【22-02】定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その19)
2022年04月28日 辻野 照久(元宇宙航空研究開発機構国際部参事)
今回は、定点観測シリーズの第19回目として、2022年1月1日から3月31日までの3か月間の中国の宇宙開発動向をお伝えする。
2022年第1四半期の世界のロケット打上げ状況
本期間のロケット打上げ回数は、中国が8回、米国が17回(うち1回打上げ失敗)、ロシアが4回、欧州が1回、ニュージーランド(NZ)が1回、インドが1回、イランが1回で、全世界で33回であった。表1に2022年第1四半期の世界各国のロケット打上げ回数を示す。
*1 米国の[ ]内はスペースX社の打上げ回数(内訳) | |||||||||
期間 | 中国 | 米国*1 | ロシア | 欧州 | 日本 | NZ | インド | イラン | 世界計 |
1月-3月 | 8 | 17[11](★1) | 4 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 |
33(★1) |
中国と米スペースX社のロケット・衛星打上げ状況
この期間に中国は8回の打上げを行い、自国衛星38機を打ち上げた。そのうち、地球観測衛星は20機、通信放送衛星は7機、技術試験衛星は11機である。
表2に中国の打上げに使われたロケットや軌道投入された衛星などの一覧表、表3にロケット種別による2022年3月までの中国の打上げ回数と衛星数を示す。
国際標識番号の*は英字が未定であることを示す。 | ||||||||
衛星名 | 国際標識番号 | 打上げ年月日 | 打上げロケット | 射場 | 衛星保有者 | ミッション | 軌道 | |
Shiyan 13 | 試験 | 2022-004A | 2022/1/17 | 長征2D | 太原 | CAST | 技術試験 | SSO |
Ludi Tance 1-01A | 陸地探測 | 2022-007A | 2022/1/26 | 長征4C | 酒泉 | CAS/AIR | 地球観測 | SSO |
Ludi Tance 1-01B | 陸地探測 | 2022-018A | 2022/2/26 | 長征4C | 酒泉 | CAS/AIR | 地球観測 | SSO |
Jilin 1 Mofang-02A | 吉林魔方 | 2022-019* | 2022/2/27 | 長征8遥2 | 文昌 | 長光衛星技術公司 | 地球観測 | SSO |
Jilin 1 Gaofen 03D 10-18(9機) | 吉林高分 | 2022-019* | ||||||
Wenchang 1 01 | 文昌 | 2022-019* | 三亜遥感研究所 | |||||
Wenchang 1 02 | 2022-019* | |||||||
Hainan 1 01 | 海南 | 2022-019* | ||||||
Hainan 1 02 | 2022-019* | |||||||
Taijing 3 01 | 泰景 | 2022-019* | MinoSpace | |||||
Taijing 4 01 | 2022-019* | |||||||
Xingshidai 17 (Dayun) |
星時代 (大運) |
2022-019* | ||||||
Chaohu 1 | 巣湖 | 2022-019* | 天儀研究院 | 技術試験 | ||||
Xidian 1 | 西電 | 2022-019* | 西安電子科技大学 | |||||
Chuangxin Leishen | 創新雷神 | 2022-019* | 北京郵電大学 | |||||
Qimingxing1 | 啓明星 | 2022-019* | 武漢大学 | |||||
Tianqi 19 (Tian’an 2) |
天啓 天安 |
2022-019* | 北京国電高科 | 通信放送 | ||||
Yinhe 2 01-06 (6機) |
銀河 | 2022-023* | 2022/3/5 | 長征2C(3) | 西昌 | 銀河航天公司 | 通信放送 | |
Xingyuan 2 | 星願 | 2022-023* | 北京星願航天科技公司 | 技術試験 | ||||
Yaogan 34-02 | 遥感 | 2022-027A | 2022/3/17 | 長征4C | 酒泉 | PLA | 地球観測 | |
Tiankun 2 | 天鲲 | 2022-031* | 2022/3/29 | 長征6A | 太原 | CASIC | 技術試験 | |
Pujiang 2 | 浦江 | 2022-031* | 技術試験 | |||||
Tianping 2A | 天平 | 2022-032* | 2022/3/30 | 長征11 | 酒泉 | CAST | 技術試験 | |
Tianping 2B | 2022-032* | |||||||
Tianping 2C | 2022-032* |
ロケット種別 | 長征2 | 長征4 | 長征6 | 長征8 | 長征11 | 計 |
打上げ回数 | 2 | 3 | 1 | 1 | 1 | 8 |
中国の衛星数 | 8 | 3 | 2 | 22 | 3 | 38 |
スペースX社はFalcon 9ロケットの11回の打上げで391機のStarlink衛星と23か国(米国を含む)の小型衛星109機、米国偵察衛星、イタリア地球観測衛星など計502機を打ち上げた。
宇宙政策
1月28日、「2021年中国的航天」[1](中国宇宙白書)が発表された。本白書は国際社会における中国の宇宙産業の理解をさらに深めることを目的として発行され、2016年以降の中国の宇宙活動の主な進捗状況及び今後5年間の主な課題を紹介している。全文の仮訳を文末の参考資料に示す。
