第62号:ナノ材料科学
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台頭しつつあるRNAナノテクノロジー

2011年11月16日

肖 守軍

肖 守軍(Xiao Shoujun):
南京大学配位化学国家重点実験室 副主任、教授

1963年12月生まれ。1985年、復旦大学本科卒。1988年、同校修士課程卒。1999年、スイス・チューリッヒ工科大学(Swiss Federal Institute of Technology Zurich)材料科学領域(博士号取得)。スイスInterstate University of Applied Sciences of Technology Buchs、米国ミネソタ大学、Fluidigm Corp.研究開発部にて研究。東南大学生物医学工程系で助教、講師、准教授を歴任。2003年~現在、南京大学教授。主な研究分野は、表面化学、バイオチップとバイオセンサ、DNA/RNAナノテクノロジー等。発表論文100本以上。

 RNAナノテクノロジーの歴史はニューヨーク大学のSeeman教授が30年前に切り開いたDNAナノテクノロジーに遡る。Seeman教授のグループは数本の合成した一本鎖DNAを用いて生物学的に存在する、又は自然由来のものに類似する構造モチーフを構築した。例としては、ホリデイモデル類似物や三角形、平行四辺形等がある。それから、構造モチーフ又は建築モジュールを用いてマイクロ・ナノスケールの立方体、「ボロミアンリング」、2次元陳列構造及び3次元結晶体を構築し、さらにこの10数年でウイルスDNAをテンプレートとした2次元及び3次元のDNA 折り紙を組み立てる技術やDNAナノロボット、DNA陳列をフレームにした機能ユニットを発展させた。RNAナノテクノロジーはDNAナノテクノロジー模倣して発展したが、より複雑なRNA3次元構造がRNAナノ構造の課題を増大した。例えば、一本鎖DNAは一般的に1次元ライン状の無秩序な蓄積に過ぎず、確定した二次構造を持つことは非常に少ないが、一本鎖RNAは異なる。自然界の大多数の一本鎖RNAには確定した二次構造があり、「クローバー構造」こそ一本鎖RNAの二次構造のイメージである。tRNA、mRNA及びリボザイムの触媒作用等、RNAの持つ機能の多様性により、RNAナノテクノロジーは薬物送達、遺伝子治療及び細胞学的干渉等の応用分野で重要な意義を持つだろう。RNAはアデニン(A)、ウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C)で構成されるリボ核酸高分子の一種であり、有名なWatson-Crick型DNA塩基対(A-T, G-C)の二重らせん構造と完全には一致しない。さらに、RNAの二次構造にはある種の非典型的な塩基対が往々にして現れ、これによりRNA分子はしっかりとした構造に折りたたまれる。これがナノテクノロジー分野のRNAがDNAと区別される顕著な特徴である。RNA/RNA、RNA/DNA、DNA/DNAの3種類の二重らせんの中では、RNA/RNAが最も安定した構造である。DNA及びRNAナノ構造は基底から上部に向かった「自己組織化」技術であり、テンプレート法と非テンプレート法の2つの方法がある。テンプレート法とはRNAの特殊な外力、構造及び限定された空間の作用のもとでの分子間の相互作用であり、例えばRNAの転写、交雑、複製、成形及びphi29 pRNA-U6 の形成がこれに含まれる。非テンプレート法とは数多くのモノマーが一つの体系内で物理的、化学的又は生物学的なさまざまな相互作用により、エネルギーの比較的小さなナノ構造を自主的に組み立てることをいい、化学結合、共有結合、RNAの環/環相互作用等がこれに含まれる。Seeman教授がDNAナノテクノロジーで使用する建築モジュールのDNAタイルは4~6個の塩基の粘性末端を「ほぞ」(突起)として構築したものであり、溶液中に安定的に存在するRNAナノ構造を構築するのにこれら4~6個の塩基の粘性末端で充分である。ある状況下では、2個の塩基の粘性末端でもRNA複合体の形成を促すことができる。さらに、RNAはある種の特殊な三次構造を形成してRNA/受容体の相互作用とRNAフィブリルの形成を制御し、合成リボザイムを作りだすことができる。最近、ある企業が80個の塩基で構成される合成RNAをすでに提供可能であることを発表した。典型的なRNAには分子内又は分子外との相互作用に用いる大量の一本鎖環状構造が含まれ、これらの環はナノ構造を組み立てるほぞとなり得るため、ナノ構造を構築し、組み立てる際に外的なほぞ(又は楔、釘等)は重要とならないだろう。RNA中の一本鎖環は他の構造モチーフとともにさらに複雑な二次・三次構造を構築できるため、RNAの分子構造と機能の多様性及びその低エネルギーの折りたたみ構造は、現在台頭しつつあるRNAナノテクノロジーにとって重要な意味を持つ。RNA分子は、生物学的機能を持つさまざまな種類のナノ構造を構築することができる。

