6.社会基盤分野
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6.1 社会基盤分野の概要

(1) 関連政策

1)各政策の分野別取り組みについて

 社会基盤分野は、交通・輸送システムや防災、治安、都市計画、国土の管理・保全等、文字通り国民生活を支える基盤的分野である。また、社会基盤分野の科学技術は、情報通信や環境、エネルギー、ライフサイエンス等の最先端の科学技術をすり合わせ、統合したものである。中国の社会基盤は、急速な経済成長の中で各種の矛盾点が露呈しており、先進諸国と比べても脆弱であることから、早急な整備が求められている。

① 中長期科学技術発展規画

 中国政府は、「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006~2020年)」(「国家中長期科学和技術発展規劃綱要(2006-2020年)」)の中で、「科学的発展観」を通じて経済・社会のさまざまな矛盾への対処を検討しながら持続可能な発展をめざすという方針を示した。

 中長期規画では11の重点分野が設定されており、この中で68件の優先テーマがリストアップされている。このうち、社会基盤に関係するものとして「交通運輸業」、「都市化・都市発展」、「公共安全」が含まれている。

 「交通運輸業」では、交通運輸が国民経済の最も重要な社会基盤であると位置付けたうえで、航空機や自動車、船舶、軌道交通設備等の自主イノベーション能力に加えて、交通運輸の総合能力を高めるとの方針を示した。

 また、交通運輸分野における省エネや環境保護、安全確保を推進するとともに、国レベルでの重要な交通インフラ・プロジェクトに関して、建設と保守に関する中核技術を開発し、品質を向上させるだけでなくライフタイム・コストを下げるとの目標を掲げている。具体的には、以下の6つの優先テーマを明らかにしている。

  • 交通運輸のインフラ建設・保守技術および設備
  • 高速軌道交通システム
  • 低燃費・新エネルギー自動車
  • 高効率運輸技術・設備
  • インテリジェント交通管理システム(ITS)
  • 交通運輸安全・救急対策

 「都市化・都市発展」については、都市と農村の合理的な配置と科学的な発展を促進するとしたほか、地域における資源・環境に関する受容力との調和をはかる方向性を示した。そのうえで、省エネや節水を主要な手段として、資源節約型の都市建設を目指す考えを明らかにした。具体的な優先テーマを以下に示す。

  • 都市計画と動態的なモニタリング
  • 都市機能の向上と空間の有効利用
  • 建物省エネとグリーン建築
  • 都市の生態的居住環境の品質保障
  • 都市の情報プラットフォーム

 中長期規画は「公共安全」について、中国が厳しい試練に直面し科学技術面において戦略的な対応が求められているとの認識を示したうえで、非常事態に速やかに対応できるよう、技術的な支援を強化するとともに、科学的な予測や有効な予防措置、効果的な緊急時対応ができる公共安全技術体系の構築をめざすとの方針を示している。

 また、炭鉱事故や自然災害、原子力安全、バイオセイフティ等の監視・事前検知・予防技術のほか、有害化学物質の漏洩や食品中毒等も含めた事故への対応・救助技術の研究に努力を傾注するとしている。優先的なテーマとして、以下の6項目をあげている。

  • 公共安全のための緊急情報プラットフォーム
  • 重大な労働生産事故の早期警報と救援
  • 食品安全と検疫
  • 突発的な事故の防止と迅速な対応
  • バイオセイフティ
  • 重大な自然災害のモニタリング・予防

② 「第11次5ヵ年」科学技術発展規画

 科学技術部が2006年10月27日に公布した「国家『第11次5ヵ年』」科学技術発展規画」(「国家"十一五"科学技術発展規劃」)では、戦略目標として交通・運輸、人口・健康、公共安全、都市化と都市発展などの社会公共分野での科学技術サービス力を向上するとの方針が確認されている。

 このうち交通・運輸分野では、重要な交通・運輸インフラを建設・補修する技術ならびに設備を製造する技術を重点的に研究・開発するとともに、軌道交通や船舶などの自主ブランドを持つ輸送設備および高効率の輸送技術・設備を発展させ、高速リニアモーターカー・高速軌道交通に関する中核技術を開発するとの具体的目標を掲げている。

 また、交通・運輸の安全と救急対策技術の研究を強化するほか、大都市および鉄道や水運、高速道路、軍事等の分野における交通・運輸分野でのインテリジェントサービス・管理システムを開発するとしている。

 また同規画では、突発的事故の緊急処理能力の向上と公共安全の確保に関して、以下の具体的目標を掲げている。

 -炭鉱をはじめとした鉱山、火災爆発、危険な化学薬品、原子力安全、ライフライン、特殊設備等に対する早期警報・制御・緊急対応技術を重点的に開発する

  • 基準・リスク評価の研究を実施し、食品有害物の迅速モニタリングおよび食品安全技術の応用モデル事業を展開する
  • 情報化、インテリジェント化された捜査技術を開発し、テロ対策および突発的事故の予測・制御・処理技術を研究する
  • 出入国の検査・検疫に関する中核技術を研究する
  • 突発的な自然災害に対する早期警報技術・外来生物侵入の抑制技術を開発する

 さらに、公共安全を保障する重大プロジェクトとして、国レベル、地方レベル、業界レベルで、緊急時対応プラットフォームを構築する技術計画を作成するとしている。

 国際的に問題になった食品安全については、食品を介した病気と食品汚染の分析を重点的に行うほか、農産物の生産過程における食品安全の制御技術に関する研究を強化するなどの方針が示された。

 都市化と都市発展の分野では、節約と環境技術の発展をキーワードに、近代的な節約型都市とコミュニティを建設するとの方向性を打ち出している。重点的に開発する技術としては以下のようなものがあげられている。

  • 都市区画計画と土地利用技術
  • コミュニティと住宅建設技術
  • 都市の動的モニタリング技術
  • 都市部での節水技術
  • 空間の有効利用技術
  • 省エネ・省材料・廃棄物の再利用技術
  • 近代的な建築・施工技術

 このほか、都市住民の居住環境を改善・保障する中核技術、村や町の空間・土地利用に関する中核技術、村と町の「いくらかゆとりのある住宅」(小康住宅)に関する中核技術のプロジェクトを実施する考えも明らかにされている。

