中国ロボット産業発展の現状と展望
2015年10月28日
曲 道奎:新松機器人自動化股份有限公司(瀋陽)総裁
略歴
博士課程指導教員、中国ロボット産業連盟理事長、科学技術部ロボット産業技術イノベーション戦略連盟理事長、中国自動化学会ロボット専門家委員会主任。2014年「中国科学技術革新十大人物」に選出。
「ロボット革命」は、「第3次工業革命」の切り口と重要な成長分野となり、世界の製造業の局面に影響を与えつつある。「ロボット革命」は、数兆ドル規模の市場を生み出す潜在力を持っている。ロボットは「製造業という王冠の頂点の宝石」であり、その研究開発と製造、応用は、一国の科学技術のイノベーションとハイエンド製造業の水準をはかる重要な指標となる。
1 国際ロボット産業の情勢分析
1.1 工業ロボットが製造業革命の核心に
世界は現在、製造モデルの変革を迎えており、中国ではそれがとりわけ急ピッチで進み、カギともなっている。米国が打ち出した「再工業化」、欧州連合が打ち出した「新工業革命」などの製造業発展戦略はいずれも、人工知能やロボット、デジタル製造技術の急速な発展を通じて、製造業競争の局面を再構築し、製造モデルの変革を実現しようとするものである。中国の製造業は、巨大な困難と試練に直面している。「人口ボーナス」の消失や労働力の不足、労働力コストの急激な上昇、資源や環境の略奪的な使用などは、中国の製造モデルと発展モデルを持続不可能なものとし、モデルの転換とアップグレードの必要性に迫られている。またハイエンド製造の欧米への還流や、ローエンド製造の労働力コストの低い国への移転も、中国の製造モデルに急速な変革を促している。ロボット製造のモデルは、ローエンドの労働力の不足問題を解決し、ハイエンド製造業の差を縮小することができると同時に、企業の運営コストを引き下げ、運営効率を高めることも可能とする。
工業ロボット技術は日増しに成熟し、一種の標準的な設備として工業界において幅広く応用されている。工業ロボットによって自動化された生産ラインの総体設備は、自動化設備の主流となり、未来の発展方向となっている。工業ロボット産業の発展の過程においては、ABBやFANUC、新松、安川、KUKAなど国際的に大きな影響力を持つロボットメーカーが形成されている。
1.2 軍用ロボットが未来の戦争兵器に
軍用ロボットとは、軍事使用を目的とした、何らかの擬人的な機能を備えた機械電子装置を指す。軍用ロボットの形態は様々だが、擬人的な機能を備えていることを共通の特徴としている。軍用ロボットは、兵士の戦闘条件を大きく改善し、作戦の効率を高める。そのため軍用ロボット技術は、各国の軍事・政治の要人の高度な重視を受けている。米国防省は2009年、『2009—2034年・無人システム統合ロードマップ』を発表し、未来の無人化された戦争のニーズを満たす戦術ロボットシステムを開発する方針を明らかにした。米国防省はさらに、2015年には3分の1の陸軍部隊のロボット化を実現し、2020年には「ロボット兵士」の数を一般兵士の数よりも多くするとの目標を示している。
その他の国々も、自国の特長に基づいた開発計画を制定している。例えばロシアはロボット兵士を開発中で、国家の競争力を変革する今後3年の3大核心技術の一つとこれを位置付けている。韓国は、国境パトロールの可能な無人地面ロボットシステムをすでに開発しており、韓国の兵士が行っている国境線のパトロールにまもなく応用することとしている。さらにイスラエルやカナダ、英国、フランス、ドイツも各種の軍用ロボットを開発し、未来の無人化戦争に備えている。
1.3 サービスロボットが一般家庭に
サービスロボットは、半自動または全自動の作業ロボットで、生産・製造・加工プロセス以外で人を助ける設備を指す。専用サービスロボットと家庭用サービスロボットに分かれ、そのうち専用サービスロボットは特殊環境下で作業するロボット、家庭用サービスロボットは家庭環境でサービスを提供するロボットを指す。高齢者や障害者の補助ロボット、リハビリロボット、清掃ロボット、介護ロボット、教育娯楽ロボットなどがある。
人口の高齢化が深刻な日本では、ロボットによって労働力を補う必要があり、サービスロボットの戦略産業としての発展が進められている。韓国は、サービスロボット技術を未来の国家発展のための「10大エンジン産業」の一つと位置付け、サービス型ロボットを国家の新たな経済成長分野として発展させている。
