4.環境および資源・エネルギー分野(原子力を除く)
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4.2 環境および資源・エネルギー分野の現状および動向

(1) 環境

1)地球温暖化

① 二酸化炭素排出量

 オランダ環境評価機関(MNP)は2007年6月、2006年の中国の二酸化炭素排出量が米国を抜いて世界最大になったと発表した。MNPによると、2005年時点では中国の二酸化炭素排出量は米国を2%下回っていたが、2006年には米国が58億トンだったのに対して、中国は62億トンとなり、米国の排出量を初めて上回った。

 MNPは、化石燃料の燃焼とセメントの製造によって排出される二酸化炭素だけを集計しており、発電部門とセメント製造における石炭の利用拡大が二酸化炭素の排出増大につながったと分析した。

 中国外交部の秦剛報道官は6月21日の定例会見で、中国の1人あたりの二酸化炭素排出量が3.66トンであるのに対してオランダは11.4トンもあると指摘したうえで、現在の地球温暖化を招いた主な原因は、西側先進国が工業化の過程で長年にわたって蓄積してきた排出量と現在の1人あたりの高い排出量にあると批判した。

 また、京都議定書には中国を含めた発展途上国の排出削減目標はないものの、中国としては真剣かつ積極的に排出削減に努力を払い、地球温暖化問題の解決に国際社会とともに取り組んでいるとの見解を表明した。

 国家発展改革委員会が2007年6月に公表した「気候変動国家方案」(「中国応対気候変化国家方案」)は、あらゆる手段を講じて温室効果ガスの排出削減に取り組むとの方針を明らかにする一方で、排出削減の量的目標は明示していない。

 中国政府は、同方案の中で、以下のような具体的な気候変動の証拠があるとの見方を示した。

 -気温:過去100年の間に平均気温が0.5~0.8度C上昇した。これは、世界の気温上昇と比べるとわずかだが高い。中国での気温上昇は、ほとんどが過去50年間に観測されている。中国国内での傾向を見ると、長江南部より西部や東部、北部での温暖化が顕著になっている。とくに冬季の気温上昇が大きく、1986年から2005年にかけて20年連続で暖冬を記録した。

  • 降雨量:過去100年間では、年間降雨量に顕著な変化は見られなかったものの、地域別に見るとかなりの違いがある。年間降雨量の減少が顕著なのは北部、北西部の東側、北東部で、このうち北部での減少が最も大きい。一方で、南部と北西部では降雨量が大きく増加した。
  • 異常気象:中国全土における異常気象の頻度と強さについては、この50年間に明らかな変化が見られた。具体的には、北部と北東部では渇水、長江中流・下流、南東部では洪水が深刻化した。
  • 海面水位:中国の沿岸部での海面水位の上昇は、過去50年間では年間2.5mmで、世界平均よりわずかだが高かった。
  • 氷河:中国の山岳氷河は後退しており、そうした傾向が加速している。

② 温暖化の将来予測

 中国の研究者らは、「気候変動国家方案」の中で、以下のように、将来的には気候変動(温暖化)の傾向がさらに強まると予測している。

  • 年間平均気温は2000年に比べると、2020年時点で1.3~2.1度C、2050年時点では2.3~3.3度C、それぞれ上昇する。とくに気温の上昇が顕著なのは、北西部と北東部である。2030年までに北西部では1.9~2.3度C、南西部では1.6~2度C、青海・チベット高原では2.2~2.6度C、それぞれ上昇するとみられる。
  • 降雨量については、今後50年間は増加すると予測される。中国全体で見ると、2020年までに2~3%、2050年までに5~7%増加する。最も増加するとみられているのは南東部の沿岸地域である。
  • 異常気象の発生頻度が増加し、社会経済や国民生活に計り知れない影響を及ぼすと考えられる。
  • 乾燥地帯が拡大し、砂漠化のリスクが増大することも考えられる。
  • 海水面は引き続き上昇すると考えられる。
  • 青海・チベット高原と天山山脈の氷河は加速度的に後退し、小さい氷河の中には消失するものも現れる。

③ 気候変動戦略目標

 中国政府は、「気候変動国家方案」の中で、気候変動に対応するための戦略目標として、①温室効果ガスの排出抑制②気候変動に対する適応能力の向上③気候変動に関連した科学、技術、研究開発の水準向上④気候変動に対する国民の意識向上――等をあげている。

 このうち、温室効果ガスの排出抑制を目的として、経済成長パターンの転換を加速するとともに、省エネに関する政策指針を強固なものとするとの方針を打ち出した。

 具体的には、省エネに対する政府の監督・管理の強化、省エネ技術の研究開発・実証・導入を促進することに加えて、市場原理に基づいた省エネに関する新しいメカニズムを軌道に乗せるというのが中国政府の考え方である。また、省エネに対する国民や社会の意識を向上させ、省エネ社会の構築を加速することが温室効果ガスの排出抑制に貢献すると見ている。

 国家方案では、温室効果ガスの排出抑制の一環として、エネルギー供給構造の最適化にも言及されており、再生可能エネルギーと原子力発電を積極的に開発するとともに、コールベッドメタン(coal-bed methane)の利用を加速することが含まれている。

 具体的な目標としては、大規模水力発電を含めて、一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を2010年までに10%に引き上げるとともに、コールベッドメタンを最大で100億m3採収するとしている。

 このほか、冶金や建築資材、化学工業といった分野の産業政策を強化し、循環経済を発展させるという方針も掲げている。資源の利用効率を高め、窒素酸化物の排出抑制を強化することも温室効果ガスの排出削減に貢献すると見ている。

④ 気候変動とCDM

 中国政府は2008年10月、「中国の気候変動政策と行動」(「中国応対気候変化的政策与行動」)と題する白書を公表した。白書は、中国が気候変動への対応を重視しているとしたうえで、先進国に対して率先して排出削減を求めるとともに、発展途上国に対して資金や技術の面で協力するよう求めた。

 白書では、クリーン開発メカニズム(CDM)が国内の持続可能な発展を促進するうえで積極的な役割を果たすことを重視し、CDM事業協力に参加することを通じて世界の温室効果ガスの排出削減に貢献したいとの考えを示した。

 また中国は、政府部門や業界、学術団体、諮問サービス機関、金融機関などがCDM事業を推進するため、キャパシティ・ビルディング(能力開発:トレーニングなどを通じて教育・訓練を行い、CDM等に関わる人々や組織の能力の向上をはかること)を強化したと指摘した。

 同白書によると、2008年7月20日までに中国が国連に登録することに成功したCDM協力事業は244件に達し、これらの事業によって二酸化炭素相当で年間1億1300万トンの排出削減が期待されるとしている。

 こうしたCDM事業に推進によって、中国国内の再生可能エネルギーの発展と省エネが促進されただけでなく、関係政府部門や企業、組織、個人の気候変動意識が向上したことから、中国としては効果的で有益な協力メカニズムとしてCDMを2012年以降も引き続き実施する必要があるとの見解を表明した。

 一方で、CDM事業実施における公平、透明、簡略化などをさらに進めるとともに、先進技術の発展途上国への移転を促進し、ホスト国がCDM事業開発の中でさらに重要な役割を演じる必要があると主張した。

 これに関連して中国の劉延東・国務委員は2008年4月24日、北京で開催された気候変動と科学技術の革新に関する会議で、気候変動に対する発展途上国の能力を改善するため、先進国は技術移転を拡大する必要があると強調した。

 なお、中国の楊潔?外交部長は2009年2月21日、訪中した米国のヒラリー・クリントン国務長官との会談後、両国が気候変動への対応で協力を強化し、2009年末にデンマークのコペンハーゲンで開催される国連気候変動枠組み条約締約国会議を成功させることで合意したことを明らかにした。

2)環境汚染・破壊

① 環境汚染の現状

 国務院の承認を受けて2007年11月に公布された「国家環境保護『第11次5ヵ年』規画」では、二酸化硫黄と化学的酸素要求量(COD)を2010年までに2005年比で10%削減するとの目標が掲げられた。また、汚染が深刻な湖沼や河川での対策を急ぐとともに、都市部における汚水・ゴミ処理に全力で取り組み、飲用水源の安全を確保する方針も打ち出された。

 環境保護部が2008年6月に公表した「中国環境状況公報」によると、排出削減の努力が実を結び、2007年には主要排出物が減少に転じた。環境保護部は、歴史的に重要な一歩と高く評価した。具体的な成果は以下の通りである。

  • 脱硫装置を設置した石炭火力発電所の占める割合が2005年の12%から48%に上昇した。
  • 都市部における汚水処理率が52%から60%に上昇し、CODが1383万3000トンとなり前年から3.14%減少した。
  • 大気中への二酸化硫黄排出量が2468万トンとなり、前年から4.66%減少した。
  • 河川や湖沼等の水域環境の改善に着手し、主要河川では水質汚染防止計画等が立案された。
  • リサイクルの全プロセスにおいて環境経済政策が制定され、金融や貿易等の各種経済手段によって環境保護がはかられた。