2) 重点分野推進政策

① 交通・運輸

 中国政府は改革開放後、交通・運輸が国民経済を発展させるという考えから交通基盤整備に重点的に投資を行った。しかし、中国の交通・運輸分野では、急速な経済成長のなかで多くの課題が浮き彫りになっている。

 こうした状況を踏まえ、「国家『第11次5ヵ年』」科学技術発展規画」では、ITSを応用したモデル事業や次世代の航空管制システム、高速リニアモーターカーなどの3つの重大プロジェクトを組織・実施するという目標が示されている。各プロジェクトの具体的な内容を以下に示す。

〔ITSモデル事業〕

 大都市の電車・水運・高速道路・軍事交通・運輸のインテリジェント応用システムを研究開発し、立体的な交通情報サービス・管理システムを構築する。また、交通情報サービスの個別化、交通管理の可視化、運輸組織のインテリジェント化・一体化を実現する。

〔次世代の航空管制システム〕

 航空ナビゲーションの性能向上、データ連携と正確な位置測定に基づいた総合的な航空監視、航空管制の共同制御、民間航空管理の新しいサービス・プラットフォームなどに関する中核技術の研究を重点的に行う。先進的な衛星誘導航空管制、通信、監視、航空管理・運用の共同制御システムを構築する。次世代の航空管制システムの運用技術を検証するプロジェクトを実施する。

〔高速リニアモーターカー〕

 時速500キロのリニアモーターカーシステムの浮遊状態における方向制御と車内制御、牽引電力の供給、運行制御技術とシステム統合等の中核技術を自主的に研究開発するとともに、長さ30キロの試験線を建設し高速運行環境においてリニアモーターカーの試験を行う。

 一方、交通運輸部が2005年2月に公布した「道路・水路交通科学技術発展戦略」(「公路水路交通科技発展戦略」)では、以下の技術を戦略の重点として据え、2020年までに交通科学技術の革新体系を構築する方針を打ち出した。

  • 知能化デジタル交通管理技術
  • 特殊な自然環境下での建設および保守技術
  • 一体化輸送技術
  • 交通科学における意思決定支援技術
  • 交通安全保障技術
  • グリーン交通技術

 また交通運輸部が同年9月に公布した「道路・水路交通中長期科学技術発展規画綱要(2006~2020年)」(「公路水路交通中長期科技発展規劃綱要(2006-2020年)」)は、2月の戦略に盛り込まれた6つの技術を重点分野として再確認したうえで、地方の交通主管部門が交通利用料金の1~1.5%を交通分野の科学研究と技術革新に投入するという方針を示した。

 さらに、2006年2月に公布した「道路・水路交通『第11次5ヵ年』科学技術発展規画」(「公路水路交通"十一五"科学技術発展規劃」)では、以下の5項目を重大プロジェクトとしてあげている。

  • 大型道路、橋梁、トンネルの建設における中核技術の研究
  • 道路の保守技術および設備の研究開発
  • 大型深水港の建設に際しての中核技術の研究
  • インテリジェント交通技術の研究開発
  • 水上非常事態への対応に関する中核技術の研究

 こうしたなかで国務院は2007年10月、国民経済と社会の発展に交通・運輸が重要な意味を持つとの考えから、交通・運輸問題を総合的に捉えた「総合交通網中長期発展規画」を公布した。同規画では、①総量問題②構造問題③接続問題――に焦点を定めて具体的な目標や方針を示した。

表6.1 「総合交通網中長期発展規画」の目標

総量問題

  1. 2020年の総合交通網規模:338万km(航空、海上、都市内道路および農村道路を除く)
  2. 道路網規模:300万km以上(2級以上の道路65万km、高速道路10万km、農村道路を除く)
  3. 鉄道網:12万km以上(このうち鉄道旅客専用鉄道と都市間鉄道は1万5000km以上)、複線化率50%、電化率60%
  4. 都市軌道交通網:2500km
  5. 水路:13万km(このうち国家高等級が1万9000km、5級以上が2万4000km)

構造問題

1.「5縦5横」(5本の南北幹線道路と5本の東西幹線道路)の10本の主要幹線道路と4本の国際区域道路の建設

接続問題

  1. 一体化交通・運輸システムの構築(乗り換え距離のロスをなくす、貨物運搬の効率的な接続)
  2. 42ヵ所の交通連結都市の建設

 長距離輸送・移動においてきわめて重要な役割を果たしている鉄道については、2020年までの目標を定めた「中長期鉄道網規画」(「中長期鉄路網規劃」、2004年公布)の改訂版となる「中長期鉄道網規画(2008年調整版)」が2008年11月に鉄道部によって公布された。同規画では、「総合交通網中長期発展規画」の目標を踏まえ、2020年までに鉄道の営業距離を2020年までに12万km以上にするとの目標を掲げている。

高速旅客
運輸網の拡大

高速旅客輸送網(旅客輸送専用線、地域主要線、都市間軌道交通、旅客・荷物混合輸送線から構成)の拡大
-目標値を前回規画から2万km延長し5万km以上に拡大
-旅客専用線および都市間鉄道の建設目標を1万2000kmから1万6000kmに拡大

鉄道網の整備と
西部地域での新路線の開発

  1. 西部鉄道網の規模拡大と中東部鉄道網の構造改善。新規路線の建設目標を1万6000kmから4万1000kmに拡大。
  2. ロシア、モンゴル間の新路線を建設し、東北、西北、西南地域の国際路線を整備

既存鉄道路線の
大規模改造

既存の7路線および「5縦5横」幹線道路内の既存鉄道路線の複線化と電化を行う。2路線の建設規模を従来規画の1万3000kmから1万9000kmに、また電化規模を1万6000kmから2万5000kmに拡張する。

② 公共安全(防災)

 「国家『第11次5ヵ年』」科学技術発展規画」は、公共安全分野の重大プロジェクトとして「国家の公共安全を保障する緊急時対応技術プロジェクト」と「食品安全に関する中核技術」をあげている。

