サイバー物理システムの発展の概要
2012年 2月 8日
林 峰(Lin Feng):同済大学電子情報工程学院 特任教授、
米国・ウェイン州立大学教授
1960年3月生まれ。1988年、カナダ・トロント大学電子工学部で博士号取得。1987~88年、米国・ハーバード大学でポストドクター研究。1988年~、米国ウェイン州立大学教授。2002年~、同済大学電子情報工程学院特任教授、長江学者。米国国立科学財団のResearch Institution Award、米国電気電子学会(IEEE)のAxelby最優秀論文賞、米国イノベーションアワード、Wayne State University最優秀教育賞を受賞。IEEE Transactions on Automatic Control 編集委員会に招聘。国際会議の座長を多く担当。在米研究中に米国国立科学財団、国立衛生研究所(NIH)、航空宇宙局、国防総省及び三大自動車メーカーで科学研究プロジェクト25件を担当。国際学術誌で論文80本以上、会議議事録で論文100本以上を発表。
共著:舒 少龍
1.サイバー物理システム誕生の背景
コンピュータの登場以来、物理システム中の組み込み計算装置及び対応するソフトウェアで統合されたシステムにより、柔軟で複雑な機能を持たせることがシステムを発展させる上での必然の趨勢となってきている。コンピュータ及び通信技術の急速な発展に伴い、コンピュータと物理的対象のシステム化に向けた統合はますますスピードアップしており、統合レベルもますます高くなってきている。ネットワーク技術の急速な発展もこの傾向を加速させている。欧州委員会の最新の研究レポートによれば、ここ数十年で工業製品中に占める電子装置の割合は急速に増加している。この研究レポートの予測では、2020年までに自動車、航空、工業オートメーション、家庭用電化製品、スマートホーム、健康・医療機器等の分野では、電子装置が製品中に占める割合は53%に達するだろう。自動車を例に見ると、1990年に自動車1台に占める電子装置の価値の割合は約16%だったところ、2003年には52%に達していることから、2010年までには56%に達することが見込まれる。
実用分野に占めるさまざまな電子装置の割合が急速に増加するにつれ、コンピュータ及び物理的対象の統合システムの構造にも相応の変化が生じている。このような構造上の変化は、以下のモデルのように一般化して図示することができる。
図 1:サイバー物理システムの構造
上の図からわかるように、コンピュータ技術やネットワーク通信技術の発展を背景に、計算ユニットと物理的対象は、通信ネットワークと高度に連携した大型で複雑なシステムの登場により進展を見せた。従来型のコンピュータ制御システムとの明らかな違いは、これらシステムには装置の分散型配置、高度なネットワーク化に向けた統合等の特徴がある点にある。われわれは、新技術を代表するこの種の統合システムをサイバー物理システム[1](Cyber-physical Systems)と呼ぶ。サイバー物理システム(略称:CPSシステム)とは、簡潔に言えば計算ユニットと物理的対象が通信ネットワークを介して高度に統合した複雑なシステムと定義づけることができる。
かつて、コンピュータと物理的対象のシステム統合により工業オートメーションが実現し、人の手による操作等、多くの作業をコンピュータで代替できるようになった。しかし、ネットワークと通信技術の発展により、計算ユニットと物理的対象には通信ネットワークのシステム統合によりさらなる技術的利点及び潜在的利益がもたらされ、例えば、国家電網(中国の国家レベルの送電網)などの数多くの大型で複雑なシステムの運行をより安全で効率的にすることができ、これらシステムの構築及び操作にかかるコストを抑え、異なる分岐システムのネットワークを介した結合及び統合や、より複雑なシステムの構築、新機能の誕生を可能にし、さらに柔軟で強大な能力を与えることができるようになった。これに鑑み、2007年8月、米国の大統領科学技術諮問委員会(PCAST)はネットワーク情報技術に関するレポートの中で、ネットワーク情報技術を優先的に研究し、発展させるべきものとして改めて位置づけ、なかでもネットワーク情報技術研究における最重要事項はサイバー物理システムの理論研究及び技術開発とすることを表明した。
2.サイバー物理システム技術の応用
現時点では、サイバー物理システムには解決を要する多くの理論的・技術的難題が存在するが、すでに国家電網やスマート交通、環境モニタリング等の多くの分野で応用され、プラスの経済価値を生み出しており、技術的利点を体現している。
