【22-22】定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その20)
2022年07月20日 辻野 照久(元宇宙航空研究開発機構国際部参事)
今回は、定点観測シリーズの第20回目として、2022年4月1日から6月30日までの3か月間の中国の宇宙開発動向をお伝えする。注目された有人宇宙飛行は、打上げや帰還などすべて計画通り成功し、2機の宇宙実験モジュールを年内に打ち上げて中国宇宙ステーション(CSS)を完成させる準備が進んだ。
2022年第2四半期までの世界のロケット打上げ状況
本期間のロケット打上げ回数は、中国が14回(うち1回は失敗)、米国が18回(うち1回は失敗)、ロシアが4回、欧州が1回、ニュージーランド(NZ)が3回、インドが1回、韓国が1回で、全世界で42回であった。表1に2022年第2四半期までの世界各国のロケット打上げ回数を示す。
*1 米国の[ ]内はスペースX社の打上げ回数(内訳) | |||||||||
期間 | 中国 | 米国*1 | ロシア | 欧州 | NZ | インド | イラン | 韓国 | 世界計 |
1月-3月 | 8 | 17[11](★1) | 4 | 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 33(★1) |
4月-6月 | 14(★1) | 18[16](★1) | 4 | 1 | 3 | 1 | 0 | 1 | 42(★2) |
計 | 22(★1) | 35[27](★2) | 8 | 2 | 4 | 2 | 1 | 1 | 75(★3) |
中国と米スペースX社のロケット・衛星打上げ状況
この期間に中国は14回の打上げを行い、自国衛星38機(うち1機は打上げ失敗)を打ち上げた。そのうち、地球観測衛星は22機(うち1機は打上げ失敗)、通信放送衛星は10機、有人宇宙船は1機、物資補給船は1機、技術試験衛星は4機である。
表2に中国の打上げに使われたロケットや軌道投入された衛星などの一覧表、表3にロケット種別による2022年6月までの中国の打上げ回数と衛星数を示す。
国際標識番号の*は英字が未定であることを示す。 | ||||||||
衛星名 | 国際標識番号 | 打上げ年月日 | 打上げロケット | 射場 | 衛星保有者 | ミッション | 軌道 | |
Gaofen 3-03 | 高分 | 2022-035A | 2022/4/6 | 長征4C | 酒泉 | 不明 | 地球観測 | SSO |
Zhongxing 6D | 中星 | 2022-038A | 2022/4/15 | 長征3B/G3 | 西昌 | 中国衛通 | 通信放送 | 静止 |
Daqi 1 | 大気 | 2022-039A | 2022/4/15 | 長征4C | 太原 | 不明 | 地球観測 | SSO |
Siwei Gaojing 1-01 | 四維高景 | 2022-043A | 2022/4/29 | 長征2C (3) | 酒泉 | 中国四維測絵技術総公司 | 地球観測 | SSO |
Siwei Gaojing 1-02 | 2022-043C | |||||||
Jilin-1 Gaofen- 04A | 吉林高分 | 2022-046A | 2022/4/30 | 長征11H | 洋上 | 長光衛星技術公司 | 地球観測 | SSO |
Jilin-1 Gaofen- 03D-04~07(4機) |
2022-046B~046E | |||||||
Jilin-1 Kuanfu-01C | 吉林寛幅 | 2022-048A | 2022/5/5 | 長征2D(2) | 太原 | 長光衛星技術公司 | 地球観測 | SSO |
Jilin-1 Gaofen- 03D-27~33(7機) |
吉林高分 | 2022-048B~048H | ||||||
Tianzhou 4 | 天舟 | 2022-050A | 2022/5/9 | 長征7 | 文昌 | CMSEO | 物資補給船 | LEO |
Jilin-1 Mofang-01A(R) | 吉林魔方 | 2022-02F | 2022/5/13 | 双曲線1 | 酒泉 | 長光衛星技術公司 | 地球観測 | 打上げ失敗 |
CGSTL LEO Test 1 |
2022-056* | 2022/5/20 | 長征2C (3) YZ-1S | 酒泉 | 長光衛星技術公司 | 技術試験 | LEO | |
CGSTL LEO Test 2 |
2022-056* | |||||||
DTSW | 2022-056* | 不明 | ||||||
GeeSAT 3? | 吉利星座 | 2022-058* | 2022/6/2 | 長征2C (3) | 西昌 | Geespace | 通信放送 (測位補強) |
LEO |
GeeSAT 4? | 2022-058* | |||||||
