9.フロンティアサイエンス分野
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9.1 フロンティアサイエンス分野の概要

(1) 関連政策

1)各政策の分野別取り組みについて

① 中長期科学技術発展規画(2006~2020年)

 科学技術政策の長期的な方向性を示した「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006~2020年)」(「国家中長期科学和技術発展規劃綱要(2006-2020年)」)では、「フロンティア(前沿)技術」について、ハイテク分野において先見性、先導性、探索性を有する重要な技術を指し、次世代のハイテクおよび新興産業の発展の重要な基礎となり、国のハイテク・イノベーション能力を総合的に体現するものである、と定義している。

 同綱要では、数学、物理学、化学、天文学、地球科学等の基礎学科の全般的な発展をはかるとの方針が示されている。このうち数学については、離散・ランダム・量子および非線形等の問題における数学的理論・方法論等を含めた、基礎数学の重要な課題や数学と他の学科との相互浸透ならびに科学研究や応用から出てきた新たな課題を研究テーマとしてあげている。

 このほか、凝縮系の物質および新効果に関して、強相関系とソフト凝縮系、量子力学的なソフト凝縮系と新規効果、ボース=アインシュタイン凝縮、超伝導メカニズム、極端条件下での凝縮系の構造変化、多体系励起プロセス等を課題としてあげている。

 また、物質の深次元構造および宇宙次元の物理的法則に関しては、高エネルギー・高密度・超高圧・超強磁場等、極端状態下における物質構造と物理法則、統一理論、素粒子物理学の先端的課題、宇宙の起源と変化、ブラックホールおよび各天体の形成と変化、地球環境や災害に対する太陽活動の影響といった研究課題が示されている。

 地球科学関係では、地球システムの各圏(大気圏、水圏、生物圏、地殻、マントル、地核)間の相互作用、深部ボーリング、地球システムにおける物理的・化学的・生物的プロセスおよび資源・環境・災害への影響、鉱物形成理論、地球観察・探測システム、シミュレーション・システム等の研究課題があげられている。

 国の重大な戦略ニーズに対応した基礎研究に関しては、基礎科学と技術科学の融合を促進し、未来のハイテクの発展をもたらすとの方針を示したうえで、持続可能な海洋資源の利用と海洋生態系保護等について研究を行う考えを明らかにしている。

 さらに、量子の応用に基づいた新しい情報手段を先進国が競って研究することになるとの見通しから、量子制御研究を「重大科学研究計画」に盛り込んだ。重点的な研究課題として、量子通信のキャリアや制御原理およびその方法、量子計算、新しい量子の制御方法等の研究課題をあげている。

② 「第11次5ヵ年」科学技術発展規画

 中国政府は、「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)を「国家中長期科学技術発展規画綱要」を確実に実行に移すための重要な時期であると同時に、科学技術発展の戦略的な時期と位置付けている。

 2006年3月に全国人民代表大会(全人代)で承認された中国の全体計画である「中華人民共和国国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』規画綱要」では、基礎研究、フロンティア技術研究を強化する方針が明らかにされるとともに、基礎研究とフロンティア技術研究の発展の方向が示された。

 こうした規画を踏まえ、科学技術部は2006年10月27日、「国家『第11次5ヵ年』科学技術発展規画」(「国家"十一五"科学技術発展規劃」)を公布し、数学や物理、化学、天文学、地球科学、生物化学などの基礎学科をベースとして新興の複合学科を育成・支援するとともに全面的に調和・発展させるとの方針を示したうえで、以下のような課題について選択的に研究していく考えを打ち出した。

  • 凝縮物質とその新しい効果
  • 物質の深次元メカニズムと宇宙スケールの物理法則
  • 純粋数学および関連領域での応用
  • 地球システムの過程と資源・環境・災害への影響
  • 新しい物質を創造・転化させる化学プロセス

 また、同規画では、科学技術の基礎的事業、科学技術のインフラとプラットフォームの建設を強化する意向も明らかにした。この中には、大型天体望遠鏡や海洋科学総合調査船、大陸メカニズム環境モニタリングネットワーク、地下資源・地震予知向け極低周波電磁気探測ネットワーク等が含まれる。

