第35号:生態系保全技術
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中国の土砂河川における生態環境水要求の特徴

2009年8月17日

倪 晋仁

倪晋仁(Ni Jin Ren):北京大学環境工学研究所 所長

1962年8月生まれ。1989年清華大学水利工学部で博士号取得。1992年北京大学教授着任、1995年北京大学環境工学研究所設立。主に水環境改善の理論と技術、河川の整備と修復工事に関する研究に従事。これまでに国家自然科学基金の重大プロジェクト、国家傑出青年基金、国家科学技術サポート計画のテーマ、欧州連合(EU)の科学技術協力プロジェクト、カナダのCIDAプロジェクトなどの50件余りの重要科学研究プロジェクトに着手。専門書5冊出版、国際的な学術誌に100編余りの論文を発表、10件余りの国家発明特許を取得、教育省の科学技術進歩1等賞を2度受賞。現在、政協全国委員、人口資源環境専門委員会委員、中華環境保護連合会理事、「応用基礎与工程科学学報」編集委員会主任等を兼務。

要旨:

 中国には多くの特殊な土砂河川(土砂含有量の多い河川)があり、黄河がその最も代表的なものである。土砂河川は一般の河川と異なり、その土砂流送機能が河川系の1つの重要な機能となっている。このため、土砂河川系の健全性を確保するのに必要な生態環境水要求を研究する時は河川の土砂流送用水を優先的に考慮しなければならない。河川の生態環境水要求量を確定するための一般的な計算方法は、土砂河川の生態環境水要求の特徴をあまり考慮しておらず、土砂含有量の少ない河川にしか適用できない場合が多い。土砂河川である黄河を例にとると、黄河下流の水と土砂の各種状態下における生態環境水要求を系統的に認識し、増水期、渇水期及び通年の状況の違いを考慮すれば、その生態環境水要求の特徴を理解することができる。土砂河川の生態環境水要求の特徴に基づき、黄河の水資源利用と生態水要求の競争性を考えるなら、多目的ダムを利用して水と土砂を組み合わせた適切な調節・制御を行い、渇水期に流入した土砂を増水期に集中して流送するのがよく、それによって河道の堆積を減らし、生態環境水要求量を引き下げ、水資源の利用効率を高めるという目的が達成される。

1 土砂河川の特殊性

 河川系は自然界の最も重要な生態系の1つであり、人類と密接な関係を持つ。河川系の主な機能には送水、土砂流送、洪水排出、自浄、景観、水運、生態等があり、人々の生産・生活に大いなる利便性を与えている。しかし、人類共同体の発展に伴い、人間の活動が自然の河川系に大きなダメージを与えるようになり、その生態系の構造と機能が損なわれ、人間の生活にも不利な影響がもたらされた。例えば、河川の水資源の不合理な開発・利用及び水利構造物の建設によって、水生生物の生息環境がダメージを受け、さらには完全に破壊され、河道に土砂が堆積し、河口・湿地の生態が悪化する等の好ましくない結果を招いたのである。河川の水資源を効率よく持続的に開発・利用するには、河川生態系の健全性と安定性を維持するための生態環境水要求量を確保しなければならない。

 河川の生態環境水要求量とは特定の時間と空間において特定のサービス目標を実現するための変量であり、特定の水準の下で河川系の諸機能を発揮するのに必要な水量を総称したものである。河川機能の違いに対応した生態環境用水は水質汚濁防止用水、生態用水、土砂流送用水、河口部の生態環境用水及び景観用水、娯楽環境用水等に分けることができる。

 土砂河川は土砂含有量が多いという特殊性から、十分な土砂流送用水を確保することがそれを海まで押し流す基本条件となる。さもなければ、下流に堆積した土砂が河道の急速な上昇を招き、洪水の潜在的脅威が増すだけでなく、河川の生態系の健全性も脅かされることになる。典型的な土砂河川である黄河は、水量が少なく土砂が多く、水と土砂の発生源が異なり、水と土砂の年間分布が不均一で、断流現象が頻々に見られる等の特徴を持つ。黄河下流に入る河川水は粗い土砂の含有量が多く、水量と土砂がアンバランスであることから、河道の深刻な堆積、河床の上昇、河道の縮小を招くとともに、水利構造物の利用効率と耐用寿命にも影響を与え、下流の洪水防止、発電、灌漑、生態環境等に一連の悪影響が出ている。このため、黄河のような土砂河川について言うなら、土砂流送水要求は河川の生態環境水要求量の重要な構成部分であり、状況に応じてこれを優先的に確保すべきである。

