第3章 国家大学サイエンスパークの現状
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第1節 概要

 日本では「イノベーションシステム改革の象徴的な政策として大学発ベンチャー1000社構想を推進し」[1]、2005年に目標が達成された。これに対し、中国では、戦略的なハイテク産業の集積に資するよう、第11期5カ年計画期間に新たに30前後の大学発ベンチャーの本拠地である大学サイエンスパークが新設されることとなり、既存のものと合計すると、全国各地で80カ所に上る[2]

 中国における大学サイエンスパークは、前章で述べた中国各地の国家ハイテク産業開発区[3]との関係が深く、知財の効果的な創出や活用との関係も強い。国家イノベーションの体系を構成する重要な一部としての国家大学サイエンスパークの建設に至るまでの背景には中国で言う「校弁企業」(大学発企業)の変遷がある。[4]

 中国における大学発企業の歴史は、今日に至るまで大きく4つの段階に分けることができる。すなわち、1970年代までの「校弁工場」(大学発工場)時代、1980年以後の「校弁企業」(大学発企業)時代、1990年以後の「校弁科技企業」(大学発技術型ベンチャー)時代、2000年以後の「大学科技園」(大学サイエンスパーク)時代である。

 各時代における大学発企業の基本的な特徴や社会的な背景などについては次頁の表に示すが、「校弁工場」と「校弁産業」は位置づけが全く違うと同時に、管轄機関や事業内容も基本的に異なる。また、「校弁企業」と「校弁科技企業」は時系列では下表の通りだが、前者が完全に後者、すなわち大学発企業すべてが大学発技術型ベンチャーに変貌を遂げたと言うことではない。

表4.1 中国における大学発企業の誕生と変遷
時期 形態 位置づけ 関係機関 特徴
1970年まで 校弁工場 大学生を含む学生に対し思想教育を行う場 政府より共産党組織 学生に労働者の職業的意識等を養成してもらう
1980年以後 校弁企業 大学の予算不足を解消するツールの一つ 科学技術部より教育部 日本で言う大学発ベンチャーに近い企業原型を含む
1990年以後 校弁科技企業 大学で生まれた技術成果を生かして事業化 教育部より科学技術部 本稿ではこれを日本で言う大学発ベンチャーと捉える
2000年以後 大学科技園 ハイテク産業の育成、振興、集積の一環として 科学技術部と教育部 ハイテク産業開発ゾーンとの政策的、地域的連動
出典:技術経営創研作成[5]

 1990年以後、日本で議論されたように、中国でも大学の役割として、教育や研究に加えた「第3の役割」として「社会への還元」を意味する「服務社会」と言う理念が提起され、大学で創出された研究成果を生かした起業が活発に行われるようになった。そして2000年以後、日本で言う大学発ベンチャーに相当する大学発技術型ベンチャー[6]を質、量ともに増やしていく必要があると言う意識が高まり、単体ではなく互いに連携して、大学サイエンスパークへと発展してきた[7]

表4.2 大学サイエンスパークの発展の推移(2002年~2006年)
名 称 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
技術型インキュベータ(カ所) 58 58 46 49 62
面積(万㎡) 145 578.4 485.3 500.5 516.5
入居企業数(社) 2,380 4,100 5,037 6,075 6,720
入居企業人数(人) 51,576 70,855 69,644 110,240 136,122
単年度入居企業(社) 867 1,099 1,156 1,213 1,384
累計出身企業(社) 720 584 1,256 1,320 1,794
出典:中国タイマツハイテク産業開発センター

[1] 石黒憲彦(経済産業省前新規事業室長)「資本主義のすすめ」http://dndi.jp/00-ishiguro/ishiguro_3.php、S.シェーン著、金井一頼・渡辺孝監訳『大学発ベンチャー 新事業創出と発展のプロセス』(中央経済社、2005年)p359-p363。

[2] 新華網「"十一五“我国将新建30個国家大学科技園」2006年4月6日。

[3] 1988年、中国「火炬計画」が正式に実施されることになり、その中で重要な内容の一つとして、中国各地が地域的な特色を生かしながら、ハイテク産業開発区等の建設等に注力し始めた。

[4] 本稿で言う中国の「大学発企業」とは、中国の「高校校弁科技企業」(大学発技術型ベンチャー)に加え、必ずしも技術をベースにして創業された企業ではなく、「高校校弁工場」や他の「高校校弁非技術型企業」も含む用語として用いることにする。

[5] 技術経営創研『中国におけるハイテク・スタートアップス調査報告書』(産業技術総合研究所発行、2007年)。

[6] 中国では日本で言う「大学発ベンチャー」に相当する用語が存在せず、以前より用いられている「高校校弁工場」(一般に言うと大学が設立した工場型企業)の他、「高校校弁企業」(工場に限らない大学発企業)や「高校校弁科技企業」(大学が設立した技術型企業)、「高校校弁産業」(大学発企業群)がよく用いられるため、何をもって中国の大学発ベンチャーと言うかが問われることになる。これらの用語は、ある部分を特徴付けた用語であり、互いに重複した意味を有しているにもかかわらず、日本ではそれらの明確な分類をしないまま、中国の大学発ベンチャーを論じている場合が多い。この場合、引用先の用語の意味や、設定された研究対象の範囲、妥当性等について議論されておらず、内容の誤解を生ずる問題が生じている。

[7] 会議報道 「国家大学科技園建設:靠大聯合做大文章 」 中国教育新聞2002年3月30日。