分野別第十二次五ヵ年計画
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ナノ研究国家重大科学研究計画『12・5』特定計画

2012年5月 科学技術部

概要

 「ナノ研究国家重大科学研究計画『12・5』特定計画」は、まず「20-30年後にナノテクノロジーに基づく新産業が形成されると見込まれる」などナノ科学技術の重要性を強調している。

 「第11次五カ年計画」が大きな成果を挙げており、計画期末の時点で中国が、ナノ科学技術分野でSCI(サイエンス・サイテーション・インデックス)論文の発表総数、世界1位、被引用数、世界2位になったことを自賛している。

 一方、ナノデバイス、ナノエレクトロニクス、ナノ関連装備製造などの分野において、先進国に比べて依然、格差があり、ナノ科学技術の発展を支える検査・測定と加工などの関連機器は、欧米や日本などの国に大きく依存している現実も認めている。

 今回の特定計画では、レベルの高い基礎研究の優位性を発揮し、ナノ科学技術の産業化プロセスを促進するための幅広い分野での研究目標が示されており、この中には、ナノテクノロジーの安全性の予測・予防に関する研究も含まれている。


ナノ研究国家重大科学研究計画「12・5」特定計画

一、情勢とニーズ

 21世紀のナノ科学技術は、現在、世界各国の経済発展を推進する主な駆動力の一つとなっている。20~30年後に、ナノ科学技術は情報、エネルギー、環境保全、バイオメディカル、ものづくり、国防などの分野で幅広く利用され、新たな技術変革を生み出し、在来産業の改造とグレードアップを促進し、そしてナノテクノロジーに基づく新興産業を形成すると見込まれている。

 情報分野においては、新世代のチップ、ディスプレイデバイスと記憶装置に応用され、そして重要な役割を発揮するナノデバイスは、将来の情報産業のコア競争力を形成するだろう。エネルギー分野においては、ナノテクノロジーは新たな高効率エネルギーと代替エネルギー(例えばリチウムイオン電池、太陽エネルギー電池、燃料電池、水素エネルギー)およびエネルギー高効率利用のキーテクノロジーを提供することができる。環境保護分野においては、ナノテクノロジーは、従来処理が困難だった水、空気と土壌の汚染処理に用いられるだろう。バイオメディカル分野においては、ナノテクノロジーは疾病の早期診断技術、組織器官修復と低毒性で効率的な治療技術などに用いられるだろう。

 先進諸国はいずれもナノ科学技術の発展に対して戦略的配置を行っており、そしてナノ科学技術計画を続々と策定して、その発展を支援している。現在までに、国家レベルのナノ科学技術発展計画を発表している国はすでに60を超えている。

 現在、世界ナノ科学技術の発展は以下の特徴を示している。ナノ科学技術が各分野へ急速に浸透し、単一技術から統合技術に転換していること、多分野が横断し、集中的に重大な科学課題を解決するあるいは重大なブレークスルーを取得するための応用技術になっていること、応用に向けて、基礎研究-応用研究-技術転移を一体化した研究方式の形成が強調されること、基礎研究から応用研究および産業化へ転換し、世界の大企業がナノテクノロジーをますます重視し、産業化のスピードが明らかに加速していること。

 「第11次五カ年計画」の期間に、わが国はナノスケールの基礎研究において、一連の独創的で重要な成果を獲得し、国際的にも大きな影響を与えている。例えば、ナノ金属銅の超靱・延性、およびナノテクノロジーによって関連材料の導電率を高める新しい手法を発見したこと、炭素原子間の単結合と二重結合の分子画像を明確に識別できる程の画像の「撮影」に成功したこと、カーボンナノチューブデバイスの研究が世界半導体開発ロードマップに取り込まれたこと、炭素材料「ファミリー」の新しい元素であるグラファイトアルキンを合成したこと、クモの糸が水を集める「マルチスケールシナジー」のメカニズムを明らかにしたこと、「ナノ閉じ込め触媒」の新概念を提起し、触媒の創製に応用して、改質水素中に含まれる微量のCOによって燃料電池の電極中毒不活性化が起こされるという世界的な難題の解決に成功したこと、新型のナノ抗癌剤を合成して、癌の治療へ新しい手段と方法を提供したことなどが取り上げられる。

 「第11次五カ年計画」期末の時点、SCI(サイエンス・サイテーション・インデックス)論文の発表総数が世界1位、被引用数が世界2位であった。わが国のナノ科学技術に関する特許権の付与された数は、すでに世界2位に上がり、そして一連の国内および国際的な標準を制定している。

