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【22-24】若年失業率10年間高止まりか 中国の社会的基盤浸食懸念も

小岩井忠道(科学記者) 2022年10月11日

 過去最高の水準に達した中国の都市に住む若者(16~24歳)の失業率は、今後10年間高止まりの状況が続く、との見通しを日本総合研究所の三浦有史上席主任研究員が明らかにした。競争の中で切磋琢磨し自らを鍛え上げる、という中国の経済発展を支えてきた社会的基盤を侵食しかねない、と三浦氏は指摘している。

 日本総研発行のアジア・マンスリー10月号に掲載された三浦氏の論考「中国の若年失業率の高止まりは何を意味するか」は、中国国家統計局が2013年6月から公開を始めた「都市調査失業率」の結果を基にしている。同失業率は12万戸を対象にした訪問調査を基に算出されている。戸籍が都市か農村かを問わず都市に居住して人が対象とする調査で、過去3カ月間、求職活動をしており、適切な仕事があれば2週間以内に働き始めることができる人を「失業者」とみなしている。

若年層にしわ寄せ集中

 2022年7月の若年層(16~24歳)の都市調査失業率は19.9%と過去最高の水準に達した。25~59歳年齢層と全年齢層の失業率がいずれも5%程度で推移しているのと比べ、若年層の失業率の高さが際立っている。2020年と2022年の顕著な上昇が示すように、新型コロナの感染拡大に伴う急激な景気後退が、若年労働力に対する需要に深刻な影響を与えたことは明らか。しかし、若年労働力の供給圧力の高まりという供給側の問題がさらに輪をかけた、と三浦氏はみている。

 中国教育部によると、短期大学と大学院を含む大卒は2022年に前年から167万人増え1,076万人と、初めて1,000万人の大台を超えた。これに加え、大卒の4分の1がIT(情報技術)業界への就職を希望しているにもかかわらず、同業界は習近平政権が掲げた「共同富裕」に伴う規制強化によって業績が悪化し、人員削減を進めていることが失業率の上昇に拍車をかけたというわけだ。

 元来中国では、賃金カットを受け入れないと失業が自己都合とされ、失業手当が得られない可能性があることに加え、失業手当が平均賃金に比べはるかに少なく、むしろ都市住民最低生活保障に近い低額という就業者に厳しい現実がある。全年齢層、25~59歳年齢層ともに失業率が低くなりやすい一方、若年層だけがしわ寄せを受けている就業構造となっていることも三浦氏は強調している。

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(三浦有史日本総合研究所上席主任研究員提供)

 さらに、若年層にはもう一つ不利な現実がのしかかる。解雇する場合、雇用主には勤続年数に応じた補償金の支払いが義務化されているため、そのしわ寄せが若年層に集中するからだ。ある人材会社のインターネット調査でも、IT業界の人員削減で解雇の対象となっているのは主に入社年次3年未満の若年層であることが明らかになっている。

16~24歳人口2033年まで増加

 こうした状況は、一時的なものなのだろうか。若年失業率の高止まりは続くと見込まれる、として三浦氏は次のように理由と見通しを明らかにしている。高等教育の大衆化により大学の入学者は増え続けており、大卒が1,100万人を超える水準で推移するのは間違いない。長期的にみても、供給過剰が緩和される見込みは薄い。国連の「世界人口推計2022年版」によれば、16~24歳人口は2007年から減少しているものの、2022年を底に2033年まで増え続ける。早ければ2022年に人口減少社会に転じるが、若年失業率は低下に向かうどころか、今後10年にわたり高止まりの状態が続くとみられる。

 若年失業率の上昇が中国社会に与える影響の大きさに対する三浦氏の見通しも厳しい。若年層は貯蓄が少ないうえ、失業保険などのセーフティーネットから漏れている人が多いため、失業は貧困や格差拡大につながりやすい。マクロ経済的な損失も大きい。最も生産性の上昇が期待できる労働力を活用できなければ、企業はもちろん経済全体の活力も低下する。また、少子化の進行や人材の海外流出など、人的資本の縮小も誘発する、と三浦氏はみる。

 さらに氏が注意を促すのは、最近、若年層に広がるとされる行動形態だ。競争、勤労、結婚、出産に消極的になる「横たわり」(中国語で「躺平」)という厭世的な心情の広がりを習近平政権も強く警戒している。若年失業率の高止まりが長期にわたって続くとすれば、この問題は一段と深刻化し、少子化の加速や個人消費の低迷にとどまらず、競争のなかで切磋琢磨し自らを鍛え上げる、という中国の経済発展を支えてきた社会的基盤を侵食しかねない、と指摘している。

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(三浦有史氏提供)

清華大学生就職動向にも変化

 中国の若者の就職状況にみられる大きな変化については、同じ日本総研の呉軍華上席理事が「大学就職動向からみた中国経済」と題する短いリポートを2月に公表している。清華大学学生進路指導センターが昨年12月に公表した「清華大学卒業生就職品質報告書2021」から読み取った論考だ。呉氏は「中国経済の景気後退が、国内総生産(GDP)などの公表数値より一層進んでいる可能性が高い」との見方を示している。

 清華大学の報告書で未就職とされているのはわずか120人(1.6%)。しかし呉氏は、就職者とされている中の「柔軟雇用」1,015人のうち「自主創業」とされる27人を除いた988人は就職先未定者で、就職先未定者の比率は大学が認める1.6%と合わせると14.8%になるとみている。さらに学部卒業生・大学院修了生の就職先が、中国共産党・政府とその関連機関・学校、さらに国有企業を合わせると69.9%を占めることにも注目し、次のような見方も示している。「人材がますます党・政府と国有企業に集中し、人材の『国進民退』が加速している。中国経済の現状とその将来を考えるにあたって、非常に示唆に富む数字だ」

 こうした事態に対応するために中国政府にできることは何か。三浦有史氏は、次のように厳しい見方を明らかにした。「若年失業率上昇を防ぐには、就業期間に応じた補償金積み増し規制の大幅緩和や、IT産業に対する規制緩和によって、雇用環境悪化のしわ寄せが若年層に集中することを回避するなどの措置が考えられるが、いずれも期待薄だ」

関連サイト

日本総合研究所 アジア・マンスリー2022年10月号

日本総合研究所経済・政策レポート「大学就職動向からみた中国経済

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