【22-01】14・5計画、2035年長期目標の産業技術政策と双循環戦略(その1)
2022年03月18日 真家陽一(名古屋外国語大学外国語学部中国語学科 教授)
はじめに
2021年3月5〜11日に北京で開催された第13期全国人民代表大会第4回会議(国会に相当、以下、全人代)において「第14次5カ年計画(以下、14・5計画)および2035年までの長期目標要綱」(以下、要綱)が審議・採択された[1]。中国は経済社会政策を5カ年計画で運営している。2021〜2025年は14・5計画の期間となり、今後5年間の中国の経済社会政策を展望する上では、同計画の内容が非常に大きな焦点となる。加えて、今般の要綱では2035年までの長期目標も示された。14・5計画は、この長期目標の実現に向けた布石とも位置付けられる。
それでは、14・5計画において、中国の産業技術政策と双循環戦略はどのように位置付けられているのであろうか。また、その内容はどうなっているのであろうか。本章はこうした観点から、まず、双循環戦略が提起された経緯を確認した上で、第13次5カ年計画(2016〜2020年、以下、13・5計画)とも比較しつつ、政策的な位置付けと内容を検証する。そして、それらを踏まえて、中国政府の方針や有識者の見解も交えながら、双循環戦略の方向性を考察していくことを目的とする。
1.1 双循環戦略をめぐる政策展開
双循環戦略が中央レベルで初めて提起されたのは、2020年4月に開催された中央財経委員会第7回会議における習近平・国家主席の講話「国家中長期経済社会発展戦略における若干の重大問題」とされる。同講話は2020年11月1日発行の中国共産党機関誌『求是』2020年第21号に掲載された[2]。
講話において、習主席は「私は感染予防・抑制と結び付けて、国家の中長期経済社会発展について考えた」と述べた上で、重大問題として、①内需拡大戦略の実施、②産業チェーン・サプライチェーンの最適化・安定化、③都市化戦略の整備、④科学技術の投入および産出構造の調整・最適化、⑤人と自然の調和共生の実現、⑥公衆衛生体系建設の強化の6点を挙げた。
このうち、産業技術政策と双循環戦略の観点から注目されるのが、①、②および④である。この3つの問題は、米中対立から出てきた教訓であり、内需拡大への転換加速、新たな産業チェーン・サプライチェーンの再構築、技術の国産化の推進により、対米依存からの脱却を目指すという方向性がうかがわれる(表1-1)。
出典:習近平「国家中長期経済社会発展戦略における若干の重大問題」『求是』(2020年第21号) (筆者作成) |
||
項目 | 主な内容 | |
① | 内需拡大戦略の実施 | 中国経済の長期的・持続的で健全な発展の保持に必要。 国内大循環を主体とし、国内・国際双循環が相互に促進する新たな発展構造の構築に有利であり、国際競争・協力への参与における新たな優位性の形成にも有利。 |
② | 産業チェーン・サプライチェーンの最適化・安定化 | 長所を伸ばし、優位産業が世界をリードする地位を強化・向上させ、国際産業チェーンの中国に対する依存関係を強化し、外国側の人為的な供給遮断に対して強力な対抗・抑止能力を形成。 弱点を補完し、国家安全に関係する分野と節点において、自主制御可能で、安全で信頼できる国内生産供給体系を構築し、肝心な時に自己循環可能で、極端な状況下でも経済の正常な運営を確保。 |
③ | 科学技術の投入および産出構造の調整・最適化 | 科学技術資源の配置を最適化し、科学技術イノベーション能力を向上させ、中国の国情に合致した科学技術研究開発の道を歩む。 企業主体の役割と政府の統一計画の役割を発揮し、基礎研究の「最初の1キロ」と成果の転化、市場応用の「最後の1キロ」の有機的な結合問題の解決に努め、産学研のイノベーション・チェーン、バリューチェーンを開通。 |
講話で打ち出された戦略の方向性は、2020年10月の中国共産党第19期中央委員会第五回全体会議(五中全会)で審議・採択された「第14次5カ年計画および2035年までの長期目標の策定に関する建議」およびそれを踏まえて2021年3月の全人代で審議・採択された「第14次5カ年計画と2035年までの長期目標綱要」にも、「イノベーション駆動型発展の堅持」「現代産業体系の発展加速」「強大な国内市場の形成」という項目で反映されている(図1-1)。
図1-1 中国の政策展開の推移
