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【20-002】中国は覇権主義国なのか?(その2)

2020年2月6日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

その1よりつづき)

唐突で怪しげな新疆の強制収容報道

 次に新疆での強制収容について考える。

 この3年ほど新疆の情勢は安定している。2018年の新疆の地区生産額は前年比6.1%の増加であるが第三次産業は8%増加し全国平均より高い。2018年の中国訪問外国人の増加率は4.7%だったが情勢の安定で新疆訪問の外国人観光客は28%増加している。筆者も昨年、一昨年と新疆を訪れたが奥地にまで多くの観光客が見られ、緊迫した様子は見られなかった。

 どうして、今唐突に、米国や日本で100万人とか200万人の強制収容の報道がされたのか、米国議会で「ウイグル人権政策法案」が可決されたのか、不思議な思いをしている。

 米国は、ファーウェイが国際貨物サービスのフェデックスに託した貨物を監視させている。その結果、ファーウェイが米国外に送った貨物もいったん米国に送られるなどの被害が出て、今ファーウェイ社内では国際エクスプレス便の使用を禁止している。米国は今、なりふり構わず理不尽なファーウェイ潰しに走っている。

 新疆の強制収容問題も中国の台頭への米国の苛立ちによる中国叩きの一環である。中国を「悪の国家」に陥れ、貿易戦争や電子通信産業で米国が有利にたつための、工作の一環でもある。

 ウイグル人強制収容の日本での報道の殆どが「100万人から200万人が強制収容されたと見られる」という報道の仕方である。NHKの報道でも100万人と「見られる」という報道だった。果たして誰が「見た」のだろうか。

 筆者はその報道姿勢に疑問を持つ。100万人を超える人口は仙台市の人口に近い。どこに収容できるのか。事実ならその場所も情報の出処も明確にすべきだ。米国発の根拠不明の情報を咀嚼せず報道しているなら、メディアの姿勢を疑う。

新疆の「職業技能教育センター」設置の経緯

 新疆では1990年~2016年までに無差別テロが頻発し、中国内情報では数千件に及び、多数の一般人と公安関係者が犠牲になった。一般人を狙った生々しいテロ現場の複数の映像も公開された。

 テロは「東トルキスタンイスラム運動」(ETM)とつながり多くのウイグル族犠牲者も出た。ETMは東トルキスタン建国を目指しタリバンやアルカイダとつながる武装テロ組織で2011年に新疆の喀什(カシュガル)や和田(ホータン)市での無差別テロにも関与した。

 過激イスラム主義の無差別テロには新疆イスラム協会やウイグル族住民も反発している。彼らは「新疆問題は民族、宗教、人権問題でなく民族を分断させるテロの問題」と語る。

 長年、新疆住民はテロによる命の危険にさらされ、緊張と恐怖の中で生活した。ETMはウイグル族のモスク礼拝すら「異教徒」と見なして「聖戦殉教天国」思想でのテロ組織参加や子供を学校に通わせないことまで強要した。

 長年の恐怖を受けて「職業技能教育訓練センター」が新疆の各地に設置された。

 センターは寄宿制で無料。休暇をとり家に帰ることもできる。日常の家族や外部との通信も遮断されていない。「職業技能教育訓練センター」には海外数十カ国からも施設見学に訪れている。特に中東や中央アジアの国が多い。国連関係者の訪問も受け入れ、現地を見たイスラム圏の国々は中国のウイグル族への対応や教育訓練センターを高く評価している。

 主な教育対象者は軽微な犯罪、違法行為をした人で言語(漢語)教育や文化知識、法律知識、職業技能教育を中心に教育が行われた。とても100万人とか200万人になる数でない。