 一方で環境保護部は、全国の環境状況は相対的に改善しているものの、依然として厳しい状況にあるとの認識を示している。とくに、水質汚染が深刻で、長江や黄河などの7大河川の水質が前年と変わっていないことを明らかにした。また、農村部では環境汚染と生態破壊という2つの脅威に直面しているとの見解を示している。

 環境保護部によると、国が定めた水質汚染対策重点流域の範囲が拡大し、総面積がすでに国土の40%を占めていることも明らかになった。

 国務院は、「第9次5ヵ年」規画の実施後、「三河三湖」(淮河、海河、遼河、太湖、巣湖、慎池)を国家整備重点流域に指定した。また、「第10次5ヵ年」期間には、松花江流域、三峡ダムおよび上流、南水北調(南方地域の水を北方地域に送り慢性的な水不足を解消するプロジェクト)水源地およびその沿線を追加するとともに、2008年には「黄河中上流域水汚染対策計画」を承認している。

② 環境汚染の防止

 こうした状況の中で、世界的な金融危機に対応するための内需拡大策の一環として環境保護をさらに推進する方針が打ち出された。環境保護部の周生賢・部長は、今後3年にわたって1兆元以上の資金を集め環境保護に投入していくとの考えを明らかにしている。

 環境保護部は2008年11月、国務院の内需拡大策に関する決定に関連して、以下の6項目の方針を定めた。

  • 汚染物質の排出削減を強化する:汚水処理場の建設を加速するとともに、汚染抑制プロジェクトを推進し、構造調整および環境管理を実施する。
  • 環境アセスメントと新規プロジェクトへの審査を強化する:環境アセスメントと新規プロジェクトへの審査の効率化をはかり、内需拡大策の実施にあたって環境アセスメントの役割を発揮する。
  • 農村における環境保護を強化する:農村環境総合整備を進め、汚染が深刻な村落に対して集中的に取り組みを行う。農村部の汚染処理に有効な技術の導入をはかる。農村部でのゴミ処理に積極的に取り組み、土壌汚染や鉱工業汚染、生態系破壊を防止する。
  • 環境関連法律の執行を強化する:環境保護キャンペーンなどの活動を通じて、環境関連法律の執行を強化する。企業による違法な汚染物質排出を取り締まり、影響が深刻な案件については責任を徹底的に追及する。
  • 環境経済政策の健全化をはかる:環境保護にプラスとなる経済政策を健全化し、汚染物質排出費改革を軌道に乗せる。エネルギー多消費・高汚染製品および技術に関するリストを作成するとともに、エコ貸付制度および貿易・税収政策を徹底し、環境汚染責任保険の試行を進める。
  • 環境保護能力の向上につとめる:環境保護に関連した科学研究能力に加え、環境モニタリング能力を強化し、中部・西部のモニタリング設備建設に対する支援を中央財政からとりつける。

 住宅・都市農村建設部の仇保興・副部長は、都市と農村の水環境の改善、水質汚染の抑制・処理を促進するため、今後2年間で135億元の補助奨励金を投入する意向を表明した。同副部長によると、都市部では多くの場所で配水管が敷設されていないため、汚水の処理が制約を受けている。このため、「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)には汚水整備費用として350億元以上が投入されることになっている。

 また、農村部での水環境の整備も今後の投資の重点として位置付けられており、浙江省や河南省、山東省をはじめ、今後数年をかけて多くの省や自治区の県級の都市に浄水場を設置することが計画されている。全国2万の鎮に汚水処理施設を整備するためには1兆元が必要と推定されている。

 地方レベルでも、環境汚染防止に巨額の資金が投入されることになっている。上海市では、2009年から第4期目となる環境保護対策計画がスタートすることになっているが、3年間で政府主導によるプロジェクト向けに約660億~680億元が投じられる。具体的には、大気や水質の改善、固体廃棄物・ゴミ処理などに充てられる。

 安徽省では、2010年までに湖と河川の汚染対策として110億元を投入する計画になっている。このうち巣湖関係では56件のプロジェクトが予定されている。内訳は、産業廃棄物の排出対策19件、都市下水処理対策12件に加えて、別途70億元が必要になると見積られている流域の生態系改善が25件となっている。中国で5番目に多い淡水を抱える巣湖では2007年夏、アオコが異常発生し、近隣都市の飲用水の供給に影響が及んだだけでなく水性生物にも危害をもたらした。

③ 汚染防止技術

 環境保護部は2008年10月14日、省エネと汚染物質の排出抑制と環境保護産業の発展を目的とした「2008年度国家先進汚染防止技術模範名簿」と「2008年度国家奨励発展的環境保護技術目録」を制定し、各省や自治区、直轄市の関係当局に対して9月26日付けで通知したことを明らかにした。これにともない、2007年度の名簿と目録は廃止された。

 このうち汚染防止技術の中には、生産に入る前の試験が終了した技術から、小規模ながら実際に利用されている技術が含まれている。具体的には、重金属で汚染された土地の土壌固化・安定化処理技術や廃棄電池資源化利用技術などがあげられている。

 また、国が奨励する環境保護技術は全部で103種類がリストアップされている。この中には、100万kW級石炭火力発電所の電気集じん器や廃棄蓄電池の資源化利用技術、ワラを用いた発電技術などが含まれている。

 こうしたなかで、水質汚染の抑制・管理を重大科学技術プロジェクトとして位置付け、国が支援することになった。科学技術部が2009年2月20日に明らかにしたもので、「三河三湖」に加えて、三峡ダム等に焦点を定めて、科学技術面から水質汚染の解決をめざす。

3)資源循環

 資源の大量消費という粗放型の経済開発にともない環境悪化が深刻化している中国は、「第11次5ヵ年」期において環境に優しい資源節約型の循環型経済の推進を掲げた。具体的には、単位GDPあたりのエネルギー消費量を2005年比で20%削減するとともに、単位工業生産あたりの水使用量を30%削減する目標を掲げた。また、固体廃棄物の総合利用率を55.8%から60%に引き上げることを明記した。

 国家発展改革委員会の解振華・副主任は2007年11月26日、地方政府が循環型経済の促進をエネルギー消費の削減や汚染物質抑制目標の達成における重要指針としており、中国の循環型経済モデルはすでに初歩的に形成されたとの見解を表明した。

 同副主任によると、中国の工業固体廃棄物の総合利用率は56%に達し、鉄鋼産業における年間廃鉱利用量は粗鋼生産量の20%、非鉄金属廃棄物の年間回収利用率は年間生産量の約25%に達している。

 一方で同副主任は、科学技術面での支援が不足しており、資源節約と環境保護における重要技術の研究・開発も不十分で、資源の高効率利用および循環利用に関する中核技術を飛躍的に進歩させる必要があるとの見方を示した。また、①体制が十分に整備されていない②一部の資源製品の価格形成メカニズムには資源の希少性が十分に反映されていない③汚染者による費用負担の原則が徹底されていない――などの問題点を指摘した。

 こうしたなかで2008年8月29日、省エネとリサイクルの一層の促進をめざす内容を盛り込んだ「循環経済促進法」が第11期全国人民代表大会常務委員会で承認され、2009年1月から施行された。

 同法では、「循環経済」を生産・流通・消費などの過程における減量化・再利用・資源化活動を指すと定義している。各企業に対しては、節水技術を導入したうえで管理を強化するとともに、新築の建物やプロジェクトでは節水技術を設置することを要求した。

 また、原油の精製プラントや発電所、鉄鋼プラントでは、石油を浪費するボイラー等の使用を中止し、天然ガスをはじめとするクリーンな代替燃料にするよう求めている。企業や政府部局に対しては、新設の建物では太陽や地熱エネルギーなどの再生可能エネルギーを用いた製品を採用するよう指示した。

 このほか、炭鉱廃棄物や石炭灰などをリサイクルして広範に利用することを企業に要求している。農家や地方当局に対しては、トウモロコシの茎や家畜の排泄物などを使ってメタンガスを発生して利用することを推奨するとしている。

 同法では、リサイクル技術の革新を推奨するために、中央政府が企業に対して資金を提供することも規定されている。省エネ技術や機器を導入・採用する企業に対しては税制上の優遇措置が与えられる。一方で、こうした規定に違反した場合の罰則規定も盛り込まれた。

4)自然生態管理

 中国政府は毎年、世界環境デー(6月5日)にあわせて国内の環境の状況を公表している。2006年のテーマは「生態安全・環境配慮型社会」で、6月4日に「中国生態保護」を公表し、中国の生態系保護の状況について初めて明らかにした。