ビル・ゲイツは2007年、科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」に「A Robot In Every Home」と銘打った文章を寄稿し、ロボットが将来、コンピューターと同じようにどの家庭にも普及するようになるとの見込みを示していた。現在、世界の各種サービスロボットの年間販売台数は数百万台に達し、世界の工業ロボットの保有量をはるかに上回っている。ロボット掃除機はすでに一般家庭に普及し始め、医療ロボットは最小侵襲手術に応用され始め、グーグルの無人自動車はすでに路上走行実験の許可を得ている。
1.4 数兆ドル規模のロボット産業
マッキンゼー・アンド・カンパニーは、未来に大きな影響を与える12種類の「破壊的技術」の一つにロボットを数え、製造業や医療、サービスなどの産業分野での先進ロボットの応用が2025年までに1兆7千億ドルから4兆5千億ドルの生産額を達成するとの見込みを示している。そのうち人体機能の増強に応用されるロボットの生産額は6千億ドルから2兆ドル、工業ロボットは6千億ドルから1兆2千億ドル、外科手術ロボットは2千億ドルから6千億ドル、家庭サービスロボットは2千億ドルから5千億ドル、商用サービスロボットは1千億ドルから2千億ドルとされた。
ロボット産業の膨大な市場規模に、世界の大資本は参入の動きを強めている。グーグルは2013年度、ロボット企業8社を次々と買収し、ロボット産業の局面を左右するものと見られている。日本のソフトバンクグループはフランスのロボットメーカーのAldebaranを子会社化し、人型ロボットの「Pepper」を打ち出した。サムスンやパナソニックもサービスロボット産業への展開を相次いで加速している。
2 ロボット産業発展の社会的原因の分析
2.1 技術の駆動
人工知能やロボット、センサーなどの技術の絶え間ない発展に伴い、ロボットはすでに、従来のオンラインの指示による作業モデルから、知能化された作業モデルの方向へと発展し始めている。視覚技術の進歩は、ロボットが、作業対象の位置や姿勢の識別を実現し、作業対象の立体的な特徴を取得することを可能とした。力制御技術の発展は、ロボットが、作業対象に対するより精確な触覚フィードバックを取得し、より細かい操作を行うことを可能とした。人工知能の発展は、ロボットが、動態環境の下でのより優れた計画と判断の機能を備え、複数のロボットとの共同作業で任務を完了することを可能とした。マンマシンインターフェース技術の進歩は、ロボットが、音声言語などの方式で操作者とより自然な情報交換を行うことを可能とした。ネットワーク技術の発展は、ロボットが、スマート工場の知能化設備として、企業の生産データを各種の遠距離制御端末にリアルタイムで伝送し、同時に遠距離の故障診断と設備メンテナンスを実現することを可能とした。技術の向上に伴い、ロボットの機能や性能、信頼性は絶え間なく高まり、より優れた柔軟性と知能を備え、複雑で細かい作業を担えるようになった。こうした技術は、ロボットが大量に人を代替する前提条件となった。
2.2 ニーズの牽引
社会の発展進歩は、技術と製品のアップデートを加速し、製品のライフサイクルはますます短くなりつつある。同時に市場ニーズの個性化は、生産システムの柔軟性に対する要求を絶えず高めている。知能化ロボットは、情報化されたプラットフォームに支えられ、小ロット・多品種・カスタム生産のニーズを満たすことができる。
製造業の企業の多くは労働力の不足や労働力コストの上昇の課題に直面している。一方、ロボット本体のコストとメンテナンス費用は下がり続けている。企業のロボット使用に必要な設備の改造投資と人力方式を比較すると、ロボットはすでにコスト面での優位性を備えつつある。これは企業がロボットを大量に使用し、製造モデルを変更する経済・市場の原因となっている。
2.3 社会的要素
国際ロボット協会の研究報告は、米国・ドイツ・日本・中国・韓国などの国の1995年から2015年までのロボットの使用量と就業率のデータ比較研究を通じて、ロボットの大量応用と労働力・就業とは衝突するものではなく、大量の労働者の失業を生み出すものではなく、労働者の就業の転換とアップグレードを大きく推進するものであるとの結論を導き出している。