出典:「国家中長期経済社会発展戦略における若干の重大問題」(2020年4月)、「第14次5カ年計画と2035年の長期目標の策定に関する建議」(2020年10月)「第14次5カ年計画と2035年までの長期目標綱要」
(2021年3月)(筆者作成)
1.2 第14次5カ年計画における産業技術政策と双循環戦略
1.2.1 構成上の位置付け
産業技術政策と双循環戦略は14・5計画の構成においてどのように位置付けられているのであろうか。13・5計画と比較しながら確認してみよう。第1編は共に総論であり、以降が各論となるが、第2編では技術政策として、引き続き「イノベーション駆動型発展」が掲げられている。次いで、第3編には産業政策として、産業体系の最適化にインフラネットワークの構築を統合した形で「現代産業体系の発展加速」が挙げられた。また、第4編には双循環戦略として、「強大な国内市場の形成」が新設された。政策的には産業技術政策と双循環戦略のプライオリティが高い構成となっていることがわかる(表1-2)。
出典:「第13次5カ年計画要綱」(2016年3月)、「第14次5カ年計画および2035年までの長期目標要綱」 (2021年3月)(筆者作成) |
|||
第13次5ヵ年計画(2016〜2020年) | 第14次5ヵ年計画(2021〜2025年) | ||
編 | 項目 | 編 | 項目 |
第1編 | 指導思想、主要目標および発展理念 | 第1編 | 社会主義現代化国家の全面的建設 |
第2編 | イノベーション駆動型発展戦略の実施 | 第2編 | イノベーション駆動型発展の堅持 |
第5編 | 現代産業体系の最適化 | 第3編 | 現代産業体系の発展加速 |
第7編 | 現代インフラネットワークの構築 | ||
|
第4編 | 強大な国内市場の形成 | |
第6編 | インターネット経済空間の開拓 | 第5編 | デジタル化発展の加速 |
第3編 | 発展新体制の構築 | 第6編 | 改革の全面的深化 |
第4編 | 農業現代化の推進 | 第7編 | 農業・農村の優先的発展の堅持 |
第13編 | 貧困脱却対策の全力の実施 | ||
第8編 | 新型都市化の推進 | 第8編 | 新型都市化戦略の整備 |
第9編 | 地域の協調発展の推進 | 第9編 | 地域経済配置の最適化 |
第16編 | 社会主義精神文明建設の強化 | 第10編 | 社会主義先進文化の発展 |
第10編 | 生態環境の改善加速 | 第11編 | グリーン発展の推進 |
第11編 | 全方位開放の新局面の構築 | 第12編 | ハイレベルな対外開放の実行 |
第14編 | 国民の教育と健康水準の向上 | 第13編 | 国民の資質の向上 |
第15編 | 民生保障水準の向上 | 第14編 | 民生福祉の増進 |
第17編 | 社会統治の強化とイノベーション | 第15編 | 発展と安全の統一的計画 |
第19編 | 経済建設と国防建設の総合計画 | 第16編 | 国防・軍隊の現代化の加速 |
第18編 | 社会主義民主法治建設の強化 | 第17編 | 社会主義民主・法治建設の強化 |
第12編 | 香港・マカオ、台湾との協力・発展の深化 | 第18編 | 祖国統一の推進 |
第20編 | 計画実施の保障の強化 | 第19編 | 計画実施の保障の強化 |
1.2.2 各論の内容
14・5計画の各論における産業技術政策と双循環戦略の内容を13・5計画とも比較しながら検証してみよう。
(1)技術政策
技術政策となる「第2編 イノベーション駆動型発展の堅持、発展の新たな優位性の全面的形成」においては、「我が国の現代化建設の全局におけるイノベーションの核心的地位を堅持し、科学技術の自立自強を国家発展の戦略的支えとし、科学教育による国家振興戦略、人材強国戦略、イノベーション駆動型発展戦略を踏み込んで実施し、国家のイノベーション体系を整備し、科学技術強国の建設を加速する」との基本方針が謳われ、「科学技術の自立自強を国家発展の戦略的支えとする」ことが指摘されている。
出典:「第13次5カ年計画要綱」(2016年3月)、「第14次5カ年計画および2035年までの長期目標要綱」 (2021年3月)(筆者作成) |
|||||||
第13次5ヵ年計画 | 第14次5ヵ年計画 | ||||||
編 | 項目 | 章 | 項目 | 編 | 項目 | 章 | 項目 |
第2編 | イノベーション駆動型発展戦略の実施 | 第6章 | 科学技術イノベーションの牽引的役割の強化 | 第2編 | イノベーション駆動型発展の堅持、発展の新たな優位性の全面的形成 | 第4章 | 国家戦略科学技術力の強化 |
