露口洋介の金融から見る中国経済
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【21-02】預金・貸出金利の動向

2021年02月26日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):帝京大学経済学部 教授

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。信金中央金庫、日本大学を経て2018年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)、『中国対外経済政策のリアリティー』(共著)など。

 2021年2月8日に人民銀行が公表した、2020年第4四半期金融政策執行報告には、「預金管理を強化し、預金市場の競争秩序を保護する」と題したコラムが掲載されている。また、2月4日には、人民銀行が預金管理業務強化のためのテレビ電話会議を開催した。今回は、最近の中国の預金、貸出金利の動向について概観したい。

貸出金利の動向

 まず、貸出金利についてみると、2019年9月の本コラム で紹介したように、人民銀行は同年8月に従来の「貸出基礎金利」を「貸出市場報告金利」(LPR)に変更した。人民銀行が公表する預金、貸出の基準金利は2015年10月以来変更されていないが、従来の貸出基礎金利1年物は貸出基準金利1年物の4.35%に対して、若干下回る4.31%で事実上固定されていた。新しいLPRの導入によって、銀行の貸出金利はLPRをベースとして設定することが求められ、従来の1年物に加えLPR5年物が導入された。新しいLPRは毎月20日に見直されることとなった。また、従来銀行間の申し合わせで設定されていた基準金利の0.9倍という貸出金利の下限についても撤廃された。

 1年物LPRは2019年8月の導入時に4.2%に、そして11月に4.15%に引き下げられた。コロナ禍を受けて2020年2月、4月にも引き下げられ、それ以降1年物3.85%、5年物4.65%の水準が2021年2月20日公表分まで維持されている。この点については、2020年7月の本コラム でも指摘した通り、マクロ経済対策としての金融政策は、2020年4~6月期以降の経済の回復傾向を背景に緩和政策の浸透状況を見守る状態となっていることを反映している。一方、コロナ禍で資金繰り難に陥った中小・零細企業などに対しては、様々な優遇策の実施などによって引き続き貸出金利の低下が促進されている。

 銀行の貸出金利の動向については、金融政策執行報告の「金融機関人民元貸出金利区間別シェア」の変化で見ることができる。同統計によると、2019年9月にはLPRを下回る貸出の比率は16.40%、LPRと同水準が0.55%、LPRを上回る貸出の比率が83.05%であった。2019年12月にはLPRを下回る金利の貸出比率が21.87%に増加し、2020年2月にはコロナ禍対応で同比率が31.41%へと一旦大幅に拡大した後、3月には24.42%となった。その後LPRを下回る金利の貸出比率は増加し2020年12月には26.93%となっている。LPRと同水準の貸出比率は7.02%、LPRを上回る金利の貸出比率は66.04%である。この間LPRの水準自体が引き下げられているので、LPRを下回る貸出の比率の上昇は貸出金利が順調に低下していることを示している。

 同じく金融政策執行報告では、「新規貸出加重平均金利の状況」も示されている。新規貸出全体の加重平均金利の推移を見ると、2018年6月に5.94%という直近のピークを示した後、2018年春から始まった金融緩和を受けて2019年6月には5.66%に低下し、さらにその後のLPRの見直しとコロナ禍対応の金融緩和によって2020年3月には5.08%に低下した。その後は横ばい圏内の動きで推移しているが2020年12月には5.03%に低下している。

預金金利の動向

 金融政策執行報告では銀行の預金金利の動向が散発的に示されている。例えば、2020年第2四半期の報告では国有大型商業銀行と株式制銀行の大口譲渡性預金の加重平均金利が2020年6月にそれぞれ2.64%と2.71%となり、2019年末と比べて0.30%ポイントと0.34%ポイント低下したと指摘されている。また2020年9月に公表された金融政策執行報告の増刊では、2020年8月にそれぞれの金利が2.43%と2.52%に低下したことが示されている。

 今回の金融政策執行報告のコラムでは、まず預金創新産品と呼ばれる一群の預金商品に対する取り締まりについて述べている。人民銀行は2020年3月に「預金利率管理の強化に関する通知」を公布した。それに先立ち2019年からこれらの預金商品に対する管理を強化している。対象となるのは、例えば要求払い預金でありながら預入期間が長期になるに従って定期預金のような高い金利が適用される預金、あるいは定期預金であるが満期前払い戻しに対して経過した期間に見合う期間の定期預金金利を適用する預金などである。これらは、預金利息に関する法規に反している。そこで、前者については2019年12月1日以降、新規受け入れを禁止し、残高は2019年5月の6.7兆元から2020年末の1.2兆元に減少した。後者については2019年12月17日以降新規受け入れを禁止し、2020年末に残高をゼロにすることが求められた。これを受けて2020年12月に一部の銀行は、2021年1月1日以降この預金商品の満期前解約には全期間について要求払い預金の金利を適用すると告知した。この結果、同預金の残高は2019年12月の15.4兆元から2020年12月末にゼロとなった。

 次に、構造性預金の最低保証収益率の自主的管理について述べられている。構造性預金とは一般預金に金融派生商品を組み合わせたものである。その収益は最低保証収益と金融派生商品部分の収益を加えたものであり、最低保証収益率は一般預金の利率と同じ性質を有する。一部の銀行では競争上最低保証収益率を引き上げて来た。人民銀行は2019年12月に銀行の自主規制団体である市場金利設定自律機構に対し最低保証利率について自主的に管理することを求めた。その結果、最低保証利率は2020年12月に1.25%、前年同月比1.18%ポイントの低下となった。これに金融派生商品部分も含めた予想収益率と実現収益率も2020年12月にそれぞれ3.09%、3.03%と、前年同月比0.5%ポイント、0.54%ポイントの低下となった。2020年末の構造性預金残高は6.3兆元で、ピークの2020年4月の10.7兆元に比べて4.4兆元減少した。

 さらに、都市商業銀行など地方性銀行が実店舗を保有しない他地域においてインターネットや携帯電話を通じて預金を吸収する「異地預金」について、地域金融機関の本分にそぐわず、流動性リスクも高いとして、2021年からその新規受け入れを禁止したことが述べられている。

銀行の利鞘確保が重要

 銀行保険監督管理員会が公表する商業銀行の利鞘の推移を見ると、2012年には2.75%だったが2017年には2.10%まで低下している。その後、理財商品や第三者決済機関に対する規制の強化などが行われ、2019年に2.20%に回復した。しかし2020年には、貸出金利の低下が進んだことから再び2.10%に低下している。もっとも、前述の預金に対する諸々の管理強化によって、銀行の資金調達コストも相応に低下している。銀行の利鞘の大幅な減少は抑制されているとみるべきであろう。

 今回の金融政策執行報告のコラムでも人民銀行は、「今後も、法規に反する預金創新産品や構造性預金、異地預金に対する管理を強化する。理性的でない競争を防止し、預金市場の秩序ある競争を保護し、銀行の負債サイドのコストの安定を維持する。そして金利自由化改革と企業の資金調達コストの安定的な低下にとって良好な環境を作り上げていく」と述べている。2月4日開催のテレビ電話会議でも、同じ趣旨が強調されている。

 預金・貸出金利を自由化して競争が激化すれば、貸出金利の低下と預金金利の上昇によって銀行の利鞘が大きく縮小する可能性がある。人民銀行は、今後も銀行の利鞘を確保して金融システムの安定を維持するために、預金・貸出双方の金利に対する規制監督を続けながら、金利水準のコントロールを行っていくものと考えられる。

(了)