宇宙ミッション1 地球観測分野
第1四半期に打ち上げられた中国の地球観測衛星は20機であった。
(1)中央政府の地球観測衛星
①陸地探測(Ludi Tance)
1月26日と2月26日に新シリーズの地球観測衛星「陸地探測」(別名「L-SAR」)2機(01Aと01B)が長征4Cロケットにより打ち上げられた[2]。ミッション機器は中国初のLバンドSARである[3]。衛星の運用は中国科学院(CAS)空天信息創新研究院(AIR)が行っており、3月5日に2号機の最初のデータを受信した[4]。
②遥感(Yaogan)
3月17日、人民解放軍(PLA)は「遥感34-02号」[5]を長征4Cロケットにより打ち上げた。
(2)地方政府関連の地球観測衛星
以下の14機の衛星は2月19日に長征8型遥2型ロケットにより同時に打ち上げられた22機(中国として1回の打上げでの過去最多衛星数)に含まれる。
①吉林(Jilin) 10機
吉林省長春に本拠を置く長光衛星技術公司は「吉林1 魔方(Mofang)02A」[6]と「吉林1高分(Gaofen)03D」9機(10号~18号)[7]を打ち上げた。
②海南(Hainan)と文昌(Wenchang)
海南省の三亜遥感研究所は「海南1号」2機[8]と「文昌1号」2機を打ち上げた。当初は「海南」4機の同時打上げになると思われたが、高分解能の「海南」とマルチスペクトルの「文昌」の2種類となり、同研究所はさらに高分解能衛星「三亜(Sanya)」とSAR衛星「三沙(Sansha)」の打上げも計画している。
(3)民間企業の地球観測衛星
①泰景(Taijing)
MinoSpace社は「 泰景」2機(3-01, 4-01)を打ち上げた。「泰景2-01」は2021年に打ち上げられており、累計3機となった。
②星時代(Xingshidai)
MinoSpace社は「星時代17号」(別名:大運、大学運動会の略)を打ち上げた。
宇宙ミッション2 通信放送分野
本期間に打ち上げられた中国の通信放送衛星は7機であった。
①銀河(Yinhe)
銀河航天公司(Galaxy Space社)は3月5日に「銀河2号」衛星6機を同時に打ち上げた[9]。同社は2020年に「銀河1号」を打ち上げており、累計7機となった。
②天啓(Tianqi)
北京国電高科公司は2月27日に「天啓19号」(別称:平安2号)を打ち上げた[10]。天啓シリーズの衛星は累計で16機となった。
宇宙ミッション3 航行測位分野
3月末時点で北斗衛星の運用数は47機である。
3月6日、中国北斗衛星導航系統管理弁公室(CNSO)は、5月25日から27日まで北京国測国際会議会展センターにおいて第13回中国衛星導航年会(CSNC)を開催すると発表した[11]。
宇宙ミッション4 有人宇宙活動分野
本期間に有人宇宙活動分野の衛星の打上げは行われなかった。4月以降、「天舟(Tianzhou)4号」の打上げ、「神舟(Shenzhou)13号」の帰還と「神舟14号」の打上げ、中国宇宙ステーション(CSS)の2機の実験モジュール(問天(Wentian)及び夢天(Mengtian))の打上げが次々に実施される予定。
宇宙飛行士の累積宇宙滞在日数は270日増えて942日となり、露米日独伊に次ぐ第6位となった。4月9日にイタリアを追い抜いた後、「神舟13号」が4月16日に帰還した場合、ドイツを追い抜けず第5位にとどまる(4月16日時点で独1007日、中990日)。
宇宙ミッション5 宇宙科学分野
(1)月探査機「嫦娥(Chang'e)」
1月20日、国家航天局(CNSA)の月探査・宇宙プロジェクトセンターに属する中国探月・深空探測網(CLEP)は月の裏側を探査中の「嫦娥4号」の中性原子探査の実施状況を発表した[12]。
宇宙ミッション6 新技術実証分野
本期間に打ち上げられた技術試験衛星は11機であった。
(1)中央政府の技術試験衛星
①試験(Shiyan)
1月17日、中国空間科学研究院(CAST)は「試験13号」を長征2Dロケットにより打ち上げた[13]。軌道は高度500kmの太陽同期極軌道であるが、試験の目的などは不明。
②天平(Tianping)
3月30日、CASTは長征11型ロケットにより「天平2号」A・B・Cの3機の衛星を打ち上げた。宇宙環境での大気観測や軌道予報モデルの修正等のミッションを行う[14]。「天平1号」衛星は2018年に2機打ち上げられており、累計5機となった。
③天鲲(Tiankun)
3月29日、中国航天科工集団公司(CASIC)は長征6A型ロケットにより「天鲲2号」を打ち上げた。「天鲲1号」は2017年に打ち上げられており、累計2機目である。
④浦江2号(Pujiang)
3月29日、上海航天技術研究院(SAST)は長征6A型ロケットにより「浦江2号」を打ち上げた。「浦江1号」は2015年に打ち上げられており、累計2機目である。
(2)大学の技術試験衛星
以下の3機はいずれも2月19日に長征8型ロケットにより打ち上げられた。
①西安電子科技大学は「西電(Xidian)1号」[15]を打ち上げた。
②北京郵電大学は「創新雷神(Chuangxin Leishen)」[16]を打ち上げた。
③武漢大学は「啓明星(Qimingxing)1号」[17]を打ち上げた。
(3)民間企業の技術試験衛星
①2月19日、長沙の天儀研究院は「巣湖(Chaohu)1号」[18]を打ち上げた。
②3月5日、北京星願航天科技公司は「星願(Xingyuan)2号」[19]を打ち上げた。
宇宙ミッション7 宇宙輸送分野