 現在よく用いられている生態環境水要求量の計算方法には歴史的な水文データを基礎とする7Q10法とTennant法、河道の水力学パラメータに基づく潤辺法やR2CROSS法、大量の水文、水化学実測データを特定の水生生物種の各成長段階における生物学情報と結び付け、流量の増減がその生息地に及ぼす影響について評価を行うIFIM法、さらに河川の生態系全体を視野に入れ、専門家の知識と経験を生かして総合研究を進めるBBM法及び全体研究法等がある。これらの方法は研究対象区域それ自体の特徴により、河川の土砂流送機能について十分な考慮が払われていない。この他、土砂流送用水に関する研究ではその水要求又は用水の計算、流送の効率向上及び河道整備との関係といった面により多くの関心を寄せており、河川系の健全性という視点から土砂流送水要求と全体の生態環境水要求との関係を探究することが行われていない。黄河のような土砂河川については、土砂流送水要求と生態環境水要求の関係及び生態環境水要求の特徴を探ることが非常に重要である。

2 黄河下流における生態環境水要求の構造分析

 黄河下流を例にとると、土砂河川の生態環境水要求についてその構造を分析することができる。

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 黄河流域の大部分は乾燥地帯及び半乾燥地帯にあり、水資源が全体的に乏しい。しかし、黄河は西北地区と華北地区の重要な水源として、流域の多くの都市と大型灌漑区域に水を供給する役割を担っている。1972年以降、黄河下流ではしばしば断流が発生しており、沿岸に多大な経済的損失を与えたばかりでなく、下流の生態環境もひどく損なわれた。黄河の健全な生命力を保ち、その水資源の持続可能な利用を実現するため、黄河下流の生態環境水要求に関する研究が広く重視されるようになった。

 黄河は土砂が多いことで世界的に有名である。三門峡観測所での土砂流送量の平年値は16億t、実測した土砂含有量の平年値は35kg/m3に達し、その流送量と含有量の多さは世界に類を見ないものだ。大量の土砂を海に押し流すには十分な水量が必要となる。さもなければ、下流の河床に堆積した土砂が河道の縮小及び河床の上昇を招き、洪水の潜在的脅威を激化させる恐れがある。黄河の土砂河川としての際立つ特徴から、その下流の生態環境水要求における土砂流送の用水要求には独特のものがあり、これは世界の多くの河川と明らかに異なる点である。

 河川の最小生態環境水要求量は一定の原則と手順に従って確定する必要がある。具体的に言うなら、機能性を求める原則、時期を分けて考える原則、河区を分けて考える原則、主な機能を優先させる原則、効率最大化の原則、余効最小化の原則、多くの機能を調和させる原則、全ての河区を最適化する原則等を含めることができる。関連作業の中で、黄河下流の最小生態環境水要求量について河区別の研究を進め、典型的な水と土砂の流入状態下における4つの主要河区の総合生態環境水要求量を確定した(表1に示す通り)。表には土砂流送の用水要求が総生態環境水要求量に占める割合(%)も列挙されている。表からわかるように、各河区の土砂流送水要求量はいずれも総生態環境水要求量の80%以上を占める。土砂流送の水量は黄河下流の生態環境水要求量の大部分を占めているのである。

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表1 黄河下流各河区の総合最小生態環境水要求量及び土砂流送水要求の総水量に占める割合
水文
観測所
対象河区 増水期の最小流量
/m3·s-1
渇水期の最小流量
/m3·s-1
年総流出量
/108m3
総流出量に占める
土砂流送水量の割合
花園口 三門峡-花園口 1,972.3 231.5 252.5 80.99%
高村 花園口-高村 2,321.9 234.3 289.3 83.20%
艾山 高村-艾山 2,190.5 158 259.9 87.38%
利津 艾山-利津 2,140.2 155.6 254.2 87.29%

 黄河下流の具体的な河道の状況に基づき、その最小生態環境水要求量を計算する時、主に考慮する河川機能は水質汚濁防止機能、土砂流送機能及び生態機能とすることができ、それぞれの機能を発揮させるには最低限の限界流量又は水量が必要となる。各機能用水の相互調整により単位水資源当たりの生態環境へのサービス最大化を実現することは考慮しないとの前提に立てば、黄河下流の各主要河区の増水期と渇水期における水質汚濁防止、土砂流送及び生態の限界水要求量を知ることができる。増水期の豊かな雨水は上・中流の黄土高原地域で土壌の大量浸食をもたらし、そのため、黄河下流各河区の土砂流送水要求量はいずれも200億m3以上に達する。一方、渇水期は土砂が比較的少ないが、それでも各河区の土砂流送水要求量は150億m3前後となる。土砂流送に比べると、水質汚濁防止と生態の水要求は明らかに少なく、一般に50億m3以下である。これからわかるように、黄河のような土砂河川について言うなら、河川の最小生態環境水要求量を確保するには土砂流送の用水要求を満たすことがカギとなる。