 DNA及びRNAナノ構造の調製には、プログラム化され、アドレッシング可能で、かつ予測可能な建築モジュールを使用する必要があり、これら少数の数本のDNA及びRNA鎖で構成された建築モジュールは、事前の設計に基づき、試験管内または細胞体内で自己組織化してマイクロ・ナノオーダーの一次・二次・三次構造となり得る。DNA及びRNAナノテクノロジーはともに基底から上部に向かう分子の建築技術を確立し、生物学上の高分子とバイオテクノロジーを成功裡に結び付けてナノテクノロジーに応用できるだろう。そして、この成功はナノテクノロジー分野で重要な意味を持ち、かつ、時代を超える技術革命となるだろう。

 各種RNAナノ構造の形成の方法と有名な実験について、以下に紹介する。

1 phi29ファージ的pRNAナノモーター及びそのRNA誘導体分子の自己組織化ナノテクノロジー

 1つ目の方法は、天然RNA分子を利用してナノ構造を構成するもので、すなわち細胞内でさらに高次のポリマーを形成する。phi29ファージのDNAはモーター中のpRNAを組み立て、2つの環の左右のインタロックの手-手(握手)の相互作用の自己組織化により六量体を構成し(図1)、ショウジョウバエの胚のbicoid mRNAは手-腕の相互作用により二量体を形成し、大腸菌のノンコーディングRNA DsrAはパリンドローム配列により紋様状の図案と束状の凝集体を組み立てる。体内で組み立てられたRNAを模倣して体外で組み立てられたナノ粒子については12年前に報告されているが、非典型的HIV吻合リングのメカニズムも後述の「tectoRNA」建築技術の設計を促進している。DNAと比べて相対的に単一な二重らせん構造から言えば、天然のRNAは数多くの機能を全うするべく、驚くほど多種多様な三次構造を表出している。

図1

図1 phi29ファージ中でDNAを輸送するpRNAナノモーター

 自然界に存在し、すでに解読されているRNA分子モジュールを使用したRNAナノ構造の構築は真っ先に思いつくはずであり、RNAナノテクノロジーの発展もこの路線で進められてきた。生物学者たちは各種のRNAモジュールの配列、構造及び相互作用のメカニズムについてすでに長年研究している。例えば環/環の相互作用や三次構造の連結、特殊なモジュールの構築についてはすでに詳しく解読されており、新たな性質と構造を持つRNAナノ粒子の構築に使用できる。pRNAナノモーターの構想に啓発され、研究者たちはpRNAの配列にわずかに修正を加え、RNA二量体、三量体及び四量体のナノ構造を構築した。図2に彼らの組み立てた原理モデル、アニメーションによるイメージ及びAFMで観察された実験画像を示す。その原理は、手と腕の左右のインタロックの環/環の相互作用ならびに脚部の塩基対を使用したものである。

図2

図2 改造pRNA分子で形成されたモノマー、二量体、三量体及び四量体

 左から右へ:phi29 pRNAを用いて体内で組み立てられた左-右手インタロック環とパリンドローム配列を持つsiRNA・リボザイム・アプタマー及びその他のRNA分子でナノ粒子を組み立てる原理、ヒト・アニメーションモデル、AFM図。

2 DNAを模倣したRNAナノ構造技術

 2つ目の方法は、比較的成熟したDNAナノテクノロジーの原理をRNAナノ構造に応用するものである。RNAとDNAの折りたたみの性質は完全には一致しないが、DNAのナノ建築技術の原理をRNAナノテクノロジーに応用することはできる。三次元結び目及び四次元結び目を用いてさまざまな様式の新たなRNAナノ構造を構築する技術とDNAの分枝機構の構築は似ているため、RNAとDNAのモジュールはいずれもタングラムの構築に用いることができ、RNAとDNA分子はいずれも二次元平面上の縦方向に延びることでナノチューブとその束を構成し、RNAの二重らせんに突起を挿入することで結び目の束を形成することができる。その後、DNA鎖上で塩基を挿入・削除して手としてのDNA束を形成することもできるが、RNAの突起は非典型的な塩基対であるため、より堅固である。DNAのねじれは、2本の二重らせん又は4本の一本鎖間の相互作用を要求する。

