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【21-040】《科学技術インフラ》中国の国家重大科学技術基礎施設について(その2)

JST北京事務所 2021年06月22日

その1 よりつづき)

5.これまでに建設プロジェクトが承認された国家重大科学技術基礎施設(十三五)

(1)宇宙環境地盤総合観測網(子午線プロジェクト二期)(空间环境地基监测网)

① 施設概要

子午線プロジェクトの最初のフェーズは2008年に建設開始し、2012年に完了。東経120度と北緯30度に沿って15の包括的なステーションを配置し、「東半球の宇宙環境における基礎を包括的に監視するための子午線チェーン」を形成。
プロジェクトの第一期は主に中国の東部をカバーする。
地磁気(電気)、無線、光学、観測ロケットなどの複数の観測手法を包括的して、地表から20〜30kmから数百kmまでの中層および上層大気、電離層、磁気圏を継続的に監視している。また地球の半径の外側の惑星間宇宙環境における磁場、電場、大気風速、密度、温度、組成、太陽風速度、およびその他の宇宙環境パラメータも監視している。8年以上の運営以来、1,500万を超える科学データを収集し、国内外の数千のユーザーにサービスを提供。

  ⅰ)第一期

子午線プロジェクト第一期は2008年に建設が開始され、2012年に完成した。東経120°北緯30°に沿って15の総合施設を配置し、「東半球空間環境基礎総合観測子午線チェーン」を形成する。
第一期工事は子午線チェーン網を結合し、主に中国東部地区をカバーする。
プロジェクトは地磁気(電気)、無線、光学、探空ロケット等の様々な観測手段を総合的に運用し、地球表面の20~30km以上から数百kmの中高層大気、電離層と磁気層、および十数個の地球半径以外の行星間空間環境における磁場、電場、大気風速、密度、温度、成分、太陽風速度などの空間環境パラメータを連続観測することができる。8年以上の連続運行以来、1,500万件に達する科学データを集め、国内外から数千人のユーザーにサービスを提供している。科学チームは Geophysical Research Letters (GRL)、Journal of Geophysical Research (JGR)などの有名な雑誌に論文を300編余りを発表し、特許を60件以上獲得、著作を3冊出版し、国家と省部級の賞9項目を獲得した。

  ⅱ)第二期

子午線プロジェクト第二期は2019年に建設が開始され、第一期工事をベースに新たに16施設が追加され、東経100°および120°、北緯40°および30°の「井」字型に配置された31施設、300台近くの観測装置からなる空間環境観測ネットワークが形成される。プロジェクトは空間環境観測システム、データ通信システムと科学応用システムから構成される。
空間環境モニタリングシステムは地磁気、無線、光学等の手段を用いて、中国上空の電離層、中高層大気、地磁気形成ネットワーク化の観測能力「三網」を利用している。極地高緯度、北方中緯度、海南(南方)低緯度、青蔵高原の4か所の重点地域に国際的に高度な大型観測設装置を建設し、空間環境に対する微細な「微視的」探査「四焦点」を展開する。一連の先進的な太陽-地球間観測設備を建設し、太陽地球のチェーン全体に対する観測能力「一鎖」を形成する。「一鎖、三網、四焦点(註:一つのチェーン、三つのネットワーク、四つのフォーカス)」の構造は初めて地上から太陽と地球の空間環境の全範囲、多要素からなる総合的で立体的な観測を実現する。

② 建設地

北京市懐柔区

③ 建設主体

中国科学院国家宇宙科学センター(プロジェクト代表機関)、他

④ 目標、スペック

  ⅰ)科学的目標

太陽大気から地球近傍宇宙環境までの一連、そして全国をカバーする高い時空間分解能による観測を通じて、宇宙天気イベントの伝播と進化、および中国の宇宙環境に影響を与える経路と法則を調査する。
そして、中国のさまざまな地域における宇宙環境の変化の特性と差異、および青海チベット高原や南シナ海などの特殊な地域での空間環境の変化の詳細なプロセスを明らかにし、中国の特殊な地質および地理的条件下で、固体地球、低層大気および地球近傍宇宙環境の結合プロセスを研究する。

  ⅱ)応用目標

中国全域をカバーし、高時空分解能によるリアルタイムの空間環境基礎観測データを提供し、中国の宇宙飛行機発射と軌道運行および南シナ海などの地域における通信ナビゲーションの保障サービスに科学的に支援する。
自主的な空間天気予報モデルを構築し、中国の空間天気モデル化と予報能力の飛躍的発展を実現する。
空間環境基礎観測データの応用範囲を関連する学際領域の発展を促進する。

⑤ 施設URL

meridianproject.ac.cn/

(2)大型赤外線望遠鏡LOT(大型光学红外望远镜LOT)

① 施設概要

2021年4月現在、本施設の詳細は公表されていない。

中国国家天文台ウェブサイト内のニュース(2019年10月22日)では、以下の記載がある。

・口径10メートル級の汎用地上大型光学赤外線望遠鏡を早急に建設し、中国の地上型工学天文施設と国際的な先進水準との差を縮小させる。

・大口径光学赤外望遠鏡は、超大質量ブラックホールの形成、星系の形成と進化、太陽系外惑星等の発見と研究に重要な意義をもつ。

・口径500メートルの球面電波望遠鏡「中国天眼(FAST)」とは観測目標と方法が異なる。

③ 建設主体

中国科学院国家天文台

⑤ 施設URL

bao.ac.cn/

⑥ 参考URL:

