第159号
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需要や基礎の最先端に照準―広東省10の実験室

2019年12月18日 龍躍梅、葉青(科技日報記者)

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視覚中国より

―国の実験室設置に対する要求に照準

 鵬城実験室と華為(ファーウェイ)はこのほど、深圳でクラウドコンピューティング処理システム・鵬城雲脳Ⅱ基本型を共同で発表した。華為が独自研究開発したプロセッサーアセンブリを搭載しており、人工知能(AI)の分野のコンピュータビジョン、自然言語、自動運転、スマート交通、スマート医療などの各種基礎研究をサポートする。

 鵬城実験室の高文室長(中国院院士)は、「当実験室は今後も、科学研究資源、人材などの面の優位性を発揮し、一方の華為はCPU、オペレーティングシステム、データバンクなどのインフラの面でイノベーションを図り、共にAI技術のさらなる発展と社会、経済の各分野での広い応用、実践を促進する」と語る。

 鵬城実験室は、広東省が第一弾として建設した4つの省実験室の一つだ。広東省党委員会、省政府は「戦略的需要、国内一流、他領域との融合、特色の鮮明さ、産業へのバックアップ」の全体的要求に基づいて、基礎研究能力を向上させ、イノベーション分野の弱点を補い、鍵となるコア技術をめぐる課題の克服目標に、中国内外で最高で、最も優れた基準を採用して、三期に分けて合わせて10の広東省実験室を建設した。広東省の実験室建設は今も秩序正しく進められており、ハイレベルな各分野をリードする人材を数多く呼び込んでおり、ハイレベルな研究と成果の実用化が積極的に展開され、広東省のテクノロジーイノベーションの輝かしいシンボルとなっている。

実験室の体制・メカニズムの革新に「GOサイン」

 松山湖材料実験室学術委員会の趙忠賢委員長(中国科学院院士)は、「当実験室は、どんな科学的問題を解決したのか、どんなコア技術的問題を解決したのかを重視している。論文ではなく、それを基準にしており、数多くのアイデアを実現できる」と語る。

 趙委員長に評価されたのは、同実験室が採用した多元的評価制度に基づいて形成された周期的で、適者生存型の人材チーム審査メカニズムなどのためだ。

 取材では、広東省が実験室の建設を計画していた際、体制・メカニズムのイノベーションが最も重要な問題の一つとして考慮された。そのため、広東省は、省のレベルだけでなく、市のレベル、さらに、実験室のレベルから、イノベーションに「GOサイン」を出した、ということが分かった。

 省のレベルでは、国の実験室建設に対する要求に焦点を合わせ、中国内外の優れた経験を参考にし、広東省政府は関連の規定を制定。省実験室の機能・位置付け、管理、資金投入モデルなどを明確にした。また、省実験室に人事、財務、報酬、科学研究組織などをめぐる自主権を与え、社会化された(流動的)雇用・市場化された報酬制度などの面で大胆なイノベーションを実施し、省実験室の建設、発展のために制度的基礎を築いた。

 市のレベルでは、関係する市が「一室一策」特定項目サポート措置を採用した。例えば、広州市は、「再生医学・健康広東省実験室のイノベーション・発展を推進するための若干の政策」を打ち出し、再生医学省実験室が成果を実用化するために会社を立ち上げ、業務とマッチしているプロジェクトへ出資することを許可。プロジェクト1件当たりの出資額は1,000万元(約1.5億円)以下のものは、省実験室が審査を行うとしている。

 仏山市は、「季華実験室の買付管理事項の最適化に関する通知」などの制度的措置を発表して、季華実験室に調達の自主権を与えている。

 省実験室のレベルでは、一部の省実験室が実情に基づいた運営メカニズムの大胆な模索を行っている。鵬城実験室は制度41項目、再生医学省実験室は32項目、季華実験室は21項目、松山湖材料実験室は22項目を打ち出している。統計によると、省実験室が独自に制定した規則、制度は245項目に達している。

良好なイノベーション環境が構築されハイレベル科学研究人材が集まる

 季華実験室の常務副室長を務める宋志義氏は、「当実験室には、半導体デバイス、ロボット、宇宙リモートセンシング、有機材料マイクロ加工などの分野における中国内外のハイレベル科学研究チームが在籍している。そして、米国の水素エネルギー、香港理工大学の画像処理、日本の微細加工などの5つの科学研究チームと提携することで合意している。昨年、当実験室では中国国内の『双一流』(世界一流大学・一流学科)に選ばれている大学28校から、博士課程修了者20人を募集した。今年は博士課程修了者200人、修士課程修了者100人を募集する予定だ」と説明する。

