第37号:資源探査技術
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日中資源探査用ロボット機の研究進展

2009年10月 7日

鄧 明聡

鄧 明聡(と めいそう):
岡山大学工学部システム工学科 准教授

1964年4月生まれ
専門: 非線形制御,ロボット制御,システム故障診断の研究。
1997年 熊本大学大学院自然科学研究科博士後期課程 修了
1997年 熊本大学工学部知能生産システム工学科 助手
2000年 イギリスUniversity of Exeter 研究員
2001年 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 研究員
2002年 岡山大学工学部勤務
(05年5月~09年4月(社)電子情報通信学会英文誌A編集委員;06年4月~08年3月計測自動制御学会中国支部役員; 07年3月~09年3月より計測自動制御学会論文集編集委員会委員;08年1月よりInternational Journal of Advanced Mechatronic Systems編集委員長;05年10月~05年11月;カナダConcordia大学Visiting Scientist)

はじめに

 科学技術の急速な発展に伴い日本、中国におけるロボット工学の研究も大いに進んでおり、特に資源探査用ロボットの研究開発が注目されている。本稿では、日中両国における資源探査用ロボットの研究開発、主に海洋資源探査用ロボットの研究開発について述べる。

 資源といえば、近年、地下・深海(海底)・宇宙といった領域まで開発対象となっており、その資源探査用ロボットも上述の環境において様々に開発されている。地下の資源開発については、すでに金属鉱物資源・非金属鉱物資源・レアメタル・核燃料鉱物資源・エネルギー資源に対して地球物理探査・地化学探査・試錐に関する様々な先端技術が開発されており、実用化されている。該当分野でのロボット開発といえば、採掘作業のロボット化とその応用が広く期待されてより、宇宙探査においては、日本の無人探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワに到達し、画像認識技術によって、自律的な着陸およびサンプル採取に成功した。特に宇宙開発基本法が成立し、今後の宇宙開発への取り組みが議論されている。このような中、日本のロボット技術は世界最高水準にあり、月・惑星探査ロボットの開発など、世界的にも宇宙活動への応用が期待されている。一方、中国では、2003年10月15日、甘粛省の酒泉衛星発射センターから長征2Fロケットを使い、初の有人宇宙船「神舟5号」の打ち上げに成功した。これは旧ソ連とアメリカについで3番目の成功であった。楊利偉宇宙飛行士は高度343kmの円軌道で地球を14周(飛行距離は60万km)し、21時間23分の飛行の後、16日に無事帰還した。また、国策として月探査を進め、2007年11月に月周回機「嫦娥1号」を打ち上げ、その後、同周回機による月面の撮影に成功した。今後の宇宙探査計画では、2011年に月周回機「嫦娥2号」を打ち上げた後、2013年には月面ローバー「嫦娥3号」を着陸させる予定で、月サンプルリターンミッションを計画している。そのため、輪ロッカー‐ボギー懸架ロボット、ユ二クランク‐スライダ懸架ロボットなどの車輪型惑星探査ロボットも開発されている。

つぎに、海洋資源探査用ロボットの研究開発について述べる。大陸棚や深海底には豊富な資源が存在してより、日本では2007年に海洋基本法を施行し、2008年には海底鉱床の採掘などを基本とする海洋基本計画を策定している。日本近海の鉱床には金や銅、コバルトなどが存在し、浅い海底鉱床分だけでも70兆~80兆円の市場価値があると見られていて、それらを調査し、採掘するための大型の海中ロボットの開発が期待されている。海底資源が世界最高水準のロボット技術で採取可能となればエネルギー問題も解決する。中国でも近年、海洋資源開発用の海中ロボット、特に自律型無人探査機(AUV: Autonomous Underwater Vehicle)の研究開発が盛んになっている.なお、海中では10m深度を増すごとに1気圧ずつ圧力が高まるため、水圧に耐えられる構造が要求される。海中の塩分により電磁波を通さないため、地上と同様の通信は困難である。さらに、空気もないエンジンなどの地上で一般的な動力源もそのままでは適用できず、陸上における技術をそのまま適用することは不可能である。実質的には、宇宙分野よりも難しい技術が要求されると言われている。また、海中ロボットについては、単純な観測活動であれば全自動でこなすことが可能となりつつあるが、周辺環境の認知能力が限られているため、音響による地形調査といった、障害物回避をあまり考慮しない動作に限られている。たとえば、調査船とケーブルでつないで操縦することで自動潜航するような海中ロボットがある。