本期間に打上げロケットの新しい種類として「長征8遥2」と「長征6A」の2種類が打ち上げられた。長征8遥2は長征8の補助ブースタ(直径2.2m)2基をなくして打上げコストを下げ、長征6Aは逆に1段機体に4基の補助ブースタ(直径1m)を追加して太陽同期極軌道への投入性能を大幅に増大させたものである。
2022年の計画として、CASCは40回以上の打上げを予定しており、そのうち6回は有人宇宙活動関連で長征2F(神舟)・長征7(天舟)・長征5B(CSSモジュール)が2回ずつである。
参考資料:2021年版中国宇宙白書(仮訳)
別添 参考資料 参照
1. 2022年1月28日、国務院新聞弁公室、国务院新闻办公室28日发布《2021中国的航天》白皮书
2. 2022年3月16日、Gunter's Space Page、Ludi Tance 1-01A, 1-01B (L-SAR 01A, 01B)
3. 2022年2月21日、CASC、航天科技集团陆地探测一号01组卫星研制侧记
4. 2022年3月7日、CAS、China Receives Data from Newly Launched L-SAR 01B Satellite
5. 2022年3月27日、CASC、长四丙成功发射遥感三十四号02星
6. 2022年3月16日、Gunter's Space Page、Jilin-1 Mofang-02A
7. 2022年3月16日、Gunter's Space Page、Jilin-1 Gaofen-03A, -03B, 03C, 03D (Jilin-1 High Resolution-03A, 03B, 03C, 03D)
8. 2022年3月16日、Gunter's Space Page、Hainan-1 01
2022年3月16日、Gunter's Space Page、Hainan-1 02
9. 2022年3月5日、新浪網、一箭七星!中国成功发射银河航天02批卫星
10. 2022年2月27日、読創、天启星座19星(平安2号)卫星成功入轨
11. 2022年3月6日、CNSO、第十三届中国卫星导航年会(CSNC2022) 会议注册通知(第2号通知)
12. 2022年1月20日、CLEP、嫦娥四号中性原子探测仪最新进展
13. 2022年1月18日、Gunter's Space Page、SY 13
14. 2022年3月30日、CASC、四级固体火箭长十一"一箭三星"发射成功
15. 2022年2月28日、科技日報、"西电一号"卫星发射成功
16. 2月28日、現代時刊、"创新雷神号"卫星成功发射 华为云"天地一体"首次组网成功
17. 2月28日、荆楚网、武大首颗"学生造"卫星成功发射 "启明星一号"卫星见证中国大学生创新能力
18. 2月28日、潇湘晨報、「中安在线」国内首颗商业组网SAR遥感卫星"巢湖一号"发射成功
19. 3月5日、一箭七星,长征二号丙火箭成功发射暄铭星愿等多个商业卫星
定点観測シリーズバックナンバー:
2016年10月12日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その1)」
2017年04月21日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その2)」
2017年10月26日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その3)」
2018年04月13日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その4)」
2018年10月18日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その5)」
2019年01月10日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その6)」
2019年04月15日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その7)」
2019年07月17日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その8)」
2019年10月16日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その9)」
2020年01月21日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その10)」
2020年04月28日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その11)」
2020年07月13日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その12)」
2020年10月15日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その13)」
2021年01月19日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その14)」
2021年04月22日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その15)」
2021年07月12日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その16)」
2021年10月25日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その17)」
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