第4節 産学官連携、イノベーション、国際交流等の状況
国家大学サイエンスパークにおける産(大学発ベンチャーやアライアンス企業等)、学(大学)、官(関連機関や国家ハイテク産業開発区、等)連携の基本的な仕組みは下図(次頁)に示す通りである。また、そ の仕組みの下で動かされているさまざまなプロジェクトの展開プロセスはまさに持続的なイノベーションの一環と言える。
すなわち、国家大学サイエンスパークにおける産学官連携の目標は、「ハイテク企業(大学発ベンチャー)のインキュベーション」及び「イノベーションの揺籃」の具現化である。その具現化を通じて、大 学における関連の教育研究の質の更なる向上や、産業界における新商品や新事業の創出が加速し、政府の関連政策の策定立案や国家ハイテク産業開発区全体のグレードアップにも貢献すると期待される。
また、近年は、日本の大手企業と中国の大学や、日本の大学と中国の大手企業などの日中間の産学連携も見られるようになった。
例えば、中国の理工系大学として最高峰に位置する清華大学/清華大学サイエンスパークは、アメリカとは異なる産学連携の成功例を有し、これまでに約200を超える起業化の実績を上げ、日本でも著名である。
清華大学には、広大なキャンパスの一角にベンチャー企業が入居するベンチャービルとインキュベーション施設がある。「清華科技園」(Tsinghua Science Park)と 称するインキュベーション施設「清華科技園発展中心」(Beijing Tsinghua Science Park Development Center)などがその例である。2002年7月9日、こ こへの入居を希望する会社を対象とした説明会が日本で開催された。
清華大学サイエンスパークには大学直営の企業も多い。大学が出資して設立し、株式市場に上場した企業として、北京大学の「方正集団」が有名であるが、一方、清華大学が生んだ「清華同方有限公司」、「 清華紫光集団」も有名である [1] 。実際、清華大学サイエンスパークは外資系企業や中国の一般の企業にも開放されている。
図4.2 国家大学サイエンスパークにおける産学官連携のイメージ
出典:技術経営創研 [2]
ちなみに九州大学の「国際産学連携」は、法人化後の九州大学オリジナルプロジェクトの一つである。従来、大学が行う国際連携は大学間学術交流協定などが基本だったが、九 州大学はアジアに近い福岡に立地すると言う地域特性を生かし、産学連携を含むアジア連携プロジェクトを強化・推進している。このような背景から、2002年12月、九 州大学は中国屈指の理工系名門大学である上海交通大学との「日中間技術連携の仲介」に関し合意に至った。これは両校がそれぞれの国、地域の窓口となり、日中相互の企業間、企 業と大学間の技術連携を仲介するものである。
今日、中国における大学のハイテク産業化事業は、国家的で戦略的な教育研究事業の重要な一環と位置づけられている [3] 。そこで、大学サイエンスパークの基本的な法的性格や具体的な役割をどのように再定義すべきか、国家ハイテク産業開発区などとの関係をどのように再構築すべきか、中 国の次世代教育やハイテク産業の振興に貢献し、また、大学発ベンチャーの創出や育成に資する効率的な行政サービスとしてどのようなものが必要かなどが、今中国において大きく問われているメインテーマの一つである [4] 。
[1] 北京大学と清華大学とは、互いに設立した企業で株式公開を競っている感がある、とも言われており、また、2002年9月に、北 京大学と中関村サイエンスパーク管理委員会は、帰国者の創業パークの設立に合意した。これについては後掲第8章に取りまとめた。
[2] 技術経営創研『中国におけるハイテク・スタートアップス調査報告書』(産業技術総合研究所発行、2007年)。
[3] いわゆる「大学発ベンチャー」の育成に関する政府主導の改革モデルを考える際、中国のような改革の経験に着目する意義は大きいと言う指摘がある( 角南篤「「科教興国」中国から学ぶもの-注目される「大学発ベンチャー」-」 http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0010.html )。
[4] 中国における大学サイエンスパークを論ずる際に、国家ハイテク産業開発ゾーンや21世紀に向けた教育振興アクションプラン、タ イマツ計画の他、国家重点実験室や国家工程研究センター、国家技術移転センター、ハイテク創業サービスセンター等も踏まえて行うのが有効である。