 国の重大な戦略ニーズに対応して、一連のナノ科学技術の戦略的ハイテク研究を展開し、一連のキーテクノロジーの難題を突破し、多数の自前の知的財産権を備えた研究成果を獲得し、多くの研究成果は幅広い産業化応用の可能性が顕在化している。例えば、エイズに対する迅速でローコストの定量検査、カーボンナノチューブに基づく携帯電話タッチパネル、電力碍(がい)子の汚染フラッシオーバ防止塗膜技術、石炭からのエチレングリコール製造の鍵となる触媒、リチウムイオン電池に用いられるカーボンナノチューブ複合電気伝導材など、ナノテクノロジーは大規模に応用されている。

 複数の国家級ナノ科学技術拠点を建設している。北京で国家ナノ科学センターを、天津で国家ナノテクノロジー・工学研究院を、上海でナノテクノロジーおよび応用国家工学研究センターを、蘇州には国家ナノテクノロジー国際イノベーションパークを設立したことによって、わが国のナノ科学技術研究開発のプラットフォームシステムを次第に形成し、ナノ科学技術の急速な発展を推進し、ナノ科学技術の産業化プロセスを促進している。

 一方、わが国は、ナノデバイス、ナノエレクトロニクス、ナノ関連装備製造などの分野において、先進国に比べて依然、格差がある。ナノ科学技術の発展を支える検査・測定と加工などの関連機器は、欧米や日本などの国に大きく依存している。

二、全体構想と発展目標

(一)全体構想

 「国家中長期科学と技術発展計画要綱(2006~2020年)」を引き続き徹底的に実施し、わが国経済社会発展の主な戦略ニーズと世界ナノ科学技術の主な先端的基礎科学問題をめぐって、基礎研究の高度化と産業化促進を大筋として、ナノ科学技術と経済の相互結合を促進し、関連機器装備の開発とイノベーションを奨励し、わが国のナノ科学技術分野におけるレベルの高い基礎研究の優位性を発揮し、オリジナルのイノベーションを重視し、将来の科学技術開発の最先端を制覇する。基礎研究-応用研究-技術転移の一体化プロセスを推進し、イノベーション成果の実用化を加速し、わが国のナノ科学技術の産業化プロセスを促進する。

(二)発展目標

 ナノ材料、デバイスとシステム、バイオメディカル、測定特性などの面において世界一流の独創的な成果を獲得する。情報、バイオメディカル、エネルギー、環境、ものづくりなど重要な応用分野において重大な進展を取得する。ナノスケールのエコロジー印刷製版、高密度の記憶装置、新型ディスプレイ、疾病の快速診断、水浄化、高度なエネルギー転換などのナノ材料、デバイスと技術の大規模利用を促進する。一群のハイレベルな学術リーダーを育成し、そして世界でも重要な影響力を持つ研究チームを結成する。

三、主要任務

(一)ナノ基礎科学課題の研究

 ナノ基礎理論研究を展開し、ナノ構造ユニット間の相互作用の理論モデルを確立し、ナノ材料の構造活性相関を解明し、ナノ構造加工と製造に関する新理論・新方法を開発し、生命サイクルにおけるナノ-バイオ界面効果およびナノバイオメディカルの基本プロセスと基礎的理論問題を探求する。

(二)先進的な機能性ナノ材料

 マルチスケール、マルチレベルのナノ材料とシステムに関する基礎研究と、ナノ材料および製品の使用性と失効メカニズムの分析を行う。機能ナノ構造と材料の構築およびこれに相応する電気学、光学、熱学、力学の性質に関する基礎研究を行う。熱力学的に安定したナノシステムの成因、法則とユビキタス性についての探求、新しいメカニズムに基づくナノ材料の傾向に関する動力学研究、表界面相互作用とナノ材料の相変化メカニズムおよびその安定性についての研究を行う。

(三)ナノスケールの検査測定・加工方法、装置と基準

 測定の新しい原理と方法を開発し、ナノスケールでの基本物性の定量化測定を実現する。電子学、生命科学、環境科学とエネルギー科学に必要なナノ計量・分析方法を発展させる。ナノ基準・標準物質とナノテクノロジー関連規格を発展させ、ナノテクノロジー標準化システムを確立する。基本物理量のトレース計測研究をナノスケールで展開する。ナノ材料の共通装置、技術と基準を安定で規模的に整備する。高時間分解能と高空間分解能のナノ特性評価方法と検査機器を確立する。

(四)ナノ情報材料とデバイス

 新たなロジックと新たな原理に基づくナノデバイス、量子効果に基づくデバイス情報処理理論とナノデバイス性能のモデリング計算、ナノ情報材料およびデバイスを製造するためのコア技術、ナノデバイスの大規模創製と品質管理の方法、新型ナノ電子・光電子デバイスおよびセンサーとシステム、マイクロメカトロニクス(MEMS)からナノメカトロニクス(NEMS)システムへの融合とシフト技術、ナノデバイスの集積とシステムの設計・整備方法を開発する。

