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【19-19】経済に悪影響ならトランプ氏軌道修正か 米中貿易戦争でグレン・フクシマ氏予測

2019年7月16日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 緊迫する米中関係の見通しと日中関係のあり方をテーマとした東京財団政策研究所主催のフォーラムが8日、東京で開かれ、日米中3カ国の研究者が活発な議論を繰り広げた。米中それぞれがリスクを抱え、間に立つ日本の対応も難しいという意見が多い中で、「米中間では今年の終わりごろには何らかの決着がある」との見通しが、グレン・フクシマ米国先端政策研究所上級研究員から示された。2020年の米大統領選が重要な要素になるとの見方に基づく予測だ。

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グレン・フクシマ米国先端政策研究所上級研究員

トランプ政権が抱えるリスク

 グレン・フクシマ氏は、弁護士として米国の法律事務所で活動した後、レーガン、ブッシュ(父)両共和党政権で米国大統領府通商代表部日本担当部長(1985~1988年)、米国通商代表補代理(1988~1990年)を務めた。その後、在日米国商工会議所会頭を務めるなど多国籍企業の経営者としての顔も持つ。フクシマ氏は、トランプ米大統領について「政治的な経験だけでなく、多国籍企業を経営した経験もない。頭の中の優先順位は、安全保障や人権などより、経済が第一という人物」と評した。「やろうとしていることが相手に予測可能だったのが米国の弱点、と大統領になる前から言い続けている」と指摘した上で、「国内外から政策をきちんと実行する国と米国は見られている。政策は予測されない方がよいという考え方は米国にとってリスクだ、と懸念する人は米国内にも多い」と、トランプ大統領に対する厳しい見方を示した。

 貿易をめぐる米中対立に関しては、「農業を含む産業界から経済に悪影響が出ているという声が強まると、トランプ大統領が軌道修正する可能性はある。来年の大統領選に向かって摩擦が長期化した方がプラスと考えれば、修正はしないし、ある時点で成果が得られたとアピールした方が大統領選によいと考えれば、軌道修正することもあり得る」と語り、今年の終わりごろになんらかの決着が図られる可能性を指摘した。

中国が抱える内憂外患

 一方、オバマ政権の2期目には中国が民主化するとの期待があったものの、習近平政権になってから学者、NGO(非政府組織)やNPO(民間非営利団体)の活動家、マスコミなどで中国を擁護する人は最近減っている、とフクシマ氏は中国の現状にも厳しい目を注いでいる。人権、言論の自由に関する規制や、香港、台湾、新疆ウイグル自治区などで政府の締め付けが厳しくなっている。こうした中国の現状を、氏は中国を擁護する声が米国で少なくなっている理由として挙げた。

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柯隆東京財団政策研究所主席研究員

 日本での留学、研究生活が30年を超す柯隆東京財団政策研究所主席研究員は、中国が米国との対立以外にも数多くの内憂外患を抱えていることを指摘した。まず経済面のリスクとして示したのが、市場としての魅力の不安定さ。公平性、透明性、法による統治などが不十分であることを、その理由として挙げた。民営企業が国営企業と公平に競争できていない実態を裏付けるデータとして、中国の民営企業は設立されてから倒産するまでの寿命がわずか3年未満しかない事実を指摘した。氏によると、米国の企業の平均寿命は40年。一般には成功したとみられている「改革開放」政策が抱える大きな問題がこうした現実の背景にある、と柯氏は見ている。

 柯氏はさらに、不透明な指導者選出の方法や、立派な政治信条を持たない政治家が増えているといった政治的なリスクも指摘し、共産党は国民の信頼を取り戻す必要に迫られているとの厳しい見方を示した。さらに所得税を納めているのが中国国民の2,800万人程度しかいないことも、中国社会の抱える大きな問題としている。日本の場合、全税収に占める個人所得税の割合は30%を超しているのに対し、中国は8%でしかないという税構造のいびつさをもたらしている、と氏は指摘している。さらに中国の軍事力が米国に比べはるかに劣ることも理由に挙げて「米国とはうまく付き合わざるを得ない」と、中国側から米中関係を極度に悪化させることはありえないとの見方を示した。

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川島真東京大学大学院総合文化研究所教授(右から2人目)

分かれる米中関係の見通し

 米中対立については川島真東京大学大学院総合文化研究所教授も、中国の現状、将来に厳しい目を向けている。人口が減少に転じる時期が迫っていることを挙げて、「経済の伸びしろはあまりない」と断じた。人工知能(AI)や第5世代移動通信システム(5G)に力を入れているのも、人口減少に直面している中国自身にとって必要な技術だからそうせざるを得ないから、というのが川島氏の見方だ。米中関係については、「今後、個別のいろいろな問題についてさまざまな交渉が行われるとみられるが、それが致命的な対立を生んでしまう可能性もある」と懸念も示した。

 フクシマ氏は、中国と学術分野での交流を規制すべきだとする声がトランプ政権内にあることを紹介し、今後、研究者の交流が規制される可能性があることを指摘した。一方で氏は、「トランプ氏は2年後あるいは6年後に大統領を辞めたらビジネスマンに戻る。そのとき、中国とビジネスしたいはずだから、大統領の間に破壊的なことはやらないだろう」とも述べた。

民間主導の日中関係構築を

 フォーラムのもう一つのテーマである「新たな日中関係のあり方」に関しては、欧州連合(EU)の動向に詳しい伊藤さゆりニッセイ基礎研究所経済研究部研究理事から「日本とEUはお互いを必要とするこれまでになかったようなよい関係になっている」という興味深い指摘があった。米中対立の狭間で悩みを抱えるEUの立ち位置は日本と同じというわけだ。

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伊藤さゆりニッセイ基礎研究所経済研究部研究理事(左端)

 川島氏は、日中関係の現状とこれからについても厳しい見方を示した。「日中関係は改善していない。マイナスからゼロに近づいた程度だ。米中対立の中で日本に必要とされるのは2枚腰、3枚腰の対応。どう転んでもよいように、できる範囲のことをやる。こうあってほしいといったような考えはそぎ落とし、リアリズムに徹した対応が求められている。例えば、環境、医療、高齢化対応といった分野での産業協力はあり得るかもしれない。さらに中国の漁業は沿岸で魚は捕り尽くし、8割を養殖で賄っているのが現状。漁業関係の協力もできるかもしれない」と提言した。

 柯氏は、8割くらいの日本人が中国人に親しみを感じていないという世論調査結果に疑問を呈し、「日中両国国民の相性は悪くない」との見方を示した。世論調査の数字はいろいろなことの処理の仕方がよくなかったことが影響している、と指摘した上で、「日中関係を民間主導でどう構築するかが問われている」と、政府主導でない関係改善策の重要性を強調した。

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関連サイト

東京財団政策研究所 7/8 開催「米中貿易戦争下の地政学リスク 新たな日中関係のあり方」参加受付中

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