国家天文台ニュース

(3)大深度地下極低バックグラウンド放射線物理実験施設(极深地下极低辐射本底前沿物理实验设施)

① 施設概要

極低線量放射線バックグラウンドの遮蔽が求められる素粒子物理学と核物理学において重大な基礎的フロント物理学研究のためのプラットフォームを提供している。
清華大学が雅礱江流域水力発電開発有限公司と共同で建設し、現在の粒子物理標準モデルを超える新粒子と新しい物理の重要な基礎的フロンティア研究に向けて、ダークマターの直接観測実験、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊実験、核天体物理分野においてキーとなる元素合成過程と恒星の進化等の基礎科学のフロンティア研究を展開する。大深度地下における宇宙線がゼロに近い条件の下で、各種の基礎フロンティア領域における新しいメカニズム、新しい方法、新しい技術を探求して、極低線量放射線のバックグラウンド遮蔽のため新しい方法、新しい技術を発展させる。当該プロジェクトは、清華大学がプロジェクト代表機関とし初めて引き受けた国家重大科学技術基礎施設である。

  ⅰ)第一期

2009年に建設を開始し、2010年12月に中国錦屏地下実験室が完成、使用を開始した。
四川省涼山イ族自治区にある錦屏二級水力発電所補助トンネル中部の深さ2,400メートル地点に大深度地下実験室が存在し、世界でも最深部に建設された実験室である。また、利用可能な地下実験スペースは4,000立方メートルである。
実験室は、錦屏を天然の衝立として使用しており、錦屏二級水力発電所が錦屏山を深く貫く長大トンネルを基礎としている。世界の他の地下研究所と比較して、中国の錦屏地下実験室は最も深く岩石で覆われており、宇宙線量は最小であり、利用空間は最大であり、便利な輸送、十分な電力と水源を有し、インフラ施設として有利性を備えている。

  ⅱ)第二期

2019年に第二期プロジェクトが正式に開始され、2024年12月に正式稼働を予定。完成後は利用可能な地下実験スペースが4,000立方メートルから300,000立方メートルに拡大し、地上補助実験施設の建築面積は4,000平方メートルに達する予定。
プロジェクトの総投資額は11.9億元。

② 建設地

四川省涼山イ族自治区(錦屏二級水力発電所補助トンネル深さ2,400メートル地点)

③ 建設主体

清華大学工学物理系(プロジェクト代表機関)、雅礱江流域水力発電開発有限公司

④ 活用成果の例

第一期が稼働して以来、清華大学が主導する高純度ゲルマニウム(CDEX)の直接検出実験、上海交通大学が主導する液体キセノン(PandaX)の直接検出実験を実施、中国のダークマター研究をゼロから推進し、比較的短期間で国際的にも高度なレベルに到達させた。
その中でCDEX実験グループは2018年には、スピンに依存しない相互作用をする質量4-5GeV程度のダークマター直接検出感度について世界最高の結果を得た。
また、2015年、PandaX実験チームは、当時世界最大の半トン級液体キセノンダークマター検出器を完成させ、その後、世界をリードするダークマター検出結果を2回発表した。

⑤ 施設URL

ep.tsinghua.edu.cn/essay/93/1771.html

⑥ 参考URL

spc.jst.go.jp/news/101203/topic_1_04.html

(4)大規模地震工学シミュレーション研究施設(大型地震工程模拟研究设施)

① 施設概要

計画施設面積:66,200平方メートル
総建築面積:76,000平方メートル(実験センター、シミュレーションセンター)
建設進捗率(2020年8月現在):実験センター58%、シミュレーションセンター70%
2021年4月完成予定。
振動台:20m×16m、荷重1,350トン(日本防災科学技術研究所E-Defense: 20メートル×15メートル、耐荷重は1,200t)

② 建設地

天津市津南区(天津大学北洋園キャンパス内)

③ 建設主体

天津大学(プロジェクト代表機関)

④ 目標、スペック

国際的に一流の地震工学科学センターとして、社会全体の自然災害のリスクを軽減する能力を大幅に向上させ、土木、水利、海洋、交通、エネルギーなどの重要なプロジェクトの安全を保障するために重要なサポートを提供する。

⑤ 施設URL:

天津大学大規模地震工学シミュレーション研究施設建設管理事務所

⑥ 参考URL

baijiahao.baidu.com/s?id=1673994796358356110&wfr=spider&for=pc
baijiahao.baidu.com/s?id=1641835840001236949&wfr=spider&for=pc
www.bidcenter.com.cn/njrl/riliNjdateils-3-1143675.html#
www.ccgp.gov.cn/cggg/dfgg/gkzb/201906/t20190612_12249081.htm
spc.jst.go.jp/news/180802/topic_5_01.html

その3 へつづく)