が生まれそれが社会の変化に繋がっている。

 例えば、高速鉄道(高鉄)の建設である。全国の高鉄網は「四縦四横」から「八縦八横」計画へ、そして将来さらに拡大する予定で、現在、珠江デルタなど大都市の近距離高鉄網の整備が急ピッチで進んでいる。以前、この欄でも取り上げたが日本では中国の高速鉄道に批判的な目で、乗客より駅員が多い駅が報道されたこともあった。

 だが、今年の春節休暇には広東省鉄道集団管内の旅客数は6,200万人、前年比14%増加し、運行本数8,753列車の67.9%が高鉄だった。また792本の夜間高鉄も運行された。春節休暇の全列車の68%が高鉄ということは、多くの農民工が帰郷で高鉄を利用したことでもあり、高鉄が中国の春節風景も変えている。

 高鉄により旅行スタイルも変化している。筆者は先日、雲南省の昆明から北京までの寝台夜行高鉄に乗ったが、通路を真ん中に左右に二段のベッドが配置され、列車の振動も少なく、スピードも速く快適で、寝ている間に北京に着いた。

 中国は巨大な人口を抱えた、まるで「巨象」のような国で、動くのは困難にも見える。だが、巨大人口であるがゆえ、全てを一挙に動かそうとは誰も考えないだろう。先に豊かになる人、後で豊かになる人を区別して取り組めばいい。一度に全てを動かして失敗し、何もできないよりよほど堅実である。中国の対応の賢さは多くのことを実験から始めることである。特区の実験も深圳から始まった。戸籍改革も一部からである。

 中国人はせっかちでもある反面、我慢強く、待つことにも慣れている。悲惨な歴史、長いあきらめの時間を過ごしてきたのであるから、今さら待つことを厭わない。

 一方、日本は一部の実験でもなかなか進みにくい。政治的には国が賛成、地方が反対、その逆も多い。虎穴に入らずんば虎子を得ずだが、虎穴にすらなかなか入れない。

 「没問題」という言葉のように、まずやってみて、問題は起きた時に考え、対処すればいいのが中国流だが、日本は問題を予想しすぎて一歩が踏み出せない。

 同じ実験で始めるにも、中国と日本には対応の差がある。中国は大きく生んで大きく育てるのだが、日本は小さく生んで大きく育てる。中国で小さく生んでいては人口が多いため「巨象」は動かない。だから変化も目立つ。

異質へのバリア

 中国人は異質や他人へのバリアが低い。見ず知らずの他人とでもすぐに打ち解け会話がはずむ。電車での大声での会話や携帯電話もバリアが低いからだろう。それとも地平線の向うの人と大声で会話をした習慣がDNAに沁み込んでいるからなのか。

 身振り手振りを交え、誰が聞いていようと一切気にしない大声は、周囲ばかりを気にする日本人から見れば、反面羨ましくもある。社会主義の国ゆえ企業機密も家庭の秘密も皆が共有しているからなのか。いささか皮肉な冗談ではあるが。

 異質へのバリアが低いことは、変化を受け入れやすい風土であると言える。

 ネット社会やキャッシュレス社会も昔の保守的な中国人から見れば異質である。

 バリアの低さは情報社会に有利に働き、ネット社会の拡がりは日本をはるかに凌ぐ。

 JSTの3月6日の「中国のイベーション動向と社会の変化」(梶谷懐氏) の講演では、深圳の製造支援を行うデザインハウスが紹介されている。大手の小米(シャオミ)やファーウェイもそれを活用し、その結果として技術の公開と共有が進むという。損得を計算し、全てを囲い込むことをせず、それが社会全体の進歩に好影響をもたらす。