 それによると、中国政府は生態系保護事業を強く重視し、以下のような措置によって環境配慮型社会の構築に向けて努力するとの方針を示した。

① 自然保護区と重要生態機能保護区の整備推進

 全国の各種自然保護区は合計2349ヵ所で総面積は150万km2、国土面積の約15%を占めている。「国家重点生態機能保護区規画(2006~2020年)」を検討中であり、中国重点生態機能保護区の準備と整備を統一的に計画、実施する。

② 資源開発、水資源開発、観光資源開発にあたっての生態系保護の強化

③ 生態モデルの系統的整備事業の展開

 1995年から233の地区・機関が国家クラスの生態モデル区に指定された。また、海南、吉林などの9省で生態整備事業が行われた。

④ 農村生態保護の強化

 「農村小康(いくらかゆとりある)環境行動計画」準備実験区をスタートさせ、「家畜畜産業汚染防止管理弁法」、「家畜畜産業汚染物排出基準」、「家畜畜産業汚染防止技術規範」などを定めた。土壌汚染を規制するため「土壌環境基準」などを制定した。

 また環境保護部が2008年6月4日に公表した「中国環境情報公報」と題する2007年版環境白書では、重点生態機能区の建設を推進するとともに生態環境品質評価対策を展開し、「国家重点生態機能保護区規画綱要」を公布したことを明らかにした。

 同白書は、自然保護区については、着実に進展しているとしたうえで、全国で新たに19ヵ所の国家自然保護区が建設されたとしている。自然保護区の数は2531ヵ所まで増加し、総面積では1億5188万ヘクタールに達した。このうち国家自然保護区は303ヵ所・9366万ヘクタールである。

 中国では生態・環境整備に関連した個々のプロジェクトも着々と進んでいる。中国科学院は2008年1月28日、同研究院傘下の新疆生態地理研究所、新疆農業大学、タリム川流域管理局などが共同で実施する乾燥・砂漠化地域の生態系修復再生研究プロジェクトがスタートしたことを明らかにした。

 同プロジェクトでは、①砂漠化地域の修復または劣化した生態系の回復・再生技術の開発およびモデル地区の建設②砂漠・オアシス境界域の生態多様性構築または生態環境保全技術の開発およびモデル地区の建設③乾燥・砂漠化地域の土壌生態環境の安全と生態系の持続的管理に関する研究――が行われる。

 青海省では、「青海湖流域生態環境保護・総合管理プロジェクト」が2008年5月26日にスタートした。10年内に青海湖の生態環境を最大限回復させるのが目的で約16億元が投じられる。

 同プロジェクトでは、湿原の保護(約85万ヘクタール)、荒廃草地の修復(約28万ヘクタール)、草原における鼠害の予防(約130万ヘクタール)、砂漠化の防止(約4万ヘクタール)、生態保護林の造林(約3万4000ヘクタール)などが実施される。

 このうち湿地保護や荒廃した土地の修復、生物多様性保護に全体資金の93%が投入される。青海湖では近年、水位が低下しており、流域の生態系の後退が顕著になっている。この50年間に水位は3.78mも低下し、湖面面積も362km2減少した。

 また、2008年11月29、30の両日には、「青海湖流域の生態・環境修復技術に関する収集・実験モデルプロジェクト」が正式にスタートした。同プロジェクトは、「第11次5ヵ年」期における国家科学技術重点プロジェクトの1つであり、中国科学院・地球環境研究所、同北西高原生物研究所、北京師範大学などが参加する。

 このほか、2008年9月2日には広東省恵州市の「西湖クリーン・プロジェクト」が正式にスタートしている。総延長3kmのパイプによって平湖、豊湖、東江など9ヵ所の取水地点から西湖まで毎日5万トンのクリーンな水を1ヵ月程度導水することによって、西湖の水質や生態環境が大幅に改善することが期待されている。

 恵州市は西湖プロジェクトを重点プロジェクトとして位置付け、2007年から1億5000万元を投じて恵州西湖風景区の整備事業を開始した。このうち、1200万元が西湖クリーン・プロジェクトに投入された。西湖の景観をとりもどすために、今後5年間で4~5億元が投じられることになっている。

表4.19 中国の自然保護区(2007年)

省・自治区・
直轄市

保護区の数(ヵ所)

面積(km2)

国家級

省級

市級

県級

合計

国家級

省級

市級

県級

合計

北京

2

12

6

0

20

264

714

361

0

1339

天津

3

5

0

0

8

101

618

0

0

719

河北

11

18

2

3

34

2165

3302

88

103

5658

山西

5

41

0

0

46

829

10566

0

0

11395

内モングル

23

52

33

84

192

38437

71626

4363

21280

135706

遼寧

12

27

35

22

96

9364

8260

7941

1022

26587

吉林

11

14

3

6

34

7837

14310

205

230

22582

黒龍江

20

59

35

72

186

20583

26019

4194

8537

59333

上海

2

2

0

0

4

662

276

0

0

938

江蘇

3

10

10

8

31

3362

854

1679

219

6114

浙江

9

10

0

34

53

967

1278

0

375

2620

安徽

6

27

6

64

103

1642

2818

56

807

5323

福建

12

25

9

46

92

2058

1385

751

928

5122

江西

8

22

2

106

138

1402

2880

36

5546

9864

山東

7

23

24

21

75

2567

4546

2528

1331

10972

河南

11

21

1

2

35

4430

3242

1

14

7687

湖北

9

15

21

18

63

2176

3197

3122

1438

9933

湖南

14

28

0

53

95

5519

4024

0

2564

12107

広東

11

52

119

165

347

2364

5493

3752

23096

34705

広西

15

44

3

11

73

2862

8460

1189

1479

13990

海南

9

24

22

13

68

1020

2617

523

401

4561

重慶

3

20

0

27

50

1955

3735

0

3285

8975

四川

22

62

31

48

163

21004

34618

14531

20479

90632

貴州

8

4

22

95

129

2435

584

2198

4345

9562

雲南

16

52

71

59

198

14317

18885

5573

3498

42273

チベット

9

6

3

22

40

371531

38161

48

15

409755

陜西

9

34

4

3

50

3200

6298

615

346

10459

甘粛

13

40

0

4

57

68612

29006

0

1149

98767

青海

5

6

0

0

11

202525

15697

0

0

218222

寧夏

6

7

0

0

13

4392

676

0

0

5068

新疆

9

18

0

0

27

136061

78308

0

0

214369

合計

303

780

462

986

2531

936643

402453

53754

102487

1495337

出典:「2007年全国環境統計公開報告」(環境保護部、2008年9月)

(2) 資源・エネルギー

1)資源開発

① 鉱物資源

 国土資源部が2008年4月16日に公表した「2007年中国国土資源公報」によると、2007年に資源探査に投入された資金は約620億元となり、前年にくらべて25.2%の伸びを示した。このうち財政支出は55億6300万元で、前年比で8.1ポイント上昇した。

 同公報によると、2007年初現在、全国で171種類の鉱物が発見されており、このうち159種類の鉱物の埋蔵量が明らかにされている。内訳は、エネルギー鉱物10、金属鉱物54、非金属鉱物92、水資源等3である。

 また、地質調査と資源探査で新規に発見された大・中規模鉱産地は208ヵ所となった。内訳は、エネルギー鉱産地50、金属鉱産地73、非金属鉱産地82、水・ガス鉱産地3ヵ所である。

 同公報によると、77種類の鉱物の埋蔵量増加が新たに確認された。具体的には、石油12億1100万トン、天然ガス6974億m3、原炭406億トンである。このうち石油に関しては、冀東南堡、大慶古龍、長慶姫原の3ヵ所で億トン級の大型油田が、また天然ガスに関しては、吉林長嶺、長慶神木、四川広安、タリム大北、北方淞南の5ヵ所で300億m3の大型ガス田が発見された。

 原炭生産量は25億3600万トンで前年比6.6%増、以下、原油1億8700万トン(同1.6%増)、天然ガス693億m3(同18.3%増)、鉄鉱石7億700万トン(同20.2%増)、粗鋼4億9000万トン(同15.8%増)、10種類の非鉄金属2351万トン(同22.6%増)、リン鉱石4542万トン(同16.6%増)、原塩5976万トン(同10.6%増)、セメント13億5400万トン(同9.2%増)――などとなっている。

 鉱物製品の貿易総額は4942億米ドルを記録し、前年比では28.7%増となり、貿易額全体の22.7%を占めた。国内需要が伸びている鉱物製品の輸入が増加していることも明らかになった。具体的には、原油1億6300万トン、鉄鉱石3億8400万トン、マンガン鉱石664万トン、クロム鉄鉱石609万トン、銅鉱石453万トン、カリ肥料960万トンなどとなっている。

 一方で、国土資源部が2009年1月7日に公表した「全国鉱物資源規画(2008~2015年)」(「全国鉱産資源規劃(2008~2015年)」)では、国内での資源探査活動を拡大し経済発展のスタイルを転換しなければ2020年の石油輸入依存度が現在の50%から60%に上昇する可能性があると予測した。

 同規画によると、表4.20に示すように2007年の中国の原油生産量は1億8700万トンに達し、需要のほぼ半分を賄ったが、2020年には石油需要が5億トンに、また2008年から2020年までの累計需要では60億トンに達すると見込まれている。このほか、2020年の需要見通しでは、石炭35億トン、鉄鉱石13億トン、精錬銅730万~760万トン、アルミニウム1300万~1400万トンを見込んでいる。

 表4.20に2007年の実績を、表4.21と表4.22に鉱物資源の探査ならびに開発利用に関する予測目標を示す。

表4.20 鉱物資源の探査開発状況

?

