【19-36】低い5Gに対する関心 中国など主要国との差国際調査で判明
2019年12月17日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
スマートフォンの活用が中国をはじめとする主要国に比べると見劣りし、5G(第五世代移動通信システム)に対する関心も薄いことが、監査、税務、法務、コンサルティングなど幅広い業務を展開しているデロイトトーマツグループの調査で明らかになった。5Gに対しては2020年春の本格導入を目指した官民の作業が進むが、国民全体の関心が追いついていない実態をうかがわせる結果となっている。
スマートフォン所有率も差目立つ
11日に公表された「世界モバイル利用動向調査2019」は、世界28カ国・地域の約4万4,000人を調査対象と2019年7~8月に実施された。年齢は、日本18~75歳、中国18~50歳、韓国18~55歳、インド18~55歳、その他の国は18~75歳となっている。デバイスの所有状況など例年の調査項目に加え、5Gや、企業による個人データの利活用が進む中で世界的に関心が高まっている「プライバシー」に関する項目が新たに入ったのが今回の特徴。日本のスマートフォン所有率は従来型の携帯電話に置き換わる形で徐々に伸びて74%(前年比6ポイント増)となった。しかし、中国の96%、インドの93%、韓国の92%といったアジア諸国だけでなく、他の国も80%台、90%台が並ぶ。さらにスマートスピーカーの所有率が4%に留まるなど、スマートデバイスへの感度はまだ低いのが目立つ。
使用しているかもしくは利用できるデバイス(複数回答)
(「世界モバイル利用動向調査(Global Mobile Consumer Survey)2019年版」から)
5G利用に積極的関心ない7割
5Gは、現在、携帯電話や広帯域移動無線アクセスシステムに使われている第四世代移動通信システム(LTE-Advanced、4G)の次の移動通信システムとして、「超高速」、「超低遅延」、「多数同時接続」という三つの長所を持つ。2時間の映画をわずか3秒でダウンロードしたり、通信時間の遅延(タイムラグ)を意識する必要がなくなることから、高画質動画や中継配信の視聴、介護支援や遠隔診断など新しいサービスが期待されている。ところが日本では5Gの本格的導入を前に具体的なサービスのメリットがまだ充分に理解されていないのではと思われる結果が出ている。スマートフォン所有者に5Gに乗り換えるかどうかを聞いた結果、「わからない」が30%に上った。中国(1%)、韓国(4%)との差は大きい。「利用可能になり次第乗り換える」が中国は36%だったのに対し、8%という少なさだ。韓国、カナダ、英国と比べても5Gに対する理解が進んでいないことがうかがえる。
スマートフォン所有者の5Gに対する考え方
(「世界モバイル利用動向調査(Global Mobile Consumer Survey)2019年版」から)
「モバイルで4Kや8Kの高画質動画がスムーズに見られる」、「さまざまな角度から同時配信されるスポーツやライブの中継映像を、自分の好きな角度で楽しめる」、「仮想現実を利用して、遠隔で商品を見たり購入したりする」。こうした5Gによって可能になる具体的なサービスを列挙して、「1月あたり数百円の使用料を追加で支払っても利用したいと思うか」聞いた答えからも似たような結果が得られた。各年齢層とも、いずれも利用したいと思わないとする答えが70%前後を占めている。
薄い個人データ流用に対する危機感
巨大プラットフォーム企業が集めた膨大な個人情報が流用される事例が、欧米諸国で大きな問題となっている。こうした企業による個人データの利用についての調査結果からも、日本の特異な状況が明らかになった。自分がオンラインでやりとりをする企業が自分の個人データを使用していると思う、と考える人が日本では2017年の調査では44%だったのが、今回は54%に増えている。そうは考えない人は12%から9%に減っており、個人データが使用されることに対するリスクについて認識は高まっていることが分かる。しかし、企業が個人データを利用しているとみる人は、中国で78%、韓国で77%、英国、ドイツ、カナダといった欧米諸国も79%ないし80%に上り、まだ20ポイント以上の開きがある。特に18歳から34歳という若い層では45%と少ないのが目を引く。
オンラインでやりとりをする企業が自分の個人データを使用していると思うか?
(「世界モバイル利用動向調査(Global Mobile Consumer Survey)2019年版」から)
昨年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」は、2019年3月ごろまでに周波数割り当てを行い5Gの地方への速やかな普及展開を推進するとしている。総務省は、周波数割り当てについて今年1月に申請受付を開始、4月10日にNTTドコモ、KDDI・沖縄セルラー電話、ソフトバンク、楽天モバイルの4社に対して周波数の割り当てを決定した。
5Gを地域や施設などが抱える課題解決に活用することを目指し、10月18日には、東京大学と東日本電信電話株式会社(NTT東日本)が「ローカル5Gオープンラボ」を設立することを明らかにしている。「ローカル5Gオープンラボ」運用の中心になる中尾彰宏東京大学大学院情報学環教授は、10月21日に東京で開かれた5Gに関するシンポジウムで「自分でサービスに必要な通信網を構築、展開することができる。自治体も自営の通信網を構築して住民から求められているサービスを始められる」など5Gの大きな可能性を強調した。一方で、「自営通信網構築に必要な機器類をパソコンなどで代替させるソフトウェア化」、「地方自治体・地場産業がローカル5Gを活用できるプラットフォームづくり」など、今後、取り組むべき課題が多いことも明らかにしている。
閣議決定前に「未来投資戦略2018」をとりまとめた経済財政諮問会議と未来投資会議の合同会議(2018年6月15日、首相官邸)=首相官邸ホームページから
積極的な取り組み進む主要国
一方、日本以外の主要国の5Gに対する関心はより高いことが、同じシンポジウムで総務省の担当者から紹介されている。米国では2018年10月にVerizon社が一部都市で固定系のネット接続サービスを開始した。AT&T、Sprint、T-Mobile各社も2019年5月から6月の間にシカゴ、ダラス、ニューヨーク、ロサンゼルスなどでサービスを開始している。韓国も今年4月からSK Telecom、KT、LGU+の3社がソウル全域を含む首都圏・6大広域都市などでスマホ向けサービスを開始した。欧州では今年4月から6月にかけてスイス、英国、イタリア、スペインがサービスを開始し、2020年中にEU(欧州連合)全加盟国がサービス開始の予定という。
中国の動きも速い。10月21日に中国の烏鎮で行われた第6回世界インターネット大会5Gフォーラムで陳肇雄工業・情報化部副部長が次のように語ったことを人民網日本語版が伝えている。「すでに約8万6,000基の5G基地局が建設されており、年末までに13万基建設される見通し。現在は北京市、上海市、広州市、杭州市などの都市で5Gネットワークが構築されており、18機種の5G携帯端末がネット接続実験に合格している」
関連サイト
デロイトトーマツグループプレスリリース 『世界モバイル利用動向調査2019』を発表
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