2016年度CRCCシンポジウム「中国原子力開発の現状と動向」開催報告
当日配布プログラムPDF( 2.15MB )
開催概要
日 時: 2017年02月22日(水)13:30 - 17:00(13:00開場・受付開始)
会 場: 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講演資料: 下記プログラム欄に掲載
講演詳報: 「原子力開発の現状と動向」( 10.4MB )
プログラム
13:30 - 13:45 開会挨拶
沖村 憲樹 科学技術振興機構(JST) 特別顧問
13:50 - 14:30 基調講演「中国原子力開発の現状と展望」
孫 俊 清華大学原子力・新エネルギー技術研究院 副研究員
講演資料:「 中国的核能开发与展望」( 2.60MB )
14:30 - 15:10 基調講演「中国核燃料リサイクルの現状と発展」
劉 学剛 清華大学原子力・新エネルギー技術研究院 副室主任
講演資料:「 中国核燃料循环现状与发展」( 1.41MB )
15:10 - 15:20 休 憩
15:20 - 16:55 パネルディスカッション
モデレータ:
窪田 秀雄 テピア総合研究所 主席研究員
パネリスト:
永崎 隆雄 日本科学技術交流協会常務理事・事務局長/千代田テクノル社アドバイザー
講演資料:「 中国の核燃料サイクルの状況」( 2.31MB )
渡辺 搖 一般社団法人海外電力調査会 特別研究員
講演資料:「 中国の発電から核燃料サイクル」( 1.76MB )
孫 俊氏
劉 学剛氏
意欲的な計画と多くの課題 中国の原子力研究者が率直な報告
中国総合研究交流センター 小岩井忠道
科学技術振興機構(JST)中国総合研究交流センター主催のシンポジウム「中国原子力開発の現状と動向」が2月22日、都内で開かれた。中国清華大学の原子力研究者2人が、中国の意欲的な原発・核 燃料サイクル推進計画の現状とともに、直面している課題についても詳しく明らかにした。
基調講演者として中国から招かれたのは、清華大学原子力・新エネルギー技術研究院の孫俊 副研究員と、劉学剛 副室主任。孫氏は「中国原子力開発の現状と発展」と題し、海外からの技術導入に始まり、自 主技術重視にかじを切り替え、さらに次世代(第四世代)炉開発にも力を注ぐまでの経緯を報告した。第四世代炉として力を入れている高温ガス炉について、出 力20万キロワットの実証炉を2018年の上半期に電気系統に連結し、発電するという見通しに加え、60万キロワットの商用炉の設計案を昨年12月に政府に提出したことを明らかにした。
日本ではナトリウムを冷却材とする高速増殖原型炉「もんじゅ」が、ほとんど運転実績のないまま廃炉方針が決まったばかり。対照的に中国は、ナトリウム冷却高速炉についても着々と研究開発を進め、実 験炉で2010年に臨界試験、2011年7月に初送電を達成済みだ。今年、福建省で実証炉着工へ向けての動きが始まる、との見通しも孫氏は示した。
写真1 孫俊 副研究員
2020年に石油と天然ガスの海外依存度がそれぞれ70%、50%に上るという予測がある。加えて、大量の化石燃料使用による深刻な大気汚染。さ らには気候変動対策として二酸化炭素の排出削減という国際的な要請...。こうした中国が直面する大きな課題を挙げて、孫氏は「今後も中国は原子力に注力する」と決意を示した。具体的には、現 在さまざまな型がある原発を華龍Ⅰ号、ACP100など第三世代の炉に集約し、さらに高温ガス炉など第四世代の炉でも自主開発に力を入れて世界トップの原子力技術を身につけ、輸出も目指す、という方向を示した。
一方、「中国核燃料サイクルの現状と発展」という題目で報告した劉氏は、ウラン鉱石の採鉱から濃縮、核燃料加工などを指すフロントエンド(前段)と、使 用済み核燃料の再処理から放射性廃棄物の処分までを指すバックエンド(後段)に分けて、中国政府が力を入れている核燃料サイクル開発の現状を詳しく紹介した。
写真2 劉学剛 副室主任