種類

成果

備考

新規追加資源埋蔵量
(2001~2007年)

石油(億トン)

66

地質埋蔵量調査

天然ガス(億m3)

37750

石炭(億トン)

2861.94

資源埋蔵量探査

鉄(鉱石億トン)

39.38

銅(金属万トン)

957.87

ボーキサイト(鉱石億トン)

3.95

マンガン(鉱石億トン)

1.80

タングステン(三酸化タングステン万トン)

14.4

カリ岩塩
(カリ塩億トン)

3.08

鉱物資源採掘量
(2007年)

原油(億トン)

1.87

世界5位

天然ガス(億m3)

693.1

世界11位

?

原炭(億トン)

25.25

世界1位

?

鉄鉱石(鉱石億トン)

7.07

世界1位

?

タングステン(三酸化タングステン65%万トン)

8.04※

世界1位

?

錫(金属万トン)

15.13※

世界1位

?

アンチモン(金属万トン)

15.29※

世界1位

?

レアアース(REO万トン)

12.05

世界1位

?

金(トン)

213.85

世界2位

?

リン鉱石(万トン)

4542

世界2位

?

グラファイト(万トン)

364.28

世界1位

?

蛍石(万トン)

742.93

世界1位

?

重晶石(万トン)

407.23

世界1位

※:一定規模以上の企業データを集計
出典:「全国鉱産資源規劃(2008~2015年)」(国土資源部、2009年1月)
表4.21 鉱物資源探査予測目標

?

2008~2010年

2011~2015年

新規発見・評価大型重要鉱産地(ヵ所)

120~130

190~210

新規追加資源埋蔵量探査

石油(億トン)

30~35

50~60

天然ガス(兆m3)

1.5~1.8

2.8~3.5

石炭(億トン)

2100~2400

5000

炭層ガス(億m3)

1800

10000

ウラン(金属万トン)

省略

省略

鉄(鉱石億トン)

30

60

銅(金属万トン)

600

1200

ボーキサイト(鉱石億トン)

1.2

2

鉛亜鉛(金属万トン)

1500

3000

カリ岩塩(カリ塩億トン)

1.2

2

リン(P2O5億トン)

3

2

注:石油、天然ガス、炭層ガスは新規追加地質埋蔵量探査
出典:「全国鉱産資源規劃(2008~2015年)」(国土資源部、2009年1月)
表4.22 鉱物資源開発利用目標

?

?

2010年

2015年

備考

重要鉱物年間
採掘量

原油(億トン)

?1.9

?2

予測目標

原炭(億トン)

?29

?33

炭層ガス(地面採収/億m3)

50

100

天然ガス(億m3)

?1100

?1600

鉄(鉱石億トン)

9.4

11

タングステン(三酸化タングステン65%万トン)

7.47

7.8

拘束目標

錫(金属万トン)

14

15

アンチモン(金属万トン)

13

14

レアアース(REO万トン)

12.22

14

鉱物資源
備蓄・保存

重要鉱産地備蓄(ヵ所)

40~50

40~50

予測目標

鉱物資源開発
利用規模

大・中規模鉱山比率(%)

9

10

予測目標

鉱物資源節約・
総合利用

鉱物資源総回収率

+5ポイント

+3~5ポイント

拘束目標

付随鉱物総合利用率

出典:「全国鉱産資源規劃(2008~2015年)」(国土資源部、2009年1月)

 長期的視野から国家戦略の下に資源の囲い込みを続ける中国は、海外でも積極的に活動を展開している。中国最大の国営鉱山会社チャイナルコは2009年2月12日、英・豪資源大手のリオ・ティントに総額195億米ドルを出資すると発表した。中国企業の海外企業への出資としては過去最大という。また、今回の追加出資で出資比率は現在の9%から18%まで上昇すると見られている。

 国策として鉱物資源開発が進められる一方で、鉱山採掘にともなう経済損失も問題になっている。国土資源部は2008年5月12日、長期にわたる採掘活動によって生態環境が年々悪化し、地盤沈下などの地質災害が頻繁に発生しており、巨額の経済損失がもたらされていることを明らかにした。

 国土資源部によると、中国には現在、11万ヵ所を超える鉱物採掘所があるが、2005年までに発生した採掘を原因とした地質災害事故は1万2379件を数え、経済損失は161億元6000万元に達した。また、8457ヵ所の鉱山の地質環境に深刻な影響が出ているほか、採掘による地盤沈下が4500ヵ所・延べ面積では約81万アールに達している。

  さらに、続発する炭鉱事故も大きな問題となっている。国家安全生産監督管理総局によると、2007年の炭鉱死者数は3786人に達した。このうち1084人はガス爆発が原因であった。

 同総局は2008年8月14日、炭鉱の新しい安全指針に従い、年産30万トン以下の炭鉱の建設を禁止する考えを明らかにした。新しい指針では、2010年までに死者数を20%削減することが目標として掲げられた。また、大規模炭鉱に対しては独自のレスキューチームを編制するよう求めるとともに、小規模炭鉱に対しては近くのレスキューチームと協力して救助作業を行うよう要求した。

 中国には現在、1万6000ヵ所の炭鉱があるが、このうち90%は小規模に分類されており、大規模炭鉱に比べて安全面で問題があると指摘されている。このため中国政府は、2010年までに炭鉱の数を1万以下に削減することを計画している。

 なお国家安全生産監督管理総局の2009年1月の発表によると、2008年は炭鉱の安全性向上に大きな進展が見られ、生産量100万トンあたりの死亡率、事故件数はいずれも減少した。2008年の炭鉱生産量100万トンあたりの死亡率は前年の1.485から1.182に低下した。事故による死者数も15.1%減少した。そうした事実にもかかわらず、2008年には発生した炭鉱事故は、各地の安全当局が確認しただけでも1091件に達している。

  こうしたなかで2009年2月22日、山西省太原市古交の炭鉱でガス爆発が発生し、77人が死亡(行方不明1人)、114人が重軽傷を負った。事態を重く見た中国国務院は同24日、調査チームを派遣した。

水資源

 水利部が2008年10月13日に公表した「2007年中国水資源公報」によると、中国の2007年の水資源総量は2兆5255億m3、総供給量は水資源総量の23%に相当する5819億m3に達した。供給量の81.2%は地表水源、18.4%は地下水源が占めた。また、地表水源4724億m3のうち、蓄水が32.8%、引水が38.2%、揚水が26.8%をそれぞれ占めた。1069億m3の地下水源の内訳は、浅層地下水81%、深層地下水18.5%などとなっている。

 給水を地域別に見ると、北方6区が2553億m3となり全体の43.9%を、また南方4区が3266億m3となり全体の56.1%を占めた。南方の各省級行政区では地表水源が給水量の90%以上を占めた。一方、北方の各省級の行政区では地下水源の占める割合が大きく、河北、北京、山西、河南の4省・直轄市では給水量の50%以上を占めた。

 このほか、海水の直接利用が全国合計で332億m3に達したが、そのほとんどが原子力発電所の冷却水として利用された。省別に見ると、原子力発電設備容量が最も大きい広東省が一番多く200億m3、以下、浙江省43億m3、山東省31億m3などとなっている。

 2007年の水の使用量は全国合計で5819億m3に達しており、内訳は生活用水12.2%、工業用水24.1%、農業用水61.9%、生態・環境向け補給水1.8%となっている。2006年と比較すると、全国規模では24億m3増加している。工業用水(60億m3)、生活用水(17億m3)、生態・環境向け補給水(13億m3)が増加した一方で、農業用水が66億m3減少した。

 2007年の1人あたりの平均水使用量は442m3、GDP1万元あたりの使用量では229m3となった。都市・町の1人あたりの平均水使用量は1日あたり211リットル(公共用水を含む)、農村での1人あたりの平均水使用量は1日あたり71リットル、耕地の灌漑用水量は約6.667アールあたり434m3となっている。

 「2007年中国国土資源公報」は、2007年には地下水探査で顕著な成果があがったとしている。具体的には、四川省紅層丘陵の水不足地区における地下水探査およびモデル事業では、32万ヵ所に井戸が掘られ120万人の飲用水問題が解消した。

 また、雲南省濾西県、貴州省道真コーラオ族ミャオ族自治県、銅仁県、広西チワン族自治区、湖南省龍山県では18件のモデル事業が実施され、25万人の飲用水問題と67万アールの耕地の灌漑用水不足が解消された。