 このうち緊急時対応技術プロジェクトについては、緊急時対応プラットフォームに関する情報交換やデータ共有、安全保障技術を研究し、国家レベルの総括プラットフォーム、業界レベルのプラットフォーム、省・市レベルでのプラットフォームを構築する技術計画を作成するとしている。

 また、各種の災害事故に関する動的模擬実験と数値計算技術、総合救援技術を研究するとともに、緊急時対応指揮車と救援車を開発し公共安全分野における緊急時対応能力を先進国水準まで引き上げるとの方針を示している。

 一方、食品安全については、食品によって引き起こされる病気と食品汚染の危険性に関する分析を行い、農産物の生産過程での食品安全の制御技術に関する研究を強化するとしている。さらに、食品危険物のリスクを評価するセンターあるいは基地を2~3ヵ所建設する考えも明らかにされた。

 公共安全のなかでも、防災に対する社会的ニーズは大きく、研究開発の重要性と政府の関与の必要性が高いのが特徴である。2008年5月12日に発生した、四川省を震源とする地震の被害の甚大さからも明らかなように、中国では地震に対する関心がとくに高い。

 中国地震局が2006年3月に公布した「地震科学技術発展規画(2006~2020年)」は、中核技術を中心に基礎研究、応用研究、技術開発を強化するとともに、モニタリングや予知、震災防護、緊急援助などにおいて科学技術面での要求を満たす方針を示している。同規画の「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)における重点プロジェクトを表6.3に示す。

表6.3 「地震科学技術発展規画」における「第11次5ヵ年」期の重点プロジェクト

1. 動力学的地震予測のモデル研究

2. 都市部地震災害のメカニズムと災害抑制の研究

3. 地震観測、予知および防災新技術の開発

4. 「中国アレイ」(China Array)の研究計画

5. 中国大陸および海域における地盤活動構造・深部構造に関する調査・評価

6. 地震重点監視・防護区域における地震安全基礎情報に関する調査・評価

7. 耐震技術の基礎プラットフォームの建設

8. 衛星を使った地震観測システムの構築と応用

9. 中国大陸構造および環境の観測ネットワーク構築と応用

10. 高解像度の深層地震観測技術と災害判定技術

 また中国地震局は2006年10月、「中国地震局『第11次5ヵ年』期間防震減災政策研究重点」を公布し、各省や自治区、直轄市の地震局に対して防震・減災政策研究を強化するよう通知した。同期間における重点内容を表6.4に示す。

1. 防震・減災事業の発展現状・情勢分析

2. 防震・減災能力の構築・評価体系研究

3. 防震・減災事業の全体配置研究

4. 防震・減災作業および経済建設・社会発展関連研究

5. 防震・減災社会管理・公共サービス対策と政策研究

6. 防震・減災管理体制およびメカニズムの刷新研究

7. 防震・減災科学技術イノベーションの政策問題研究

8. 防震・減災部隊構築の政策研究

9. 市場経済下で防震・減災事業への財政支持を拡張する方策の研究

10. 政策および発展戦略の基礎作業

 国務院は2006年12月6日、こうした地震局の動きを受け、「国家震災防止規画(2006-2020年)」を公布した。同規画は、中華人民共和国が建国して以来、初の国家レベルの防災規画であり、主要自然災害の1つとして地震を位置付け、地震対策が「三農問題」(農村、農業、農民)の解決だけでなく、公共安全の実現や調和社会の構築につながるとの見解を示している。同規画では、具体的に以下の目標を掲げている。

  • 大都市と都市群の地震安全を中心とした、都市発展に適応できる震災総合対策を構築する
  • 農村部の地震対策を向上する
  • 長江中・上流、黄河上流および西南地区の大型水力発電プロジェクトの安全を保障する
  • 重大なライフライン・プロジェクトの地震に対する緊急時システムを構築する
  • 地震予知と救援など、全方位の総合管理を実現する

 さらに同規画では、2010年までの目標を以下のように掲げている。

  • 大都市と都市群の基本耐震能力をM6.0級まで引き上げる
  • 農村住宅区域に地震安全モデル地区を建設する
  • 地震早期警報システムの構築および重要基盤施設とライフライン・プロジェクトの地震緊急対応モデル事業を強化する
  • 地震災害防止知識の普及率を40%まで引き上げ、20万人のボランティアを育成する
  • 全国救援物資備蓄体系を構築する
  • 震災発生後、24時間以内に被害者に基本的な生活・医療援助を提供する
  • 地震に関する国際レベルの科学研究と技術研究開発基地を建設し、地震観測システムの健全化をはかる

 このほか中国地震局は2007年8月、「国家地震科学技術発展綱要(2007~2020年)」を公布し、大陸大地震のメカニズムと予知技術、地震災害メカニズムと防災技術など、科学技術分野で多くの成果を収めるとともに、耐震技術の革新体系を構築し耐震技術分野で影響力を持った科学技術人材グループを育成するとの方針を示した。同綱要の重点分野と優先テーマを表6.5に示す。

重点分野

  1. 地震監視・計測理論と技術
  2. 大陸活動構造
  3. 地震予知
  4. 震災防止
  5. 地震緊急対応技術
  6. 海域地震
  7. 地震科学技術サービス

優先テーマ

地震監視・計測設備と検知技術など

国家地震防災科学計画

  1. 地殻変動観測と活動構造に関する調査
  2. 深層構造と地震形成環境の探測
  3. 地震データ予報の試験研究
  4. 地震災害メカニズムと防災技術

 さらに国務院弁公庁は2007年8月5日、「国家総合減災『第11次5ヵ年』規画」を公布し、防災能力を向上させる方針を打ち出した。同規画の防災目標や主要任務、重大プロジェクトを表6.6に示す。

目標

  1. 自然災害による年平均死亡者数を「第10次5ヵ年」期に比べて顕著に減少させる。GDPに占める災害による直接経済損失額を1.5%内に抑える。
  2. 各省・自治区・直轄市・災害を受けやすい市(場所)、県(市、区)は、減災総合協調体制を構築する。
  3. 国家総合減災・リスク管理情報共有プラットフォームを建設し、国家被害状況モニタリング・警報・評価・緊急援助指揮体系を構築する。
  4. 災害発生から24時間内に避難民に食物や飲料水、衣料品、医療面での救援や、避難住宅などの基本的な生活支援を行う。
  5. 災害で損壊した民家の復興・再建は、規定の防衛措置レベルを達成する。
  6. 総合減災モデル地区を1000ヵ所創設する。

