高橋五郎の先端アグリ解剖学
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【21-03】第14回 中国農業機械の進化―農業の地域性・多様性を反映した多品種さ―

2021年03月30日

高橋五郎

高橋五郎: 愛知大学名誉教授(農学博士)

略歴

愛知大学国際中国学研究センターフェロー
中国経済経営学会会長
研究領域 中国農業問題全般

 前回(第13回)は、中国の先端的な農業機械のいくつかを事例的に紹介した。とくに、どの国も人工知能を使った自動化や無人化、効率化などを目指した夢のような農業機械開発にしのぎを削っているが、いまだ、期待どおりのものは実用化されていないことを述べた。

 開発から実用化に向かって、国単位で徐々に差が生まれ、それが大きくなっていることは否定しようがない。

 中国の農業機械開発技術には、見るべき成果がたくさん上がっている。特許件数の比較から国際的にも優れた成果を上げてきていることは疑いない。しかし、その多くは、まだ世界の先端にあるとも言いがたい。

「中国農業機械の進化」については、次回に中国農業機械産業の現状を分析し、その次に、新技術開発の到達点の全体像を述べたいと思うが、そのために、今回は、表題の中国農業機械の多品種さについて述べておきたい。

1.中国の農業機械はなぜ多品種なのか

 農業機械の多品種の実態を紹介するまえに、中国では、なぜそのようなことが起きるのかを簡単に押さえておきたい。

 中国の農地面積は約13億4千万ヘクタール(第3次農業センサス。なお、国連報告では13億6千ヘクタール。ちなみに日本は約4百万ヘクタール)、インド、アメリカに次ぐ世界第3位に位置する(世界の農地面積の55%を10カ国が占める)。

 農業機械が多品種なのは、農地面積の広さもさることながら、中国農業はインド、アメリカなどにはない特徴を持ってることと関連する。

 具体的には、以下である。

◎世界に現存するもので、中国が生産していない農畜産物はほとんどないこと。いま手元の『中国食物成分表』をみると、そのうち加工分を除くものを数えると、日本よりも多いことが分かる。

 その背景には、交易の拡大やそもそも原種が多く自生していたこと、食料事情の改善との闘いが長く続いてきたことにある。

◎全体に、平坦農地賦存は東部地域に偏っているが、この東部地域の気象条件、水利条件、土壌条件、食文化にさえ多くの多様性があること。

 農畜産物の生産条件や食文化の差が農業機械のあり方に影響を与えることは世界共通であるが、中国では、世界のどの国に比べても、その多様性は群を抜いている。

◎濃淡は別にしても、農業が営まれている地域は国境線(約1万4千キロメートルと世界最長)近くまでの広い国土に分散、先に挙げた気象条件その他の条件には、更に大きな多様性があること。

◎生産されている農畜産物の種類が多いことと並んで、小分類すると更にその種類は大きく増えること。

 筆者は食料について、スウェーデンの植物学者カール・フォン・リンネによる生物の分類法に倣って、ドメイン、界、門、綱、目、科、属、種に分類したことがある(『日中食品汚染』2014、50-51頁)。このような分類をすると、生産されている農畜産物のすべてをこの方法で分類したことはないが、中国の同系農畜産物の種類は非常に多くなるはずである。

 この点はでも当てはまる。日本で毎年栽培されているうるち米の品種数だけでも50種をくだらないとされている。みな作り方が違うし、農業機械の使い方も同じではない。倒伏しやすいコメ、茎の短いコメ、乾田・湿田、栽培規模などで違ってくる。

 ましては中国、野菜や果物の品種だけでも日本とは大違い。種を基準として、栽培野菜をとっただけも158種あるといわれている(『中国蔬菜品种志』)。一つの種ごとに、つまり種の次の分類になるが、仮にこれを「型」とするとその数倍、少なく見積もっても500型にもなる可能性がある。

 これが穀物、野菜、果物、種美、キノコ、家畜、家禽などに及ぶとなると、すべての型は数え切れないほど多くなろう。しかも日々、新品種が生まれ、生産・加工・補完・輸送などにも新しい方法が広がっている。

2.農業機械の大分類

 図1は、中国版JISともいえる工業規格(本コラムで既紹介)に属する「中国農業機械分類」から作成した。この「分類」は「大分類」、「小分類」、「品目」の3段階に分類されているが、図1は「大分類」から純粋な水産関係を除き、さらに機械の用途を基準にして整理したものである。

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 その結果、農用動力機械、農地建設(整備)機械、土壌耕耘機械、播種施肥等機械、作物保護機械(農薬散布機)、灌漑用機械、作物収穫機械(中国では、農薬散布を「作物保護」という場合がある)、農産物加工機械(ポストハーベストの調整機械等を含む)、畜産用機械、農産物輸送機械の10分類となった。

「分類」をみていて思うことは、農業機械の概念あるいは範囲が日本に比べて広いということだ。ただし、図1とした10分類自体が多様というわけではない。中国農業機械の多品種さは、後に見る「品目」クラスに顕著である。もし型までの全容を知ることができれば、さらに多くなろう。なおこれには、機械本体部分と作業機部分を区分していないので留意されたい。

 概念あるいは範囲の広さは、農作業やポストハーベストの農作業内容の区分の仕方の細かさも影響していようが、機械化の内容に、自動化や人工知能化といった新しい分野が起こり、従来の機械に加わってきていることも関係している。この点は、日本とも似た環境にある。

3.農業機械の「小分類」及び「品目」の体系

 表1は「小分類」及び「品目」に整理したものである。「小分類」は全部で49、その下部に「品目」となるが単純に合計すると253となる。一つの「品目」につき型式が分かれるので、実際の分類はこれよりさらに増えることだろう。