 さらに、寧夏回族自治区平羅県や河北省唐県、青海省貴徳県、黒龍江省肇東等、地方病が深刻な地域では地下水検査および安全な給水モデル事業が実施され、200万の農民をはじめとした住民のために飲用可能な地下水脈が探索された。34ヵ所で進められた安全な給水モデル事業では、30万人に対して飲用水が供給された。

 こうした努力にもかかわらず、中国の水不足問題は深刻さを増している。世界銀行は2009年1月12日、中国の水不足の現状分析・評価に加えて、問題解決のための政策・制度に対する提言をまとめた研究レポートを公表し、水資源管理を強化する必要があるとの見解を示した。

 そうしたなかで、50年ぶりという深刻な旱魃が中国北部を襲った。2008年11月以降、華北地区の大部分と黄河、長江および淮河流域など冬まき小麦産地の降水量は前年同期と比べて50~90%、また山西省中部、河北省中部から南部にかけて、河南省北東部、安徽省北西部では90%以上も減少した。事態を重く見た胡錦濤主席と温家宝首相はあらゆる努力を払うよう指示した。

 旱魃の緩和に貢献すると期待されている中国最大の水利プロジェクトも着々と進められている。南部の水を北部に送る「南水北調」プロジェクトである。今回の旱魃では、同プロジェクトの「東線プロジェクト」が重要な役割を果たした。旱魃被害が深刻な省の1つである江蘇省では、複数のポンプ場が相次いで淮北地区の河川や湖に送水を開始し、旱魃を緩和する水源が確保された。引水量は10億m3に達した。

 中国政府は、「南水北調」プロジェクトを加速するため、2009年には総額で213億元を投入することを計画している。資金の内訳は、中央財政から65億元、同プロジェクト基金から20億元、銀行融資128億元となっている。

2)エネルギー

① 中国のエネルギーの現状

 中国政府は、2007年12月26日に公表した中国初の「エネルギー白書」(「中国的能源状況与政策」)の中で、中国のエネルギー消費は急激に増加しているものの、世界のエネルギー安全保障に脅威をもたらすものではないとの見解を示し、中国脅威論に反論した。

 白書によると、中国は石炭を中心として化石燃料資源に恵まれているが、国民1人あたりで見ると世界平均を大きく下回っている。石炭と水力発電の1人あたりの資源量は世界平均の半分しかない。石油と天然ガスは、世界平均の15分の1に過ぎない。

 エネルギーの生産地と消費地が離れていることも中国にとっては大きな問題を提起している。石炭は華北と西北地区、水力発電は西南地区、石油と天然ガスは東部、中部、西部、海域部に存在するが、エネルギーの消費地は経済が最も発展した東南部の沿岸地域に限られている。

 国家発展改革委員会が2007年4月に公表した「エネルギー発展『第11次5ヵ年』規画」では、省エネを優先的に達成することを貫徹し、国内に足場を固め、環境を保護し、国際的に見て相互に有利となるエネルギー戦略を強化するとの基本方針が示されている。

 同規画では、2010年における一次エネルギー消費量を、年平均伸び率4%と仮定して、標準炭換算で27億トンに抑えることを具体的な目標としている。一次エネルギーに占める各エネルギーの割合については、石炭66.1%、石油20.5%、天然ガス5.3%、原子力発電0.9%、水力発電6.8%、その他の再生可能エネルギー0.4%とした。

 これは2005年実績と比べると、石炭0.3ポイント減、石油0.5ポイント減であるのに対して、天然ガス2.5ポイント増、原子力0.1ポイント増、水力発電0.6ポイント増、その他の再生可能エネルギー0.3ポイント増となっている。

 一方、一次エネルギー生産量については、平均伸び率を3.5%と設定したうえで、標準炭換算で24億4600万トンを目標として掲げた。各エネルギーのシェアの目標は、石炭74.7%、石油11.3%、原子力発電1%、水力発電7.5%、その他の再生可能エネルギー0.5%とした。

 これは、2005年の実績と比較すると、石炭1.8ポイント減、石油1.3ポイント減であるのに対して、天然ガス1.8ポイント増、原子力発電0.1ポイント増、水力発電0.8ポイント増、その他の再生可能エネルギー0.4ポイント増となっている。

 「第11次5ヵ年」規画の初年度にあたる2006年のエネルギー実績を見ると、一次エネルギーの生産量は標準炭換算で22億1000万トンとなり前年比7.33%増となった。伸び率は、「第10次5ヵ年」期間中(2001~2005年)の平均伸び率である9.82%を2.49ポイント下回った。

 このうち原炭の生産量は23億7000万トンとなり、世界1位の座を維持した。石油生産量は1億8500万トンで世界5位、天然ガス生産量は586億m3で2005年に比べて18.86%の高い伸びを示した。

 一方、2006年の一次エネルギー消費量は、標準炭換算で24億6000万トンとなり、前年比9.6%増を記録した。2007年は26億5480万トンで前年から比べて7.8%増加したものの、伸び率は「第10次5ヵ年」期間中の平均伸び率である10.15%を下回った。

 一次エネルギー消費に占める石炭の割合は1980年には72.2%を占めていたが、2006年には69.4%まで低下した。これに対して、再生可能エネルギーと原子力発電の占める割合は、80年当時の4%から7.2%に上昇した。

 中国の一次エネルギー消費を部門別に見ると、工業部門の消費量が最も大きくほぼ3分の2を占めている。全エネルギー消費に占める工業部門の割合は1997年から減少に転じ、1993年以降では2000年から2001年にかけて最低を記録したものの、2002年から再び上昇した。

 生活部門でのエネルギー消費は、工業部門に次ぐ消費部門として全体に占める割合が10%をわずかに超える水準で推移してきていたが、2005年から2006年にかけて急速にシェアを落とした。

 2007年12月に公表された「エネルギー(能源)法案」では、エネルギーの消費構造の改善やエネルギー利用効率の向上、炭素含有量の多いエネルギーから少ないエネルギーへの転換という中国政府の基本方針が示されている。また、省エネを最優先として位置付けるとともに、再生可能エネルギーやクリーンエネルギー、原子力発電利用を推進すると明記した。なお「エネルギー(能源)法」は2009年の施行が予定されている。

 国家エネルギー局の張国宝・局長は2009年2月3日から開催された「全国エネルギー工作会議」において、「エネルギー『第12次5ヵ年』規画」(2011~2015年)の前期研究作業をスタートし、下半期にはドラフトを作成し広く意見を公募する考えを表明した。

 また、李克強・副首相は同会議において、クリーンで経済的なエネルギー供給システム構築の必要性を強調した。同副首相は、都市部と農村部の電力ネットワーク構築のほか、省エネや排出削減プロジェクト、西部地域から東部地域への送電プロジェクト、大型原子力発電所プロジェクトを優先的に進める必要があるとの見解を示した。

表4.23 「第10次5ヵ年」期間中(2001~2005年)の主なエネルギー指標

?

単位

2000年

2005年

年平均伸び率(%)

一次エネルギー生産量

標準炭換算
(億トン)

12.90

20.59

9.82

内訳:原炭

(億トン)

12.99

22.05

11.16

?

:石油

(億トン)

1.63

1.81

2.12

?

:天然ガス

(億m3)

272

493

12.63

?

:水力発電・再生可能エネルギー

標準炭換算
(億トン)

0.86

1.41

10.39

一次エネルギー消費量

標準炭換算
(億トン)

13.86

22.47

10.15

内訳:原炭

(億トン)

13.20

21.67

10.42

?

:石油

(億トン)

2.24

3.25

7.73

?

:天然ガス

(億m3)

245

479

14.35

?