 人工的に設計され、組み立てられたRNAナノ構造の典型的な研究についてはJaegerらが発表している。彼らの言うRNA構造技術の分子建築モジュールは、二次構造を持つ1本の「tectoRNA」である。Jaegerらは小RNA分子構造の二量体と一次元の線形ポリマーを利用した。RNA分子はDNAテンプレートを用いて体外で転写して合成したものである。図3にその組立て原理を示す。

図3

図3 RNA-tectonicsの組立て原理

 RNAを用いて構築されたモジュールで可視化された二次元の網状タングラム迷宮(jigsaw puzzle)図案を組み立てることはRNAナノテクノロジーの有名な例の一つであり、Jaegerらが先に述べた「tectoRNA」を基礎にしたものを報告している。彼らはRNAモジュールを用いて正方形を形作り、その後、正方形モジュールを用いて二次元の網状配列を構築した。tectoRNAは一本のRNA鎖であり、文献から啓発されたものである。彼らは構造がすでに知られているリボソームの結晶体から2つの小さなRNA構築モジュールを選択した。その構造は図4(B)のとおりで、それぞれのtectoRNAには2つの機能エリア、すなわちKL及びRA機能エリアがある。KLには11個の塩基で構成されるヘアピンループが2つある。直角に配置されるRA機能エリアの配列は公認のもので、図4(B)に黄色の配列で示しており、この中で折りたためるのは対になっていない2つのAA塩基である。両側を線で囲んだ対をなす塩基(N-N)4,10はステム(stem)の一部で、ステムと称するエリアはKLとRAをつなぐ配列であり、ステムの長さは調節可能である。Jaegerらは9個(10ナノメートル。STと示す)又は15個(13ナノメートル。LTと示す)の塩基対を連結するステムとして用い、1つのtectoRNA内の2つのヘアピンループとまた別のtectoRNA内で対応するヘアピンループとの間で非共有の環-環結合を生じさせることで準正方形を形成した。この正方形は完全に平面ではなく、4つの角のRAエリアから、対をなしていない一本鎖が設計に基づきさまざまな方向に伸び、図4(C)のようにより正方形に近いローテーブルの形になる。設計された準正方形「tectosquares」の4本の脚は粘性末端[図4(C)]であり、3'端のステムループの部分から伸びてきたもので、5'端に比べてさらに制約を受けて方向性のあるものと考えられ、ただRA機能エリアの配列を転移させるだけで、3'末端の方向を90°変更できる。このほか、塩基の長さのわずかな変化により粘性末端の半巻きらせんを増加又は減らすことで、対をなしたtectoRNAの方向を変化させることができる。例えば、2つのシス型(cis)配列のtectoRNAをトランス型(trans)配列に変化させ、準正方形tectosquareの安定性を温度勾配のある電気泳動を用いて検査し、AFMを用いてその形態を特徴づけることができる。例えば、LTは一辺の長さが13±3 nm、夾角が70~110°、中心の空洞の直径が3±1 nmの準正方形を構成した。実験で、Jaegerらは12個の3'端で塩基を6個もつ粘性末端を設計することで、9つの異なる周期構造を構築した。粘性末端の結合自由度はKLに比べ2オーダー低く、KLは60°で解体するが結合した粘性末端は35°で解体する。3'端の粘性末端の長さが塩基12個の時はその正方形モジュールはシス型配列で構築され、3'端の粘性末端の長さが塩基10個の時はその正方形モジュールはトランス型配列で構築され、異なる配列を組み合わせることで多様なナノ配列図案を得ることができる。ナノ配列のサイズは3'端の方向と大きく関係する。例えば、図4(F)中のI(0.5~1マイクロメートル)はII(0.05~0.1マイクロメートル)で構成される配列より約10倍大きい。

図4

図4 正方形建築モジュールの構造と配列の原理

 最近、JaegerらはtRNA分子を用いて立方体や八面体等の多面体の立体構造を構築することについて報告した。図5(B)はtRNA分子の配列であり、その立体構造は図5(A)で示されるようにacとaa腕は互いに垂直であり、多面体と網状構造はacとaa腕上の2つのKL吻合リングのマッチングと可変腕上の3'テイル(tail)の塩基マッチングにより構築される。

図5

図5 tRNA分子の立体位置関係(A)とtRNA分子の配列(B)