GeeSAT 5? | 2022-058* | |||||||
GeeSAT 6? | 2022-058* | |||||||
GeeSAT 7? | 2022-058* | |||||||
GeeSAT 8? | 2022-058* | |||||||
GeeSAT 9? | 2022-058* | |||||||
GeeSAT 10? | 2022-058* | |||||||
GeeSAT 11? | 2022-058* | |||||||
Shenzhou 14 | 神舟 | 2022-060A | 2022/6/5 | 長征2F/G | 酒泉 | CMSEO | 有人宇宙船 | LEO |
Tianxing 1 | 天行 | 2022-066A | 2022/6/22 | 快舟1A | 酒泉 | 不明 | 技術試験 | LEO |
Yaogan 35-02A | 遥感 | 2022-068A | 2022/6/23 | 長征2D(2) | 西昌 | PLA | 地球観測 | LEO |
Yaogan 35-02B | 2022-068B | |||||||
Yaogan 35-02C | 2022-068C | |||||||
Gaofen 12-03 | 高分 | 2022-069A | 2022/6/27 | 長征4C | 酒泉 | 不明 | 地球観測 | SSO |
ロケット種別 | 長征2 | 長征3 | 長征4 | 長征6 | 長征7 | 長征8 | 長征11 | 双曲線 | 快舟 | 計 |
打上げ回数 | 8 | 1 | 6 | 1 | 1 | 1 | 2 | 1(★1) | 1 | 22(★1) |
中国の衛星数 | 34 | 1 | 6 | 2 | 1 | 22 | 8 | 1(★1) | 1 | 76(★1) |
スペースX社はFalcon9ロケットの16回の打上げでISS訪問の民間人搭乗のドラゴン宇宙船、イタリア人を含む長期滞在者輸送のドラゴン宇宙船、371機のStarlink衛星、91機の各国小型衛星、NROの偵察衛星2機及びエジプトの静止通信衛星、ドイツの地球観測衛星、米国グロ-バスター社の通信衛星と4機の軍事衛星、米国SES社の静止通信衛星など計472機を打ち上げた。
宇宙ミッション1 地球観測分野
(1)中央政府の地球観測衛星
①高分(Gaofen)
4月6日、CバンドSARを搭載した「高分(GF)3-03」を打ち上げた[1]。このシリーズは2016年に初号機の「GF 3」に続いて2021年に「GF 3-02」が打ち上げられ、今回の「GF 3-03」は3機目となる。
6月27日には、SAR搭載の「高分12-03」を打ち上げた[2]。このシリーズも2019年打上げの初号機「GF 12」に続いて2021年に「GF 12-02」が打ち上げられ、今回は3回目となる。ミッションは国土調査、都市計画、土地の権利確認、道路網の設計、農産物の収穫量推定、防災減災などである。
②遥感(Yaogan)
6月23日、人民解放軍(PLA)は長征2Dロケットにより3機1組の「遥感(Yaogan)35 -02」を打ち上げた[3]。遥感35号の01組は2021年11月に打ち上げられており、当時は3機とも同一機能の衛星であると思われたが、最近のGunter情報によれば3機のうちA, Bの2機とCでは衛星の機能が異なるとしている。機能に相違があっても3機で1組であると認識されている。ミッションは科学試験、国土資源調査、農産物の収穫量推定、防災減災などである。
③大気(Daqi)
4月15日、上海航天技術研究院(SAST)が長征4C型ロケットにより打ち上げた「大気1号」は、大気圏の環境監視を行う衛星(AEMS:Atomospheric Environment Monitoring Stellite)である[4]。エアロゾル・二酸化炭素検出ライダー(レーザレーダ)やワイドスペクトルイメージャなど5種の観測機器を搭載している。
(2)地方政府関連の地球観測衛星
①吉林(Jilin)
14機が打ち上げられ、うち13機が軌道投入に成功した。
4月30日、長光衛星技術公司は、洋上打上げの長征11H型ロケットにより、「吉林高分(Jilin Gaofen)04A」と「吉林高分03D 04~07」の計5機の打上げに成功した。
5月5日、同社は長征2D型ロケットにより「吉林寛幅(Jilin Kuanfu)1C」と「吉林高分03D 27~33」の計8機の打上げに成功した[5]。
5月13日、同社は双曲線1型ロケット[6]により「吉林魔方(Jilin Mofang)01R」[7]の打上げを行ったが、ロケットの不具合により昨年8月に続いてまたも軌道投入に失敗した(宇宙ミッション7 宇宙輸送の項参照)。
(3)民間企業の地球観測衛星
中国四維測絵技術総公司は「四維高景(Siwei Gaojing)01」と「同02」の2機の地球観測衛星を長征2Cロケットにより打ち上げた[8]。
宇宙ミッション2 通信放送分野