第7章 | 国民による起業・イノベーションの推進 | 第5章 | 企業の技術イノベーション能力の向上 | ||||
第9章 | 人材優先発展戦略の実施 | 第6章 | 人材のイノベーション活力の喚起 | ||||
第8章 | イノベーション促進の体制メカニズムの構築 | 第7章 | 科学技術イノベーション体制メカニズムの整備 | ||||
第10章 | 発展原動力の新たな空間の開拓 |
第2編は、①国家戦略科学技術力の強化、②企業の技術イノベーション能力の向上、③人材イノベーションの活力の喚起、④科学技術イノベーション体制メカニズムの整備の4章で構成される(表1-3)。各章のポイントは以下の通りである。なお、13・5計画には第10章「発展原動力の新たな空間の開拓」において、消費の高度化の促進、有効投資の拡大、輸出の新たな優位性の育成が掲げられていたが、後述の通り、本章は14・5計画における双循環戦略となる第4編「強大な国内市場の形成」に移行している。
① 国家戦略科学技術力の強化
科学技術強国行動綱要を制定し、社会主義市場経済の条件下で新型挙国体制を整備し、カギとなるコア技術の堅塁攻略戦をしっかりと行い、イノベーション・チェーン全体の効能を向上させる。
基礎研究実施10年行動計画を制定し、基礎学科研究センターを重点的に配置する。また、研究開発費の投入に占める基礎研究費の割合を8%以上に引き上げる。
② 企業の技術イノベーション能力の向上
技術イノベーション市場誘導メカニズムを整備し、企業のイノベーション主体としての地位を強化し、各種イノベーション要素の企業への集積を促進し、企業を主体とし、市場を誘導とし、産学研用(企業・大学・研究機関・実用化部門)が深く融合した技術イノベーション体系を形成する。
企業の研究開発投資拡大を奨励すべく、研究開発費の追加控除、ハイテク企業の税制優遇などの特恵的政策をより強力に実施する。
③ 人材イノベーションの活力の喚起
労働尊重、知識尊重、人材尊重、創造尊重の方針を貫徹し、人材開発体制メカニズム改革を深化させ、全方位的に人材を育成・導入・活用し、人材を第一の資源とする役割を十分に発揮させる。
イノベーション・起業・創造の深化を推進し、双創(「大衆創業、万衆創新」:大衆の起業・万人によるイノベーション)モデル基地の建設配置を最適化する。
④ 科学技術イノベーション体制メカニズムの整備
科学技術体制改革を踏み込んで推進し、国家科学技術ガバナンス体系を整備し、国家科学技術計画体系と運営メカニズムを最適化し、重点分野のプロジェクト、基地、人材、資金の一体化配置を推進する。
知的財産権保護運用体制を整備すべく、知的財産強国戦略を実施し、厳格な知的財産保護制度を実行し、知的財産関連法律法規を整備し、新分野・新業態の知的財産権立法を加速する。
14・5計画期におけるイノベーション駆動関連の主要指標をみると、研究開発費の伸び率を年平均7%以上とした。李克強総理は2021年3月11日の全人代閉幕日の記者会見において、「現在、我が国の研究開発費がGDPに占める割合はまだ高くなく、特に基礎研究費は研究開発費の6%しか占めていないが、先進国は通常15%から25%である」と指摘した上で、「我々は今後、基礎研究費の投入を増やし、科学技術体制を引き続き改革しなければならない」と表明している[3]。
また、特許保有件数(1万人当たり)は12件と、数量的には13・5計画と同じであるが、「高付加価値」特許に限定された。中国の特許は「出願件数は多いが価値はまだそれほど高くない」との指摘も少なくないことを踏まえ 、特許においても質を重視する意向が示された。
この他、科学技術の進歩の寄与率やインターネット普及率といった指標に代わって、デジタル経済の中核産業の付加価値がGDPに占める割合を2020年の7.8%から2025年に10%に向上させる指標が設定された(表1-4)。
出典:「第13次5カ年計画要綱」(2016年3月)、「第14次5カ年計画および2035年までの長期目標要綱」 (2021年3月)(筆者作成) |
||||||||
第13次5ヵ年計画 | 第14次5ヵ年計画 | |||||||
指標 | 2015年 | 2020年 | 年平均伸び率[累計] | 指標 | 2020年 | 2025年 | 年平均伸び率[累計] | |
研究開発費の投入度(%) | 2.1 | 2.5 | [0.4] | 研究開発費の伸び率(%) | - | - | >7 | |
