書籍紹介:『越境する大気汚染 中国のPM2.5ショック』
書籍名:『越境する大気汚染 中国のPM2.5ショック』
- 著者: 畠山 史郎
- 出版社: PHP研究所(PHP新書
- ISBN: 978-4-569-81740-8
- 定価: 本体 780円(税別)
- 種類・頁数: 新書、210ページ
- 商品の寸法: 17.2×10.5×1.0 cm
- 発行日: 2014/1/29 Printed in Japan
書評:畠山 史郎「越境する大気汚染―中国のPM2.5ショック」(PHP研究所)
小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)
この冬もPM2.5が日本の新聞やテレビで何度も取り上げられた。北京市環境保護局の発表によると、2013年に大気の状態が良好だった日数は約48%にとどまり、重度の汚染に見舞われた日が58日に上ったという。大気汚染が深刻な中国河北省では、環境対策をおろそかにしたという理由で昨年、201人もの省幹部が問責処分された、と伝えられている。
著者は、本書でも詳しく紹介されているように2002年から中国上空の大気汚染物質の航空機による国際共同観測を実施している。PM2.5を初めとする大気汚染物質が大陸から日本に飛んでくるのは北西の季節風が強まる冬場。ただし、日本で高濃度のPM2.5が観測されるのは、西高東低の気圧配置が安定している日ではない。「移動性高気圧が西から東に移動してくる」あるいは「中国中南部にあった低気圧が急速に東シナ海を抜け、本州南岸を通過する」といった気象条件の時に高度に汚染された大気の塊が運ばれてくる―。自身の研究、観測結果を基に越境の実態を説明したくだりに、納得する読者は多いだろう。
中国の大気汚染の根本的な原因として石炭使用を挙げた上で、一般家庭で煮炊きに石炭を使っていた時代がほとんどない日本と違い、石油や天然ガスへの燃料転換は相当な時間がかかると見ているところも、的確な予測ではないだろうか。
日本政府の尖閣諸島国有化宣言をきっかけに日中関係はさらに難しい状況に陥っている。お互いがマスメディアの情報に頼って相手国の悪い印象を強くしている、という指摘が日中友好を望む人たちから聞かれる。中国の環境問題解決に日本が協力することで日中の関係修復のきっかけに、という声も聞く。この場合、公害問題解決の先輩国としての技術的支援を念頭に置く人が多いかもしれないが、著者の視野はもっと広く、深い。
「中国の大気汚染状況の苛烈さ、今後の危険性を日本だけでなく世界に訴えることが必要。それによって中国の世論が高まり、中国政府が本腰を入れて対策を打たなければならない状況を作り出すことが重要だ」と、あとがきにある。
さらにその結果として「(石炭燃焼を減らすと)石油や天然ガスを大量輸入することになり、価格も高騰すると思われる。私たち日本人もそれを負担する覚悟がなければ、対策を要求することはできない」とも。
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