探査用ロボット

「うらしま」の写真

「うらしま」の写真

 海洋研究開発機構(JAMSTEC)では、船舶や有索調査船等が近づき難い場所において調査を行うため、自力で航行観測する自律型無人探査機(AUV)「うらしま」を開発している。「うらしま」は、機体にコンピュータを内蔵した自律型海中探査ロボットで、あらかじめ設定したシナリオに従って、自身の位置を計算しながら航走できる。本機の開発は1998年から始まっており、2001年には深度3,518mという潜行に成功している。また、2005年には燃料電池を搭載したAUVとして世界記録となる連続航走317kmを達成し、大きな注目を集めている。

「ABISMO」システム構造

「ABISMO」システム構造

 さらに、「うらしま」を起伏のある海底に追従できるように改良し、探査機に搭載した音響測深機等の精度を向上させ、2007年5月に、沖縄トラフの熱水噴出域の熱水マウンド及びチムニー群の詳細な形状と分布のイメージングに成功した。また、最大3,000mまでの潜航が可能な探査機「ハイパードルフィン」や10,000m級の探査能力を持つ探査機「ABISMO」等、海中・海底で観測やサンプリング等を実施できる遠隔操作型無人探査機(ROV: Remotely Operated Vehicle)が開発されている。

「r2D4」の写真

「r2D4」の写真

 東京大学生産技術研究所海中工学研究センターでは、中型の自律型海中ロボット「r2D4」を開発している。平成17年度および19年度には伊豆・小笠原海域の明神礁やベヨネース海丘のカルデラ内に潜航させ、小型の現場型マンガン分析装置、サイドスキャンソナー、テレビカメラなどで観測することに成功している。

 一方、中国科学院瀋陽自動化研究所は、1985年に中国の水中ロボット第1号「HR-01号」を設計し、さらに深海ロボット「CR-01」や「CR-02」を開発している。2008年には、水中ロボット「北極ARV」が第3回中国北極科学考察の氷下試験に参加し、北緯84度で氷下実験を行った。また、2008年3月20日には、水深6,000mで作業を行うロボット「CR-02」が南シナ海での試験に成功している。現在、中国では水深6,000m級の無人潜水艇や7,000m級の有人潜水艇の開発を進めている。中国においても海底資源の利用には力を入れており、2007年5月には、南シナ海の海底から、将来的に重要なエネルギー源になると期待されているメタンハイドレードの採取に成功している。

「CR-01」の写真(左)「CR-02」の写真(右)

「CR-01」の写真(左)「CR-02」の写真(右)

終わりに

 日中両国の研究者は資源探査用ロボットの研究開発において多大な成果を収めており、これらの成果を踏まえて、新たな計画も立てられている。今後の東アジア地域における資源開発、および探査用ロボットがどのように展開されるべきか、互恵の精神を持つことによって、さらなる発展が生まれると期待できる。最後に、資料の提供などに協力された本学矢納 陽先生、大学院博士後期課程姜 麗華さんに謝意を表する。

引用文献:

  1. http://www.jamstec.go.jp/j/about/equipment/ships/urashima.html
  2. 海洋鉱物資源の探査に関する技術開発のあり方について(中間とりまとめ案),海洋開発分科会海洋資源の有効活用に向けた検討委員会,2009年4月
  3. http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2008&d=0321&f=national_0321_009.shtml
  4. http://dailynews.yahoo.co.jp/fc%2Fworld%2Fchina_space_exploration%2F#backToPagetop
  5. http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp/top/sado/sado.html