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日中大学フェア&フォーラム in China 2014 - #10

2014年04月18日 中国総合研究交流センター

 2014年3月19日、北京市内の首都大酒店において日中大学フォーラム「産学連携が拓くグローバルイノベーションの扉」が開催された。本記事は朱崇実厦門大学学長による講演を日本語訳したものである。

講演資料:厦門大学朱学長講演資料(中国語) PDFファイル 8.5MB )

厦門大学 朱崇実学長 日中大学フォーラム講演録(その1)

 大会の主催者の皆さま、ご来場の皆さま、各大学の学長の皆さま、教授の皆さま、こんにちは。

このような重要なフォーラムに参加する機会を得ましたことを大変うれしく思います。また「産学研協力」という重要な議題について、私の考えをお話しできることを大変うれしく思います。

 本日の午前中、素晴らしい報告をいくつか拝聴し、私は社会の発展や経済の発展における科学技術の重要な役割について、一歩進んだ認識をもつことができました。特に根岸英一教授には、ここで再びお目にかかることができ、非常にうれしく思っています。根岸教授は2011年9月に厦門大学を訪問してくださり、厦門大学の化学の仲間達と交流なさいました。本日のこのフォーラムのテーマについて、私個人は昨今の世界の発展ニーズにぴったり合ったものと考えています。とりわけアジアがこれからさらに発展、、繁栄した重要な地域になるとみなされているこのような重要な時期に、日中両国の大学が様々な課題にどのように立ち向かうかということは、十分に議論に値することだと考えています。

 産学研(協力)というものは、科学技術の進歩を促進し、ハイテク技術の急速な発展を促進する重要な戦略であります。産学研(協力)は科学技術を生産力に転換させ、独自の知的財産権を開発する上で基本的な手段でもあり、教育と科学技術が結びつき、イノベーション人材を育成する上での最良の手段でもあります。産学研(協力)は国の総合的な競争力を向上させ、ひいては人類社会の繁栄と発展を推進する上で大きな意義をもつものです。つまり、ハイテク技術が日進月歩で発展する時代にあって、産学研(協力)は社会資源を組み合わせ、貴重な社会資源を有効に利用する上での最良の方法です。こうした先進的な社会資源の組み合わせの方法の中で、大学は重要な位置を占めています。なぜなら大学はその中でコアとなる部分だからです。大学がより積極的に、より主体的に、より自主的に自身の機能と役割を発揮し、産、学、研のより密接でより有機的な結びつきを促進するにはどうしたらよいかが、大学が直面している大きな課題です。日中両国の大学の産学研協力の現状がどのようなものであるか、どのような問題が存在するか、どのような課題に挑戦しているかは、今回のフォーラムで討論すべき重要な問題です。

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 この問題について私自身の考えを紹介したいと思います。私は主に産学研協力が大学の発展における必然的な選択であること、産学研協力の中国における現状、中日の大学の産学研協力の現状と問題点、中日の大学の産学研協力を強化するにはどうしたらよいかという点について、いささか考察を加えたいと思います。

 おそらく、ある大学が真にその機能を発揮できるかどうか、現行の産学研協力において適切な協力を得られるかどうかが、重要になるといえます。人材育成、科学研究、社会サービスは通常、大学の基本的な三大機能と言われています。広い意味では、人材育成と科学研究は社会サービスでもありますが、狭い意味では、社会サービスは相対的に言って人材育成や科学研究とともに大学の重要な職能の一つに挙げられます。これは言い換えれば、大学が自身のもつ技術的優位性を直接把握し、知識面での優位性、または人材面での優位性を社会の経済発展に直接役立て、さまざまな技術の普及を進め、科学技術工業パークを建設し、企業との間に科学研究をめぐる協力関係を直接構築し、企業の科学研究プロジェクトや委託された科学研究プロジェクトを引き受けるにはどうすればよいか、などということです。

 大学の社会サービスの中で、産学研協力はますます重要な方法になりつつあります。産学研協力が大学の社会サービスにおける主要な方法になりうる理由は、産学研協力が社会の経済的発展を力強く推進することができると同時に、大学自身の急速な発展を促進することができ、大学がより質の高いイノベーション人材を育成し、より質の高い科学研究を完成するよう支援する上でプラスになるからです。

 私たちは産学研協力を最も早くに行ったのはおそらく米国だということを知っています。これまでに、米国には産学研(協力)を後押ししてきた半世紀以上の歴史があり、産学研(協力)は(米国での)発展プロセスの中で、米国社会の発展を推進・促進し、米国を繁栄に向かわせただけでなく、米国をいまなお経済や科学技術の分野で世界第1位の強国にしています。産学研協力は米国の大学の急速な発展も大幅に進め、多くの大学を一流の大学へと押し上げました。私たちは世界的に有名なボストンのルート128、カリフォルニア州のシリコンバレーなどが、産学研協力の成功のお手本であること、成功の典型例といえることを知っています。