 また首都鋼鉄が創業支援のインキュベータに参画するなど、お堅いように見える国有企業の柔軟な対応も紹介されている。

 筆者も投資ファンドを経営する中国人と親しくつきあっているが、彼らの考えは柔軟で特異な技術には何でも投資するというスタイルである。

 企業や経営者のウジ素性でなく、事業に共感が得られれば積極的に投資を行う。そのような投資フアァンドが増えて、事業を支援するのも変化の原因だろう。

 今世紀初頭は、まだ中国で個人信用は発達していなかった。中国人はローンに対し保守的だった。しかし最近、急激に個人ローンが成長している。

 以下の表は建設銀行の貸付残高に占める企業と個人の金額、比率の推移である。

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 2018年末の工商銀行や農業銀行など主要商業銀行12行のクレジットカード利用者の未決済平均残高は4,497元、12行の残高の前年平均伸び率は24.7%である。またカードのキャッシングの主要10行の平均残高は5,986元である。アリペイなどのネット決済では通常、2,000元程度の与信もつき、利用者は自然に個人信用社会に組み込まれる。90年代には個人ローンは僅かだった中国で一気に個人ローンが拡大している。

 これは、保守的な中国人も物事の価値を認めると変わり身が早いことを示す。

 尤もこれほど住宅価格が上がれば、ローン無しでは住宅購入は不可能ではあるが。

 自転車共同利用の共享単車は市民の大切な生活手段となった。乱暴な使用による自転車の修理やどこにでも放置するモラルの問題で維持管理に多大なコストがかかり、大手の一角のofo(小黄車)が破綻しているが、その拡大スピードは速かった。

 本来、共享単車は日本向きかも知れない。日本では駐輪場所に白線を引いておけば、殆どの人はそこから外れることなく白線に添って自転車を戻すだろう。しかし日本では、便利さを認めてもすぐには拡がらない。異質へのバリアが高いからである。既得権益など多くの壁も立ちはだかる。

 日本人は失敗を恐れ、物事を進めるのに入念な問題分析から始める。そして前に進みにくくなる。蜘蛛の糸を自らに巻きつけていくようなところがある。さらに協調を重視する社会なので、異質はマイナス要素になりやすい。

 さらに日本の役所では前例主義で仕事が進むことも多い。前例がなければ進めるために多大な時間と精力が必要で、その壁の前に諦めざるを得ない案件も多い。

 逆に中国人は問題よりも悩んで踏み出さないことに恥ずかしさを感じる人の方が多いのではないだろうか。

 異質へのバリアの中国人と日本人の違いは旅行スタイルにも現れる。

 最近、日本ではこんなところにも中国人がと思うことがよくある。だが、中国で旅行をしていると、主な観光コースを離れて日本人を見かけることはほとんどない。

 先日も湖南省の西、湘西地方を旅したが、街々の案内看板の言語は中国語、英語、韓国語だった。決められたレールから外れることを厭わず、それを望む感すらある中国人と、レールを外れると不安になる日本人。変化に向かう姿勢も違う。

 中国の学校では5G実験教育がスタートしている。広東実験中学では5Gを使い、有名な先生の授業を高レベルの画像送信で遠隔地や内陸学校との同時教育を行う試みが始まっている。ファーウェイの技術が教育現場にどんどん入り、教育格差の是正の動きが進みだしている。珠江デルタの大湾区の中心都市、広州開発区では年内に3,500の5G基地局が建設される。一方、日本では今年の4月に携帯電話事業者に5Gに必要な電波の割り当てが決まったばかりである。

 中国では今、清華大学などの大学が企業と同じく集団化している。集団の傘下に私立学校をつくり、授業料が高くても子供に有名学校の授業を学ばせたいとの親のニーズに対応している。柔軟な発想で異質へのバリアが低い中国では新しい試みが多くの分野で進み、それが社会の変化に拍車をかける。