2008年、米国国立科学財団が開催したサイバー物理システムに関するワークショップにおいて、サイバー物理システムの3つの分野における幅広い応用の可能性が特に提示された。3つの分野とはすなわち、1. 分散型エネルギーシステム,2. 新世代交通システム,3. 保健医療システムである。この他の一部の文献や会議においても、上記分野におけるサイバー物理システムの応用について提起されている。サイバー物理システム指導グループは実行レポートの中で、サイバー物理システムの応用分野及び予想される潜在的利益について、比較的全面的な形で次のように総括している。
応用分野 | 潜在的チャンス |
交通運輸 | 1、宇宙探査機の飛行速度、飛行距離の向上。エネルギー消費の削減。 2、飛行制御システムの設計、より効果的な空中航路資源の利用。 3、自動車の機能強化、安全性向上。エネルギー消費の削減。 |
国防 | 1、より機能の高い防御システム。 2、自治車両の編隊のネットワーク化。 |
エネルギー及び工業オートメーション | 1、新たな再生可能エネルギーの開発。 2、家庭、オフィス、オフィスビル、車両等の運行効率、操作性の向上。 |
健康及びバイオ医療 | 1、家庭への保健サービス。 2、より機能の高いバイオ医療設備。 3、新世代人工臓器。 4、より高いオートメーション化レベル及び拡張機能を持つネットワーク化バイオ医療システム。 |
農業 | 1、省エネ技術の開発。 2、設備のオートメーション化レベルの向上。 3、バイオエンジニアリングにおける閉ループ加工。 4、資源及び環境利用の最適化。 5、食品の安全性向上。 |
国家インフラ | 1、高速道路の通行量拡大、運行の安全性向上。 2、国家電網の信頼性、効率の向上。 |
つまり、サイバー物理システム技術は21世紀の工業技術の基礎として多くの分野で応用することができ、これら分野における製品開発、技術的改善に多くのチャンスをもたらす。
3.サイバー物理システムの研究の現状
コンピュータの登場により、人々は物理システムの研究過程にコンピュータを統合するようになった。最初の研究は、コンピュータを制御装置として使用し、物理的対象による制御の柔軟性を向上し、物理的対象の性能を改善するものであった。なかでも、制御科学分野の研究はコンピュータ制御システムに集中し、コンピュータ科学では一方、計算速度がより速く、保存容量がより大きい計算装置の開発に力を入れた。コンピュータ科学では計算装置の設計及び開発が研究され、制御科学ではさまざまな物理的動態システムのコンピュータ制御について研究されたが、いずれにしても前提はシステムをあるモデルに抽象化してから分析することにある。しかし、これら両分野の研究対象及び方法の不一致により、研究結果は互換性のないものとなった。例えば、コンピュータ科学において計算を研究する際は往々にして時間という要素を無視するが、これにより計算ユニットでは、物理システムとの統合過程において、リアルタイム性の欠如により解決が難しい問題が数多く発生する。このため、コンピュータ科学は組み込み式システムの研究を重視し、計算ユニットがいかに物理システムのリアルタイム要求を満たすかを重視するようになった。また、ネットワーク応用の普及により、制御科学においてもネットワークで伝達されるデータ情報に存在するさまざまな通信上の特徴、例えばパケットロスの存在や不確定なネットワーク遅延等について、日増しに意識するようになった。複雑な物理システムにより制御性能の要求が満たされることを望むなら、制御システムの性能に影響するこのような要素を放置しておくことはできない。このため、今世紀に入ってから、ネットワーク制御システムの研究が著しく発展している。
上記の研究はコンピュータ科学、制御科学、通信科学間の融合にある程度貢献したが、さまざまな計算装置及びそのネットワークのさらなる発展に伴い、多くのシステムが計算ユニット及び物理的対象の分散型配置、ならびにネットワークを通じた通信及び制御等のサイバー物理システムの特徴を持つようになった。上記の研究成果を採用してこれらシステムを分析すると、設計段階には超えられない困難が存在する。通信ネットワークの帯域幅、遅延、パケットロス率の大きさ、計算ユニットの能力、計算ユニットの調整方式,物理システムの枠組み及びその動態的特性等のさまざまな要素は、いずれもシステムの動態性能に影響を及ぼす可能性がある上、システム性能に与えるこれら要素による影響は相互関係的なものである。サイバー物理システムの研究はすでに多くの国から重視されている上、これら国々の政府から大々的な支援と資金援助を得ている。