2)重点分野推進政策

① 数学

 科学技術部は、2006年10月30日に公布した「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」(「国家"十一五"基礎研究発展規劃」)の中で、「第11次5ヵ年」期間中(2006~2010年)に、基礎数学と応用数学の研究を全面的に発展させ、数学とライフサイエンス、地学、情報、システム科学、材料、エネルギー、環境、エンジニアリング、経済、金融などの分野との融合研究を強化する方針を示した。

 具体的には、「純粋数学およびその学際的分野における応用」に関して、以下の主要研究テーマを掲げている。

  • 代数的構造、幾何構造、トポロジー構造などの構造問題
  • ラングランズ・プログラム、経路積分、相変態数学理論を含む純粋数学の重大問題の研究
  • 数学と物理学、ライフサイエンス、情報科学、エンジニアリング科学、経済・金融などの学科と相互融合により生じた重要な数学問題の研究。例えば、離散問題、ランダム問題、量子問題、計算法問題および多数の非線形現象における数学理論と方法など

② 基礎物理・高エネルギー物理

 「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」では、素粒子物理や原子核物理、凝集態物理(量子電磁力学、超伝導、半導体、表面、軟物質、極端条件下の物理、低温物理、液晶物理など)、ナノ科学、量子情報学、原子/分子物理、プラズマ物理、理論物理、計算物理などの各学科がバランスの取れた発展をすることを重視している。

 また、物理学と他の学科との融合、結合を強め、新興学科の発展を促進するとともに、物理学の基本法則や概念、技術の他の学科における応用を強化し、生命現象と生命活動における物理問題、ナノあるいは低次元系物理の研究を重視する考えも明らかにされている。

 さらに、力学研究の方向も示しており、破断力学やミクロ力学、損傷力学、従来の均質連続体を改良した力学、材料の強度理論と新しい実験手段、必要な機能に応じて材料を設計・計算する力学、複雑な流動理論――の研究を促進し、各種設計の最適化問題を研究するとしている。

 情報科学やライフサイエンス、航空宇宙、自然災害などの分野における力学の応用も重視しており、力学の理論的枠組みを健全化し、新しい試験・数値シミュレーション技術を発展させ、力学と他の学科との融合研究を推進していく方針も示した。

 先端的な課題として位置付けられている「凝縮系物質と新効果」では、以下の研究テーマが掲げられている。

  • 新しい量子特性を持つ凝縮系物質と新反応
  • ボース=アインシュタイン凝縮、超伝導・超流体メカニズム
  • 極端条件下の凝縮系物質の構造相変態、電子構造

 量子物理はミクロの世界を理解する基本であるため、中国の科学界も量子研究を非常に重視している。「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」では、量子制御の主要研究内容を以下のように明らかにしている。

  • 低次元量子制限空間体系の量子理論
  • 量子情報理論、量子コンピュータの中に拡張できる多量子ビットシステム、長距離量子通信と量子安全システムなど
  • 情報加工における量子現象、コヒーレント電子輸送

③ 天文学

 「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」では、天文学の研究方向が示されている。具体的には、比較惑星学、月科学、宇宙プラットフォームの研究を強化するとともに、地上望遠鏡と宇宙望遠鏡の建設を加速することが盛り込まれている。

 また、国際天文シミュレーション・プロジェクトに積極的に参加する意向が明らかにされた。公開された天文データを十分に利用し、天文とエンジニアリングの両面から国際天文プロジェクトに参加し、太陽・地球空間物理および天体動力学などを含む国家の戦略的ニーズに沿った研究を重視する方針も打ち出された。

④ 物理学と天文学の融合研究

 「国家『第11次5ヵ年』基礎研究発展規画」では、「物質深層構造と宇宙大規模物理法則」がフロンティア科学の重大問題と位置付けられており、同期間において以下の研究テーマがあげられている。

  • 素粒子物理学のフロンティア基本問題、
  • 暗黒物質と暗黒エネルギーの解明
  • ミクロと宇宙スケールおよび高エネルギー・高密度・超高圧・超強磁場などの極端状態における物質構造と物理法則
  • 全ての物理法則を統一した理論の探索
  • 宇宙の起源と変遷
  • 太陽、恒星・惑星系、ブラックホールと各種コンパクト天体などの各種天体と構造の形成と変遷など

 また「第11次5ヵ年」期間中に、大型の粒子・輻射探測器システム、多周波数帯大型望遠鏡、高機能計算・データ分析能力の構築を加速する一方で、国際協力も強化し、理論や計算、実験、観測などの分野において、物理と天文などの関連学科の融合研究を優先的に展開していく方針も示された。