特許保有件数(1万人当たり) | 6.3 | 12 | [5.7] | 高付加価値特許保有件数(1万人当たり) | 6.3 | 12 | - | |
科学技術の進歩の寄与率(%) | 55.3 | 60 | [4.7] | デジタル経済の中核産業の付加価値がGDPに占める割合(%) | 7.8 | 10 | - | |
インターネット普及率(%) | 固定 | 40 | 70 | [30] | ||||
モバイル | 57 | 85 | [28] |
(2) 産業政策
産業政策となる「第3編 現代産業体系の発展加速、実体経済の根幹の強化」では「経済発展の力点を実体経済に置くことを堅持し、製造強国・品質強国建設の推進を加速し、先進製造業と現代サービス業の高度な融合を促進し、インフラの支援・リードの役割を強化し、現代産業体系を構築する」との基本方針が示されている。
① 製造強国戦略の踏み込んだ実施
自主制御可能、安全・高効率を堅持し、産業基盤の高度化、産業チェーンの現代化を推進し、製造業のウエートの基本的安定を保持し、製造業の競争優位性を強化し、製造業の質の高い発展を推進する。
この一環として、産業基礎能力建設を強化すべく、産業基礎再構築プロジェクトを実施し、基礎部品、基礎ソフトウェア、基礎材料、基礎工程および産業技術基礎等のボトルネック・短所の補完を加速する。
また、産業チェーン・サプライチェーンの現代化レベルを向上させるべく、経済性と安全性の結合を堅持し、弱点を補完し、長所を鍛造し、業界別にサプライチェーンの戦略設計と正確な施策を行い、より強いイノベーション力、より高い付加価値、より安全で信頼できる産業チェーン・サプライチェーンを形成するとともに、国際産業安全協力を強化し、産業チェーン・サプライチェーンの多元化を推進する。
注目されるのは、13・5計画で設定されたサービス業付加価値率(GDPに占める第3次産業の割合)が14・5計画では掲げられず、代わりに「製造業のウエートの基本的安定を保持」という方針が打ち出されたことだ。中国はこれまで産業構造の高度化に向けて 、サービス業の発展にウエートを置いてきたわけだが、米中のデカップリング・リスクも見据えて、製造業のさらなる強化が必要という判断があらためて働いたものと考えられる。
② 戦略的新興産業の発展・拡大
未来の産業発展の機先を先取りすることに着目し、先導性・支柱性産業を育成し、戦略的新興産業の融合化、クラスター化、生態化の発展を推進し、戦略的新興産業の付加価値がGDPに占める割合を17%超にする。
③ サービス産業の繁栄と発展の促進
産業のモデル転換・高度化と住民消費の高度化のニーズに焦点を当てて、サービス業の効果的な供給を拡大し、サービス効率とサービス品質を向上させ、良質で高効率、構造が最適化され、競争力の強いサービス産業の新体系を構築する。
④ 現代化インフラ体系の建設
在来型インフラと新型インフラの建設を統一的に推進し、系統的で整備され、高効率・実用的、スマート・グリーンで、安全・信頼できる現代化インフラ体系を構築する[4]。
1.2.3 双循環戦略
双循環戦略と対応する「第4編 強大な国内市場の形成、新たな発展構造の構築」においては「内需拡大という戦略的基点を堅持し、整備された内需体系の育成を加速し、内需拡大戦略の実施と供給側構造改革の深化を有機的に結合し、イノベーション駆動、質の高い供給で新たな需要をリード・創造し、国内大循環を主体とし、国内・国際の双循環が相互に促進する新たな発展構造の構築を加速する」という基本方針が掲げられている。長期化が予想される米中対立への対応策として「双循環」による新たな発展モデルを打ち出し、内需拡大を加速することで、対米依存を抑制する狙いがあることがうかがわれる。
出典:「第13次5カ年計画要綱」(2016年3月)、「第14次5カ年計画および2035年までの長期目標要綱」 (2021年3月)(筆者作成) |
|||||||||
第13次5ヵ年計画 | 第14次5ヵ年計画 | ||||||||
項目 | 章 | 項目 | 節 | 項目 | 項目 | 章 | 項目 | 節 | 項目 |
イノベーション駆動型発展戦略の実施 | 第10章 | 発展原動力の新たな空間の開拓 | 強大な国内市場の形成、新たな発展構造の構築 | 第12章 | 国内大循環の円滑化 | 第1節 | 供給体系の適合性の向上 | ||
第2節 | 資源要素の円滑な流動の促進 | ||||||||
