【19-021】中国の外商投資ネガティブリスト(2019年版)及び奨励業種について
2019年9月12日
伊藤 ひなた(Ito Hinata)
中国弁護士、アクトチャイナ(株)代表取締役社長。北京大学卒。日本企業の中国進出・事業再編・撤退、危機管理・不祥事対応、労務紛争等中国法業務全般に携わる。
1.ネガティブリストとは
日本企業等の外国投資家が中国に投資し、中国で子会社等を設立し、運営する場合、中国法上、投資可能な業種が限定されており、一定の制限を受けることになる。かかる外国投資家の投資に対する制限を外資規制といい、現在、主に「外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)」(以下「ネガティブリスト」という。)により行われている。
ネガティブリストは、中国の全国範囲に適用されるもの(以下「全国ネガティブリスト」という。)と、自由貿易試験区のみに適用されるもの(以下「自由貿易試験区ネガティブリスト」という。)に分けられる。これらのネガティブリストに記載されている業種については、外国投資家による投資が禁止又は制限される。また、ネガティブリストに記載されていない業種については、外資に対する特別の規制がなく、中国国内の投資家による投資と同じく国内法の適用を受けることになる。
2.ネガティブリストの制定背景
ネガティブリスト制度が導入されたのは2013年のことである。従前、中国の外資規制は、1995年より実施されてきた外商投資産業指導目録において、制限類及び禁止類として規定されていた。2013年、上海自由貿易試験区の設立に伴い、同試験区にのみ適用される自由貿易試験区ネガティブリストが制定され、その後、運用の実効が高まるにつれ、全国ネガティブリストを制定することとなり、そして2018年、全国ネガティブリスト(2018年版)が初めて独立した制度として中国政府より公布された。
その後、外商投資について更なる規制緩和を図るべく、2019年6月30日、国家発展改革委員会・商務部が連名で全国ネガティブリスト(2019年版)及び自由貿易試験区ネガティブリスト(2019年版)を公布し、これらのネガティブリストは、同年7月30日から施行された。
3.全国ネガティブリスト(2019年版)の注目すべき点
全国ネガティブリスト(2019年版)は、全国ネガティブリスト(2018年版)と比べて、禁止類の事業が27項目から23項目に減少し、制限類の業種が21項目から17項目に減少し、即ち、外商投資が禁止、制限される業種が減少している。具体的に変更された点は以下のとおりであり、外国投資家にとって投資のチャンスが広がることになる。
投資分野 | 具体的な業種 | ネガティグリスト (2018年版) |
ネガティブリスト (2019年版) |
交通輸送 | 国内船舶代理会社 | 中国側の持分支配 | 制限なし (100%外資が可能) |
インフラ施設 | 人口50万人以上の都市の都市ガス、熱エネルギーの建設、運営 | 中国側の持分支配 | 制限なし (100%外資が可能) |
文化産業 | 映画館の建設・経営 | 中国側の持分支配 | 制限なし (100%外資が可能) |
出演仲介機構 | 中国側の持分支配 | 制限なし (100%外資が可能) |
|
付加価値電信 | 付加価値電信業務の国内マルチ通信業務、データ保存・転送類業務及びコールセンター業務 | 外資比率50%以下 | 制限なし (100%外資が可能) |
農業 | 国が保護する中国原産の野生動植物資源の開発 | 禁止 | 制限なし (100%外資が可能) |
採鉱業 | モリブデン、錫、アンチモン、蛍石の探査、採掘 | 禁止 | 制限なし (100%外資が可能) |
石油、天然ガス(炭層ガスを含む、オイルシェール、オイルサンド、シェールガス等を含まない。)の探査、開発 | 合併、合作に限定 | ||
製造業 | 画仙紙、墨の生産 | 禁止 | 制限なし (100%外資が可能) |
4.自由貿易試験区ネガティブリスト(2019年版)
自由貿易試験区ネガティブリスト(2019年版)は、自由貿易試験区ネガティブリスト(2018年版)と比べて、禁止類の業種が25項目から20項目に減少し、制限類の業種が20項目から17項目に減少している。
自由貿易試験区ネガティブリスト(2019年版)における禁止類又は制限類の業種は、全て前述の全国ネガティブリスト(2019年版)にも記載されている。注目すべきは、以下の投資分野については、全国ネガティブリスト(2019年版)において依然として禁止又は制限されているものの、自由貿易試験区ネガティブリスト(2019年版)では、かかる制限が撤廃されており、自由貿易試験区に限って外国投資家による投資が可能となり、外国投資家による新しい投資につながる。
- 中国の管轄海域及び内陸水域の水産物の漁獲(禁止→自由貿易試験区に限って制限なし)
- 出版物の印刷(中国側の持分支配→自由貿易試験区に限って制限なし)
5.外商投資奨励業種
前述のネガティブリストとは対照的に、中国政府は、従前より、一定の分野への外商投資を奨励する政策も打ち出している。実は、全国ネガティブリスト(2019年版)及び自由貿易試験区ネガティブリスト(2019年版)の公布と同時に、外商投資奨励産業目録(2019年版)も公布、実施されている。外国投資家が、前記外商投資奨励産業目録に記載される業種に従事する場合には、自家用設備の輸入に関する関税の免除や優遇税率の適用、土地使用権の優先取得といった優遇措置を受けることができる。
外商投資奨励産業目録(2019年版)は、製造業を奨励対象の重点分野とし、特に、ハイエンド、スマート及びグリーン製造業への外商投資を奨励している。具体的には、①IT産業(5G、集積回路、ICチップ、クラウド等)、②設備製造(工業用ロボット、新エネルギー自動車、スマートカーの部品等)、③現代医療産業(細胞治療薬物基幹原材料、大規模細胞培養製品等)、④新材料(航空宇宙用新材料等)が含まれる。
また、外商投資奨励産業目録(2019年版)は、サービス業についても奨励類業種の範囲を拡大している。具体的には、①商業サービス(工事コンサルティング、会計、税務、検査・検測・認証サービス等)、②流通(コールドチェーン物流、電子商取引、鉄道専用路線等)、③技術サービス(人工知能、クリーン生産、二酸化炭素回収等)が新たに奨励類業種に追加されている。
6.まとめ
以上紹介したとおり、中国政府は、2019年にもネガティブリストを見直し、更なる外資規制の緩和を推し進めている。また、それと同時に、中国の産業発展の状況に鑑み、奨励類業種の範囲を拡大し、より一層良質な外資の誘致しようとする意図が伺える。これらの新しい法制度は、日本企業を含む外国投資家にとっては新たなチャンスであり、活用されていくことが期待される。
以上
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