:水力発電・再生可能エネルギー

標準炭換算
(億トン)

0.86

1.41

10.39

出典:「能源発展"十一五"規劃」(国家発展改革委員会、2007年4月)

② 新エネルギー

 中国にはこれまで、エネルギー全体をカバーした「エネルギー(能源)法」がなかった。このため、エネルギー全体を対象とした国としての長期的な「国家エネルギー戦略」が存在せず、個別のエネルギーを対象とした中長期規画や5ヵ年規画等で対応してきた。再生可能エネルギーをはじめとした新エネルギー関係では、「再生可能エネルギー法」(2005年2月)や「再生可能エネルギー中長期発展規画」(2007年8月)、「再生可能エネルギー『第11次5ヵ年』規画」(2008年3月)がある。

 こうしたなかで、中国科学院は2007年10月、2050年におけるエネルギー発展の戦略目標を定めた「応対戦略-持続可能なエネルギー体系の構築」と題する報告を公表した。

 具体的には、①2020年までに省エネ、クリーンエネルギー技術を重点的に発展させ、エネルギー効率を向上させる②2030年にかけて原子力に加えて、水力発電以外の再生可能エネルギーの発展を重点的に推進する③2050年頃に持続可能なエネルギー体系を構築し、中国の経済社会の持続可能な発展のためのエネルギー需要を基本的に満たし、エネルギー供給に占める化石エネルギーの割合を60%以下まで低下させ、再生可能エネルギーと原子力を主導的なエネルギーとする――との基本的考えを示した。

 中国科学院の路甬祥・院長は2008年3月23日、この報告を受けた形で、2050年までに原子力発電によって全電力の25~30%を、また再生可能エネルギーによって20~25%を供給し、化石燃料による電力供給を半分まで減らすという独自の長期戦略ロードマップを公表した。

ⅰ. 風力発電

 再生可能エネルギーの中でも、中国がとくに力を入れているのが風力発電である。中国政府は当初、「再生可能エネルギー中長期発展規画」において2010年の風力発電開発目標を500万kW、「再生可能エネルギー『第11次5ヵ年』規画」では1000万kWとしていたが、2008年には466万kWの風力発電所が新たに運転を開始したことから同年末時点ですでに894万kWに達した。

 なお、中国電力企業連合会が2009年1月5日に発表した2008年の電源開発実績によると、2008年に新たに9051万kWの発電所が運転を開始したことにより、中国全体の発電設備容量は同年末時点で7億9253万kWに達した。中国では、2006年、2007年と2年続けて1億kWを超える発電所が新規に運転を開始したが、2008年は1億kWには届かなかった。電源別の内訳は、火力発電6億132万kW、水力発電1億7152万kWなどとなった。

 中国電力企業連合会は2009年2月4日、電力網や電源関係の2008年の基本投資額が5763億元に達したことを明らかにした。内訳は、電源関係が2879億元、電力網関係が2885億元となった。このうち、風力発電向けの投資額は前年比88%の高い伸びを示した。

 また国家エネルギー局は2009年2月3日、原子力発電や風力発電など新エネルギーの開発利用を加速するため、2009年の電力部門での投資額が5800億元に達するとの見通しを示した。風力発電関係では、甘粛省や内蒙古自治区、河北省、江蘇省などに風力発電基地を10年かけて建設する足がかりをつける。

 なお、2008年8月に公布された「風力発電設備産業化専項資金管理暫行弁法」によると、大型風力発電設備の国産技術の確立を目的として、1500kW以上の風力発電設備50基を対象として、kWあたり600元を補助することになった。製造企業と部品製造企業の補助割合はそれぞれ50%である。

 「再生可能エネルギー中長期発展規画」に掲げられた風力発電目標を表4.24に、また「再生可能エネルギー『第11次5ヵ年』規画」の目標を表4.25に、同規画に盛り込まれた風力発電重点地域を表4.26に示す。

表4.24 「再生可能エネルギー中長期発展規画」の風力発電開発目標

項目

目標

2010

総発電設備容量

500万kW

建設重点

①東沿海部と「三北(西北、華北、東北の三地域を指す)」地域に30ヵ所の10万kW級の大型風力発電所を建設。江蘇省、河北省、内モンゴルに3ヵ所の100万kW級の風力発電所を建設。
②1ヵ所もしくは2ヵ所に10万kW級洋上風力発電実験プロジェクトを建設。

2020

総発電設備容量

3000万kW

建設重点

①広東省、福建省、江蘇省、山東省、河北省、内モンゴル、遼寧省、吉林省など開発条件を整えた地域に、設備容量200万kW以上の風力発電所を複数箇所建設する。
②新疆、甘粛省、内モンゴル、河北省、吉林省の一部地域に6ヵ所の100万kW級大型風力発電所、及び 100万kWの洋上風力発電所を建設する。

表4.25 「再生可能エネルギー『第11次5ヵ年』規画」の風力発電発展目標

項目

目標

2010

各種の風力発電設備

総発電設備容量

1000万kW

発電ユニットの生産能力

500万kW

関連設備、部品の生産能力

800万kW/年

小型風力発電機

運転台数

30万台

総発電設備容量

7.5万kW

設備生産能力

8000台/年

表4.26 「再生可能エネルギー『第11次5ヵ年』規画」に盛り込まれた風力発電重点地域

?

2010年までの設備容量(万kW)

建設中、又は既に建設が完了した発電所

運転中(累計)

重点地域

河北省

300

200

内モンゴル

400

300

江蘇、上海の沿海部

200

100

甘粛省

400

100

吉林省

100

50

遼寧省

100

50

新疆

100

40

合計

1600

840

その他地域

山東省

60

20

広東省

60

30

寧夏省

50

30

福建省

40

20

黒竜江省

20

10

浙江省

25

10

山西省

25

10

合計

280

130

その他地区

120

30

合計

2000

1000

ⅱ.バイオマス

 2006年1月施行の「再生可能エネルギー法」では、クリーンで高効率のバイオマス燃料の開発・利用、バイオマス液体燃料の生産・利用、エネルギー源となる作物の栽培などを奨励することを盛り込んでいる。また、石油販売企業は国務院のエネルギー主管部門または省級の人民政府の規定に従い、国家基準に達したバイオマス液体燃料を燃料販売網に組み込まなければならないと定めている。

 中国は各種の国家規画の中でバイオエネルギーの積極的な利用を打ち出しているが、国家発展改革委員会のウェブサイトに2008年5月16日に掲載されたニュースによると、農業部の孫政才・部長は、人民日報の取材を受け、エネルギー安全と引き換えに食糧安全が損なわれるようなことがあってはならないと強調した。

 孫部長は、バイオエネルギーの発展と食糧価格の高騰の間には密接な関係があるとしたうえで、中国の特徴を活かしたバイオエネルギーの発展方針を貫く必要があるとの見解を表明した。

 同部長は具体的に、トウモロコシや搾油原料等の植物油脂製品の生産に用いるバイオ燃料の規制を厳しくするとともに、ワラや家畜の排泄物といった農業廃棄物をできるだけ利用して農村でのメタンガス利用を大幅に拡大し、石油化学エネルギーを一部代替する必要があると指摘した。

 孫部長によると、中国では毎年、約7億トンのワラと約30億トンの家畜の排泄物が発生している。また、農村での生活廃棄物も毎年3億6000万トン発生しているため、これらをエネルギーとして利用できるポテンシャルはかなりあると推定されている。2007年末時点では、2650万戸の農家でメタンガスが利用されている。年間のメタンガス生産量は、標準炭1600万トンに相当する102億m3に達している。

 表4.27に「再生可能エネルギー『第11次5ヵ年』規画」のバイオマス関係の開発目標を、表4.28、表4.29、表4.30に「再生可能エネルギー中長期発展規画」に盛り込まれたバイオマス開発目標とバイオマス発電開発目標、バイオマス固体成形燃料開発目標を示す。

表4.27 「再生可能エネルギー『第11次5ヵ年』規画」のバイオマスの開発目標

項目

目標

2010

バイオマス発電の総発電設備容量

550万kW

非食糧系バイオ燃料の年間利用量

200万トン

バイオディーゼルの年間利用量

20万トン

農村家庭用メタン発酵槽

4000万戸

大型のメタン利用プロジェクト

6300ヵ所

メタン利用量

190億m3

バイオマス固体成形燃料の年間利用量

100万トン

表4.28 「再生可能エネルギー中長期発展規画」のバイオマス開発目標

項目

目標

2010

バイオマス発電の総発電設備容量

550万kW

非食糧系バイオ燃料の年間利用量

200万トン

バイオディーゼルの年間利用量

20万トン

メタン利用量

190億m3

バイオマス固体成形燃料の年間利用量

100万トン

2020

バイオマス発電の総発電設備容量

3000万kW

バイオエタノールの年間利用量

1000万トン

バイオディーゼルの年間利用量

200万トン

メタンの利用量

440億m3

バイオマス固体成形燃料の年間利用量

5000万トン

表4.29 「再生可能エネルギー中長期発展規画」のバイオマス発電開発目標

目標

2005-2008年

2010年

2020年

1.農業におけるバイオマス発電(主に藁、?を燃料とする)
2.林業におけるバイオマス発電モデルプロジェクト:各20万kW

農業・林業におけるバイオマス発電(サトウキビの搾りかすを含む):400万kW

農業・林業におけるバイオマス発電(サトウキビの搾りかすを含む):2400万kW

100ヵ所のメタン利用モデルプロジェクト:5万kW

1. 4700ヵ所の畜産センターのメタン利用プロジェクト。1600ヵ所の工業有機排水のメタン利用プロジェクト。
2. 大中型のメタンガス利用約40億m3。
3. メタンガス発電:100万kW

1. 1万ヵ所の畜産センターのメタン利用プロジェクト。6000ヵ所の工業有機排水のメタン利用プロジェクト。
2. メタンガスの生成量140億m3。
3. メタンガス発電: 300万kW

?

ゴミ発電:50万kW

ゴミ発電:300万kW

表4.30 「再生可能エネルギー中長期発展規画」のバイオマス固体成形燃料開発目標

項目

?