(1) 中国衛通集団公司の静止通信衛星「中星」
4月15日、中国衛通(China Satcom)は長征3Bロケットにより「中星6D」を打ち上げた。通信ペイロードはCバンド中継器25本である[9]。
(2)Geespace社の低軌道通信衛星
6月2日、Geespace社は測位補強のための通信を行うGeeSat(吉利星座)9機を打ち上げた。同社は2021年12月の2機のGeeSAT試験衛星の打上げに失敗したが、今回は長征2C型ロケットにより打上げに成功した[10]。今後63機の衛星を追加して72機の衛星群とする計画とみられる。
宇宙ミッション3 航行測位分野
5月18日、中国衛星航法・測位協会は2021年の衛星導航サービスの産業規模が4690億元に達したと発表した[11]。測位に直接関連するチップ・デバイス・アルゴリズム・ソフトウェア・ナビゲーションデータ・端末・基礎施設などが1454億元で約12%を占めている。関連組織の従業員は50万としている。
宇宙ミッション4 有人宇宙活動分野
5月9日に物資補給船「天舟4号」が打ち上げられた[12]。
続いて6月5日に「神舟14号」が打ち上げられ、陳冬(Chen Dong、2回目)、劉洋(Liu Yang、2回目、女性)、蔡旭哲(Cai Xuzhe、初)の3名の宇宙飛行士がCSSに輸送された[13]。今回の宇宙飛行士は今年打上げ予定の宇宙実験モジュール「問天(Wentian)」と「夢天(Mengtian)」を接続してCSSを完成させる重要なステップを遂行する重大な任務を帯びている。筆者は6月6日に放送された中国国営テレビCCTVの番組にビデオ出演し、今回の任務の重要性を中国国民に向けて客観的に紹介した[14]。
これまでCCSは常時有人ではなく、搭乗員交替の際に無人になる期間があったが、今後は2機の神舟の同時接続を行い、数日間は6名の搭乗員が同時に滞在するようになり、常時有人となる。
6月30日までに累積宇宙飛行日数が75日増えて世界第4位の1065日となった。世界第3位の日本は1687日で、2022年秋から若田宇宙飛行士の約半年間の滞在が予定されているが、中国は今後年間1100日以上のペースで増加していき、次回の「神舟15号」の飛行期間中の2023年3月か4月に日本を抜いて3位になると予想される。
宇宙ミッション5 宇宙科学分野
(1)火星探査
6月29日、中国探月工程(CLEP)は火星探査機「天問(Tianwen)1号」が709日目に予定のミッションを完了したと発表した[15]。
天問1号に続く天問シリーズのミッションとして、2号機は小惑星、3号機は火星サンプルリターン、4号機は木星探査を計画している模様[16]。
宇宙ミッション6 新技術実証分野
(1)長光衛星技術公司の低軌道通信衛星
5月20日、長光衛星技術公司(CGSTL:ChangGuang Satellite Technology Ltd.)は衛星通信技術の試験検証に用いられる最初の試験衛星「CGSTL Test1」と「同2」の2機を打ち上げた。同社は1,2000機の小型衛星で構成される中国版スターリンク通信衛星群の構築をめざしている。
(2)DTSW衛星
5月20日にCGSTL衛星と同時に打ち上げられた1機の小型衛星については、衛星の利用目的や保有機関の名称などが不明である。
(3)6月22日にCASICが開発した小型衛星打上げ用ロケット「快舟1A」ロケットにより技術試験衛星「天行(Tianxing)1号」が打ち上げられた[17]。この衛星の主なミッションは宇宙空間環境探測等の試験である。なお、快舟1Aロケットの打上げは失敗に終わった昨年12月以来半年ぶり。
宇宙ミッション7 宇宙輸送分野
5月13日、北京星際栄耀空間科技公司(Beijing Interstellar Glory Space Technology Ltd.)は昨年2回続けて打上げに失敗した「双曲線(Shuangquanxian)1号」ロケットの打上げに今回も失敗し、3回連続の失敗で打上げ成功率は25%(1/4)に低下した。
CASICの「捷龍(Jielong)」ロケットや北京星河動力空間科技有限公司(Galactic Energy社)の「穀神星(Gushenxing=Ceres)」ロケットの打上げ情報もあったが、本期間には打上げは行われなかった。
参考資料:中国衛星名 ピンインABC順-中国語表記対照表
漢字で表記される中国衛星の名称の種類が200種類近くになり、さらに新しい名称の衛星が増え続けている。過去にもあった名称かどうかの確認に手間取るようになってきたため、辞典のような資料の必要性を感じ、ピンインでABC順に整理した表を作成した。
中国衛星名 ピンインABC順-中国語表記対照表(PDF)( 365KB)
以上
1. 2022年4月7日、Gunter's Space Page、Gaofen 3 (GF 3)
2. 2022年6月29日、中国航天報、航天科技集团长四丙火箭试验队执行高分十二号03星发射任务侧记