現在、中国で運転中の原発は36基。建設中の原発は21基あり、世界一多い。2020年には発電規模が58ギガワットになると見込まれている。劉氏はまず、原子力発電発展の要因として、2 013年時点の1人当たりの電力消費量がまだ、日本に比べ2分の1、韓国に比べ3分の1で、これから電力需要の増大が予測されることを挙げた。加えて孫氏同様、深 刻な大気汚染を引き起こしている石炭が一次エネルギーの64%も占めている現実と、エネルギー安全保障が原子力発電を推進する駆動要因となっていることを挙げた。
原発の寿命を40年として、2020年の発電規模を60ギガワットと予測すると必要な天然ウラン量は約38万トン、年間9,600トンとなる。中国国内の天然ウラン埋蔵量は約20万トンしかなく、2 015年の国内のウラン採鉱量も約1,600トンにとどまる。海外企業への出資や買収と、輸入を合わせた海外に依存する8,000トン余りを加えることで、何とか年間9,600トンの需要が満たせる...。氏は、こ うした事情が、ウラン資源を効率よく利用可能な核燃料サイクルの確立に中国が力を注ぐ理由となっているとしている。
世界原子力協会(World Nuclear Association)が2015年に公表した報告書によると、中国のウラン濃縮能力は、2015年時点で570万~700万SWU(分離作業量)。2 020年までに1,070万~1,200万SWUまで拡大すると見込まれている。劉氏はこの数字と共に、2010年に中国国内で公表済みの濃縮需要予測グラフを示し、濃 縮能力が需要予測を上回って着実に拡大していることを強調した。
他方、加圧水型軽水炉だけでもフランス、ロシア、米国から導入した炉に加え、カナダから導入した重水炉(CANDU炉)、さらには開発中の高温ガス炉など多様な炉型を抱える中国特有の実態がある。炉 型ごとに異なる燃料を製造しなければならないという効率の悪さも、劉氏は認めた。
さらに使用済み燃料の中間貯蔵、再処理、放射性廃棄物処理処分という核燃料サイクルのバックエンド(後段)でも、日本をはじめ各国と同様の問題に直面している実態が明かされた。使 用済み燃料から再利用できるウランとプルトニウムを取り出す再処理については、2010年に完成し、実際の使用済み燃料を用いた試験も実施している年間処理能力50トンの施設がある。こ れに続く年間処理能力800トンの再処理施設をフランスのアレバ社と共同で建設する覚書が2014年3月に取り交わされた。この他、2020年に着工予定の再処理施設(年間処理能力200トン)の 建設計画もスタートしている。
ただし、これら新規の再処理施設建設が容易でないことも劉氏は認めている。黄海に面した江蘇省の港湾都市、連雲港市に再処理施設を建設する計画に対し、激しい反対運動が起きた例(注)を挙げて、建 設地選定に当たっては「安全を重視する文化の育成と、一般の人々に受け入れてもらう努力が必要」であることを強調した。
(注:2016年8月、連雲港市に再処理施設を建設する計画が明らかになった直後から、反対を叫ぶ数千人以上のデモが連日、続き、装甲車が出動し、多くの住民が逮捕される事態に発展した。市 当局は計画の一時停止を発表した)
劉氏によると再処理施設建設自体の難しさに加え、もう一つの問題がある。これら本格的な再処理施設が完成するまで、使用済み燃料が貯まり続けることだ。す でに使用済み燃料プールが満杯となった原発が何カ所もあり、これらのプールから使用済み燃料を取り出して、使用済み燃料中間貯蔵施設にいかに運搬するかが切実な悩みになっている。既 に2003年と2004年にプールが満杯になった大亜湾原発1、2号機(広東省)から甘粛省の中間貯蔵施設まで延々、運搬することが行われている。運搬距離は実に3,700キロメートルに及ぶ。ま た中間貯蔵施設自体が容量不足になり拡張工事が行われているほか、秦山3期原発(CANDU炉、浙江省)のように乾式貯蔵施設を建設したところもある。