面子

 中国では大きいことが好まれる。14億の人口は大きく対応しないと動かせない。

 物資が不足した時代の感覚が躰に沁みついているからなのか、中国では大きなものが好まれる。贈り物も中身より包装がはるかに大きい。車も小型車は人気が無い。最近開通した香港・マカオ・珠海大橋の香港側の出入国管理棟も大きいが、中国側は威容とも言える大きさである。橋も片側3車線で、人口と面子を考えればその大きさになるのだろう。

 まだ平日は閑散としているが、日が経つにつれ利用する人が増えている。今年の清明節の二日間に橋を通過した人は8.6万人、車両は3,800台だった。その約42%は香港、マカオからの旅行者である。広い出国検査ロビーも人で埋まり、手荷物検査のため建物に入るにも長い列ができた。

 14億の国の社会経済の変化の予測は難しい。インフラ整備を進めても予測と成長が合わないことも起こる。北京と上海を結ぶ高速鉄道がそうである。そのため第二の北京・上海高鉄が計画されている。面子が計画の誤りをカバーし、丁度良い加減に収まり、それで変化にも対応できている。

 面子は中国の変化を対外的にも印象づける。上海の浦東空港から市内に向けてリニアが走っている。30㎞ほどの短い区間だが、開業当時に時速430㎞で疾駆した姿は世界の人々に変わる中国、変わる上海を印象づけた。海外から浦東空港に降り立ち、時速430kmの列車に乗れば、多くの外国人は中国の変化に驚く。その宣伝効果も計り知れない。リニアは中国の面子の象徴でもあった。

国土の大きさ

 宏大な国土も早い変化の原因の一つである。

 前にこの欄 で内モンゴル、オルドス市の康巴什(カンパシ)新区を取り上げた。草原の中に突然、巨大都市が出現したのが康巴什で、当時は世界中からゴーストタウンの象徴と揶揄された。中国の多くの新区が康巴什と同じように、旧市街から離れた場所に建設された。上海も蘇州も深圳もそのようにして成長した。

 旧市街地の改造より、農村に新区を作る方が時間もコストも少なくなる。

 日本では立ち退く農民の悲惨な姿ばかりが報道されたが、上海でも深圳でも土地を提供した農民が、その配当やアパート経営などでお金持ちになり高級車を乗り回している。

 話題の北京の雄安新区もそうだ。北京市内から120㎞のところに初期の総面積100㎢、最終的には2,000㎢の新区をつくり政府機能や中央企業の本社も移転する。北京からの雄安高鉄も建設中である。一党政治で政府の権限も強いのでこのような対応ができるが、国土が広いことがその根底にある。

 だが、日本では数百メートルの道路建設に何十年、世紀をまたぐ工事になることも多く、変化が起きても、それは遅々として「進む」。

国際化

 中国の変化には国際化と外資が影響した。90年代の初頭、上海の人民広場にあったケンタッキーは中国のファーストフードの最初の店でもあった。

 ケンタッキー、マクドナルド、スターバックスは保守的な中国人の食生活や生活スタイルに大きな影響を与えた。だが外資もさることながら国際化には中国人の異質へのバリアの低さ、バイタリテイーと伝統的開拓者精神が影響している。

 鄧小平の黒猫、白猫の言葉に象徴される柔軟な思考が外資の受け入れを拡大した。

 次のグラフは中国への外資投資額の推移である。2014年から2017年までの日本への外資投資の年平均額は208億ドルで、同期間の中国への外資投資の16.5%に過ぎない。外資の受け入れは経済のダイナミズムの反映である。

 今年の第一四半期、中国のGDPの増加は6.4%で、外資の実際投資額は5.5%の増加だった。2月までの2カ月の投資額は、韓国が35.6%の増加、貿易摩擦の渦中の米国が44.3%の増加、オランダが174.8%の増加、ドイツが39.9%の増加、フランスが113.3%の増加と大きく伸びている。

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 今、日本は外国人観光客で賑わうが、これは経済のダイナミズムではない。