米国国立科学財団は、サイバー物理システムの研究において世界でも牽引的な役割を果たしている。同財団は早くも2005年に、その年のHCMDSS(High Confidence Medical Device Software and Systems)ワークショップに資金援助を行い、会議では信頼性の高い医療設備はサイバー物理システムの典型的な特徴を持つことが指摘された。2006年、米国国立科学財団は第1回サイバー物理システムフォーラムを主宰し、サイバー物理システムの研究目的は、今後登場するコンピュータ、通信ネットワーク、物理ユニットの高度に統合されたシステムの開発のために新たな理論的基礎と実現可能な技術を模索することにあると指摘した。これにより、情報、計算、通信、制御を融合し、一体化した新世代集積システムの信頼性・効率を高め、高い性能を持たせる。サイバー物理システムの研究は当初より、米国政府に重視された。2007年8月、米国の大統領科学技術諮問委員会(PCAST)はネットワーク情報技術に関するレポートの中で、ネットワーク情報技術の研究と発展を改めて重視する必要があることを指摘し、サイバー物理システムの理論研究及び設計技術の開発は、米国がIT業界で世界の先進的地位を維持する上で重要な措置であることを初めて公式に唱えた。政府のこの支援により、サイバー物理システムの研究は大いに刺激された。この後、サイバー物理システム指導グループでは専門家を集め、サイバー物理システムの当時の研究状況を取りまとめ、研究指導の方向性を提示した。2008年、米国国立科学財団はサイバー物理システムフォーラムを開催し、サイバー物理システムの研究に研究資金を提供して重点的な資金援助を行い、関係分野の研究者によるサイバー物理システムの理論研究及び技術開発への貢献を奨励した。
ヨーロッパでは、ARTEMIS(Advanced Research and Technology for Embedded Intelligence and Systems)プロジェクトが始動した。このプロジェクトにより、2007年から2013年までの期間に70億ユーロを投じてスマート電子システム分野における研究を行い、EUは2016年までにスマート電子システムの研究及び技術開発の分野で世界の牽引役となることが期待されている。サイバー物理システムがスマート電子システムの重要な発展の方向性として、ARTEMISプロジェクトによる支援と重視を受けたのは自然の流れであった。また、EUは欧州スマート・システムインテグレーション(Smart System Integration)技術プラットフォームを設立した。目的は、科学技術による研究開発と経済発展の推進により、ヨーロッパの産業が世界市場で優位性を得ることにある。欧州スマート・システムインテグレーション・プラットフォーム年次総会は、スマート・システムインテグレーションの発展のため、学術界及び工業界に交流のプラットフォームを提供している。2010年の年次総会は3月にイタリアで行われ、次の点が唱えられた。すなわち、スマート・システムインテグレーションは、多くのエレメントが統合されることにより得られるシステムである。システムでは、外界の物理的対象から情報を入手し、この物理的対象を電子的に操作し、物理的対象との通信により情報とデータを入手し、物理的対象にフィードバック情報を加えることができる。この種のシステムは、サイバー物理システムの特徴を持つことが明らかに見て取れる。
中国においても比較的早期にサイバー物理システムの研究が注目され、2007年に発表された制御科学とエンジニアリング分野の発展に関する研究レポートの中で、システム運行のネットワーク化、機能の多様化、システムの複雑化は国内外のオートメーション化研究と発展における主な流れであることが触れられ、サイバー物理システムの制御が制御分野の注目をますます集めている事が特に指摘された。2008年7月には北京で第1回国際サイバー物理システムフォーラムが開催され、同時開催された国際分散型計算システム会議においてもサイバー物理システムの研究の現状が高い関心を集めた。2009年、ネットワーク化集積制御技術フォーラムにおいても、特別テーマとしてネットワーク化集積制御技術の研究の進展及びその工業実用について話し合われた。現在、われわれの研究グループは米国のウェイン州立大学の教授と共同でスマート送電網CPSシステムの研究を行っている。
4.サイバー物理システムの直面する課題