放射能レベルが低中程度の放射性廃棄物に関しては、5カ所の処分場建設計画のうち、既に3カ所が完成している。ただし、建設は難航した。対策として、新 規原発の建設に際しては廃棄物処分の計画も併せて提出することを義務づける法整備が2014年になされた。ただし3カ所ある処分場のうちの二つは甘粛省と四川省という内陸に位置し、沿 岸に遍在している原発立地場所から遠いという問題は、使用済み燃料の中間貯蔵と同様だ。
使用済み燃料を再処理した後に出る高レベル放射性廃棄物に関しては、ようやく2016年に新たな地下処分場の候補地を探す作業が始まった。5~10年以内に地下処分試験施設を建設するのが目標だが、甘 粛省で岩石試料の採取や地下水質調査などがスタートしている段階にある。
劉氏の率直な話から明らかになったのは結局、中国も核燃料サイクルを確立するために多くの課題を抱えているというということだ。氏はまず、法律の整備、技術基準の確立が遅れており、必 要な人材育成を含む管理面での強化が急務だとしている。技術面でも設計、製造や、材料レベルでの基礎研究を同時に推進していく必要があるにもかかわらず、指導層は、基礎研究の重要性まで目が向いていない。原 発を運転している電力会社はもうかっているが、ウラン鉱石の探査、採掘や、使用済み燃料の再処理、放射性廃棄物の処理処分は大事であるにもかかわらず利益の配分が少ない。施設の建設に当たっては、安 全重視の文化を育成し、一般の人々に受け入れてもらう努力も必要だ、など多くの課題を挙げた。
シンポジウムでは、両氏と日本NPO原子力専門家を加えたパネルディスカッションも行われた。日本原子力研究開発機構の北京事務所長を務めたこともある永崎隆雄 日中科学技術協会事務局長は、世 界のウラン需要が2030年には今の約2倍になるとの見通しの中で、中国が国内外の探鉱・生産拡大に力を入れていることや高速炉導入を急いでいることを評価した。同時に、核 燃料工業や再処理の新しい施設建設計画が反対運動で難航している現状を打開するために、原子力法や原子力損害賠償法の制定の必要を指摘した。
写真3 (左から)渡辺搖 海外電力調査会特別研究員、永崎隆雄 日中科学技術協会事務局長、窪田秀雄 テピア総合研究所主席研究員
渡辺搖 海外電力調査会特別研究員は、海外電力調査会が1992年から毎年20人の中国の原子力技術者を研修生として招き、日 本からも中国にこれまで累計346人の原子力専門家を派遣していることを紹介した。中国がこれから華龍Ⅰ号やAP1000といった新しい第三世代の原発を建設、稼働すると初期故障が必ず出る。そ の時にこうした技術者の交流という日中協力が大きな力を発揮するはず、と渡辺氏は技術者交流の意義を強調した。
中国側の両氏も、日中協力についての司会者の質問に対し、「原子力は事故が発生したら国境や分野を越えて協力、責任を負う必要がある」、「高速炉開発で、日本は燃料の製造、管 理などを含め豊富な経験を持つ」、「東海村、六ヶ所村での再処理経験に学ぶべきことは多い」など、協力に積極的な考えを示した。
写真4 パネルディスカッションで議論する孫氏、劉氏
また、中国が力を入れている高温ガス炉についても、高温に耐える材料、ガスタービンなど超高温での経験、水素製造などに関する基礎研究など先進的な技術蓄積が日本にあることを評価し、「 セミナーやシンポジウムなどを含めた人事交流を推進したい」という意欲が示された。
沖村憲樹 科学技術振興機構特別顧問も、開会のあいさつの中で日本が中国以上に両国間の緊密な交流に力を入れる必要を強調した。氏は、その理由として日中両国の教育・科 学技術に対する予算額をはじめとする政府の取り組み、大学のグローバル化、引用率の高い論文数、原子力・宇宙・スパコンなど重要な科学技術成果など多くのデータを示し、「 中国の科学技術水準はすでに日本を追い抜いている」と指摘した。
写真5 シンポジウムの様子
(文・写真 CRCC編集部)
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登壇者紹介
■講演者
孫 俊(Sun Jun): 清華大学原子力・新エネルギー技術研究院
- 副研究員博士、副教授、博士課程指導教官