 中国は外資を上手く受け入れ、外資を利用して技術を吸収して経済だけでなく社会すら変えて来た。だから、中国企業や中国人が日本に投資すれば、日本が買い占められる、という排他的な意見も出る日本と変化の差が出るのも尤もなことではある。

 日本の変化への拒否反応の象徴的な例は外国人、殊に中国人や韓国人への差別やヘイトスピーチである。ごく一部の人たちではあるが、それは変化を嫌い内に籠る気分と心の貧しさの象徴でもある。中国に経済的に追いこされた屈辱で感情的に拒否反応を示していれば、世界の流れからも日本は取り残される。

中米貿易摩擦は米国第一主義との闘争

 中国は外資を巧みに受け入れ、技術も向上して変化した。しかし、中米貿易交渉で米国は中国政府が外資企業に技術移転を強制していると攻撃している。

 しかしこれは眉に唾をつけて聞かねばならない。

 合弁企業の運営は合弁契約と企業の定款に基づく。契約では外資が中国に持ち込む技術のレベル、内容、範囲が重要なテーマになる。

 合弁事業が開始しても時間が経てば契約内容の修正協議も行われる。

 外資が一時代前の技術を中国に持ち込んでいるなら、事業の存続や成長の問題になるからである。製品の中枢となる機材や部品の現地生産への移行もコストを下げて市場競争に勝ち抜くために協議される。どちらも技術移転がからむ。

 その緊迫度により中国側からの要求は強くなる。それはビジネスである限り当然でもあり、合弁事業を進める限り予測できることである。もし、そんな事は想定していない、合弁事業の信頼を崩すというなら、それは米国の甘えである。

 また外資出資比率や中国企業の立場で要求の強さも違う。中国企業が国有企業で大手企業、中央企業なら政府との境目も判然としない。強い要求が政府の要求と思われるかも知れない。だが要求だけなら通常のビジネスの範囲である。それを飲むか飲まないかは合弁企業のマネジメントと意思決定の問題である。米国の主張は運営やマネジメントの問題を無理に政府の強制に結び付けている感もある。

 一方、外資100%の独資企業に中国政府から技術移転の強い圧力があれば問題である。

 だが筆者の経験ではそのような事例は聞いたことがない。懇意にする中国弁護士にも確認したがそんな事例はないと言う。

 米国は特殊なケースを引き合いに、貿易交渉を有利に進めるために拡大解釈しているように思える。米国は北京で航空工業とジェットエンジン開発の合弁事業を展開している。

 その技術は軍需にも利用されることを想定した上での合弁だろう。そんなしたたかな米国が技術移転をめぐるかけひきを想定しないはずは無い。

 だから米国の主張は何をいまさらという感もする。米国は、いつ、どこで、どんな強制があったかを明確にして主張すべきだ。

 中国は政府が国内企業を支援し公平ではない、という米国の主張もおかしい。米国の主張は何を甘ったれたことを、という感もする。国が企業を支援し産業振興を図るのはどこの国も行う。

 中国は社会主義国で当然それが強く現れる。米企業もそれを認識して中国に進出しているはずだ。そんないちゃもんは自らの顏に唾を吐くのと同じで見苦しい。米国も軍需産業を世界一の防衛予算で保護している。国民の命を犠牲にしてまで銃器産業も育成している。

 企業運営の問題や産業保護政策を貿易交渉のネタにするのは、米国の欺瞞である。貿易交渉の域を超えており、貿易摩擦は米国第一主義との闘争になり中国は妥協すべきでない。

 以上、中国の変化とその対比で変化のない日本を取り上げたが、この30年、日本は世界の国々の成長からも取り残されている。米国やドイツや英国、韓国などと比べても日本の成長は止まっている。再三取り上げている経済の分散もこの30年、変化がないどころか後退している。女性の社会進出も化石のように凝固したままである。家計所得も悪化している。

 何が問題なのか。変化が続く中国との比較で改革の糸口が見つかれば幸いである。

(おわり)