主要任務

1.自然災害リスク災禍・情報管理能力の構築を強化する。
2.自然災害モニタリング・警戒・予報能力の構築を強化する。
3.自然災害の総合防止・防護能力の構築を強化する。
4.国家自然災害緊急支援能力の構築を強化する。

  1. 巨大災害に対する総合対応能力の構築を強化する。
  2. 都市・農村地域の減災能力の構築を強化する。
  3. 減災科学技術支援能力の構築を強化する。
  4. 減災科学普及広報能力の構築を強化する。

重大プロジェクト

1. 全国重点区域の総合災害リスク・減災能力調査プロジェクト
2.国家4級災害の緊急救助指揮系統の構築プロジェクト
なお中国では以下のように災害を分けている。
1級:死亡30人以上
2級:10人から29人
3級:3人から9人
4級:2人

  1. 中央レベルにおける災害救助物資備蓄体系構築プロジェクト
  2. 衛星による減災構築プロジェクト
  3. アジア地域巨大災害研究センター構築プロジェクト
  4. 地域社会減災能力構築モデル・プロジェクト
  5. 減災科学普及広報教育プロジェクト

8.減災科学技術イノベーション・成果移転プロジェクト

③ 都市化・都市発展

 中国の都市化は急速に進んでおり、2008年末時点では中国の都市人口は6億人を超えた。国家統計局が明らかにしたもので、前年よりも1288万人増え6億667万人に達した。一方、農村人口は7億2135万人となり、前年から615万人減少した。

 都市人口の比率は依然として上昇傾向にあるものの、増加のスピードは鈍っている。世界的な金融危機の影響から多くの企業が倒産し、農村からの出稼ぎ労働者(農民工)のユーターンが都市人口の増加スピードが鈍っている原因と見られている。

 急激な都市化の進展は、エネルギー消費の増大、地表面の緑の減少、自動車交通の増大、道路建設の遅れ、建設工事の増大、汚染物・廃棄物の大量排出といった問題をさらに深刻化させている。

 「国家『第11次5ヵ年』」科学技術発展規画」には、こうした状況を踏まえ、都市化と都市発展分野において以下の重大プロジェクトが盛り込まれている。

〔都市住民の居住環境を改善・保障する中核技術〕

  • 都市のヒートアイランド現象、交通騒音、居住区の水状況、建物の施工・解体中の汚染を抑制・改善する技術を開発し、ヒートアイランド現象を20%、交通騒音を40%、施工・解体中の汚染を30%低減する。
  • 建築物の室内の空気品質、熱と湿気の状況を改善する技術、および騒音、輻射、化学・生物汚染を抑制する技術を飛躍的に進歩させ、室内の汚染レベルを30%低減する。
  • 都市の居住環境に関する企画・設計、評価、監視・測定などの中核技術を開発し、都市居住環境のモデル事業を創設する。

〔村と町の空間計画と土地利用に関する中核技術〕

  • 村と町の建設を計画する一体的技術、インフラと公共サービス施設を企画する技術、村と町の用地を動的に検査・測定・管理する技術、村と町の土地利用に対する評価と早期警報技術、節約をはかりながら土地の配置・利用を集中的に最適化する技術、汚染された土地の修復と廃棄物技術――などを研究する。

〔村と町のいくらかゆとりのある住宅(小康住宅)に関する中核技術の研究とモデル事業〕

  • 村と町の住宅性能の評価技術、設計・施工技術、室内環境の監視・制御技術、新材料と新エネルギーの応用技術、居住区を管理する技術などを研究する。
  • 村と町の住宅の使用機能と環境の品質を向上させ、小康住宅のモデル事業を行う。

 一方、建設部は、都市発展の要(かなめ)となる建設事業に関する計画を2006年に相次いで公布している。建設部が2006年3月に公布した「建設事業『第11次5ヵ年』規画」の主な内容を表6.7に紹介する。

目標

1. 全体目標
省エネ、省スペース型の建築技術を発展させ、土地の有効利用、省エネ、節水、資材の節約等を進めることによって、低コストで資材消費量が少なく環境負荷の小さい高効率の都市モデルの確立をめざす。
2.建築省エネの推進とエネルギー利用効率の向上
第11次5ヵ年期間中に標準炭換算で約1億トンの省エネを行い、省エネ建築面積21億5000万m2をめざす。新築建築物については、省エネ50%の設計基準を厳格に適用する。既存建築物については、大都市で建築面積の25%、中都市で15%、小都市で10%を省エネ改造する。
3.住宅用建築
省資源で環境汚染の少ない住宅産業の発展をめざす。具体的な数値目標として、2010年までに新築住宅の建築省エネ率60%以上、節水率20%向上、化石エネルギー消費量10%削減をめざす。

具体的措置

1.建築市場の規制、監督・管理の確立
建設プロジェクトに関する基準の体系化をはかり、基準の制定・改定を速やかに実施する。建築基準の枠組みをベースとして、計画的に新基準を制定し、省エネ、節水、建材節約、省スペースなどの規範も制定・改定する。「民用建築太陽エネルギー熱水システム応用技術規範」、「建築と住宅地区の雨水利用技術規範」など、関連規範を制定する。
2.建築省エネと資源節約の強化
省エネ型建築およびグリーン建築モデルプロジェクト、集中熱供給および集中ガス供給システム・モデルプロジェクト、分散小型ボイラ改造およびコジェネ・モデルプロジェクト、照明節電改造プロジェクト、都市夜景照明省エネおよび照明製品技術改造モデルプロジェクト、中央政府機関既存建築物省エネ改造モデルプロジェクトなどを実施する。
3.建築省エネ設計基準・規範の厳格な実施
実施可能性調査、設計、施工、管理の全工程における省エネ監督を強化する。
4.既存建築物の省エネ改造の推進
既存建築物の省エネ改造実施計画、指導意見を制定し、実施機関と改造資金の組織化をはかる。
5.政策と技術の掌握体制の確立
財務、税収、価格などの経済奨励政策を確立し、重点技術の研究開発を強化して普及・促進をはかる。建築省エネ技術の基準失効の監督、実施効果の評価を強化し、建築エネルギー消費統計、エネルギー効率認証、性能評価・ラベリングなどの制度確立をめざす。

