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書籍紹介:『中国の宇宙開発―中国は米国やロシアにどの程度近づいたか』(アドスリー、2019年1月)

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書籍名:中国の宇宙開発―中国は米国やロシアにどの程度近づいたか

  • 著 者: 林 幸秀
  • 発 行: アドスリー
  • ISBN: 978-4904419823
  • 定 価: 1,200円+税
  • 頁 数: 215
  • 判 型: 四六
  • 発行日: 2019年1月20日

書評:『中国の宇宙開発―中国は米国やロシアにどの程度近づいたか』

小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 月探査機「嫦娥4号」が1月3日、月の裏側での軟着陸に成功した。今年中ごろには長征11号ロケットが、中国のロケットとして初の海上打ち上げへ。年末ごろまでに「嫦娥5号」が月の表側からサンプルを採取し帰還する―。年明け早々、中国から意欲的な宇宙開発活動のニュースが次々に飛び込んで来ている。日本はとうに追い抜かれてしまっていると感じる日本人は多いかもしれない。中国の実力は世界開発先進国と比べてどの辺りまで来ているのか。そんな疑問を抱く人には格好の書となりそうだ。

 筆者は、文部科学審議官や宇宙開発研究開発機構(JAXA)副理事長などを歴任し、現在、科学技術振興機構の研究開発戦略センター上席フェローとして、中国の科学技術政策を調査、分析し続けている。科学技術振興機構研究開発戦略センターは、2011年、2013年、2015年の3回、中国を含む宇宙開発先進国・地域の宇宙開発実績を調査し、毎回「世界の宇宙技術力比較」という報告書として公表している。

 中国は毛沢東主席による「両弾一星」政策からスタートして、自国ロケットによる有人飛行に成功した世界3番目の国になるなど短期間で大きな成果を挙げてきた。今回の書では、「世界の宇宙技術力比較」に基づき、中国の宇宙開発活動の歴史と現状を詳述している。最初の章で詳しく紹介されているのが、2003年に初の有人宇宙飛行を成功させたときの様子。胡錦濤総書記、温家宝首相をはじめとする中国共産党中央政治局常務委員会の委員9人全員が、射場である甘粛省酒泉市近郊の酒泉衛星発射センターと、北京市内の北京航天飛行控制センターに出向いて、打ち上げを見守った。こうした記述からだけでも、この計画がいかに中国にとって国家威信をかけたものだったかを読者は理解すると思われる。

 では2011年、2013年、2015年の「世界の宇宙技術力比較」で、中国の実力はそれぞれどのように評価されていたか。100点満点の採点で、2011年は44点だった。米国95点、ロシアと欧州がそれぞれ65点、日本が53点となっているから、まだこれらの国・地域まで到達していない。2013年には49点に上昇したものの、依然、米国(95点)、欧州(70点)、ロシア(59点)、日本(52点)には及ばない。

 最近の中国の宇宙開発活動に関心を持つ読者には意外かもしれないが、2015年の比較でもこの順位は変わらない。米国94点、欧州67.5点、ロシア61.5点、日本53点のいずれよりも低い51.5点という評価だ。採点方法は宇宙輸送、宇宙利用(各30点満点)、宇宙科学、有人宇宙(各20点満点)の4分野の点数を合計する。有人宇宙分野では日本、欧州を追い越し、宇宙輸送分野でも日本を追い越し、宇宙利用分野ではロシアを追い越した。しかし、それ以外の評価は下回り、特に宇宙科学分野の評価がわずか2点だったのが響いている。

 では、2016年以降の実績も織り込むと2015年の評価はどのように変わるのか。これを示しているのがこの書の最も読み応えある箇所だろう。結論から言うと、中国の実力は2015年の「世界の宇宙技術力比較」より進展し、米国には及ばないが、日本を追い抜いて欧州、ロシアに近づきつつある、と筆者はみている。

 筆者はまた、2003年に中国が自国のロケットによる有人宇宙飛行を成功させたことに対し、「国威発揚のために科学的な大冒険を実施したのでは」という当時、一部にみられた見方も明確に否定している。「手順を踏んで一歩一歩科学技術的な階段を上ってこの偉業に到達したというのが実際である」と。さらに加えて「豊富な資金」、「圧倒的なマンパワー」、「急激に拡大する宇宙関連市場」という大きな強みを中国が持つことを強調した。その上で、中国が抱える課題も併せて明確に指摘している。

 まず挙げているのが、相変わらず宇宙科学活動が貧弱であること。「衛星や宇宙船の打ち上げなどのハードの開発が先行し、科学者のボトムアップの研究意欲を糾合してのプロジェクトになっていない」と筆者はみている。さらに「いまだにオリジナルな研究開発が行われていない」と厳しい指摘が続く。その上で「オリジナリティが発揮できるようになるには、中国社会における研究開発の歴史と科学文化の蓄積が必要」と提言していることを注視すべきだろう。今後の大きな変化と進展に期待を込めた提言といえそうだから。

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