⑤ 海洋

 海洋技術に関しては、「国家中長期科学技術発展規画綱要」の中で、浅海底における石油・天然ガスの探査技術に加えて、賦存量が豊富な海底油田における実収率を向上させる総合技術を重点的に研究し、海洋生物資源保護および高効率利用技術を開発するという目標が掲げられた。

 また、天然ガス・ハイドレートの調査開発技術、海洋金属鉱物資源海底採集輸送技術、原位置高効率抽出技術および大型海洋エンジニアリング技術を研究開発の重点とすることが明らかにされた。海洋関係のフロンティア技術には以下のようなものが含まれる。

ⅰ.海洋環境立体監視測量技術

 海洋環境立体監視測量技術は、大気中や沿岸、水面、水中における各種海洋環境要素を監視、測定する技術である。海洋リモートセンシング技術、音声計測技術、浮標技術、長距離海洋レーダ技術等を重点的に研究し、海洋情報処理と応用技術の発展をはかる。

ⅱ.海底多パラメータ迅速計測技術

 海底多パラメータ迅速計測技術は、地球物理や地球化学、生物科学などの特徴に関する多くのパラメータの同期計測を行い、リアルタイムで情報を転送する技術である。異常環境下のセンサー技術、センサー自動制御技術、海底情報伝送技術などを重点的に研究する。

ⅲ.天然ガス・ハイドレートの開発技術

 天然ガス・ハイドレートは深海底と地下の炭化水素である。天然ガス・ハイドレートの調査理論と開発技術、天然ガス・ハイドレートの地球物理と地球化学的探査と評価技術を重点的に研究し、天然ガス・ハイドレートの掘削技術と安全採掘技術の飛躍的な進歩の達成をめざす。

ⅳ.深海底作業技術

 深海底作業技術は、深海底工事作業および鉱物資源の採掘をサポートする水中技術である。大深度海底運搬技術、生命維持システム技術、高エネルギー動力装置技術、Hi-Fiサンプリングと長距離情報伝送技術、深海底作業設備製造技術、深海底ステーション技術を重点的に研究する。

 また、「国家科学技術支援計画『第11次5ヵ年』発展綱要」では、同期間中の重点プロジェクトが定められている。具体的には、以下の3つの課題が含まれている。

  • 重大海洋災害警報および応急技術に関する研究
  • 海洋石油ガスを開発・建設するための大型工事船の研究・製造に関する技術
  • 海洋エネルギーを開発・利用する核心技術の研究とモデル

 さらに、「国家ハイテク研究開発発展計画」(「863計画」)では、「近海、浅海の技術開発を深化し、深海、遠海の技術開発を開拓する」との方針に従い、「第11次5ヵ年」期間中の海洋技術分野の戦略的目標が以下のように定められている。

  • ⅰ.近海資源の利用水準の向上および深海の戦略的資源の備蓄を重点とし、近海の油田、深海油ガス田、天然ガス・ハイドレート、海洋海底固体資源の調査・開発の中核技術および大型設備を開発する。
  • ⅱ.海洋環境監視測定技術、とくに深海・遠海の監視・測定技術を発展、健全化し、200海里経済水域および西太平洋海洋環境立体総合監視・測定および監視制御の技術能力を構築する。
  • ⅲ.深海生物資源の探測・調査、開発・利用技術の研究を行い、海洋イノベーション薬品および海洋生物製品などの高付加価値製品を研究、製造する。
  • ⅳ.複数の海洋ハイテク研究・開発基地を建設し、海洋フロンティア技術を発展させる。ⅴ.中国の海洋技術を、近海・浅海から深海・遠海へと拡大する。

 国家発展改革委員会と国家海洋局は2008年2月、「国家海洋事業発展規画綱要」(「国家海洋事業発展規劃綱要」)を公布した。同綱要では、2010年~2020年までの海洋事業発展の計画目標を掲げている。具体的には、海洋技術の国際競争力の強化に加えて、科学的海洋管理、海洋経済、防災・減災および国家安全に対する支援能力強化をはかるとしたうえで、科学技術による経済的貢献率を50%に、また水不足に悩む沿海部での海水利用による貢献率を16~24%にするとした。

 

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