 さらに建設部は同年12月、「第11次5ヵ年」期間中(2006~2010年)における建設技術の推進・強化を目的として、建設事業への新しい科学技術の積極的な取り込みをはかるため、「建設事業『第11次5ヵ年』 重点推進技術分野」を制定した。表6.8に重点推進項目を紹介する。

1.建築省エネと新エネルギー開発利用技術分野
-建築外壁保護構造保温隔熱技術と新型省エネ建築体系
-熱供給暖房と空調冷房の省エネ技術
再生可能エネルギーと新エネルギーの応用技術
-都市と建築グリーン照明の省エネ技術
-建築省エネ設計管理、エネルギー効率測定評価とラベリング
-既存建築の省エネ改造技術
2.省スペースと地下空間の開発利用技術
-建築設計における土地節約技術
-地下空間の開発・利用技術
-地下工事施工技術
-都市立体駐車技術
3.節水と水資源開発利用技術
-都市給水の節水技術
-生活用水の節水技術
-雨水と海水の利用技術
-汚水の再利用技術
4.資材節約と材料資源の合理的な利用技術
-グリーン建材と新型建材
-コンクリート工事資材の節約技術
-鉄筋工事資材の節約技術
-化学建材技術
-建築廃棄物と工業廃棄物の回収・再利用技術
5.都市の環境友好技術
-都市外観環境技術
-家庭ゴミと糞尿処理技術
-汚水と汚泥処理技術
-室内環境技術
6.新農村建設の先進適用技術
-インフラ施設の計画・建設技術
再生可能エネルギーと新エネルギーの利用
-農村建築技術・建築省エネ技術
7.新型建築構造、施工技術と施工・品質安全技術
-グリーンで新型の建築構造技術
-重大工事施工技術
-既存建築の強化改造技術
-新型板、手すり技術
-建設工事施工、品質、建築防火安全技術
8.情報化応用技術
-地理空間情報技術
-知能化技術
9.都市公共交通技術
-公共交通計画建設技術
-公共交通運営管理技術
-公共交通車両・設備技術

 こうした規画等からも明らかなように、中国政府は健全な都市発展の一環として建築分野の省エネに力点を置いているが、政府の思惑通りには進んでいない。このため国務院は2008年8月1日、「民用建築省エネ条例」を公布(同10月1日施行)し、省エネの強化に乗り出した。

 同条例によると、「省エネ中長期特定規画」に従い、国務院の主管部門が「全国民用建築省エネ規画」を策定し、関係する規画との連携をはかるよう求めている。また同条例は、住宅都市農村建設部と国家エネルギー局に対して、使用を推進あるいは制限、禁止する技術や材料等のリスト(目録)を作成して公表するとともに、状況に応じて改定するよう要求した。そして、建設、設計、施工業者は、禁止リストに掲載された技術や材料を使用してはならないと明確に規定した。

 同条例には、これまでの法規にはない数多くの強制的な措置が盛り込まれており、中国政府が入口規制の強化に乗り出し、建築省エネに一段と努力を傾注しようとしている姿勢が鮮明になった。

(2) 研究予算

1)国家科学技術計画

 まず、国が主体となって進めている「国家重点基礎研究発展計画」(「973計画」)、「国家ハイテク研究開発発展計画」(「863計画」)、「国家科学技術支援計画」(旧「難関攻略計画」)において「インフラおよび都市・農村計画」に配分された資金の推移を表6.9に示す。

 この表からも明らかなように、「973計画」、「863計画」、「国家科学技術支援計画」(旧「難関攻略計画」)とも、インフラ関係に投入された資金は2003年以降、減少傾向にある。

 3つの国家計画とも、2006年に全体の投入資金が前年を大きく下回った。とくに「国家科学技術支援計画」は、旧「難関攻略計画」時代には3つの計画の中でも最大の資金配分がなされていたが、2006年実績は約37億元となり、2005年実績の191億元から大幅に減少した。

 そうした背景には、科学技術研究に対する中国政府の方針転換があると見られている。中国は「第10次5ヵ年」期間中(2001~2005年)、国が投資主体となり研究開発費を主に国家財政から支出する形で中核技術や共通技術の研究を行った。しかし、「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)に入り、企業と研究機関の自主研究を奨励する方向に政策を転換し、国としては企業や研究機関の研究開発活動を支援する側に回った。このため、「難関攻略計画」を「国家科学技術支援計画」に変更したのもその一環である。

表6.9 国の科学技術研究計画において「インフラおよび都市・農村計画」目的に投入された資金の推移 (万元)

 

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

3つの国家計画の合計

1616475

2518257

2530898

3193869

860147

 

「973計画」

110055

107179

103130

142415

44522

「863計画」

253308

950368

929279

1137527

441143

国家科学技術支援計画※

1253112

1460710

1498489

1913927

374482

インフラ関係合計投入資金

298652

274957

108211

128537

37437

 

「973計画」

3095

1284

5518

3922

632

「863計画」

21492

78471

72325

77352

21695

国家科学技術支援計画米

274065

195202

30369

47263

15110

※:2005年までは「難関攻略計画」出典:「中国科技統計年鑑」(2003~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

2)研究開発機関

 社会基盤分野には多数の分野が含まれ、広義に捉えればエネルギーの供給も含まれるが、ここでは、「中国科技統計年鑑」のデータを利用することを前提に、「交通・運輸」、「土木・建築」、「水利」、「安全科学」、「測量・製図科学技術」(測絵)を含めることとした。

 なお、地震に代表されるように、社会基盤と密接な関係がある分野として「地球科学」がある。「地球科学」は、1つの学問体系というより、地球に関する様々な学問分野の総称であり、地質学や鉱物学、地理学、地球物理学、地球化学、地震学、惑星科学などに細分化されており、社会基盤に含めることは適切ではないため、以下、参考までにデータを紹介する。