第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)
- 教育育成特別プロジェクトタスクフォース中国代表
略 歴
2000.9-2004.7: 清華大学機械工学専攻、学士、熱エネルギー・電力工学
2004.8-2009.7: 清華大学航天航空学院、博士、電力工学・熱物理工学
2009.8-2013.11: 清華大学原子力・新エネルギー技術研究院、アシスタントフェロー
2013.12-2016.6:同副研究員 2016.7-現在:同副教授
研究対象
原子炉熱水力学、原子力シミュレータ、ナノ・マイクロ流動と伝熱、分子シミュレーション等
主要職務
超高温ガス炉関連の設計、研究、教育育成、国際普及等
劉 学剛(Liu Xuegang): 清華大学原子力・新エネルギー技術研究院
- 副室主任博士、副研究員、博士課程指導教官
略 歴
1994.9-1999.7: 清華大学化学工学専攻、学士
1999.9-2004.7: 清華大学原子力・新エネルギー技術研究院、修士/博士
博士論文テーマ『核燃料のバックエンド・サイクル一体化プロセス研究』
2004.7-2006.7:同ポストドクター 研究テーマ『中国の核燃料サイクル戦略研究』
2006.7-2008.12:同アシスタントフェロー 2008.12-現在:同副研究員
研究対象
核化学化工、アクチノイド元素分離、放射性廃棄物処理処置
主要職務
使用済み燃料後処理、高レベル放射性廃棄液分離、放射性廃棄物処理処置、廃炉、核燃料サイクル計算、核燃料サイクル戦略及び政策
■モデレータ
窪田 秀雄(くぼた ひでお): テピア総合研究所主席研究員
略 歴
1953年、神奈川県出身。
東海大学大学院工学研究科修士課程卒。
日本原子力産業会議を経て、2006年、日本テピア株式会社入社。
現在、テピア総合研究所主席研究員。
「中国原子力ハンドブック2008」「同2012」「同2015」を編著。
■パネリスト
永崎 隆雄(ながさき たかお):
日中科学技術交流協会常務理事/事務局長
千代田テクノル社アドバイザー
元日本原子力研究開発機構 北京事務所長
略 歴
昭和49年9月動力炉・核燃料開発事業団入社 東海技術開発研究室UF6転換技術開発、昭和54年4月人形峠製錬課UF8転換パイロットプラント設計主査・副主任研究員、昭 和57年7月本社資源部業務課兼計画課主査・副主任研究員、昭和60年1月兼技術管理部JNFS脱硝転換概念設計主査、昭和62年4月資源環境部業務課課長、平 成元年4月東海核燃料技術開発部転換技術開発室担当役、平成2年4月環境施設部処理2課長、平成3年4月人形峠事業所所付担当役、平成9年4月北京事務所所長、平成14年4月原子力産業会議、平 成17年6月日中科学技術交流協会理事、平成18年3月原子力産業会議退職・日本原子力研究開発機構定年退職、平成18年5月特定非営利活動法人日中科学技術交流協会常務理事・事務局長、平成18年7月兼(株)千 代田テクノルアドバイザー、平成20年6月 兼富士電機システムスアドバイザー中国担当。
渡辺 搖(わたなべ はるか):
一般社団法人海外電力調査会 特別研究員
略 歴
1951年生まれ。北海道大学大学院工学研究科土木工学修了。1976年通商産業省入省(資源エネルギー庁水力課)総理府科学技術庁原子力安全局原子炉規制課 青森県企画部地域振興課長、資 源エネルギー庁原子力発電安全審査課 原子力発電安全統括審査官、社団法人海外電力調査会北京駐在員事務所代表(財団法人日中経済協会北京事務所電力原子力室長、1991.6~1995.6)、新 エネルギー産業技術開発機構(NEDO)地熱開発センター所長 、関東経済産業局 資源エネルギー部長、日本原燃株式会社広報渉外室部長 理事 、2009年一般社団法人海外電力調査会 参事 北京事務所長( 一般財団法人日中経済協会北京事務所電力室長、2009.8~2015.7)、2015年一般社団法人海外電力調査会 参事(東京本部勤務)、2 016年7月一般社団法人海外電力調査会特別研究員及び日本原燃株式会社顧問。