第157号
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進む国連との連携―シリーズ・21世紀のスプートニク・ショック(5)

2019年10月8日

青木節子

青木 節子 AOKI Setsuko:
慶應義塾大学大学院法務研究科 教授

略歴

防衛大学校社会科学教室助教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2016年4月より慶應義塾大学大学院法務研究科教授。1983年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、90年カナダ、マッギル大学法学部附属航空・宇宙法研究所博士課程修了。法学博士(93年)。専門は国際法、宇宙法。

中国は宇宙に関して、国連との連携を進め、国際的な会合を増やしている。中国がつくったアジア唯一の宇宙活動に関する国際組織に、箔を付けようとしているようだ。国際宇宙法や制度が形成途上なので、早めに自国の利益を確保しようとする姿も見えてくる。

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2016年に打ち上げられた中国の宇宙ステーション「天宮2号」。すべてのミッションを終えたとして、今年7月に順調に大気圏に突入したと中国が発表した。(写真提供:科技日報)

国連との共催、協賛会合が増加

 前回は、米国との関係を失った中国が、衛星打ち上げのカスタマーを第三国に求めるうち、おのずと途上国に市場を見いだしたこと、そこで生まれた関係は、二国間の力量差からして、支配と服属のそれになったことを述べました。

 それだけでは、中国は権力づくの関係に、いかにも興味があるかに見えます。中国はさらにカスタマー国を束ねて、APSCO(アジア太平洋宇宙協力機構)という集まりをつくり、それを取り仕切りながら、利己的色彩を薄めつつ、実利をとる方策に出たところまでを見てきました。

 そんな背景をもつAPSCOに、このごろではアジア唯一の政府間国際組織として、重みが加わっています。というのもAPSCOは、2013年以来、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)のオブザーバーになったからです。

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中国の切手に採用されたAPSCOのロゴマーク(写真:辻野照久「中国の宇宙開発事情(その7)APSCO 」)

 APSCOは、これまでも積極的に宇宙エンジニアリング関係だけではなく、宇宙政策と法についてのワークショップやシンポジウムを定期的に開催してきましたが、COPUOSのオブザーバーとなった後は、国連との共催や国連の協賛を得て行う国際的な会合が増えています。

COPUOS(国連の宇宙空間平和利用委員会)

 国連総会の補助機関。1959年に常設委員会となる。宇宙空間の研究に対する援助、情報の交換、宇宙空間の平和利用のための方法や法律問題の検討を行い、活動報告を国連総会に提出する。COPUOSのもとには科学技術小委員会と法律小委員会が設置されている。

 例えば、2019年9月にトルコ・イスタンブールで「宇宙法と政策」をめぐる一大カンファレンスが開催。主催者は、トルコ政府で、トルコを参加国に含むAPSCO、それに国連宇宙部(UNOOSA)が共催です。UNOOSAはUnited Nations Office for Outer Space Affairsのことで、文字通り、宇宙に関する事象を扱う国連の部局です。

 また、APSCO自体としては、この宇宙法政策会議の前の週に同じくイスタンブールで、宇宙法政策トレーニングコースを開設しました。こうした会議やセミナーを、努めて国連と共催させることで、中国はAPSCOに公共的な色彩を与えようと狙っているのだとみることも可能です。

欧米、日本のすきをつく素早い動き

 米国のNASA、欧州のESAには持つことができなかった運動神経です。日本には、実力はもとより、関心すらなかった動きと評すよりありません。しかも、動きは加速し、拡大しています。

 2014年、北京郊外にある北京航空航天大学に、国連肝いりの学術拠点ができました。アジア・太平洋宇宙科学技術教育地域センター(RCSSTEAP)と名付けられた高度の教育・研究機関です。国連は世界各地に類似の機関を設置しており、ほかには、インド、ヨルダン、モロッコ、ナイジェリア、メキシコとブラジルに宇宙科学技術教育地域センターがあります。

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北京航空航天大学(写真提供:周潔)

 RCSSTEAPでは、中国政府やAPSCOが提供するさまざまな奨学金があり、宇宙応用技術(測位、リモートセンシング)、宇宙法・政策で修士号や博士号を取るためのプログラムとして、MASTA(修士号)やDOCSTA(博士号)が、設置されています。宇宙技術や政策のプロフェッショナルとなりたい途上国の若者にとって魅力的なプログラムと思われます。

 ところで、興味深いことに、この北京航空航天大学は、ミサイルについて日本の経済産業省が厳しい輸出管理対象として外国ユーザーズ・リストに載せる懸念先です。国連は、その点に関心を払っていないようです。

形成途上の国際宇宙制度を自国の利益に

 中国は、10年間で宇宙法研究者を100倍に増やし、国際宇宙法形成に影響を与える、という計画をたてたとされます。2010年ごろのことです。

 そればかりではありません。国連宇宙部には、衛星データを活用し、災害時に緊急事態管理を行うことをもって使命とするUN-SPIDER(災害管理および緊急対応のための宇宙ベースの情報のための国連プラットフォーム)という事業があります。この事業のオフィスがあるのは、国連宇宙部が本拠をもつウィーンと、ドイツのボンを除くと、北京(2010年開所)のみ。

 中国がこんなふうに国連と緊密な連携を求める理由は、ほかでもありません。国際宇宙法・制度は、まだまだ形成途上です。その行方に、自国の利益を反映したいと、中国は望んでいるのです。

 事実、先ほどトルコの会議を例示しましたが、ああしたAPSCOの会議や、北京にできた宇宙科学技術教育地域センターが頻繁に開く国連宇宙部との共催ワークショップにより、国連や、途上国宇宙機関幹部と中国とのつながりが、日に日に強まります。

 日本は実に対照的で、国連宇宙部と共催し日本が開いた会議は、1990年代以降、皆無なのです。


※本稿は、ニッポンドットコム進む国連との連携│シリーズ・21世紀のスプートニク・ショック(5)」(2019年9月24日)をニッポンドットコムの許諾を得て転載したものである。
転載元:https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c06505/?cx_recs_click=true

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