表1 中国の農業機械分類
(中国農業規格NY/T1640-2015)

図1

「中国農用機械分類」から作成。
(※図をクリックすると、ポップアップで拡大表示されます。)

「品目」にはトラクターに典型なように同一名称も掲載されているが、中国名称の「品目」は異なるものの、中国名称を和訳する際に、辞書にないものや和訳しにくいものなどが少なくないので、結果として表現が同一のものもある。

 分類の基準を示す資料がないので、分類の仕方について評価できないが、「小分類」には、農畜産物生産・加工などに必要なものが網羅的に分類されている。なかには、日本ではあまり農業機械には分類しない掘削機、浚渫機なども含まれている。

 農業機械の「小分類」のあり方は、その国の農業機械化体系のあり方や農畜産業の作業プロセスの考え方から強い影響を受ける。そこで、以下、49の「小分類」の実際及び図1の中分類との関係を挙げてみよう。

 ここから、品目が作物保護機械、作物収穫機械、農産物加工機械、畜産用機械に集中していることが窺われる。しかし、他の中分類より重要とういうわけではなく、本来は「型」の広がりを見て判断することが第一義的に重要ではないかと思われる。

[中分類] [小分類]
農用動力機械 内燃機械、農用飛行機
農地建設機械 掘削機、平地機、浚渫機、トラクター
土壌耕耘機械 耕地整備農機、整地農機、中耕農機
播種施肥等機械 播種農機、育苗機械設備、田植機等、施肥機
作物保護機械 農薬散布機、剪定機、温室設備、キノコ設備、養蜂機器
灌漑用機械 ポンプ類、灌漑機
作物収穫機械 穀物収穫機、トウモロコシ収穫機、棉・麻収穫機、果物収穫機、野菜収穫機、花卉茶葉収穫機、種子等収穫機、根菜類収穫機、飼料作物収穫機、茎類収穫機
農産物加工機械 脱穀機、洗浄機、乾燥機、種子加工機、貯蔵機、精米機、研磨機、搾油機、青果物加工機、茶葉加工機、皮剥機、飼料加工用農機
畜産用機械 飼養用機械、畜産機器、養殖機械、糞尿処理機器
農産物輸送機械 運搬機、荷積機

4.中国農業機械のいくつかの実例(やや珍しいもの)

 数ある農業機械のうちから、中国らしいものをいくつか取り上げたい。

(1)船型トラクター

 まず、湿田用(船型)または水田の代かき用あるいはレンコン畑用トラクター(資料1)で、地面を滑るように進む優れものである。

 うしろに付着型のロータリーを付け、本体は小舟のかたちをしたトラクターである。回転動力をロータリーに直接伝え、ロータリーを車輪として併用して移動させる。

この型のトラクターには2種類あり、他の一つは、ロータリーを牽引する型のものである。この場合、車輪は別に付けてある。日本でも代かき作業は行うが、このような型を使っている光景を目にしたことはない。

 船型トラクターの最大の利点は、スピードの速さによる作業効率の良さにある。これにより、燃料代など変動費の節約にもつながる。

(2)牽引型コメ直播機

 コメの直播は、大きな面積では、いまでは飛行機やドローンを使う方が多いが、トラクターで牽引する作業機から播くのがこの機械である(資料2)

 飛行機やドローンによる直播は大きな面積の水田に、スピーデイな作業ができることには優れているが、欠点はマス目状に発芽するとは限らないこと、発芽にバラツキがありうること、鳥害に遭う危険性があることなどである。

 これに対してトラクター直播は、田植えが不要であると同時に、マス目状に播種でき、モミを適当な深さの土中に埋め込むので、鳥害を最小限にすることができる。資料2の例では6条直播ができるので、1ヘクタールを30分もあれば終えることができるだろう。

(3)トマト収穫機

 中国のトマト栽培はビニールハウス栽培が増えているが、なお、加工用普通トマトやミニトマトの栽培については露地で行う場合がある。

 ビニールハウス内でのトマトの収穫は手作業であるが、露地の場合、大型機械の利用が可能である(資料3)

資料3 トマトの収穫機(動画)

搜狐视频《国内生产全液压自走式番茄收获机》より

 トマトの収穫時期は熟した後に行うのが一般的で、機械による収穫には傷づけないように十分な配慮が不欠けるである。そういうこともあり、機械収穫の対象となるのは加工用トマトが中心となるが、それでも大量の収穫には繊細であるばかりでなく、短時間で作業ができる性能が求めさらる。それが資料3で示した収穫機である。

 アメリカやドイツではすでに実用化されたトマト収穫機がトマト畑で稼働しているが、中国製もその実用化の段階に至った。アメリカ製よりも大型が志向されている。

(4)干し草等(残滓ワラ等を含む)熊手

 中国でも養鶏(採卵・ブロイラー)に顕著であるが、飼料は市販の濃厚配合飼料が中心を占めるようになった。しかし畜産飼料としての良質の粗飼料の役割も不可欠である。粗飼料には、サイレージや干し草、トウモロコシの葉や茎、雑草などさまざまある。

 これらを広い畑からかき集める作業を人力に頼ることは、もはや中国でも現実的ではなくなった。そこで、これらの作業を人力に代わって行う作業機が開発された。それが干し草等熊手(資料4)である。この作業機の中国語名称は「玉米秸秆搂草机」で、トウモロコシの茎を集めるという意味のあるこの中国語に、筆者は適当な訳をつけることができなかった。

 ともあれ、この作業機は9輪の回転熊手で左右から残滓を囲むようにして寄せ集め、別の機械で、トラックに積み込む機能を持つ。一種のアイディア商品でもあるこの作業機は、広い畑に放置された大量の茎類や干し草を一気にかき集めるのである。

(つづく)