サイバー物理システムはコンピュータ科学、通信科学、制御科学等のさまざまな学問分野に及び、研究開発の成功にはコンピュータ科学、通信科学、制御科学等のさまざまな分野間の協調が必要である。サイバー物理システムの設計には、統一的な設計の枠組みのもとで測定上のノイズ、実行精度、環境による攪乱、計算プロセスにおけるエラー、通信プロセスにおける遅延・パケットロス等の多くの要素について考慮する必要がある。しかし、コンピュータシステム,通信ネットワークシステム、物理動態システムの処理に関する統一的な理論の枠組みは現時点ではまだ存在しない。つまり、コンピュータ技師と科学者たちは、物理システム指標を、例えば電力消費などのコンピュータ設計中の指標へといかに安定的に転化させるべきかを知らない。制御理論と信号処理理論は、エラーを起こさない計算装置へとコンピュータを抽象化するが、このようなシンプルな抽象化では計算における多くの重要な面、すなわちバッファーやエネルギー管理による大きな時間変動や、計算の複雑性によるソフトウェアの高いエラー率等を無視している。制御理論及び信号処理理論は通信の抽象に対してもシンプル過ぎる面があり、制御理論では情報のさまざまな段階における伝達においてのパケットロス・遅延はゼロと仮定するが、これは無線・低電力消費ネットワークでは実現できない。
サイバー物理システムの発展における第一の障壁は指導的な理論の欠如であるが、サイバー物理システム理論の構築は関連の学問分野において、すでに重要かつ切迫した研究テーマとなっている。また、サイバー物理システム設計の方法及び手段の開発等の問題についても解決に努める必要がある。サイバー物理システムの研究の直面する大きな課題は、具体的には次のいくつかの分野にまとめられる。
システムの合成: コンピュータシステム、ネットワークシステムと物理システムは本質的には異なるため、サイバー物理システムの開発ではヘテロジニアスなサブシステムの合成問題や、サイバー物理システム中の物理及び計算特性のシステム設計に対する影響を改めて考える必要がある。ヘテロジニアスなシステムを新たな視点から研究・分析して初めて、大規模なネットワーク化に向けた統合システムを創り出すことができる。このようなヘテロジニアスなシステムの合成には理論上、研究を要する問題が数多く存在する。第一の問題は、研究過程におけるモデルの抽出である。抽出する計算モデルには物理的概念、つまり時間、エネルギーが含まれる必要がある。一方、物理動態に関するモデルの抽出では、例えばネットワーク遅延や有限バイト数、丸め誤差等のプラットフォーム実現上の不確実性が含まれる必要がある。これら抽出要素の変更により、物理特性を持つ計算と、不確実性を処理・実現できる物理の統合は問題とならなくなる。第二に、物理的プロセス及び計算アルゴリズムのヘテロジニアスなモデルの描写及びそのモデル言語の合成に新たな設計方法を発展させる必要がある。新たな数学的枠組みを発展させることで、方法論が数学的に正確に描写できるだけでなく、システム開発者と対応する設計手段の開発者にとっても明確で、理解しやすく、実用的である必要がある。また、新たなサイバー物理システムのオープンなフレームワークを開発する必要がある。これらフレームワークにより、われわれは国家レベルまたは世界レベルのサイバー物理システムを構築できるようになる。このフレームワークは、動態的により良く操作条件の変更に適応できるようにし、信頼性のないサブシステムによる、信頼できるサイバー物理システム構築の理論及び方法である必要がある。
分散型センシング、計算、制御: 在来型の制御システムから見れば、センシング、計算、制御における戦略決定及び実行はジャストインタイムで完了するが、ネットワーク化したサイバー物理システムにおいては、例えば、戦略の実行制御における遅延が大きすぎてシステムに重大な問題を生じさせる等、反応にかかる時間がシステムの制御性能に影響を与える可能性がある。そのうえ、サイバー物理システムは本質的に分散型という特徴を持つため、かつての単一閉ループ・フィードバック制御理論ではこのようなシステムの分散型制御、センシング、計算等の問題は解決できない。では、分散型環境からはどのようにして充分な情報を収集すれば良いのだろうか。また、分散型制御の対象には、どのようにして効果的な制御を加えれば良いのか。分散型計算ユニットをいかにして合理的に利用し、これら分散型計算ユニットにいかに合理的にミッションを分配すればよいのか。