 漢語教育と言えば、日本では文化まで漢族習慣に変えようとしているととらえる人も多い。しかしそれは違う。中国では少数民族の文化、言語、習慣は尊重されている。

 漢語教育を行うのは就職や仕事のためである。新疆、またその中でもウイグル族が多い和田や阿克蘇(アクス)地域の教育が特に遅れているわけでもない。人口に対する高校生の比率は新疆全体で2.2%、阿克蘇は2%で、広東省の0.9%、山東省の1.6%、四川省の1.7%などと比べてもむしろ高い。中等職業学校在校生も他に比べ多い傾向がある。だが、後に述べるように和田や阿克蘇は新疆の中でも経済的には恵まれない地域である。ウイグル族には貧しさゆえ教育を受けられなかった人も多い。言葉の障害で職にもつけず、それが貧困やテロ組織への参加に繋がる。新疆では旅行関係の仕事が拡大しているが、新疆を訪れる旅行者の言葉は漢語や英語である。漢語での日常会話は就職、仕事のために必要である。

100万人から200万人の強制収容はデマ

「100万人から200万人の強制収容、監禁、暴力」はデマである。過激テロ犯の収容と教育訓練センターの二つを意図的に結びつけてデマ情報がながされている。1958年のチベットラサの反乱での米情報機関の情報操作と同じことが今も新疆に関して行われている。

 米国人権団体の情報を咀嚼せず100万人や200万人と報道する日本のメディアの姿勢にも問題がある。ある日本の新聞の社説に「今春、日本は中国の習近平国家主席を国賓として招く。だが、中国政府は、国内の800万人というウイグル族のうち、80万~200万人以上を拘束し、拷問、虐待しているなどの報道が相次ぎ、国際的な批判が広がっている」と書かれた。このような報道が米国人権団体や情報機関の情報操作に協力する結果になっている。

 ウイグル族は新疆だけで1,100万人を超える。「80万人と200万人」という数字の差は広島の人口と同じである。メディアは数字の扱いに慎重であるべきで、120万人も差のあるあやふやな数字を軽率に報道すべきでない。

 その数が事実なら新疆財政にとって大変な負担である。1人に年間3万元が必要なら200万人で600億元、日本円で1兆円に近い。さらに施設の建設費、維持費も多大である。そんな報道が「とんでもない情報」を拡散させる。

 情報の受け手もその数を不思議に思わなければならないが、そこに中国情報の問題がある。多くの人が「中国だから」と信じ込む。

 5年ほど前、「中国共産党が沖縄で独立運動をしている」との噂が全国に拡散した。筆者にも知人から「中国共産党が独立運動をしているのをご存知ですか」との問いかけがあった。筆者は一笑に付したが、信じた人も多く「実は沖縄では・・・」という話が事実のように拡散した。真実は右翼が中国共産党友の会を名乗り、成り済ましの街宣活動をしていた。

 新疆の強制収容人数もその類のデマである。過激テロ犯の取り扱いが中国でどうされているかは筆者にはわからないが、米国は海外で過激テロ犯を問答無用で殺戮する事もある。

 新疆の民族別の人口比率は次のグラフのようになっている。

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 2010年の第六次人口調査では新疆の15歳~64歳の人口比率は73%で、うち女性の割合は48.4%である。その比率を2015年の新疆のウイグル族人口1,130万人に当てはめるとウイグル族の15歳~64歳の男性人口は426万人になる。

 さらに省都の烏魯木斉(ウルムチ)、観光地の伊犁哈薩克(イリカザク)や北部の阿勒泰(アルタイ)などは情勢が安定した地域なのでそれらの地域を除き、テロリスクが高いと思われる和田、阿克蘇、喀什、克孜勒蘇柯尓克孜(クズルス・キルギス)自治州など西方、中央アジアに接する地域のウイグル族の15歳~64歳人口となると332万人になる。200万人の強制収容が事実なら、これらの街の働き手の男性は殆ど姿を消し経済に多大な影響を及ぼす。

