中国研究会開催報告&資料
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第20回CRCC研究会「中国経済の現状と課題-世界的金融危機を乗り越えて」/講師:関志雄(2009年8月6日開催)

 科学技術振興機構(JST)中国総合研究センター(CRC)主催の第20回研究会は8月6日(木)JSTにおいて開催されました。

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 今回は「中国経済の行方」と題した全4回シリーズの研究会の第1回目として、野村資本市場研究所シニアフェロー関志雄(かんしゆう)氏を講師としてお招きいたしました。

 関氏は1957年香港生まれ。香港中文大学を卒業後、来日され、1986年に東京大学大学院博士課程を修了後、香港上海銀行に入行されたのち、1987年に再来日され、野村総合研究所、独立行政法人経済産業研究所を経て、現在は、株式会社野村資本市場研究所のシニアフェローをされております。

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 関氏は、政府関係の委員会委員も務められており、経済審議会21世紀世界経済委員会委員を皮切りに、現在は、財務省関税・外国為替等審議会専門部会委員をされております。著書には1996年度のアジア・太平洋賞を受賞された『円圏の経済学』のほか、『最新中国経済入門』、『共存共栄の日中経済』、『中国を動かす経済学者たち』など多数あります。また、ホームページ「中国経済新論」を主宰されたり、NHKラジオ第1放送「ラジオあさいちばん」に定期的に出演されるなど、メディアにもたびたび登場されておられます。現在、『チャイナ・アズ・ナンバーワン』を執筆中で、9月下旬に東洋経済新報社より発売予定とのことです。

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 関氏の講演では、改革開放30周年を迎え、年率10%に近い高成長を遂げてきた中国経済の今後の行方について、内外情勢の最近の変化を踏まえて、さまざまな視点から分析、議論、展望されました。中国は1970年代末に改革開放に転換してから、現在GDP、輸出入合計総額とも世界第三位の経済、貿易大国になり、世界におけるプレゼンスが高まっています。その一方、中国国内では格差の拡大や人口の高齢化など成長への負の要因が顕在化しつつであります。2005年の平均寿命は73歳、2007年の乳児死亡率は千分の15.31であり、これらは30-40年前の日本と同じような値になっています。また、エンゲル係数や一人当たりの電力消費量も40-50年前の日本と同様な値となっています。中国国内の地域間の所得格差も拡大しています。たとえば、2008年一人当たりGDPについて、上海、北京などの東部では平均36,720元(1元≒14円)に対し、内モンゴルや新疆などの西部では半分以下の平均16,000元でした。所得の格差が拡大すれば民間消費の低下を招くことになります。昨年の米国発金融危機の影響も加わり、中国の高成長の持続性には疑念も生じています。中国は去年11月に下記の10項目の景気対策を打ち出しました。

 ①安価な住宅の建設、②農村基盤の整備、③鉄道などインフラ建設、④医療、文化、教育事業の促進、④環境対策の強化、⑥技術革新の促進、⑦震災被災地の復興加速、⑧国民の収入引き上げ、⑨増値税(付加価値税)の減税、⑩銀行貸し出しの拡大の10項目です。

 この景気対策の投資総額は、2010年末までに4兆元(約57兆円)に達すると見込まれています。世界同時経済危機のなかにあって、中国の財政出動は世界経済成長へ大きく寄与するであろうと関氏の研究データは示しています。

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 講演後の質疑応答では活発な議論がなされ、非常に有意義な研究会となりました。最後に中国総合研究センター角南篤副センター長による挨拶により閉会いたしました。

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 今回の研究会には、80名の募集であったにもかかわらず、官公庁、企業、大学、研究機関、報道機関、及びJST関係者約200名以上の方々が参加されました。大変盛況でした。この場を借りて、お礼をいたしたく存じます。また、今後も皆様のお役に立つ各種の研究会を企画、開催してまいりたいと存じておりますので、引き続き温かいご支援、ご協力をお願い申し上げます。

(中国総合研究センター フェロー 米山春子 記)