【22-009】《科学技術金融》中国の技術交易所(取引所)について
JST北京事務所 2022年03月09日
1.概要
これまでJST北京事務所から、「科学技術金融としての北京証券取引所の位置づけについて」[1]および「中国のデータ取引所について」[2]を紹介してきた。
日本で「フィンテック」というと、一般的に「情報技術を活用した金融サービス」という使われ方をすることが多いが、中国の「科学技術金融」は「金融科学技術」とは異なり、「科学技術のための金融技術」を指し、様々な取り組みが行われている。
また中国では技術取引を推進するための取り組みが大変活発であり、さまざまな種類のプラットフォームが構築・運営されている。
その中でも国家レベルの常設の取引機構である「技術交易所(取引所)」は、研究機関等からの技術移転を促進しており、第13次五カ年計画期間中、主要技術交易所(32施設)が市場化された研究開発成果に係る技術移転の主要な取引サービスプラットフォームとなることを目指している[3]。
本稿では科学技術金融の一環である技術交易所について、2009年に北京市中関村地区で設立された国内初の「中国技術交易所」[4]を例として概要を紹介する。
2.中国技術交易所について
中国技術交易所が公開している「中国技術交易所技術取引規則(試行)」[5]から、具体的な取引の仕組みが読み取れる。
(1)取引される技術の種類(第2条)
・ 特許権、著作権、商標の排他的権利、植物新品種、生物医学の新品種、集積回路レイアウト設計における排他的権利、技術的ノウハウ等(これらに限定されない)
(2)技術取引の種類(第3条)
・ 技術移転、技術実施許諾、技術価格投資株式購入および技術調達が含まれる。
・ 技術移転とは、所有者が関連する意思決定手順を実行した後、中国技術取引所が技術譲渡情報を発表し、技術を公開して譲渡する取引行為を指す。
・ 技術実装許諾は、所有者が関連意思決定プログラムを履行した後、中国技術取引所によって技術実施許諾情報を発表し、他人に技術の使用を許可する取引行為を指す。
・ 技術価格投資株式購入とは、所有者が関連意思決定プログラムを履行した後、中国技術取引所によって技術価格投資株式購入情報を発表し、技術価格投資株式購入方式で投資する取引行為を指す。
・ 技術調達とは、購入側が関連意思決定プログラムを履行した後、中国技術取引所によって技術購買情報を発表し、技術を購入する取引行為を指す。
(3)情報公開申請資料(第9条)
・ 所有者は中国技術取引所に情報公開のための申請資料を提出しなければならず、申請資料の真実性、合法性、完全性および正確性に責任を負わなければならない。
・ 情報公開申請資料には以下が含まれる(第10条)。
①取引情報公開申請書。
②取引行為の決定文書。
③技術リストと証明書。
④所有権証明書文書、または所有権の帰属を証明するに足るその他の証明資料。
⑤資産評価レポートまたはその他の価格設定根拠。
⑥公的な意見書または技術の所有権が複雑な場合は、権利の制限およびその他の関連文書を説明する。
⑦取引サービス提供者に委託する場合は、委託契約を締結するものとする。
⑧中国技術研究所が要求するその他の書類。
(4)取引方法の選択(第11条)
・ 所有者は、取引情報公開申請において競売または選考方法を選択し、ネット競売、ダイナミック・プライシング、オークション、競争性交渉、総合評議等の方法を含む。
(5)取引保証金(第12条)
・ 所有者は、取引情報公開申請書に取引保証金の納付要件を明確に提示し、取引保証金の処分方法を明確にすることができる。技術移転の対象については、設定された保証金は一般的に対象の最低価格の30%を超えない。
3.参画の条件
同じく中国技術交易所が公開している「中国技術交易所投資者適正管理制度(試行)」[6]からは、参画条件が読み取れる。
・ 投資家に求められる参画条件。(第7条)
①投資家は満18歳以上かつ完全な民事行為能力を備えた自然人または中国国内で登録されかつ合法的に存続する企業またはその他の機構であること。
②投資家は各種知的財産権または技術類の基本的な知識レベルを備えなければならない。
③投資家は基本的な技術取引経験を備えなければならない。
④投資家が自然人の場合、個人財産は5万元以上であること。