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 新疆を読むには情報に接する人にも冷静さが必要と思う。

貧困から抜け出すために教育は欠かせない

 新疆は自然豊かな地で観光資源が豊富だ。しかし一方、大部分を作物が育ちにくいタリム盆地、タクラマカン砂漠、ジュンガル盆地などの砂漠が占める過酷な自然条件の地である。

 昨年、筆者はウイグル族が多い吐魯番(トルファン)市托克遜(トクスン)県の街に行った。砂漠を抜けて街に入った時、そこで出会った熱風は想像を絶する熱さだった。日本では夏に気温が40度に達する所が話題になるが、その温度がすがすがしくさえ感じられる熱風が吹き荒れていた。その翌日、吐魯番中心部に向かった。その日の気温は42度であったが、それがなんとも感じないほどの前日の熱風だった。

 新疆は天山や崑崙山脈、アルタイ山脈の雪山や川、草原の美しい自然に恵まれた地であるが、一方で多くの住民は過酷な自然条件のもとで暮らしている。

 過激なテロ組織に参加する一番の原因は貧困だろう。だからこそ、貧困解消のためアフガニスタンで中村哲医師は自ら灌漑施設をつくり、農業再生活動に取り組んだのだろう。

 新疆で一人当たり地区生産額が最も低い和田地区は烏魯木斉市の15%ほどで、石油や希少金属資源が採れる北部の克拉瑪依(カラマイ)の8%ほどに過ぎない。

 前回の「日中論壇」 で扶貧への取り組みについて述べた。それは自ら継続する収入を得てこそ「貧困脱出」と考える。新疆でも同じだ。過激テロ組織への参加を防ぐためにも若者の教育や職業訓練は欠かせない。

 中国政府はイスラム寺院を取り壊し、宗教行事の制限を加えているとのデマも伝わるが、政府は財政面でも多額の資金を投入しインフラや寺院整備も行っている。各省からも新疆助成の資金が投入されている。モスクの浴室や水洗トイレ、浄水器の設置、通信インフラの整備さらに経典のウイグル語、漢語、カザフ語への翻訳の助成、また多数の信徒のメッカ巡礼への支援、10カ所のイスラム学院の建設なども行い支援している。高速道路網やそれに接続する国道も整備され、広大な新疆での移動がとても楽になっている。新疆の道路を走ればいたるところで検問があるが、その結果治安が改善され観光客も増えた。

 新疆に暮らすあるウイグル族は次のように語っている。

「私たちの住むところは昔、日干し煉瓦の家だった。しかしそれが快適に暮らせる家になった。泥の道がアスファルトになり、ロバの荷車は電気自動車になった。昔はダムに貯まった水を飲んだが今は水道水を飲めるようになった」

 テロの防止は武力でないことはアフガニスタンに介入した米軍の結末と中村哲医師の行動を対比すれば答えが出る。

 筆者は米議会が可決した「ウイグル人権政策法案」は新疆の固有事情を理解しない米国特有の西洋式民主主義の夢想の押し付けと思う。米国は毎年数千人に及ぶ銃社会の犠牲者すら救済できない。米国自身の足元で起きている人権蹂躙を解決できずに遠い異国に夢を求めているのだろう。現地事情を考えない失敗はイラクやアフガニスタンが証明している。米国は同じことを「ウイグル人権政策法案」で中国に要求している。夢想は米国映画の世界だけにして欲しいと思う。

香港デモ(暴動)は大学生から高校生に移り次第に終息する

 日本のメディアは避けているが、筆者は「香港デモ」の言葉の後ろに敢えて(暴動)の言葉を入れる。それは日本のメディアへの皮肉も込めている。

 フランスやチリでも学生デモが起きている。その時、日本の新聞では「暴力的なデモ」「暴徒化したデモ」という言葉を使っている。香港では鉄棒を振り回し、爆弾も使われ、コンビニなどの店舗も破壊され、地下鉄などの公共施設も被害を受けた。だが日本で流れる映像は警察官が学生を殴る姿ばかりで店や施設が壊されるシーンは殆どない。日本のメディアは香港警察のデモ(暴動)取り締まりを批判的にとらえるが、欧米での犯罪者や過激デモへの警察の対応はもっと過激だ。「暴徒」「暴動」の言葉を使用しないメディアの姿勢は中国へのダブルスタンダードである。