内容

開発目標

2010年

農村のエネルギー需要を賄い、エネルギー利用効率を改善するため、500ヵ所のバイオ固体成形燃料モデルプロジェクトを建設する。バイオ固体成形燃料の年間使用量は100万トンに達する。

2020年

バイオ固体成形燃料を一般の優良燃料として、利用・普及する。

生産方式

分散式

農村地域で分散式の小型加工方式を採用する。農作物のワラなどを利用する。

集中式

条件が整った地域に、大型のバイオ固体成形燃料加工工場を建設し、大規模に生産を行う。バイオ固体成形燃料の利用量は5000万トンに達する。

ⅲ.太陽光・太陽熱

 「再生可能エネルギー中長期発展規画」では、太陽光発電の開発目標として、2010年30万kW、2020年180万kWを掲げている。なお、中国資源総合利用協会再生可能エネルギー専門委員会などが共同で公表した「中国光伏(太陽光発電)発展報告」は、中国における太陽光発電のポテンシャルが大きいため、2030年には設備容量が1億kW、年間発電量が1300億kWhに達する可能性があると予測している。

 甘粛省の武威市では2008年12月19日、中国としては初めて送電網に接続された太陽光発電所が運転を開始した。中国の5大発電事業者の1つに数えられる中国大唐集団公司が建設していたもので、発電所の設備容量は1000kWである。2009年末までに、当初計画されていた2000kWまで拡張されることになっている。発電所が建設された武威市の砂漠地帯は、年間日照時間が2210時間に達し太陽光発電に有利な条件を備えていることから、年間174万kWhの発電量が見込まれている。

 太陽熱発電については、「再生可能エネルギー中長期発展規画」の中で、太陽エネルギーを重点発展分野として位置付け、必要な太陽熱発電技術研究・開発およびモデル試験を行うことが明記されている。

 しかし、いまのところ太陽熱利用は温水器に限られている。中国には現在、約500の太陽熱温水器生産会社がある。太陽熱温水器には平板型と真空ガラス管型の2種類があり、平板型が市場シェアの65%、真空ガラス管型が35%を占めている。太陽熱温水器は主として家庭で使われているが、工場や鉱山などでも利用されている。

 こうしたなかで中国科学院は2009年1月12日に開いた「2009年度工作会議」での承認を受けて、2050年までの太陽エネルギーの本格利用をめざした「太陽エネルギー行動計画」に着手した。計画によると、「2015年までの分散利用、「2025年までの代替利用」、「2035年までの大規模利用」の3段階を踏んで進められる。

ⅳ.地熱エネルギー

 中国は地熱エネルギーが豊富である。地熱エネルギーのポテンシャルは標準炭換算で2000億トンに相当するとの試算があるが、これまでに特定された分は580万kWで、このうち実際に利用されているのは3万kWに過ぎない。

ⅴ.再生可能エネルギーの建物利用

 中国政府は、建物への再生可能エネルギー利用も推進している。住宅・都市農村建設部と財政部は2008年6月2日、再生可能エネルギーを建物に利用するモデルプロジェクトの2008年度の公募を行った。それによると、技術的に見て先進的で省エネ効果が大きい再生可能エネルギーを建物に応用するプロジェクトを優先的に支持するとしたうえで、そうしたエネルギーサービスの仕組みを拡大することを推奨する方針を示した。公募では、再生可能エネルギーを利用する重点的なモデルプロジェクトを以下のようにあげている。

  • 建物と一体となった太陽エネルギーを利用する給湯(高層建築)および太陽エネルギーを用いた熱供給・冷却技術
  • 建物と一体となった太陽光発電技術
  • 太陽エネルギーを利用する公共の場所での照明技術
  • 沿岸地域や沿海地域、湖岸地域での地表水を利用したヒートポンプによる熱供給・冷却技術
  • 地質条件が適した場所での土壌熱源や水熱源タイプのヒートポンプ技術
  • 汚水熱源タイプのヒートポンプを利用する熱供給・冷却技術
  • 太陽エネルギーとヒートポンプを利用する熱供給・冷却複合技術

③ 省エネルギー

ⅰ.政策と経緯

 中国では、1998年1月に「省エネルギー法」(「中華人民共和国節約能源法」)が施行されたが、具体的な内容に乏しかった。その後、石油需要の拡大という状況の中で、2001年からスタートした「第10次5ヵ年」期において省エネに対する意識が高まった。

 国家発展改革委員会を中心に2004年11月にとりまとめられた「省エネルギー中長期規画」では、全体の省エネ目標として、2003~2010年までが年率2.2%、2010~2020年までが年率3%と定められた。また、2000~2020年までの業種別の省エネ目標として、発電部門18%、粗鋼生産部門18%、セメント生産部門29%、鉄道輸送部門14%などが設定された。さらに同規画では、具体的な省エネ対策として、「10大省エネ・プロジェクト」や「エネルギー多消費企業省エネ管理」を実施することなどが定められた。

 国務院は2005年、「節約型社会構築のための当面の重点取り組みに関する通知」を公布し、「省エネルギー中長期規画」によって定められたプロジェクトを実施に移した。具体的には、以下に示す取り組みが実施されることになった。

  • 10大省エネプロジェクト
  • 1000社多消費企業省エネプロジェクト
  • 乗用車燃費基準の強化
  • 新築住宅の50%省エネ設計基準の強化
  • 空調と冷蔵庫の省エネラベリング制度の強化
  • 水力、風力、バイオ燃料など再生可能エネルギーの利用の促進
  • 電力需要の需要側管理の強化
  • ESCO(エネルギー・サービス・カンパニー)事業の促進

 このうち、10大省エネ・プロジェクトの内容は以下の通りである。

  • 工業用石炭ボイラーの改造
  • 地域コージェネレーションの促進
  • 廃熱の利用
  • 石油の節約と代替
  • モーターシステムの省エネ
  • エネルギー使用系統の最適化
  • 建物の省エネ
  • 「緑色照明」の促進
  • 官庁の省エネ
  • 省エネの監察と診断

 こうした10大省エネ・プロジェクトの実施によって、5年間で標準炭換算2.4億トンの省エネが達成できると試算されている。

 2006年3月に全国人民代表大会(全人代)で承認された、中国の全体計画である「中華人民共和国国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』規画綱要」では、環境保護に加えて省エネがきわめて重要な施策として位置付けられ、単位GDPあたりのエネルギー消費量を2005年比で20%削減するという、具体的な数値目標が初めて示された。

 「第11次5ヵ年」期の初年度である2006年は、単位GDPあたりのエネルギー消費量が前年に比べて1.23%低下した。また、2007年については3.27%、2008年については4.59%の省エネが達成されたが、このままでは2010年までに2005年比で20%の省エネを達成することはほぼ難しい状況となった。

表4.31 主要生産物の省エネ目標

?

単位

2000年

2005年

2010年

火力発電(石炭火力)

g標準炭/kWh

392

370

355

粗鋼(総合)※

㎏標準炭/トン

906

760

730

粗鋼(不変)※※

㎏標準炭/トン

784

700

685

10種類の非鉄金属

トン標準炭/トン

4.809

4.665

4.595

アルミニウム

トン標準炭/トン

9.923

9.595

9.471

トン標準炭/トン

4.707

4.388

4.256

石油精製

㎏標準油/トン・係数

14

13

12

エチレン

㎏標準油/トン

848

700

650

合成アンモニア(大型プラント)

㎏標準炭/トン

1372

1210

1140

苛性ソーダ

㎏標準炭/トン

1553

1503

1400

セメント

㎏標準炭/トン

181

159

148

建築タイル

㎏標準炭/m2

10.04

9.65

9.4

※:各種工場の生産構造の違いに合わせて未調整。
※※:各種工場の生産構造の違いに合わせて調整。
出典:「能源発展"十一五"規劃」(国家発展改革委員会、2007年4月)
表4.32 主要設備の省エネ目標

?