 オリヴィエ・ザンズがその著書「アメリカの世紀 それはいかにして創られたか?」の中で言及したように、企業、研究型の大学と科学研究機関、政府機関、各種の基金会により構成された新しい科学研究システムの下では、知識の創造者、推進者、応用者の三者が歴史始まって以来初めて十分な交流を行い、一連の認知ストラテジーを共同で発展させることが可能になりました。こうしたシステムを、ザンズは米国自身の先決条件とみなしています。資本蓄積のパワーだけでなく、まさに知識の再編成が米国内の繁栄を創造すると同時に、世界的な影響力を拡大させ続けているのです。私はザンズのこの言葉は的を射た指摘で、もっともなものだと考えています。

 日本の進歩も産学研協力と密接な関係があります。日本は明治維新以後、欧米の大学モデルに学ぶと同時に、実学中心の産学研協力システムを構築しました。日本では通常、こうしたシステムは産学官連携の協力システムと呼ばれています。こうした取り組みによって、日本の経済発展にはしっかりした基礎がうち立てられました。同じように、産学研協力も日本の大学の発展を促進し、日本政府は「科学技術基本法」、「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」(大学等技術移転促進法)、「産業活力再生特別措置法」、「知的財産基本法」、「国立大学法人法」などの法律法規を相次いで公布し、産学研協力を促進してきました。こうしたプロセスの中で、日本の大学は多大な恩恵を受け、多くの大学は世界一流の大学へと成長しました。

 次に、産学研協力の中国における現状と問題についてお話したいと思います。中国の産学研協力はスタートが遅く、中国の現代工業システムは、基本的に1949年に中華人民共和国が成立してから構築されるようになったもので、30年の長きにわたる計画経済体制の下で、中国の企業の技術は主に政府が設立した産業色の強い科学研究機関に依存していました。たとえば鉄鋼研究院、石炭研究院、紡績研究院などが技術を提供していましたが、大学との直接的な協力は多くはありませんでした。当然のことながら例外もあります。それは中国の軍事工業と航空宇宙工業です。1949年以降の数十年の間に、(こうした工業は)急速な発展を遂げ、「両弾一星」(訳者注:原子爆弾、水素爆弾、人工衛星のこと)の開発などが行われました。こうした工業が成功した原因として、非常に強力な産学研協力が内側に存在していたという要因があったことが挙げられます。これは中国の「両弾一星」が成功した重要な原因でもあります。

 1979年から、鄧少平氏が改革開放政策を実施し、中国の発展は新たな道を歩むことになりました。しかし改革開放の最初の20年間は、政党は外資導入を通じて、「以市場換技術(市場と技術を交換する)」戦略を実施し、このような方法で中国の経済を急激に向上させ、中国の工業を発展させようと考えていました。このような政策を背景として、自主イノベーションには十分な関心が払われることがなくなり、自然な流れとして産学研協力が実施されることは多くはありませんでした。

 20年間の発展を経て、中国社会は、経済には健全で永続的な発展が必要であること、また自主イノベーションの道を堅持する必要があることをそれぞれ認識しました。そこで、2002年11月に開催された中国共産党第16回全国代表大会での報告の中で、経済建設と経済改革の8方面の任務が明確に提起されました。そのうちの第一の任務として「新型工業化路線を歩み、科学教育による興国戦略と持続可能な発展戦略の実施に力を入れる」ことが明確に提起されました。

 ちょうどさきほど、根岸教授と有馬朗人教授が講演で言及されたように、中国の科学技術は1990年代後期に入ってから、特に21世紀に入ってから、大きな成長と大きな発展を遂げました。おそらく、中国政府の政策決定と大きな関係があるのです。

 2007年10月に開催された中国共産党第17回全国代表大会では、報告の中で「自主イノベーション能力を高め、イノベーション型国家を建設する必要がある。これは国の発展戦略の核心であり、総合的な国力を高めるためのカギである」ことがより明確に提起されました。またこの大会では、報告の中で初めて「企業が主体となり、市場を方向性とし、産学研が結びついた技術イノベーションシステムの構築を加速させ、イノベーション要素を企業に集積するよう誘導・支援し、科学技術成果が実際の生産力に転換するよう促進する」ことが明確に提起されました。私たちは企業が主体となり、市場に向き合った、産学研が結びついた技術イノベーションシステムを構築する必要があります。

 2012年11月に開催された中国共産党第18回全国代表大会では、報告の中でこのような考え方がより強化されました。自主イノベーション能力を高めるにはどうすればよいか、国民全体のイノベーション意識とイノベーション能力を向上させるにはどうすべきかが、非常に重要なポジションに設定されました。おそらく、十数年に及ぶ模索、構築、発展を経て、中国はイデオロギー、体制・メカニズム、関連政策など各方面から産学研協力を整備し促進する環境と条件を築き上げ、産学研協力は一定の発展を遂げました。現在は産学研協力を主な機能とする国家レベルの大学サイエンスパークだけでもすでに86カ所あり、全国約20省・直轄市・自治区に分布しています。大学の科学研究経費の30%近くは企業から提供された資金で、産学研教育は一定の発展を遂げました。この大学の経費の30%というのは、中国の平均水準を指しており、浙江大学のような科学研究能力が非常に高い大学の場合、企業との協力の面で国内の先頭を走っており、企業から得た科学研究経費は30%を超えているとみられます。

その2へつづく)