3 中国ロボット産業発展の現状
中国はすでに、世界最大の工業ロボット市場となっている。国際ロボット連盟の統計によると、2014年の世界の工業ロボットの販売台数は約22.5万台で、2013年から27%増加した。中国での販売台数は5.6万台で、2013年から54%増加し、世界市場におけるシェアは約25%に達し、引き続き世界最大のロボット市場となった。このうち本土企業の販売台数は1.6万台となっている。
中国のロボット産業はゼロから始まり、規模を拡大させ続けている。ロボットの研究開発や設計、生産製造、工学応用、部品提供などに従事するロボット企業はすでに500社を超えている。資本市場においても、ロボットをコンセプトとした上場企業が40社余りにのぼっている。そのうち新松機器人自動化股份有限公司(以下「新松」)の時価は400億元に達し、ロボット産業においてABBとFUNACに続く世界第3位につけている。全国各省市地区で建設・準備中のロボット産業パークは30カ所を超えている。中国のロボット産業はまさに新たな発展のピークを迎えている。ロボットの応用は、自動車や自動車部品、工事機械、電子電器、半導体関連、プラスティック化学工業、医薬食品などの産業に広がり、一部のローエンド製造や労働集約型産業においてもロボットは潜在的な幅広い応用市場を備えている。
4 ロボット産業の展望
4.1 ロボットと「インダストリー4.0」
「インダストリー4.0」はデジタル化とネットワーク化の技術を利用し、強大な機器群を連接し、機器間の情報共有や自動制御、自己最適化、知能化生産を実現するものである。「インダストリー4.0」は、「スマート工場」と「智能化生産」を前面に出すもので、これはつまり、情報化・自動化技術の高度な統合を実現し、企業の情報化を生産現場から各工場さらにはサプライチェーン全体に延長することを求めるものであり、一度限りの技術革命にとどまらず、企業の戦略転換を誘発するものである。
「インダストリー4.0」で最も重要となる知能化されたパーツは、ネットワーク化されたロボットである。工業ロボットが人間に代わって運搬や積み卸し、加工、組立、鍛造、溶接、研磨、ポリッシング、吹き付け塗装などの仕事を行い、モバイルロボットが人間に代わって工場の自動化物流倉庫管理を行う。ロボットは人間より低コストで、さらに高い一致性と信頼性とで任務を成し遂げることができ、企業のMESシステムとの結合を通じてデジタル化工場全体の少人数化・無人化を実現できる。
4.2 サービスロボットと「インターネット+」
サービスロボットと「インターネット+」の融合は、人類社会の生活方式に深刻な変化をもたらすこととなる。将来は、「インターネット+」の健康サービスプラットフォームと高齢者向けロボットの結合によって、家庭環境下での高齢者介護の難題が解決できる。「インターネット+」に基づく教育サービスプラットフォームは、キャンパスや家庭の遠距離教育システムを実現することとなる。「インターネット+」に基づく知能化交通システムは、知能化された車両による補助運転や無人運転を実現する――。
知能化された端末であり操作元でもあるサービスロボットは、自らに感知・決定・移動・操作の機能を備え、人間に役立つサービスを提供することができる。「インターネット+」を支えるプラットフォームは、「モノのインターネット」やクラウドコンピューティング、ビッグデータなどの技術を借りて、巨大な情報採集・処理と知能化決定のプラットフォームをサービスロボットに与え、サービスロボット自身の感知・計算・操作能力を拡大する。
5 総結
世界の新たな科学技術革命と産業変革は、中国製造業のモデル転換・アップグレードと歴史的な遭遇を果たし、中国を引き続き世界最大の工業ロボット市場としている。「モノのインターネット」やビッグデータ、クラウドコンピューティング、人工知能、ロボット技術は学科を越えて融合し、ロボットやウェアラブルデバイスは人類生活の各分野に浸透し、世界をサービスロボットの時代へと導いている。中国のロボット産業は爆発前夜にあり、製造モデル・戦争モデル・生活モデルをロボットが変える時代が近づいている。
※本稿は曲道奎「中国機器人産業発展現状与展望」(『中国科学院院刊』2015年第3期)を中国科学院より許可を得て翻訳・編集したものである。