 同年鑑によると、2001年から2006年における研究開発機関の社会基盤分野の研究開発プロジェクト内部支出を見ると、2001年は「交通・運輸」が突出しているため、これを除外すると、2002年以降は着実に増加する傾向にある。

 その中でも、「交通・運輸」と「測量・製図科学技術」が顕著に伸びており、2006年実績はそれぞれ3億9808万元、1億8511万元を記録した。前年からの伸び率は、「交通・運輸」が65.2%、「測量・製図科学技術」が105.7%となった。「安全科学技術」も着実に増加しており、2006年の支出実績は7618万元となり、前年から51.9%増加した。

表6.10 研究開発機関の社会基盤分野での研究開発内部支出の推移(万元)

 

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

社会基盤分野合計

90324

24440

34318

39449

55361

80564

 

内訳

交通・運輸

66767

6267

13443

18521

24104

39808

水利

12187

12156

11269

9663

15952

12753

土木建築

2518

1853

1647

1686

1290

1874

安全科学技術

969

1608

4702

3899

5016

7618

測量・製図科学技術

7883

2556

3257

5680

8999

18511

(地球科学)※

(57157)

(78697)

(88923)

(94055)

(108924)

(104383)

※:合計には含めない出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

3)高等教育機関

 高等教育機関における社会基盤分野(5分野)の研究開発内部支出は、研究開発機関の支出額を大幅に上回っており、2006年実績(42億439万元)は研究開発機関の実績(8億564万元)の5.2倍以上となっている。

 また高等教育機関における社会基盤分野での研究開発支出額は、近年大幅に増加しており、2005年の対前年比の伸び率が約43%であったのに対して、2006年の対前年比の伸び率は104.2%となり倍増する形になった。

 6つの分野とも増加傾向にあるが、とくに「土木建築」分野での伸びが大きく、2006年実績は対前年比で143%の伸び率を記録した。これ以外では、「測量・製図科学技術」(105.7%)、「交通・運輸」(87.1%)、「水利」(43.4%)が高い伸びを示した。

表6.11 高等教育機関の社会基盤分野での研究開発内部支出の推移(万元)

 

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

社会基盤分野合計

68531

87072

117056

144002

205902

420439

 

内訳

交通・運輸

32289

41989

42532

45386

66576

124546

水利

10665

13650

19803

28082

33176

47575

土木建築

23344

28338

42617

61765

94768

230219

安全科学技術

390

418

2067

3116

6141

7317

測量・製図科学技術

1843

2677

10037

5653

5241

10782

(地球科学)※

(22769)

(30768)

(39590)

(46774)

(54849)

(84070)

※:合計には含めない出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(3) 研究人材

1)国家科学技術計画

 「国家重点基礎研究発展計画」(「973計画」)、「国家ハイテク研究開発発展計画」(「863計画」)、「国家科学技術支援計画」(旧「難関攻略計画」)において「インフラおよび都市・農村計画」に投入された人的資源の2006年実績(3264人・年)を見ると、2003年(4611人・年)以降で最低水準まで減少した。対前年(5771人・年)比では、76.8%の大幅な減少を示した。

 計画別に見ると、「973計画」は前年からわずかに増加したものの、「863計画」は前年から49.7%、「国家科学技術支援計画」は42.7%それぞれ減少した。

 表6.9に示すように、3つの国家計画に投入された資金の減少と比例して、投入された人的資源も減少している。これは、前述したように、科学技術研究に対する中国政府の方針転換が影響している。

表6.12 国の科学技術研究計画において「インフラおよび都市・農村計画」目的に投入された人的資源 (人・年※※)

 

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

3つの国家計画の合計

48936

89521

88838

95033

34870

 

「973計画」

10076

13301

13942

12019

11640

「863計画」

16707

44962

43174

47147

9524

国家科学技術支援計画※

22153

31258

31722

35867

13706

インフラ関係合計投入量

1987

4611

4346

5771

3264

内訳

「973計画」

120

133

341

392

409

「863計画」

918

2865

2801

3232

1625

国家科学技術支援計画米

949

1613

1204

2146

1230

※:2005年までは「難関攻略計画」
※※:専従換算人員投入量:「専従人員」とは、当該年において研究開発活動に従事した時間が当該年の全作業時間の90%以上を占める人員を指す。また「非専従人員」とは、当該年において研究活動に従事した時間が当該年の全作業時間の10%以上-90%未満の人員を指す。「非専従人員」は、実際の作業時間に応じて「専従人員」に換算される。例えば、3人の「非専従人員」が当該年の全作業時間のそれぞれ20%、30%、70%を当該年の研究開発活動にあてた場合、「専従換算人員」は0.2+0.3+0.7=1.2(人・年)≒1(人・年)となる。したがって「専従換算人員投入量」は、「専従人員」に、作業時間に応じた「非専従人員」を加えたものである。例えば、2人の「専従人員」と3人の「非専従人員」(作業時間はそれぞれ20%、30%、70%)がいた場合、「専従換算人員投入量」は2+0.2+0.3+0.7=3.2(人・年)となる。
出典:「中国科技統計年鑑」(2003~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

2)研究開発機関

 表6.10に示すように、研究開発機関の社会基盤分野での研究開発内部支出は2002年以降、増加傾向にあるが、人的資源投入量も2001年における交通・運輸分野での突出した数字を除けば、同じく2002年以降、全体としては増加傾向を示している。

 社会基盤分野に含めた5分野の2006年の実績を見ると、いずれも前年から増加している。このうち伸び率が最も大きかったのは「測量・製図科学技術」で、対前年比では3.4倍に増加した。また、「交通・運輸」も55.4%の伸び率を記録した。

表6.13 研究開発機関の社会基盤分野での人的資源(研究者・技術者※)投入量の推移(人・年※※)

 

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

社会基盤分野合計

7050

2248

3070

2613

3178

4917

 