分散型センシング、分散型計算・制御のプロセスでは、情報の伝達はネットワーク通信を通じて実現するが、これらネットワーク資源をより良く活用するには、必要とされる通信制御アルゴリズムをいかに講じれば通信効率を最高にできるか等のいずれも、解決が待たれる重要な問題である。例えば、ある制御ミッションを成功させるには、どのような情報を、いつ収集する必要があるか。どの計算ユニットが計算のミッションを担当すべきか。情報伝達のルートはどのように選択すべきか。どのアクチュエーターで機能の実行を全うするか等の問題がある。分散型の環境においては、われわれはシステムのロバスト性、自己適応性、自己組織性等の重要な特性を考慮する必要がある。例えば、あるセンサのユニット、計算ユニット、通信回路の故障によりシステムの性能に深刻な影響をもたらさないか等も含まれる。分散型の環境においては、局部的なシステムの変化が全システムの変化に与える影響を最小に抑え、全体に対する局部による資源需要及びシステム局部がシステム全体の運行性能に与える影響を最小にするよう確保する必要がある。
ネットワーク通信の予測可能性、信頼性、安全性:通信ネットワークには有限の通信帯域幅、伝達プロセスにおけるデータのパケットロス及び時間変動・遅延が存在するため、これら欠点により、既存の制御戦略ではサイバー物理システムに応用しがたい。最高のシステム性能を得るためにサイバー物理システムに効果的に制御を加えるためには、システム制御戦略と無線ネットワーク設計を合わせて研究する必要があり、無線通信ネットワークを設計する際は情報に対する分散型センシング、計算、制御の要求を満たしているかどうかを考慮する必要がある。リアルタイム性、閉ループセンシング、制御を支援するには、サイバー物理システム中の通信ネットワーク設計を既存の無線センサネットワーク(一般的には開ループセンサを採用)とは明らかに差別化し、情報通信品質の制御可能性と予測可能性を高めることが非常に重要である。この目的を達成するには、解決しなければならない問題が数多く存在する。例えば、無線通信ネットワークではサイバー物理システムの制御戦略の設計を支援する必要があるが、動態的かつ予測不能な制御戦略では情報通信への要求をリアルタイムで変更するため、情報通信構造及び情報管理のリアルタイム調整が必要であり、制御戦略に応じた情報通信品質が必要とされる。サイバー物理システムの不確定な環境特性は予測可能な情報通信のQoS設計にも大きな課題となっている。サイバー物理システム中の多くのヘテロジニアスなユニットの存在もネットワーク通信における情報の安全設計及び制御により多くの困難をもたらす。例えば、計算ユニットと物理的対象のインタラクションにより通信に関する情報が暴露される可能性があるため、物理的対象を通じたサイバー物理システムの通信ネットワークへの攻撃が可能となる。
設計・開発の手段:サイバー物理システムの新たな応用分野が登場する際は、既存の手段いう基盤を直ちに利用し、それらシステムを設計する上での助けとする必要がある。しかし、コンピュータに既存の設計補助手段は、サイバー物理システム技術を採用した大規模でヘテロジニアスなシステムの構築に向かないため、サイバー物理システムの設計開発手段を研究する必要がある。サイバー物理システムの設計開発手段の研究開発は、多くの課題に直面している。サイバー物理システムはヘテロジニアスなシステムの統合であり、多くの異なる属性の物理サブシステム、計算サブシステム、通信ネットワークサブシステムにより構成される。このようなヘテロジニアス性により設計の複雑さは増しており、オートメーション化設計手段の開発に困難をもたらしている。サイバー物理システムには多くのヘテロジニアス性サブシステムが存在するため、設計手段にはこれらシステム個々の特性を考え合わせる必要がある。このため、設計手段の専門化レベルや効率の低下、設計コストの増大を招いており、この事も設計手段の市場化開発に困難をもたらしている。
5.結論
サイバー物理システムの研究は、21世紀の工業に革命的な発展をもたらすが、コンピュータ科学、制御科学、通信科学の研究理論及び方法上のヘテロジニアス性のため、サイバー物理システムの各構成要素間のシームレスな統合が解決を要する難題となっており、われわれに課題を突きつけていることが分かる。一方、サイバー物理システムには幅広い応用の可能性があり、生活や工業に多くの利点をもたらすことから、多くの国や企業、研究機関がサイバー物理システムの研究に次々に加わっている。社会経済の発展の上での必要性や、国家間の科学技術競争によって、サイバー物理システムは現在及び今後数年にわたり、研究の関心事となるであろう。