 現在、「香港デモ」(暴動)は週末活動に変わった。大学生が卒業や就職を意識しだしたからでもある。香港経済界では今後3、4年の大学卒業生は採用できない、との声も囁かれている。米国から来てデモを扇動した学生達も帰国した。今、活動の主体になっているのが「高校生」である。警察に検挙されているのも高校生が多い。彼らは多分に「デモに行った」という時代の波に乗るために参加している。大学生は高校生にタスキを渡したのか、香港で活動する米国人権派団体も梯子をはずされた感を持っているだろう。

 過去、日本でも同じことが起きた。50年ほど前、学生運動で大学が封鎖され、やがてそれは高校に飛び火した。筆者の母校でもその影響で半年間まともに授業がなかった。

 高校生は深い思慮のもとで学生運動に参加したのでもない。時代の波が、地割れが伝わるように大学から高校に飛び火した。

 香港デモ(暴動)ではNHKも報じたように多くの香港人が「自由を求めて追い詰められている」との報道が目立つ。だが香港ほど自由なところは少ない。香港の街頭では常に「法輪功」などによる中国批判が行われている。選挙で民主派が殆どを占めたと報道されるが、得票率では反対派と大きな差はない。学生デモへの反対集会も度々行われている。

 日本の新聞に掲載された英誌の元編集長は「抗議活動は6カ月もの間続いている。(中略)、デモに参加し、必要であれば警察に立ち向かうことへの決意はより強くなっている。抗議や大規模デモの参加者数に顕著な減少はみられない」と述べている。

 新疆問題と同じように現地事情を理解しない一方的意見に思える。香港デモ(暴動)は今後も定期的に行われるだろう。しかし次第に儀式化して終息していくのではないだろうか。

 中国国内では香港学生の行動を批判的に見る人が殆どである。学生の民主化要求は中国には波及しない。逆に国内の結束が強まると考えている。

 筆者は、一国二制度は中国、香港の双方にとり良い制度と思う。2047年の一国二制度が終了する期限まで、まだ27年ある。その間、双方が琴瑟相和すように互いの長所を取り入れ融和していけば、中国式民主化はさらに進む。現在の香港学生の行動はそれをぶち壊すことになりかねない。「香港は中国の一部」という現実を受け入れて、互いの長所を引き出して融和させていくことに、若者のエネルギーを使うべきと思う。

 以上、「中国は覇権国か」を述べた。メディアの中国に対するダブルスタンダードと偏見、誤解は一般人の中国観に影響する。筆者は中国の全てが善だとは言わない。しかし「覇権主義」や「新疆問題」をテレビや新聞で述べるなら明確な根拠を示し報道すべきと思う。

 先に述べたアンケートでは「日本は中国にODAであれだけのことをしてやったのに感謝の気持ちも無い」と言う人もいた。周恩来が戦後処理で日本に対した二つの出来事、「戦犯への対応」と「賠償金の支払い」の事実を知っていれば語れる言葉でない。中国の自然や人は好きだが政府は嫌いと語る日本人もいる。だが「中国共産党」が生まれた背景には日本の中国侵略の歴史がある。漢字も儒学も中国から教わった。日本人はもっと中国への謙虚な態度を持つべきではないかと思う。

 筆者には中国が米国政府や多くのメディアにより「覇権国家」に無理に押し込められているように思える。それはあたかもイソップ物語の「北風と太陽」のようだ。北風を受けて中国が自衛と面子のために「真の覇権」に向かい進むことを危惧する。

(おわり)