内訳

交通・運輸

4797

567

1023

952

1167

1814

水利

1125

945

816

672

856

1028

土木建築

378

316

262

240

215

285

安全科学技術

229

249

778

558

686

930

測量・製図科学技術

524

171

191

191

254

860

(地球科学)※※※

(5357)

(5267)

(4999)

(4804)

(4999)

(6670)

※:研究者・技術者:高・中級技術のポストを有する科学技術活動に従事する人員と、高・中級技術のポストを有しない大学本科以上の学歴の人員を指す。なお高級技術職は日本の大学教授レベルに、また中級技術職は大学講師レベルに相当する。
※※:前掲
※※※:合計には含めない
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

3)高等教育機関

 高等教育機関の社会基盤分野での人的資源(研究者・技術者)投入量は、2001年を除き、研究開発機関の投入量を大幅に上回っている。2006年実績(1万6414人・年)を見ると、研究開発機関の同年実績(4917人・年)の約3.3倍となっている。

 分野別に見ると、「測量・製図科学技術」の増加が大きく、対前年比で84%の伸びを示した。他の分野(「土木建築」63%、「水利」60%、「交通・運輸」43%、「安全科学技術」32.8%)も対前年比で高い伸びを記録した。

表6.14 高等教育機関の社会基盤分野での人的資源(研究者・技術者※)投入量の推移(人・年※※)

 

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

社会基盤分野合計

5877

6621

7431

9464

10446

16414

 

内訳

交通・運輸

1612

2131

1932

2583

2838

4059

水利

1085

1164

1434

1522

1468

2350

土木建築

2644

2823

3277

4595

5368

8750

安全科学技術

84

76

172

179

326

433

測量・製図科学技術

452

427

616

585

446

822

(地球科学)※※※

(3119)

(3243)

(3764)

(4273)

(4636)

(5096)

※:前掲
※※:前掲
※※※:合計には含めない
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(4) 研究成果

1)科学技術論文

 「交通・運輸」、「水利」、「土木建築」、「安全科学技術」、「測量・製図科学技術」の5分野を含めた社会基盤分野における中国の科学技術論文が、国外の主要書誌情報データベースに収録された件数を見ると、多少のバラツキはあるものの、近年飛躍的に増加している。なお、「地学」分野の書誌収録実績を参考までに合わせて紹介する。

 「中国科技統計年鑑」によると、社会基盤分野の書誌収録件数は、EI(Engineering Index)とISTP(Index to Scientific & Technical Proceedings)の伸びが顕著である。

 2005年の実績を見ると、伸び率が大きかったのは「土木建築」でSCI、EI、ISTPの合計で3052件となっており、前年の2倍近くに達した。2004年は、「安全科学技術」と「測量・製図科学技術」が2003年から大きく減少しているため、単純に比較することは難しいが、5つの分野とも書誌収録件数が大きく増加している。

 中国では、SCI論文数が重要な評価指標になっているため、たとえばライフサイエンス分野では、SCIの書誌収録件数が圧倒的に多くなっている。しかし、社会基盤分野では、年によって多少のバラツキはあるものの、SCIの占める割合が小さく、EIとISTPの占める割合が大きいのが特徴である。

表6.15 社会基盤分野での書誌収録件数の推移

学科

2000年

2001年

2002年

順位

合計

SCI

EI

ISTP

順位

合計

SCI

EI

ISTP

順位

合計

SCI

EI

ISTP

社会基盤分野合計

 

865

52

153

660

?

1415

145

783

487

?

1616

121

789

706

社会基盤分野が全体に占める割合(%)

 

2.1

0.2

2.9

4.7

?

2.8

0.6

5.0

5.8

?

2.6

0.4

4.1

6.0

交通・運輸

27

117

7

13

97

26

209

8

97

104

6

285

13

139

133

水利

29

77

10

32

35

31

82

24

45

13

30

257

9

41

207

土木建築

16

620

26

98

496

13

900

103

601

196

19

842

82

554

206

安全科学技術

31

50

9

10

31

27

206

8

33

165

37

188

15

46

127

測量・製図科学技術

40

1

0

0

1

39

18

2

7

9

35

44

2

9

33

(地学)※

(10)

(1463)

(992)

(133)

(338)

(10)

(1550)

(959)

(300)

(291)

(13)

(1732)

(1230)

(253)

(249)

?

2003年

2004年

2005年

社会基盤分野合計

 

3987

781

1296

1910

?

2562

337

1728

497

?

8732

385

3833

4514

社会基盤分野が全体に占める割合(%)

 

4.9

2.1

4.8

12.2

?

9.1

0.7

5.3

2.9

?

5.7

0.6

6.4

15.4

交通・運輸

30

260

16

185

59

27

432

19

328

85

22

1224

4

917

303

水利

34

118

27

71

20

28

302

58

184

60

28

660

3

289

368

土木建築

21

1001

163

756

82

16

1650

230

1124

296

14

3052

352

2366

334

安全科学技術

20

1202

575

275

352

34

76

30

41

5

24

1076

24

134

918

測量・製図科学技術

17

1406

0

9

1397

33

102

0

51

51

16

2720

2

127

2591

(地学)※

(11)

(2228)

(1456)

(633)

(139)

(9)

(3381)

(1670)

(1123)

(588)

(9)

(4816)

(1989)

(1998)

(829)

※:合計には含めない
SCI:Science Citation Index
EI:Engineering Index
ISTP:Index to Scientific & Technical Proceedings
出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

3) 特許

 「中国科技統計年鑑」は、「国際特許分類」(IPC)に従い、発明および実用新案特許の申請と承認件数を報告しているが、IPC分類では「社会基盤」という分類がないため、「鉄道」、「船舶関連設備」、「輸送・包装・備蓄・運搬」、「水・廃汚水・泥漿処理」、「道路・鉄道および橋梁の建設」、「水利・基礎・土石運搬」、「給水・排水」、「建築物」、「測量・試験」の9項目を「社会基盤」に含めた。

 表6.16に示すように、社会基盤に関する発明および実用新案特許の申請、承認件数とも2001年以降、着実に増加している。とくに2006年は対前年比で申請件数が31.7%、承認件数が22.9%の高い伸びを示した。

 項目別に見ると、「輸送・包装・備蓄・運搬」、「建築物」、「測量・試験」が申請・承認件数とも多いのが特徴である。また、「水・汚水・泥漿処理」の伸びが大きく、2001年との比較では、申請件数が約4.5倍、承認件数でも2.4倍に達している。

表6.16 社会基盤分野の発明、実用新案特許の申請数と承認件数の推移

?