3 設計のプログラム化と数学的計算

 3つ目の方法は、RNAナノ構造の構築プロセスで数学的計算法及びコンピュータによる設計のプログラム化を利用することである。原始的な材料から自己組織化したナノ材料の外観やパーツしか選択しなかった従来の方法に比べ、次世代の分子建築モジュールは設計が先立つべきである。例えば、現在の大規模集積回路(LSI)の設計に学び、又は模倣して既知の特性を持つRNA分子モジュールを設計し、これらモジュールを用いて必要なナノ構造を構築する。計算法を利用した組立ては3段階に分かれる。つまり、まず計算を行い、それからRNAモノマー分子を合成し、最後に組立てを行う。計算と設計を経たRNA配列は固相合成又は分子生物学の転写方法により合成され、RNAナノ構造はテンプレート法及び非テンプレート法により自己組織化され、構造が解読されているRNAの豊富なデータベースはRNAモジュールに用いられる。例えば、最近報告されたRNA立方体がまさにその一例で、RNA配列は計算により最適化されて動力学的捕獲を回避し、数本のRNA鎖は確定されたモデルにより相互間で自己組織化して立方体を形成した(図6)。これは、Seeman教授のDNA立方体の再現と見なすことができるが、DNAナノテクノロジーと異なるのは、RNAの合成能とRNAの自己組織化を統合させ、かつ、体外の転写プロセスで自己組織化されたRNA立方体を生じることである。

図6

図6 小RNA分子塩基の相互マッチングの設計を通じて得られた立方体

4 RNAナノテクノロジーの実用、課題及び展望

 RNA構造の多様性、交雑時の自由エネルギーの低さと安定性、配列の可塑性及び構造制御の選択性により、RNAはナノテクノロジーの実用で理想的な材料となっている。RNAのナノ構造の組立てには機能体の接合、モジュールの架橋、モノマーのマーキング及び核酸の修飾等がある。RNAの合成には化学合成法及び酵素合成法があり、過去に著しい進歩を遂げたとはいえ、DNAのコストパフォーマンスに比べるとはるかに低く、現在、商業的に合成されたRNAはわずか40~80個の塩基配列しか提供できない。RNAの固相合成による生産率は低いため価格も高価となるうえに、改善には莫大な精力を注ぐ必要がある。RNAマーカーについて言えば、5'又は3'端の蛍光マーカーを優先的に検討する必要がある。なぜなら、それらは物理的な立体障害を回避し、化学的に合成されたRNAは末端の修飾に困難をきたさないが、酵素で合成された長鎖RNAマーカーには課題がある。酵素合成法による5'端マーキングの1つの方法は、転写の開始にのみ使用できて鎖の伸びたグアニル酸(GMP)及びアデニル酸(AMP)には使用できず、RNA蛍光マーカーでは新試薬tCTPを用いることができ、T7 RNAポリメラーゼを用いて体外で合成される。RNaseリガーゼIIは既存のT4 DNAリガーゼに比べ良好な代替品であり、2つの合成RNAを連結させて長鎖RNAを生じることができる。酵素合成法では3'端の不均一性が依然として難題であったが、その解決方法の一つは配列の転写を延長した後にリボザイム、脱酸素リボザイム又はRNase Hを用いて設計された遺伝子座で切断するものである。tRNAキャリアを用いれば細菌内でもRNA複合体を大規模に生産できる。RNAナノテクノロジーの成熟につれ、RNAの工業生産量は増加し、コストが低減されることが予測される。このほか、RNA分子の機械的安定性はDNAより良いことが証明されているとは言え、天然のRNA分子はRNaseに非常に敏感であり、特に体内及び血清内で非常に不安定であることがその実用を妨げている。RNAの安定性の改善は時とともに大幅な進展を見せており、5-Br-Ura及び5-IUraの修飾、リン酸の架橋(SH基を有するリン酸及びリンホウ酸)、2'-F、2'-O-メチル基、2'-アミノ基修飾などのC2'の修飾はいずれも検討されたことがあるほか、ペプチド核酸、ロックド核酸(LNA)及びそれらの誘導体等も検討されたことがあり、3'端の閉鎖も二重らせんの塩基対形成の選択制を改変した。これらの方法の中で、2'-Fの修飾が最も好感された。それは、RNAの折りたたみ機能における副作用がわずかだったためである。

 現在、いくつもの機能を持つ多様なナノ粒子に関する報告は数多くなされているが、均一に生産され、構造が明快で、レシオメトリックな機能集団としてのナノ薬剤は依然として難しい課題であり、構造や計量が不明確な如何なるナノ粒子も予想不能な副作用及び非特異的な毒性をもたらす可能性がある。RNAナノテクノロジーでは、構造と計量が明確なナノ粒子を均一かつ大規模に複製することができるため、安全性と品質コントロールを保証できる。薬物のターゲッティング輸送により低濃度での薬物供給が実現し、副作用が低減される。多重性は漢方薬の複方療法と相似し、混合薬剤に相乗効果を生じさせる。多重性の重要な長所は、単一的な管理の下で同一のナノ粒子中で治療とその効果の計測を一本化できることである。