単位

2000年

2010年

工業用石炭ボイラー(運転)

65

70~80

中小型モーター(設計)

87

90~92

風力タービン(設計)

70~80

80~85

ポンプ(設計)

75~80

83~87

空気圧縮機(設計)

75

80~84

室内用エアコン

エネルギー効率比(EER)

2.4

3.2~4

冷蔵庫

エネルギー効率指標(%)

80

62~50

家庭用料理レンジ

熱効率(%)

55

60~65

家庭用ガス温水器

熱効率(%)

80

90~95

平均自動車燃費

l/100km

9.5

8.2~6.7

出典:「能源発展"十一五"規劃」(国家発展改革委員会、2007年4月)
ⅱ.改正省エネ法

 2007年10月28日の第10回全人代常務委員会で省エネ法の改正が承認され2008年4月1日から施行された。国家標準化管理委員会は同4月18日、「改正省エネ法」の施行にあわせ、46項目の国家基準を制定、発表した。6月1日から順次、実施される。

 46の国家基準の内訳は、エネルギー多消費製品部門のエネルギー消費限度基準22項目、交通手段の燃料経済基準5項目、最終用途エネルギー製品の効率基準11項目、エネルギーの計量やエネルギー消費量の計算、経済的な運転等の省エネ基礎基準8項目となっている。新たに制定された基準は37項目、以前の国家基準の改正が9項目で、36の基準が拘束力を持つ。

 こうしたエネルギー消費限度基準が及ぶのは、火力発電や鉄鋼、非鉄金属、建築材料、石油化学部門の22種類のエネルギー多消費製品。交通手段の燃料経済基準は、軽商用車や旅客自動車、貨物自動車、三輪車、低速トラックなどが対象で、燃料消費量の規制値と試験方法が規定されている。

 最終用途エネルギー製品の効率基準の中には、家庭用ガス湯沸し器、家庭用電気温水器、家庭用クッキングヒーター、インバーターエアコン、セントラルエアコン、コンピュータディスプレイ、コピー機、中小型三相モーター、交流接触器、外部電源、遠心ポンプなどが含まれ、こうした製品のエネルギー効率の規制値や等級、省エネ評価値などが規定されている。

 国家発展改革委員会も2008年5月29日、「改正省エネ法」の施行を踏まえ、省エネポテンシャルの大きい技術の普及をはかることを目的として「国家重点省エネ技術普及目録」を公布した。

 同目録は、石炭や電力、鉄鋼、非鉄金属、石油化学、化学工業、建材、廃棄物、紡織の9つの業界に及び、最終的に50の重点省エネ技術を選定した。この中には、乾式TRT(炉頂圧回収タービン発電設備)や蓄熱式燃焼技術、高効率省エネガラス釜炉技術、ヒートポンプ省エネ技術などが含まれている。

ⅲ.1000社企業省エネ・プロジェクト

 省エネ目標を達成するための一環として、2006年4月に立ち上げられた「1000社企業省エネ・プロジェクト」の2007年の結果が2008年9月3日、国家発展改革委員会によって公表された。

 同プロジェクトは、政府が重点企業の省エネ管理を強化し、省エネの技術改造や、エネルギー利用効率向上などを促進するというものである。企業の選定にあたっては、1社あたりの年間エネルギー消費量が標準炭18万トン以上の独立採算企業が対象とされ、最終的に石炭や電力、鉄鋼、非鉄金属、石油化学、化学工業、建材、製紙、紡績の9業界から合計1008社が選ばれた。これら1000社の2004年におけるエネルギー消費総量は標準炭換算で6.7億トンに達し、中国全体の33%、工業用エネルギー消費総量の47%を占めている。

 国家発展改革委員会によると、「1000社企業省エネ・プロジェクト」の2007年の実績に関しては、破産などの理由によって対象外となった企業を除いて審査が行われた953社のうち、目標を達成した企業が全体の92%に相当する879社に達した。合計した省エネ規模は、標準炭換算で3817万トンと推定された。

 「1000社企業省エネ・プロジェクト」の実施により、ある程度満足のいく成果が得られたが、以下のような課題も浮き彫りになった。

  • (依然として)省エネに対する認識が低く、責任が不明確で、措置が具体的ではない。
  • 立ち後れた生産能力の淘汰が緩慢。
  • 省エネ・排出削減の重点プロジェクトの建設が停滞。
  • 奨励制度が不完全。
  • 省エネ構造が健全ではなく、環境保護費の徴収を改革することが困難。
  • 監督管理が不十分
  • エネルギー消費や汚染物質排出削減の統計制度が整備されていない。

 こうした結果を踏まえ国家発展改革委員会は2008年10月20日、「国家省エネセンター」の設立を発表した。同センターは、同委員会直属機関として、省エネ管理の技術サポートを行う。

  具体的には、省エネ政策や法規、基準、管理制度等の検討のほか、政府の関係部門の委託を受け、固定資産投資プロジェクトの省エネ評価を行う。また、省エネ技術や製品などの普及のほか、省エネの広報、省エネ標識管理、国際協力も担当する。

ⅳ.電気製品の省エネ・ラベル制度

 中国の基準・規格当局である中国標準化研究院は2008年7月23日、電気製品の省エネ評価を年内に公表し、2009年から施行する意向を明らかにした。省エネ・ラベルが付けられる電気製品は8種類に分類され、温水器や電子レンジ、扇風機、インバーターエアコン、コンピュータモニター、コピー機など、家電製品と事務機が含まれる。

 統一した省エネ・ラベルが強制的に付けられることによって、消費者は電気製品を購入する際に省エネ度が一目で分かるようになる。また、製造業者に省エネ製品を開発させる契機にもなると期待されている。

 中国では2003年、製品のエネルギー消費量とサイズによって決められた評価システムが導入された。クラス1~5まで分かれており、クラス1が最もエネルギー効率に優れている製品とされた。

 今回の省エネ・ラベル制度は、国内の製造業者だけでなく、輸入業者や輸出業者にも適用されるため、同研究院はすべての業者に対して、2009年の実施に向けて準備するよう通知した。

 温家宝首相も2008年7月23日、国務院常務会議を招集し、国をあげて省エネに取り組むよう指示した。会議では、エネルギー供給の逼迫が経済社会発展の重大な制約になっているとの認識で一致した。

 一方で、エネルギー利用効率が低い状況が改善されていないことに加えて、国の機関や企業、大型公共建築物、住宅等で電力等のエネルギーが浪費されているとの見解が示された。そして、自動車やボイラー、モーター、空調、照明等の分野で省エネの可能性がかなりあることから、有効な奨励策によって省エネをさらに進めるとの方針が明らかにされた。

 また、照明分野で節電の可能性がかなりあるとの判断から、中規模・大規模都市の政府機関や道路照明、ホテル、レストラン、公共施設等で使われている効率の悪い照明を2009年にかけて効率の高い照明に交換する必要性も示された。

 こうしたなかで財政部は2009年2月24日、効率の高い照明への切換えに関して2009年は合計1億個に対して補助金を出す考えを明らかにした。世界的な金融危機が照明メーカーに与えた影響を緩和することに加えて、省エネ照明の普及をはかることをねらっている。財政部によると、仕入れで30%、小売で50%補助する。この他にも地方政府からも補助金が出るケースがある。

 2008年は5000万個の照明に対して補助金が出された。政府の助成プログラムによって2009年1月までに6200万個の省エネ照明が販売されている。財政部は、省エネ照明に交換することによって、年間32億kWhの節電につながり、320万トンの二酸化炭素と3万2000トンの二酸化硫黄の排出削減につながったと試算している。

主要参考文献:

  1. 「中国環境統計年鑑」(2002-2007各年版、国家統計局・元国家環境保護総局、中国統計出版社)
  2. 「中国2007年国民経済・社会発展統計公開報告」(国家統計局編著、中国統計出版社、2008年2月)
  3. 「中国能源発展報告(2008)」(社会科学文献出版社、2008年3月)
  4. 「2007年全国環境統計公開報告」(環境保護部、2008年9月)
  5. 「新エネルギー・再生可能エネルギーの利用」(機械工業出版社、2006年2月)
  6. 「地熱エネルギー利用現状・発展動向」("資源&産業"雑誌、2007年4月)
  7. 「能源発展"十一五"規劃」(国家発展改革委員会、2007年4月)
  8. 「中国応対気候変化国家方案」(国家発展改革委員会、2007年6月)
  9. 「中国的能源状況与政策(エネルギー白書)」(国務院、2007年12月)
  10. 「2007年中国国土資源公報」(国土資源部、2008年3月)
  11. 「中国応対気候変化的政策与行動」(国務院、2008年10月)
  12. 「2007年中国水資源公報」(水利部、2008年10月)
  13. 「全国鉱産資源規劃(2008~2015年)」(国土資源部、2009年1月)

主要関連ウェブサイト:

  1. 科学技術部 (http://www. most.gov.cn)
  2. 中国科学院http://www.cas.cn
  3. 水利部(http://www.mwr.gov.cn
  4. 国土資源部(http://www.mlr.gov.cn
  5. 中央人民政府(http://www.gov.cn
  6. 国家統計局(http://www.stats.gov.cn
  7. 国家電力監管委員会(http://www.serc.gov.cn
  8. 環境保護部(http://www.sepa.gov.cn
  9. 国家発展改革委員会http://www.ndrc.gov.cn
  10. 国家エネルギー(能源)局(http://nyj.ndrc.gov.cn
  11. 中国電力企業連合会(http://www.cec.org.cn
  12. 国家電網公司(http://www.sgcc.com.cn
  13. 中国工程院http://www.cae.cn
  14. 財政部(http://www.mof.gov.cn
  15. 中国能源網(http://www.china5e.com
  16. 国際電力網(http://www.dlw.ip018.com