「膜」の交換により、燃料電池車の航続距離をさらに延長
2019年12月10日 陳曦(科技日報記者)、張華(科技日報特派員)
新しい知識
燃料電池車は新エネ電気自動車の一種で、1、2分で燃料を満タンにできる。中核モジュールは燃料電池で、そのうちプロトン伝導膜の導電性は燃料電池のエネルギー変換効率に大きな影響を及ぼす。天津大学化工学院の張生教授はこのほど、英マンチェスター大学のノーベル物理学賞受賞者のアンドレ・ガイム氏らと協力し、グラフェンや窒化ホウ素などの二次元材料にプロトン伝導性があることを証明した。そこからさらに、自然界に広く存在する雲母を燃料電池に用いる高温プロトン交換膜が、現在の商用膜の性能よりも優れており、より省エネ・環境保護効果が高いことを発見した。この2つの研究成果はこのほど、「ネイチャー・ナノテクノロジー」と「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載された。
プロトンがグラフェン膜を通過する様子(取材先提供)
より薄型の膜により航続距離を延長
現在よく目にする家庭用リチウムイオン電気自動車と比べると、燃料電池車は長時間の充電を省くことができ、1、2分で燃料を満タンにできる。さらに燃料電池車は暖機運転の必要がなく、熱的サイクルの制限を受けず、エネルギー変換効率が極めて高く航続距離がより長い。燃料電池の発電では水しか生成されず、より環境に優しい。そのため燃料電池車は未来の自動車の主な発展方向の一つになっている。
燃料電池の活動原理はこうだ。陽極の燃料水素が電子を失いプロトンになり、それからプロトン交換膜を通過し陰極に到達し、酸素や電子と結びつき水を生成する。プロトンは電池内の伝導と外部回路の電子により電流回路を形成する。そのためプロトンの伝導性は燃料電池のエネルギー変換効率にとって非常に重要だ。現在の商用100%フルオロスルフォン酸プロトン伝導膜の厚さは少なくとも5ミクロン以上で、100度以下の水和状態でなければ効果を発揮できない。その際に水素の純度を高める必要がある。摂氏100度以上で効率的にプロトンを伝導できる膜材料を開発できれば、燃料電池の効率向上を促し水素の純度への要求される水準を引き下げ、水管理システムを簡素化し、コスト削減・汚染減少の目的を達成でき、燃料電池車の商業発展に対して重要な意義を持つ。
張氏は「効率的な高温プロトン伝導膜材料を探すのは容易なことではない。その材料は薄く、プロトンの高速通過を許すとともに、水素の浸透を妨げなければならない。水素の浸透は副作用を起こし、電池の出力電圧を下げ、燃料電池全体の反応効率に影響を及ぼすからだ。同時にこれは耐高温の特性を持たなければならない」と説明した。
グラフェンなどの二次元材料が理想的な材料に
張氏はまず協力者と共に厚さ0.3ナノメートル(1ナノメートルは0.001ミクロン)のミクロン級単層グラフェン・窒化ホウ素薄膜を開発した。同薄膜の両側を濃度の異なる塩酸溶液の中に入れると、濃度差の存在により濃度が高い側のイオンが低い側に拡散し、プロトンの運動により電流が形成される。
彼らは理論計算を通じ、六辺ネットワーク構造を持つグラフェンや窒化ホウ素などの二次元材料がその特殊な物理構造により、直径10ピコメートル(1ピコメートルは1ナノメートルの1000分の1)以下の粒子しか通過させないことを明らかにした。塩酸は水素イオンと塩素イオンで構成され、プロトンの半径は約0.001ピコメートルで、塩素イオンの半径は約180ピコメートル。そのため小さいイオンでなければこの薄膜を通過できない。同実験により、二次元薄膜を通過した電流はすべてプロトンの伝導によって生まれ、体積がやや大きめの塩素イオンはまったく貢献しなかったことが分かる。張氏は「この実験により、グラフェンや窒化ホウ素などの二次元材料はプロトンの通過しか許さず、水素などその他のイオンと分子を遮断することが分かった。これは燃料電池のプロトン伝導膜の材料としての要求を満たしている」と述べた。ただ、張氏はまた、グラフェンと窒化ホウ素は商業プロトン伝導膜よりも薄型(1万分の1)ではあるが、構造が過度に緻密であることからイオンの伝導を阻む力が商業膜を上回り、エネルギー変換効率が上がらないため、商用化に適していないとも話した。
雲母膜、グラフェンよりも高い将来性を持つ
グラフェンなどの二次元材料をプロトン伝導材料にできることを証明した上で、張氏と協力者は2年間の積極的な模索により、もう一つの二次元材料である雲母がグラフェンよりも燃料電池分野において高い応用の将来性を持つことを発見した。
張氏は「雲母は地殻中に非常に豊富に含まれる、非常に安価な鉱産物だ。その主体は海綿のようなアルミノケイ酸塩層でできている。カリウムイオンは水のようにその隙間に大量に存在している。イオン交換反応により、カリウムイオンはプロトンとの交換が容易だ。カリウムイオンの半径が約100ピコメートルで、プロトンの半径が約0.001ピコメートルと非常に小ぶりであることから、プロトンをカリウムイオンが存在する隙間によく伝導できる」と説明した。
研究により、イオン交換処理後の雲母膜のプロトン伝導効率が大きく向上し、そして使用温度が100度から500度に伸び、応用の将来性が極めて高いことが分かった。張氏は「イオン交換反応後の雲母膜のプロトン伝導効率が100倍に向上した。同時に雲母膜の方が熱の安定性が高く、埋蔵量も豊富で、価格も割安だ」と紹介した。また研究によると、温度摂氏150度の環境における雲母膜のプロトン伝導効率は、現在の商用化の条件の2倍以上になるという。燃料電池に応用後、自動車の航続距離が大幅に延長されることになる。
張氏は現在研究チームを率い大型雲母薄膜を作り、その高効率のプロトン伝導性と優れた耐熱性を利用し、既存の燃料電池技術の改良を行うことで、燃料電池車の発展を促そうとしている。張氏は燃料電池の他に、上述したプロトン伝導膜材料を太陽エネルギー光分解水、海洋ブルーエネルギーの抽出や、二酸化炭素をギ酸、エタノール、エチレンなどの化学工業原材料に電気化学変換させるなど多くのクリーンエネルギー技術に用いる計画を立てている。
※本稿は、科技日報「換箇"膜" 燃料電池汽車能跑得更遠」(2019年12月2日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。