⑤投資家が企業またはその他の機関である場合、登録資本または所有財産は100万元以上であること。
4.取引に係るサービス料(手数料)等
「中国技術交易所有限公司技術取引料金徴収方法」[7]により各種サービス料(以下、「手数料」)等が読み取れる。
(1)上場手数料(1. 挂牌服务费)
・ 中国技術交易所に技術項目の上場を委託するために委託者が支払う料金であり、1回の請求額は2,000人民元。
・ 委託者が技術項目を独占的に委託し、取引プロセス全体中国技術交易所で完了することを約束した場合、上場サービス料は免除される。
・ 上場手数料は、取引手数料との相殺が可能。
(2)取引手数料(2. 交易服务费)
・ 取引手数料とは、中国技術交易所に上場している技術項目について、委託者が協議(协议)または入札(竞价)を通じて支払い、両当事者が支払う料金をいう。
①ネット競売(网络竞价)
条件を満たした二者以上の買い手候補がオンラインを通じて入札する。
②競争性交渉(竞争性谈判)
売り手が複数の買い手候補と交渉し、最終的に買い手を決定する。
③総合評議(综合评议)
提出されたプロポーザルに対し、購買希望価格も含めて総合的に評価して総得点を付けることを通じて、得点の最高者を採択するやり方。
・ 協議成約方式とは、技術項目が上場された後、利害関係者を勧誘し、利害関係者が譲受人となる取引方法をいう。
・ 取引手数料は、成約金額に基づき計算され、以下のとおり段階的に増減される。
(※)請求率は売り手と買い手それぞれから徴収(单笔单向)する料率であり、3,000元以上。 | |
成約金額(万元) | 請求率(%) |
100 以下 | 1.5% |
101以上1,000以下 | 0.5% |
1,001以上10,000以下 | 0.25% |
10,001以上 | 0.15% |
・ 競売成約方式とは、技術項目が看板を掲げた後、2つ以上の意向者を募集し、競売(ネット競売、競争性交渉、総合評議を含む)を通じて譲受者を判定する成約方式を指す。競売成約サービス料の具体的な基準は以下の通り。
①所有者が支払った手数料について、最低価格部分は協議成約基準に従い、割増額部分は5%とする。
②譲受人が支払ったサービス料については、協議成約基準に従ってサービス料を受け取る。
③一方からの料金は5,000元以上。
(3)公示手数料(3. 公示服务费)
・ 公示手数料とは、委託側が中国技術交易所に委託して「科学技術成果転化促進法」と「中国技術取引所有限公司科学技術成果情報公示操作ガイド」に基づき科学技術成果情報公示サービスを提供して支払う費用を指し、公示毎に公示を依頼した片方(单笔单项)から3,000元の料金を徴収する。
(4)決済手数料(4. 结算服务费)
・ 決済手数料とは、委託側が中国技術交易所に委託して「中国技術取引所有限公司決済取引資金操作細則」に基づいて資金決済サービスを提供して支払う費用を指す。
・ 決済手数料は成約金額を取引金額に基づき計算され、以下のとおり段階的に増減される。
(※)請求率は売り手と買い手それぞれから徴収(单笔单向)する料率であり、3,000元以上。 | |
成約金額(万元) | 請求率(%) |
100 以下 | 1.0% |
101以上1,000以下 | 0.4% |
1,001以上10,000以下 | 0.2% |
10,001以上 | 0.1% |
(5)その他手数料(5. 其他服务费)
・ その他の手数料とは、委託側が中国技術取引所に委託してコンサルティング、ロードショー、紹介、評価、法的ステータス等の付加価値サービスを提供するために支払った費用を指し、具体的な金額と支払方式は双方が別途契約にて合意する。
以上
1. 2021年12月14日 北京便り「≪科学技術金融≫科学技術金融としての北京証券取引所の位置づけについて」
2. 2022年01月20日 北京便り「《科学技術金融》中国のデータ取引所について」
3. 2021年12月3日 北京便り「《十三五》国家第13次五カ年計画科学技術イノベーション成果展」
4. 2009年8月17日 科学技術ニュース「中国技術交易所が北京で開業」
5. 中国技术交易所技术交易规则(试行) 2020年11月18日
6. 中国技术交易所投资者适当性管理制度(试行)2019年1月10日