3. 2022年7月1日、Gunter's Space Page、Yaogan 35-01A, 35B
2022年7月1日、Gunter's Space Page、Yaogan 35-01C
4. 2022年4月20日、Gunter's Space Page、Daqi 1 (DQ 1, AEMS 1)
5. 2022年5月5日、CASC、用成功落实总书记回信精神!长二丁"一箭八星"得胜
6. 2022年5月13日、Gunter's Space Page、Shian(正しくはShuang)Quxian-1 (SQX-1, Hyperbola-1)
7. 2022年5月13日、Gunter's Space Page、Jilin-1 Mofang-01A (Jilin-1 MagicCube-01A)
8. 2022年4月29日、CASC、金牌老将长二丙火箭成功发射四维01/02卫星
9. 2022年4月16日、Gunter's Space Page、ZX 6D (ChinaSat 6D)
10. 2022年6月2日、Gunter's Space Page、GeeSAT-1 01, ..., 74
11. 2022年5月20日、CASC、2021年我国卫星导航与位置服务产业总产值达4690亿元
12. 2022年5月10日、CASC、中国空间站开建!长征七号火箭成功发射天舟四号货运飞船
13. 2022年6月5日、CMSEO、神舟十四号3名航天员顺利进驻天和核心舱
14. 2022年6月6日、CCTV、多国人士:神舟十四号載人飛船成功発射意義重大
15. 2022年6月29日、新華網、天问一号完成既定科学探测任务
16. 2022年4月29日、百度、官宣!15年内中国着手"行星探测工程",天问三号将从火星取样
17. 2022年6月23日、多特軟件站、我国成功发射天行一号试验卫星是怎么回事,关于中国成功发射第一颗试验通信卫星的新消息、
定点観測シリーズバックナンバー:
2022年04月28日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その19)」
2022年01月29日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その18)」
2021年10月25日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その17)」
2021年07月12日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その16)」
2021年04月22日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その15)」
2021年01月19日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その14)」
2020年10月15日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その13)」
2020年07月13日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その12)」
2020年04月28日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その11)」
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2019年10月16日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その9)」
2019年07月17日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その8)」
2019年04月15日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その7)」
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2018年10月18日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その5)」
2018年04月13日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その4)」
2017年10月26日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その3)」
2017年04月21日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その2)」
2016年10月12日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その1)」