第3節 | 流通システムの支援機能の強化 | ||||||||
第4節 | 国内大循環を促進する政策体系の整備 | ||||||||
第3節 | 輸出の新たな優位性の育成 | 第13章 | 国内・国際双循環の促進 | 第1節 | 輸出入の協同発展の推進 | ||||
第2節 | 国際双方向投資のレベルの向上 | ||||||||
第1節 | 消費の高度化の促進 | 第14章 | 整備された内需体系の育成・加速 | 第1節 | 消費の全面的な促進 | ||||
第2節 | 有効投資の拡大 | 第2節 | 投資空間の開拓 |
第4編は、①国内大循環の円滑化、②国内・国際双循環の推進、③内需体系の育成・整備の加速の3章で構成される(表1-5)。各章のポイントは以下の通りであるが、このうち、②と③は前述の通り、13・5計画におけるイノベーション駆動型発展戦略の実施における「第10章 発展原動力の新たな空間の開拓」から移行したものである。
(1)国内大循環の円滑化
強大な国内市場に依拠して、生産、分配、流通、消費の各段階を貫通し、需要が供給を牽引し、供給が需要を創造するより高いレベルの動的バランスを形成し、国民経済の好循環を促進する。
この一環として、供給体系の適合性を向上させるべく、供給側構造改革を深化させ、供給が新たな需要の創造に適応・牽引する能力を向上させる。また、流通システムの支援機能を強化すべく、流通体制改革を深化させ、商品サービスの流通ルートを円滑化し、流通効率を高め、社会全体の取引コストを低減する。
(2)国内・国際双循環の促進
国内大循環に立脚し、強大な国内市場と貿易強国の建設を協同的に推進し、グローバル資源要素の強大な重力場を形成し、内需と外需、輸入と輸出、外資導入と対外投資の協調的発展を促進し、国際協力と競争に参与する新たな優位性の育成を加速する。
輸出入の協同発展の推進においては、輸入関税と制度的コストを低減し、良質消費財、先進技術、重要設備、エネルギー資源などの輸入を拡大し、輸入元の多元化を促進する。また、輸出政策を整備し、輸出商品の質と構造を最適化し、付加価値を着実に向上させる。さらに、サービス貿易の発展を刷新し、サービス貿易イノベーション発展試行開放プラットフォームの構築を推進し、貿易デジタル化レベルを向上させる。
国際双方向投資のレベル向上においては、外資導入と海外進出の両立を堅持し、ハイレベルの双方向投資でグローバル資源要素と市場空間を効率的に利用し、産業チェーン・サプライチェーン保障メカニズムを整備し、産業競争力の向上を推進する。
(3)整備された内需体系の育成加速
内需拡大戦略を踏み込んで実施し、経済発展に対する消費の基礎的役割と供給構造の最適化に対する投資のカギとなる役割を強化し、消費と投資の需要が旺盛な強大な国内市場を建設する。
消費の全面的な促進においては、住民消費の高度化に順応し、消費の拡大と人民生活の質の改善を結びつけ、消費のグリーン、健康、安全への発展を促進し、住民消費の水準を着実に向上させる。また、伝統的な消費を向上させ、自動車などの消費財の購入管理から使用管理への転換を加速し、耐久消費財の回収処理体系を整備し、住宅消費の発展を促進する。
さらに、新型消費を育成し、情報消費、デジタル消費、グリーン消費を発展させ、新モデル・新業態の発展を奨励する。この他、サービス消費を発展させ、消費の質の向上と量の拡大を推進し、オンラインとオフラインの融合発展を加速する。
他方、投資空間の開拓においては、インフラ、農業・農村、公共安全、生態環境保護、公衆衛生、防災・減災、民生保障等の脆弱部分の補完を加速し、戦略的新興産業への投資を拡大する。また、新型インフラ、新型都市化、交通・水利などの重要プロジェクトの建設を推進する。
( その2 へつづく)
1.「第14次5カ年計画および2035年までの長期目標要綱」の全文は中華人民共和国中央人民政府のウェブサイトで閲覧可能。
2.習近平「国家中長期経済社会発展戦略における若干の重大問題」『求是』(2020年第21号)2020年11月1日。
3.「中華人民共和国中央人民政府ウェブサイト」2021年3月11日。
4.新型インフラは2018年12月に開催された「中央経済工作会議」で提起された。同会議では、強大な国内市場の形成を促進すべく、「第5世代移動通信システム(5G)の実用化を加速し、人工知能(AI)、インダストリアル・インターネット、モノのインターネット(IoT)等の新型インフラ建設を加速する」という方針が打ち出された。