(五)ナノバイオとナノメディカル

 ナノ粒子と生物活性物質の組み立て方法、悪性腫瘍と心脳血管疾患など重大疾病を対象とした多機能ナノ標的配信システム、組織器官修復と再生用のナノ構造インプラントと細胞足場、エイズや肝炎など重大疾病に対する迅速でローコストな検査測定に用いられるナノ材料とデバイス、医療機器用のナノ材料とデバイス、組織修復と再生医学などに関するバイオメディカルナノテクノロジーなどが含まれる。

(六)環境ナノ材料と技術

 室内空気汚染物質、工業排出の有毒有害ガス、動力機械の排出ガスの浄化に資するナノ浄化材料および触媒浄化技術、CO2排出削減と捕集技術、飲用水と浄水処理技術、重金属イオンと残留農薬の快速検出方法、土壌に含まれる重金属イオンと有機汚染物質の固定と除去方法、新型のナノろ過材および技術など、新しい生分解性プラスチックやセルフクリーニング材、長時間作用型化学肥料と短時間作用型農薬などを開発する。

(七)エネルギーナノ材料と技術

 ナノ結晶太陽電池、新しい薄膜太陽電池、有機太陽電池、熱電電池、スーパーコンデンサなどに関するナノ新材料を開発する。省エネ・排出削減、新しい触媒、伝統燃料の高効率利用に適用するナノ新技術など、石油と天然ガスの採掘、輸送および総合利用に適用するナノ新技術を開発する。二次電池のエネルギー密度、動力型電池の寿命を向上させ、高効率のナノ結晶エネルギー貯蔵材料などを開発する。

(八)ナノ技術の応用と開発

 省エネ・環境保全、次世代の情報技術、バイオ、農業、先端装置製造、新エネルギー、新材料、新エネルギー自動車などの戦略的新興産業のキーテクノロジーにおけるナノ材料、デバイスとシステムの応用を核心とする。ナノテク製品の標準化生産を重視し、複数の重要なナノテク製品基準と安全生産規格を制定する。ナノエコロジー印刷製版、高密度の記憶装置、新型ディスプレイ、疾病の快速診断、水の浄化、効率の高いエネルギー変換などに用いるナノ材料、デバイスと技術の大規模応用と産業化を重点的に推進する。

(九)ナノテクノロジーの安全性

 ナノ材料、ナノ薬物(製剤)、ナノ医学機器、およびナノ製品などと標的臓器、標的細胞、標的分子との相互作用プロセスについて、分子・細胞、動物のレベルで研究する。ナノ材料が環境の中で生成、移転、凝集するなどの進化行動と安全問題との関連性について研究する。ナノ安全性の数値分析モデルを構築して、ナノ材料の生命システムに対する作用の安全性評価システム、ナノ材料・デバイスの安全性に対する予測・予防について研究を行う。

四、保障措置

(一)トップダウン設計を強化し、特定研究プログラムを徹底的に実施する

 ナノ研究重大科学研究計画を引き続き実施し、トップダウン設計との統一調整を強化し、「国家ナノ科学技術指導協調委員会」の役割を十分に発揮させることによって、既存の基礎研究、応用研究および産業化研究などについて全体的に配置を行い、国の重大な戦略ニーズと世界の科学最先端に向けて、重大な科学目標によるけん引をさらに強調し、プロジェクト首席研究者責任制およびイノベーションを奨励する評価メカニズムの改善を図り、系統的で独創的な重要成果の創出を促進する。

(二)拠点整備を強化し、プロジェクト・拠点・人材の結合を促進する

 ナノ研究拠点の建設を引き続き強化し、国家重点実験室とナノ研究開発センターなどの拠点をはじめとする科学研究プラットフォームの役割を十分に発揮し、プロジェクト・拠点・人材の緊密な結合を促進する。科学技術資源の公開・共有制度を強化し、科学技術資源の合理的配置と効率的利用を促進する。地方政府や企業に、ナノテク支援プラットフォームの構築へ積極的に参加するように吸引し、ナノ科学技術産業化プラットフォームの協同イノベーションシステムを共同で構築するよう探索する。

(三)イノベーション人材の育成・導入へさらに力を入れる

 各種のハイレベル人材計画を十分に利用し、一群の国際的視野を備え、ナノ科学技術の発展をリードすることができるハイレベルなリーダー人材を育成し、体制とメカニズムを革新し、政策的環境を最適化し、保障措置を強化し、海外の優秀人材の導入へさらに力を入れ、世界一流のナノ科学技術研究チームを養成する。

(四)国際協力と科学普及を強化する

 優秀な外国人科学者と海外の優秀な華人学者を多様な形で受け入れ、ナノ研究重大科学研究計画の実施へ参加させる。わが国の科学者の国際協力への参加および国際組織での職務担当を支援し、国際協力プランの提案を奨励する。科学普及を重視し、科学精神を発揚し、科学普及事業を重大科学研究計画を実施する目標と課題の一つに取り上げ、全国民の科学的素養の向上を促進する。