 ナノサイズのRNA構造のもう一つの長所は、病変組織に効率的に輸送されることにある。多くの研究によれば、10~50ナノメートルのナノ粒子は非ウイルスキャリアの最適化サイズであり、このようなナノ粒子は充分に大きいため一定時間、体内に滞留することができる一方、小ささもちょうどよく、指標分子の誘導下でエンドサイトーシスにより細胞膜を通り抜けることができる。この種の新たなRNAナノ粒子の輸送能力は薬物動態学や薬物熱力学、生物学的分布及び薬剤の安全性能等を改善できる。また、タンパク質を含まないため、薬剤投与後の抗体生成を回避することができる。このように、RNAナノ粒子はがん等の慢性疾患やウイルス感染、遺伝性疾患等に対して多数回の治療を施すことができる。これらRNAの遺伝子制御機構のコントロールは、今後の遺伝子治療における福音である。

 RNAナノ医薬品の新機能には、疾病治療時の細胞識別及び結合、受容体のエンドサイトーシス調製による薬物のターゲッティング輸送、遺伝子の細胞内における代謝の抑制及び制御、核膜の貫通及び血管-脳障壁の通過等が含まれる。細胞内の輸送及び生命活動において、RNAはDNAに比べてはるかに安定している。例えば、エンドソームは生体輸送の重要な方法の一つであるが、遺伝子キャリアとしてのDNA又はRNAのナノ粒子は、まず細胞表面の受容体に識別され、その後エンドソームを通って細胞内に運ばれる。エンドソームのpHは4.3から5.8の間で、DNAは酸性環境下でプリン塩基のプロトン化により脱プリン化が導かれ、プリン塩基を失ったDNAは切断されやすい。しかし、酸性環境下でRNAは安定的に存在でき、かつ、エンドサイトーシスにより細胞体内に送り込まれる。RNAは分子の形式で存在するほか、生体内で自己組織化してナノ粒子となることができる。一方、DNAの体内合成は主にDNAの複製及びRNAの逆転写によるが、RNA分子はDNAテンプレートにより転写されるため、誘導可能なプロモーター及び適切なターミネーターを使用すれば、RNA分子は制御されて合成されうる。例えば、転写プロセス中の川上・川下の最終段階でδリボザイムを用いてシス切断すれば転写されたRNAをあらかじめ設計した長さに制御することができ、二量体や六量体のような天然のRNAナノ粒子はphi29ファージ内で発現し、pRNA及びtRNAの配列もsiRNA、リボザイム、アプタマー等の機能性RNA及び核酸の開閉を導き、体内でナノ粒子を構成する。

 RNA構造の多様性は多くの長所をもたらすとはいえ、多様性はRNAの構造及び折りたたまれたナノ構造の予測に大きな課題をもたらし、その原因は非典型的な塩基対にある。このため、RNAの折りたたみ及びナノ構造の規則性にはさらなる分析及び整理が必要である。現在使われているZukerの予測方法は実験データに基づくが70%の正確性しかないことから、三次元及び四次元RNA構造の予測はさらに難しいことは明らかである。コンピュータに支援されたRNAナノテクノロジーの分子設計の強化が待たれる。

 RNAナノ粒子の体内毒性には、さらなる研究が待たれる。新陳代謝及び生物学的適合性を考慮するなら、必ずしも最も安定したRNAナノ構造が体内で最も有用であるとは言えず、化学的に修飾された塩基の割合を調節することで、ナノ粒子に体内で適切な滞留時間を持たせることが最も説得力を持つだろう。

 つまり、天然及び合成されたRNA分子は予定された構造に折りたたまれることができ、これら構造は多機能性RNAナノ粒子に自然に形成されうる。RNAナノテクノロジーの長所は以下のとおりである。すなわち、(1)自己組織化により二次元構造を形成し、特に三次構造で実現可能性を有すること(2)単体の固体分子がさまざまな階層で折りたたまれ、かつ、特異的な三次構造との相互作用能力を有すること(3)明確な構造と計量可能な機能集団としてのナノ構造を有すること(4)多重機能性。(5)薬物のターゲッティング輸送。(6)タンパク質を必要としないこと(7)治療及びその効果の計測を一つのナノ粒子中に一本化することができること、等である。RNAナノテクノロジーのブームは高まり続けており、医学、バイオテクノロジー、合成生物学及びナノテクノロジーの分野で今後、重要な役割を演じるだろう。