第88回CRCC研究会「中国の海洋開発技術動向」/講師:磯﨑 芳男(2015年10月15日開催)
「中国の海洋開発技術動向」
開催日時: 2015年10月15日(月)15:00-17:00
会 場: 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講演詳報: 「第88回CRCC研究会 詳報」( 428KB )
海洋開発で急速に力をつけつつある中国-磯﨑芳男JAMSTEC海洋工学センター長
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)海洋工学センター長の磯﨑芳男(いそざき よしお)氏は10月15日午後、東京千代田区の科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホールで開かれたJST中国総合研究交流センター(CRCC)主催の研究会で、ベールに包まれた中国の海洋開発技術について具体的な例を挙げながら分かりやすく解説した。
この日の講演は「中国の海洋開発技術動向」と題して行われ、磯﨑氏はこの中で世界最深の7000㍍の潜航能力を有する中国の有人潜水調査船「蛟竜」について言及。最大潜航深度が6500㍍の日本の有人潜水調査船「しんかい6500」と比べ、空中重量、採取試料などの運搬能力(ペイロード)、海中作業時間、降下速度、人間が乗る耐圧殻やのぞき窓の大きさなどの面でもすぐれていると報告した。磯﨑氏によると、有人潜水調査船の性能をみるために極めて重要な指標であるペイロードは「しんかい」が150㌔であるのに対し、「蛟竜」は220㌔もあり、海中作業時間でも「蛟竜」は12時間で「しんかい」を4時間も上回っているデータがあるという。
磯﨑氏はまた、中国の海洋開発技術力が急速に伸びている背景として、「(海洋開発が)国家海洋局によって一元的に管理されていることや、(海洋)石油の開発や国威発揚が大きなモチベーションになっている」と指摘。中国が有人潜水調査船の開発だけでなく、複数の新しい海洋調査船、遠隔操作型無人探査機(ROV)、自律型無人探査機(AUV)、砕氷船、海洋石油掘削装置(オフショアリグ)などの建造を積極的に進めている事実を紹介した。
だが、磯﨑氏はその一方で、中国の海洋開発の中核技術が依然として海外の技術に大きく依存している実情も指摘。中国がこうした技術の国産化に力を注いでいるものの、現時点では日本の方がまだ優れているものがあると語った。同氏はその一例として「しんかい」の最大潜航深度について触れ、「日本の安全基準は中国や米国に比べて極めて厳しく設定されており、『しんかい』の最大潜航深度を中国や米国並みの基準で計算すると、8000㍍を超える」といった点を披露し、耐圧殻の製造方法の面でも日本が優れていると語った。さらに、25年に亘る「しんかい」の安全な調査潜航を支えてきた運用技術は、運用を始めたばかりの中国にとっては貴重な技術であろうと語った。しかし、中国も耐圧殻の国産化を推進しており、運用を重ねることにより運用技術も蓄積されていくであろうと話した。これは、有人潜水調査船に限った事ではなく、海洋調査船、探査機などについても導入した海外技術に基づいて運用し、改良していくことによって国内の技術が高まっていくであろうと語った。
また、磯﨑氏は中国が近年、世界最大の海洋石油産業界展示会『Offshore Technology Conference (OTC)』に大挙して参加していることなどを挙げ、日本が現状では手がけていないオフショアリグの建造を数多く実施しており、また掘削機器も製造に取り組んでいるなど、造り続けることによって中国が海洋技術分野で急速に日本や欧米諸国に追いついてきていると強調。「(日本としては)一歩でも先に行くように、(中略)中国の動向にとらわれることなく、われわれなりの技術を深めていきたい」と訴えた。
(文・写真 CRCC編集部)
磯﨑 芳男(いそざき よしお)氏:
国立研究開発法人 海洋研究開発機構海洋工学センター長
略歴
1950年生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。
1975年 三菱重工業株式会社入社。広島造船所、本社船舶・海洋事業本部、長崎造船所勤務。
2006年 独立行政法人海洋研究開発機構(現 国立研究開発法人海洋研究開発機構)入職。 地球深部探査センター技術開発室長(2006年7月~2010年3月)。海洋工学センター長( 2010年4月~)