 季華実験室には現在、多くのハイレベル人材チームや中国科学院や中国工程院の院士、国家重点基礎研究発展計画(973計画)の首席科学者3人、国家傑出青年科学基金獲得者4人が在籍し、科学研究者チームの規模は450人以上に達している。

 広東省実験室が良好なプラットフォーム構築や体制・メカニズムのイノベーションにより、実験室は、人材呼び込みの点で大きな誘致力を備えるようになっており、多くのハイレベル人材が集まるようになっている。例えば、再生医学・健康広東省実験室には多くの院士が集まり、省内のハイレベル専門家と一歩踏み込んだ連携を実施している。優秀な人材により構成される50チーム以上が集まり、科学研究者チームの規模は900人以上に達している。松山湖材料実験室にはイノベーションモデルプラント科学研究チーム18チームが集まり、科学研究者チームの規模は360人に達している。その中には、多くのの院士と、国家傑出青年科学基金獲得者は30人が含まれる。

 広東省科学技術庁の関係責任者によると、広東省実験室は、目下、多数のハイレベル人材を呼び込んでいる。同時に、ハイレベル人材チーム200チーム以上、香港科学研究機関8機関、香港地区・澳門(マカオ)地区の科学者40人以上も設立に携わっている。

資源の統合を強化し、先を行く基礎研究の展開が不可欠

 近ごろ開催された「広東省実験室建設作業現場会」で、広東省の馬興瑞省長は、「イノベーション要素が自由に流動し、効率的に配置されたイノベーションエコシステムを構築するためには、中国全土、ひいては世界中からハイレベルのイノベーションリソースを集め、各種リソースの統合、キーテクノロジーの研究開発、最先端のキーテクノロジーの基礎や応用基礎研究を強化して、テクノロジーイノベーションの先頭を走らなければならない」と強調した。

 高い期待が寄せられている広東省実験室は今後、どんな使命を果たしていくのだろう?広東省は、「国家や広東省の重大な戦略的必要性や切迫した任務に焦点を合わせ、キーテクノロジーをめぐる研究開発や先端の科学研究に取り組む」ことをその使命としている。

 再生医学・健康広東省実験室は現在、基礎・応用研究戦略を展開するうえで必要なことに焦点を合わせ、「再生医学の先端」、「組織・器官の再生」、「基準化・臨床前再生医学応用」の三つの重点分野で展開している。

 再生医学・健康広東省実験室の徐涛室長(中国科学院院士)は、「当実験室は生物医療器械部を設置した。同部は設備や試薬の研究開発という重要な科学研究任務を担当し、先端の生物医療器械の研究開発、生産を中心にし、複数の学科が共同で取り組むプロジェクトセンター、産業実用化拠点を構築している。5年から10年かけて、キーテクノロジーを開発・確立することを目指している」と説明する。

 複数の実験室を取材して、一部の実験室は現在、多くの国家重大戦略科学技術任務や省級重大科学技術プロジェクトを担当しているほか、独自の科学研究プロジェクトを実施して研究開発に取り組んでいる実験室もあることが分かった。

 鵬城実験室は、国家発展・改革委員会の2019年の人工知能イノベーション発展プロジェクトを担当し、季華実験室は、中国科技部(省)の重大テクノロジー特定プロジェクトを担当して、中国の関連の分野で他の国の制約を受けている状態の打破に力を注いでいる。

 深圳湾実験室、南方海洋科学・エンジニアリング省実験室(広州)などは、省の基礎・応用基礎研究重大プロジェクトを担当している。

 例えば、深圳湾実験室は「中国国産CPUに基づくクラウドコンピューティングオペレーティングシステム腫瘍微小環境異質性・食道の扁平上皮ガンの再発転移・治療耐受研究」を、南方海洋科学・エンジニアリング省実験室(広州)は、「粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深圳、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門両特別行政区によって構成される都市圏)やその近くの海域の冷水湧出帯システム生態プロセス・資源開発の原理」を担当している。

 松山湖材料実験室の王恩哥理事長(中国科学院院士)は、「当実験室は関連のビッグサイエンス装置の開発を計画している。その影響力は非常に大きく、もし実現すれば、深圳光明城と東莞松山湖の地域が、世界で最も影響力のある場所となるだろう」と語る。

 また、一部の省実験室は現在、独自の科学研究プロジェクトを実施して研究開発に取り組んでおり、2019年8月の時点で、独自に実施している科学研究プロジェクトの数は200件以上となっている。


※本稿は、科技日報「広東10家省実験室 剣指重大需要、基礎前沿」(2019年12月5日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。