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【21-16】探り合い、陣取り合戦の段階 朱建栄氏米中関係の現状と見通し詳述

2021年05月31日 小岩井忠道(科学記者)

 日本での研究生活が長く中国の実情に明るい朱建栄東洋学園大学教授が5月25日、日本記者クラブで記者会見(オンライン方式)し、米中対立の本質や今後の見通しについて詳しく解説した。米国の対決姿勢は覇権を守るためであると気づいた中国は、対決・決裂回避を最優先するはずとの見方を示した。「世界一流」国になる目標を30年後の2050年に据えている中国が、尊敬される国になるには経済、技術、文化の面で習得すべきことは多く、東洋と西洋を兼ねる日本は一番助言できる立場にある、と日本の役割に大きな期待も示した。

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朱建栄東洋学園大学教授(日本記者クラブ「YouTube会見動画」から)

 朱氏は、米中対立が激しさを増しつつある2019年7月にも日本記者クラブで記者会見している。この際にも人民日報に載った任平氏の論文を引用し、米中対立の原因に「6割法則」と呼べる米国の伝統的手法があることを指摘していた。世界ナンバーワンの覇権を守るために、ナンバー2の追い上げを絶対許さない行動パターンを指す。旧ソ連やかつての日本が米国の国力の6割に追い上げた時点でなりふり構わぬ打撃を受けて蹴り落されたように、中国はまさにその対象国になっている、と再度、注意を促した。

 ただし、バイデン政権に対しては、「中国の体制打倒を目指すのではなく、個々の分野で注文を付ける」、「競争もあれば協力もすると明言している」という特徴を挙げて、トランプ政権との違いを指摘している。同盟重視、人権問題などで中国に攻勢をかけるものの、地球温暖化、経済秩序の再建、北朝鮮問題などで協力復活の可能性がある、とみている。

 さらに朱氏が今回、強調したのは、これまでの中国は近い将来まで世界のナンバーワンを目指していなかったという事実。近代以来の苦い体験、さらに文化大革命の失敗を経て、中国人のほぼ全員は、世界先進国との距離がまだ大きいと考えている。ここ40年の発展戦略は、「先進国に見習え」であり、「世界一流」の実現目標は30年後の2050年に据えられている。このように説明し、さらに「世界ナンバーワンになる理論も『普遍的価値観』も有していない」と言い切った。

持久戦方針に切り替え

 一方、こうした考え方に変化をもたらしたのがトランプ政権下で顕在化した中国に対する対決姿勢。「トランプが中国を早く目覚めさせた」という表現で朱氏は、大半の中国人に米国の攻勢は「中国のためではなく、米国自身の覇権を守るため」という認識を抱かせる結果をもたらした現実を明らかにした。「民主主義の灯台」という米国に対する見方が色あせる一方、中国が世界に先駆けてコロナ禍を克服したことで、若い世代の政府支持率が高まった事実も強調した。

 さらに、米中間の長期競争はもはや避けられないと持久戦方針に切り替えた変化にも注意を促した。米国の技術に過度に依存することの危険に気づき、自国のハイテク技術開発と米国に依存しないサプライチェーン構築に転換したことを指す。さらにバイデン政権になり、米中関係は、現在、探り合い、陣取り合戦の段階にある。中国は貿易、台湾などでの米側の出方を待つ姿勢だが、対決・決裂回避を最優先する方針との見方を示した。

 朱氏は、2019年7月の記者会見と同様、米中関係に10年後を予測する三つのシナリオを重ねて示した。かつて「6割法則」の下で日本が経験したように、米国の押さえ込みに中国が屈する。「9.11米国同時多発テロ事件」のような予想外の大事件や問題が発生して、一時休戦となる。中国が米国に追いつき米中2超大国の世界「G2」となる―という三つの可能性だ。今回の記者会見でも全く同じ三つの予測が示されたが、「G2」が中国も望むシナリオとして強調されたのが注目される。

 朱氏が「G2」の到来を予測する根拠の一つとして紹介したのが、1月19日に公表された欧州対外関係委員会(ECFR)の世論調査報告書。昨年末に欧州連合(EU)11カ国、1万5,000人を対象に実施された世論調査結果で、米国の政治体制が「破綻した」と見ている人が61%に上り、59%は「10年以内に中国が米国に代わって世界をリードする」と見ている。米国が「信頼できる」安全保障パートナーと考える人はわずか10%しかいなかった。

新彊問題背景に欧米の無理解と偏見

 中国の対応が国際的に関心を集めている香港、台湾、新疆に関する問題についても朱氏は、中国指導部の考え方を詳しく紹介した。「台湾が分離独立されたら中国共産党は政権の正統性を失う」と、台湾との統一が中国の悲願であることを強調した。10年以内に経済規模が米国に追いつく。こうした習近平政権にとっての最大のレガシーに伴って「台湾統一」は実現する、というのが習政権の思い、としている。

 香港については、現在、大規模な抗議運動と住民流出・株価急落が起きていない事実に注意を促し、「両害取其軽」(マイナスの小さい方を選ぶ)という香港住民の意思が働いているとの見方を示した。香港の自由経済は中国にとっても必要。主権を確保した上で、まず経済復興、就職難と住宅難に取り組み、その後、自由選挙枠の再拡大もありうる、との見通しを示した。

 朱氏が特に詳しく説明したのは新疆の現状。2001年に米国で起きた「9.11同時多発テロ」以来、新疆を含む中央アジア地域で「三種の極端勢力」(テロリズム、分裂主義、宗教的極端主義)が台頭した。この対策として、中国と中央アジア諸国が協力して実施したのが、「再教育センター」や「再就職支援教育」。それをテロ抑止の施設と故意に混同して「百万人強制収容」という作り話になった、と断じた。新彊では、100万人以上の幹部が少数民族家庭と「親戚関係」をつくり、相互の家に2週間滞在し、言語を学び合うことが行われている現状も紹介された。

 新彊問題が急浮上した背景に欧米諸国による無理解と偏見が存在するとの見方を強調する一方、新疆が反テロ、民族融合、生活向上など問題を抱えていることも認めた。過剰な警戒だけでなく、新疆を世界にもっと積極的に見せるべきだ、と中国政府への注文も付け加えた。

建設的アドバイザー日本に期待

 中国に対する包囲網がつくられつつある中で日本はどのように対応すべきか。朱氏は具体的な提言も示した。まず求めたのが「中国は簡単に崩壊せず、米中二強の時代は不可避という大きな流れを感情抜きに把握し、情勢判断の前提とする」ことだ。次は「火中の栗」を拾わないこと。「中国の『尖閣奪取』はありえない」と断じ、台湾防衛に日本を巻き込むなど日本を中国との対抗の最前線に追いやろうとする米国の計算に日本が乗らないよう求めた。

 さらに中国によるAI・ビッグデータの「独裁利用」といった見方に流されず、日中の技術協力を強めることを求めた。中国のIT技術と日本の実体技術を結合することで東洋が真に西洋を逆転することができる、としている。さらに世界から尊敬されたいと願っている中国は、経済、技術、文化という世界の「作法」を習得する必要がある。東洋と西洋を兼ねる日本は一番助言できる立場にあり、中国に対する「建設的なアドバイザー」を務めるべきだ、とも提言した。

関連サイト

日本記者クラブ会見リポート「『バイデンのアメリカ』 朱建栄・東洋学園大学教授

同「YouTube会見動画

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