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薬用植物で日本との協力に意欲 日中大学フェア&フォーラムで貴州省研究所

2019年 9月2日 小岩井忠道(科学技術新興機構さくらサイエンスセンター)

 中国から21の大学、研究機関が展示ブースを構え、研究成果などを紹介する日中大学フェア&フォーラムが8月29、30日、お台場の東京国際展示場青海展示棟で開かれた。清華大学、北京大学、浙江大学、上海交通大学、南京大学、中国科学技術大学など中国を代表する有力大学に混じって、はじめて四つの研究所、サイエンスパークが出展した。その一つ貴州省農業科学院現代農業発展研究所は、日本でも関心が高まっている薬用植物に関する研究成果を紹介し、日本との協力に強い意欲を示していた。

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貴州省農業科学院現代農業発展研究所ブースのスタッフ。右から二人目、林茂副研究員。その左、呉建勇書記。

 同研究所が紹介していたのは、刺梨(トゲナシ)と呼ばれるバラ科の落葉低木。貴州省をはじめ中国南部の広い地域に生息している。その果実は乾燥させたり、ジュースにして飲食されてきた。日本でもイザヨイバラと呼ばれ観賞用植物としても知られる。研究所が重視しているのは、果実に含まれる免疫力向上や抗がん作用が期待できる成分。これらの成分を含む薬を製品化するために必要なさまざまな研究を進めている。

加工、栽培技術向上が課題

 薬用作物の難しいところは、多くの農作物のように収穫後にそのまま出荷できないこと。洗浄、湯通し、乾燥などの作業の手間が加わる。もとは野山に生息していたため耕作地で栽培すると、耕作地に生えてくる他の雑草に負けてしまう弱さも持つ。収穫まで数年かかる種類も多いため、毎年収穫しようとすると作業が複雑になり、連作障害が発生する種類も多い。同研究所は、製品化に不可欠な効率的栽培を可能にする取り組みにも力を入れている。

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桑原明日香科学技術振興機構研究開発戦略センター・ライフサイエンス・臨床医学ユニットフェロー(右端)の質問に答える林茂副研究員(左端)

 ブースを訪れる人たちに応対していた林茂副研究員は「刺梨の実はビタミンCやビタミンPをたくさん含む。すでにサプリメント(健康補助食品)として商品化しているが、より価値の高い薬品にするための研究を急いでいる」と現状を説明した。貴州省は中国南西部の山岳地帯に位置する。省内に多い石の多い土地でも育ちやすい刺梨の栽培面積は、省内だけで野生地を含めると113万ムー(約750平方キロ)に及ぶという。「日本の新しい農産物加工技術を知りたいし、最先端の機器にも関心がある」。林茂副研究員は、日本との協力に強い意欲を示していた。

 同研究所のブースには、科学技術振興機構研究開発戦略センターの桑原明日香ライフサイエンス・臨床医学ユニットフェローも訪れ、研究所で薬用植物から薬品を作るためにどのような研究が行われているか、林茂副研究員に熱心に質問していた。桑原フェローは、この日、同じ会場で開かれている「イノベーション・ジャパン2019」で行われた研究開発戦略センター主催のセミナーで、植物など安価な資源から医薬品など付加価値の高い製品を作り出すバイオ生産と合成生物学の現状と展望について報告したばかり。

 桑原フェローによると、薬用植物からどのようにして薬用成分を作り出し、さらに実際に薬効があるかを確かめる臨床研究が各国で進んでいる。薬品のほかに、より製品化しやすいサプリメントや食品添加物、飼料添加物をつくる試みも盛んになっており、今や第3次植物バイオテクノロジーの時代といえる、という。

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記者の質問に答える呉建勇貴州省農業科学院現代農業発展研究所書記(右)

貴州省の新しい就職先に

「薬用植物をはじめとする農産物の加工技術によって貴州省に多い貧しい地域の人々の就職先も増え、豊かになれるはず、とわれわれも頑張っている。われわれの加工技術を紹介したいし、日本の進んだ新しい技術を知りたい」。呉建勇同研究所書記も日本との協力に強い期待を示していた。呉書記によると、すでに漢方薬の原料となる天麻は日本に輸出されている。天麻はオニノヤガラというラン科の多年草の塊茎を乾燥させたもので、めまい、かゆみ、けいれんなどを抑える漢方薬の成分として使われている。

 同研究所と展示ブースが同じ中国医学科学院薬用植物研究所(北京)も、今回がはじめての参加。侯俊玲北京中医薬大学教授がブースを訪れる人たちに中国医学科学院薬用植物研究所の漢方薬研究の現状について説明していた。侯教授によると、まず主になっているのは野生の薬用植物を栽培したときに有用成分の含有量が野生種に劣らないようにする研究。さらに薬用植物から漢方薬を製造するまでに出る廃棄物を有機肥料として活用する方法や、クッキーなどに添加するサプリメントや洗顔フォームなど漢方薬以外の製品化も重要な研究対象となっているという。侯教授は、甘草(カンゾー)が漢方薬の原料として日本の製薬メーカーに輸出されていることも明らかにした。

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中国医学科学院薬用植物研究所の研究活動について説明する侯俊玲北京中医薬大学教授(右)

日本も薬用植物生産増へ

 薬用植物は、漢方薬(中医薬)の本場、中国だけでなく日本でも近年、関心が高まっている。2015年に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」の中で、漢方薬メーカーと産地との情報交換や、契約栽培の取り組みを推進するとともに、医薬品の規格基準を満たすための栽培技術の確立などを推進する、という方針が盛り込まれた。農林水産省は、2015年に524ヘクタールだった薬用作物の栽培面積を2020年度に630ヘクタールに拡大する目標を掲げている。栽培技術確立や優良種苗の安定供給のための実証圃場の設置、農業機械の改良、技術アドバイザーの派遣といった促進事業を進める予算が今年度に組まれている。

 ただし、日本国内の薬用作物生産量は、1988年をピークに大幅に減少しているのが現状。薬用植物から作られる安価な生薬(医薬品として精製される前の漢方薬原料)の輸入品が増えたことが大きな理由だ。現在、生薬の9割は輸入品で、中国からの輸入生薬が77%を占める。「日本は中国と緯度があまり変わらないから薬用植物の栽培には向いている。しかし、中国でしか栽培できないものが多い」。侯俊玲北京中医薬大学教授はこのように語り、日本は引き続き中国からの多くの生薬を輸入せざるを得ない、との見通しを示した。

 一方、中国では中医薬(漢方薬)の品質向上が図られた結果、薬用植物から作られる生薬(中医薬の原料)の価格上昇が起きていることが、1月30日、農林水産省内で開かれた同省主催の「薬用作物の産地化に向けたシンポジウム」で明らかにされている。中国の生薬の需要は日本をはるかにしのぐ。2016年の中国の生薬生産量は約400万トン。日本が中国から輸入する生薬の量は中国の全生産量の0.5%でしかない。生薬を原料に作られる中医薬の中国国内需要も年約20%という伸びが続いており、生薬の生産額は2003年1.4兆円だったのが、2016年には14.7兆円に増大している。

 日本漢方生薬製剤協会の小柳裕和・生薬委員会生薬国内生産検討班長によると、中国政府にとっても中医薬は、経済政策上、重要な産業となっている。2016年を初年度とする「第13次5カ年計画」では、年間の販売額2,000万元以上の中医薬企業の総営業収入額を2015年の13兆1,643億円から2020年に26兆4,776億円に倍増する目標が盛り込まれている、という。

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