第108回CRCC研究会「中国の科学技術政策」(2017年9月4日開催)
「中国の科学技術政策」
開催日時:2017年9月4日(月)15:00~17:00
言 語:日本語
会 場:科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講 師:阮 湘平(ゲン ショウヘイ)氏:
中華人民共和国駐日本国大使館公使 参事官
講演資料:「 中国の科学技術政策」( 420KB )
講演詳報:「 第108回CRCC研究会講演詳報」( 1.26MB )
中国で新技術の価値高める共同実験を 阮湘平公使が日本に呼びかけ
中国総合研究交流センター 小岩井忠道
阮湘平駐日中国公使参事官が9月4日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究交流センター主催の研究会で講演し、中国の科学技術政策を詳しく紹介した上で、日本に対しもっと中国との科学技術協力を拡大、充実するよう呼びかけた。
中国は、2006~2020年、2016~2020年をそれぞれ対象期間とした国家中長期科学技術発展計画と国民経済・社会発展第十三次五カ年計画の下で、意欲的な科学技術政策を進めている。い ずれの計画においても柱となっている理念が、イノベーションだ。さらに昨年5月には、国家イノベーション駆動発展戦略要綱が公表された。その中で「2020年にイノベーション型国家の仲間入りを果たし、国 家イノベーションシステムを初歩的につくりあげる」、「2030年にイノベーション型国家の前列に入り、経済社会発展のレベルと国際協力を大幅に向上させる」、「2050年に科学技術イノベーション強国となり、世 界の主要なサイエンスセンターとイノベーションセンターになる」という三段階の戦略目標を掲げた。
こうした計画、戦略の下で、科学技術管理体制の改革も進む。100以上あった資金、プログラムに関する各種科学技術計画を、国家自然科学基金、国家科学技術重大プロジェクト、国 家重点研究開発計画など五つに統合したのが大きな改革の一つ。110の国と政府間科学技術協力協定を締結するなど国際協力も着実に拡大、進展した。1979年に国際協力機構(JICA)を 窓口にした技術協力がスタートし、1980年には科学技術協力協定を締結するなど日本との科学技術協力も進んだ。阮氏はJSTの「日本・アジア青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプラン)」と、中 国科学技術部が昨年スタートさせた「中日若手科学技術担当者交流計画」に触れ、人材交流でも大きな成果を挙げていることを強調した。
「中日若手科学技術担当者交流計画」で昨年、中国に招かれた日本の若手行政官は78人。「今年は100人の招聘を予定している。ここにおられる若手行政官の皆さんもぜひ参加してほしい」と、阮 氏は呼びかけた。
阮氏が講演の最後に強く訴えたのは、もっと中国との科学技術協力を拡大、充実してほしいという日本に対する期待だった。「協力を発展させることを願って指摘する問題点」と断りながら氏は、中 国側から見た日中科学技術協力の不十分な点を率直に指摘した。氏がまず挙げたのは、日中双方ともお互い1位ないし2位の貿易相手国になっている経済関係の大きさに比べ、科学技術協力の規模が小さい現状。科 学技術協力協定の下で2年に1回開かれる次官級の科学技術合同委員会で決まる協力案件が大学同士の協力に偏り、研究機関・法人、企業が入った協力が少ないことを氏は指摘した。
「日本のマスコミでも目にするのは、技術流出や知的財産(権の侵害)といった話が多い。合同委員会の動きも柔軟性に欠ける。中国側が合同委員会の参加者を次官級に格上げした結果、科 学技術部以外の参加メンバーが増えたのに比べ、日本側は依然として文部科学省中心の構成になっている。もっと他の省庁からの参加が増えるような仕組みにする必要があるのではないか」。阮氏は、日 本側により柔軟な取り組みを求めた。
人的交流の現状についても、氏の要望は続く。科学技術・学術政策研究所の資料にある数字を引き、日本から中国を訪れる研究者と、米国を訪れる研究者は、数はむしろ中国を訪れる研究者の方が多いものの、滞 在期間の長さに明確な違いがあることを問題視した。「中国では短い期間交流して帰国するというケースが多い。米 国を訪れる日本人研究者と同じように中国とももっとじっくり共同研究ができるような交流が必要ではないか」と、阮氏は提案した。
阮氏はさらに日本企業に対しても、中国を新しい技術を実験する場として見る目を持つことを求めた。日本で電気自動車の普及が進んでいない現状と、京都市で3年前から中国製の電気バス5台が走行しており、さ らに2台追加される予定であることを紹介し、「中国は大きな市場であるとともに、企業にとっていろいろな実験が可能な隣国。技術にも賞味期限があり、大 事にしまっているうちに別の技術に取って代わられてしまうことがありうる。価値があるうちにさらに技術の価値を高めるため、日本の企業が中国で共同実験を試みてほしい」と、呼びかけた。
(写真 CRCC編集部)
阮 湘平(ゲン ショウヘイ)氏:
中華人民共和国駐日本国大使館 公使参事官
略歴
1984年3月 日本東北大学工学部金属材料工学科 卒業
1984年4月~1986年1月 冶金工業部鋼鉄研究総院 助理工程師
1986年2月~1988年2月 中国科学技術交流センター 項目主管
1988年3月~1989年4月 中国科学技術交流センター 駐日代表
1989年4月~1991年8月 中国科学技術交流センター 項目主管
1991年9月~1994年12月 中国科学技術交流センター 日本処 副処長
1995年1月~1998年1月 中国駐福岡総領事館 領事
1998年1月~2001年8月 中国科学技術交流センター アジア・アフリカ処 処長
2001年9月~2005年10月 科学技術部中日技術協力センター 項目弁公室 主任
2005年11月~2010年1月 中国駐日本国大使館 参事官
2010年1月~2010年9月 中国駐日本国大使館 公使参事官
2010年11月~2014年5月 科学技術部国際合作司 公使参事官
2014年5月~現在 中国駐日本国大使館 公使参事官