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

2006年

分野

申請

承認

申請

承認

申請

承認

申請

承認

申請

承認

申請

承認

社会基盤分野合計

19311

10051

21449

10654

23401

14323

27445

14483

31345

16460

41278

20224

鉄道

367

271

542

238

598

335

513

311

465

298

674

378

船舶関連設備

361

252

472

180

511

310

672

331

624

295

783

412

輸送・包装・備蓄等

5545

3336

5969

3214

6089

4246

6339

3793

7143

4175

9025

4954

水・汚水・泥漿処理

669

619

2083

752

1733

953

1971

1093

2104

1259

2986

1513

道路・鉄道・橋梁建設

824

393

1087

466

981

720

1178

645

1372

743

1815

990

水利・基礎・土石運搬

896

424

848

384

958

532

1222

637

1461

789

1709

952

給水・排水

1758

1001

1376

888

1605

962

1783

919

1944

1005

2294

1302

建築物

3304

1373

2985

1670

3518

2216

4219

2150

4725

2475

6663

3081

測量・試験

5587

2382

6087

2862

7408

4049

9548

4604

11507

5421

15329

6642

出典:「中国科技統計年鑑」(2002~2007各年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)

(5) 国際研究活動の展開

1)国際および多国間協力プロジェクト

 社会基盤分野における、国際および多国間協力プロジェクトを表6.17に示す。

表6.17 社会基盤分野での国際・多国間協力プロジェクト

関係機関・国

内容

期間

世界銀行、地球環境基金、
中国国家経済貿易委員会

ESCO(Energy Service Company)事業プロジェクト:中国の省エネ体制の転換、省エネ投資の加速、エネルギー利用効率の向上、温室効果ガスの排出抑制等の達成をめざす。

1996~2006(第1期プロジェクト)。
第2期プロジェクトが開始

ロシア、カザフスタン、
モンゴル、韓国

1:250万のアジア中部および近隣地域、東北アジア地域、アジア全体の地質図を作成。

2002年12月~2007年12月

モンゴル、日本、韓国

モンゴル黄砂嵐防止プロジェクト:黄砂の発生地研究、発生地における水利灌漑施設の整備、緑色植物の栽培、黄砂嵐の環境への影響と予防策研究など。

2005年2月~

世界銀行、地球環境基金、
中国財政部

中国の交通発展におけるパートナーシップ構築モデル・プロジェクト:都市交通政策の策定、交通施設の建設、モデル・プロジェクトの設立が内容。中国の交通管理者と技術者の技能向上が目的。

2006年6月~

国連、中国地震局、
河北省政府

中国初の大規模国際地震演習を実施:アジア、欧州、米州の17の国際救援隊と中国各省の地震救援隊のほか、ベルギーと南アフリカの2社の代表が参加。

2006年8月5日~8日

ISSA(International Slurry
Surfacing Association)、
中国交通運輸部

「国際アスファルト路面メンテナンス技術フォーラム」開催:米国、フランス、カナダ、ロシア等10カ国が参加。

2006年9月6日~8日

2)二国間協力

 社会基盤分野における二国間での協力プロジェクトを表6.18に示す。

表6.18 社会基盤分野での二国間協力プロジェクト

相手国

内容

期間

ドイツ

都市部水資源の持続可能な管理――洪水管理と地下水逆注入プロジェクト:都市部洪水防止と地下水保全および水資源の有効利用

2000年6月~2007年5月

日本

21世紀中国首都圏環境緑化モデル拠点プロジェクト:砂漠化防止に向けた緑化事業。2008年5月31日に「21世紀中国首都圏環境緑化交流センター」を開所。

2001年~2010年

フランス

中国住宅分野における効率向上と持続可能な発展:黒龍江省(寒冷地域農村部の住宅供給と既存住宅の暖房改良)、上海市(暖房・空調の省エネ、産業連携の促進、地方政府部門との提携などの課題研究)、北京市(既存住宅の暖房改良)、中央政府(プロジェクトの成果普及、基準の制定、プロジェクト評価)が作業を分担。

2001年~2009年3月

米国

重大プロジェクトにおける地震被害診断および知能保護理論と方法に関する研究:3次元地震動パラメータ解析ソフトTPNGと実験データ処理ソフトDVIEWを開発。

2002年~2006年

オランダ

中国西部小都市における環境インフラ建設および適用技術のモデル:四川、雲南、重慶で16ヵ所の小都市をモデルとして選定し、小都市の経済発展に適した技術の推進と市場化運営メカニズムについて研究を実施。

2002年~

オランダ

持続可能な建築モデル・プロジェクト:オランダから建築理論・技術を導入し中国各地で持続可能な建築プロジェクトを実施する。モデル・プロジェクトの建設段階に。

2004年2月~

オーストラリア

北京オリンピック国際天気予報モデル・プロジェクトの中核技術に関する研究:世界先進水準のソフトおよびハードのプラットフォームを構築し、災害に直結する気象の予報精度を高めた。

2004年10月~2008年1月

モンゴル

地震危険性の評価と新しい地震予知方法の研究:中露国境地帯の地震構造基礎図の制作段階に。

2005年8月~

ドイツ

中国既存建築物の省エネ改造:ドイツ政府の資金・技術援助によって、既存建築物の省エネ改造の考え方とエネルギー消費の測定技術を導入し、中国北部で既存建築物省エネ改造試験都市を決めてモデル・プロジェクトを実施。

2005年10月~2010年9月

韓国

砂漠化防止・緑化プロジェクト:ヒュンダイ自動車、北京ヒュンダイ自動車、内モンゴル自治区アバグ旗人民政府等が2008年5月5日、協力協定を締結。

2008年~2012年

日本

中国科学院と日本学術振興会等が成都で「地震防災学術シンポジウム」を開催

2008年10月8日~11日