 以上は黄河下流各河区の典型的な水と土砂の流入状態下における河川系の用水要求を機能別に列記したものである。歴史的な事実を見ると、1950年代以降、黄河下流の水と土砂の流入状態には大きな変化が起きており、おおよそ4種類の状態に区分することができる。即ち50年代に代表される三門峡ダム建設以前の「自然状態」、70年代に代表される三門峡ダム稼働後の「制御状態」、上・中流での土壌保全、取水工、ダム稼働と下流での水資源利用が相互に影響し合いながら下流で断流が頻繁に起きた80年代に代表される「複雑状態」、上・中流への水と土砂の流入が異常に多く、河道の堆積が深刻で、断流の深刻度が増した90年代に代表される「異常状態」である。それぞれの時間尺度又は決められた時間尺度のそれぞれの時期において、河川の生態環境水要求量は外部条件が変わったり、各機能の主導的役割が交互に変化することにより若干異なるものである。このため、黄河下流の生態環境水要求の中で土砂流送が大きなウェートを占めていることに基づき、水と土砂の各種流入状態下における土砂流送水要求と生態環境水要求の相互関係をさらに詳しく分析する必要がある。

 水と土砂の流入状態の違いに応じて、黄河下流各河区の増水期の土砂流送水要求が年間の生態環境水要求に占める割合を比較するなら、その割合はそれぞれの流入状態の間で著しい違いのあることがわかる。50年代に代表される自然状態は河川の水量が比較的豊かであり、同時に大量の土砂も運ばれてくる。そこでは土砂を海へ押し流す目的を達成するため、十分な土砂流送水量を確保することが必然的に要求される。一方、河川系のその他機能の用水要求は流出量に伴って変化する度合いが土砂流送機能よりもずっと小さく、このため、生態環境水要求量に占める土砂流送水要求量の割合は各種の状態の中で自然状態が最も高いものとなる。自然状態とは正反対に、90年代に代表される異常状態下では黄河下流の水資源が著しく不足し、断流が頻繁に発生しており、同時に、上流の土砂流入量も水流入量の減少に伴って減少することから、土砂流送水要求量が明らかに少なくなる。この時、河川系のその他機能の水要求量は生態環境水要求量に占める割合が若干増え、土砂流送水要求量の割合が低下する。その他、80年代に代表される複雑状態下での土砂流送水要求の割合は70年代に代表される制御状態下での割合よりも高くなる。これは80年代前期の黄河下流への豊富な河川水流入が多くの土砂をもたらしたこと、また、70年代の三門峡ダムの稼働方式が影響を与えたことによるものである。三門峡ダムは1973年末に第2次改造工事が完了した後、「清水を蓄え、泥水を排す」方式に従い、水と土砂の調節・制御による運用を開始し、渇水期にたまった土砂の一部を増水期特に洪水期に集中して排出するようになり、その結果、土砂流送の用水効率が高まり、全体的な用水要求が低下した。

 土砂流送水要求の割合は水と土砂の状態に応じて変わるが、その状態がどう変化したとしても、土砂流送水要求量は一般に生態環境水要求量の70%以上を占める。このため、水と土砂の状態の変化は黄河の土砂河川としての特性を根本から変えるものでなく、土砂流送水要求は常に河川の生態環境水要求の中心となっている。

3 黄河下流の生態環境水要求の特徴

 黄河下流の水と土砂の流入状況は増水期と渇水期では非常に大きな違いがある。これは土砂流送水要求量の変化をもたらすだけでなく、各河区の総合生態環境水要求量を確定する上でも大きな影響を持ち、黄河下流の生態環境水要求の顕著な特徴となっている。

 黄河下流の土砂流入は増水期の流入量が大部分を占める。表2にまとめた黄河下流各河区の状態別の年平均土砂流入量を見ると、異常状態でやや小さくなるのを除き、各河区の増水期の土砂流入量は一般に年間流入量の80%以上を占めている。増水期の土砂が十分に流送されなければ、大量の土砂が河道に堆積するのは必至であり、さらには河床が上昇を続けて「天井川」となり、洪水の脅威が増すことになる。このため、河川の生態系保護及び下流の洪水防止という安全面を考慮するなら、増水期の土砂流送水要求は必ず満たされなければならない。

表2 状態別に見た黄河下流各河区の増水期の土砂流入量及び年間流入量に占めるその割合
  自然状態 制御状態 複雑状態 異常状態
土砂流入量/108t 割合% 土砂流入量/108t 割合% 土砂流入量/108t 割合% 土砂流入量/108t 割合%
三門峡-花園口 15.03 85.26 12.86 91.91 8.30 96.58 7.73 93.52
花園口-高村 13.34 85.47 10.54 85.29 6.71 86.49 6.09 83.79
高村-艾山 12.68 85.91 8.65 79.91 5.83 82.99 3.89 74.88
艾山-利津 9.98 82.76 7.79 79.98 6.01 84.93 3.95 75.13

 増水期において、河川は土砂流送機能を発揮する他、汚染物を希釈排出して一定の水質基準を満たすための十分な水量が河道になければならず、さらに河川の生態系を守るのにも一定の水量が必要である。しかし、水と土砂の流入状態がどうであれ、河川の水質汚濁防止水要求量と生態水要求量は土砂を流送するのに必要な水量よりもずっと少ない。増水期の土砂流送水要求が満たされる時、水流が土砂を海へ送り込む過程で、その他機能の用水要求も自動的に満たされる。このため、黄河下流各河区の増水期における総合生態環境水要求量は同期の土砂流送水要求量として確定することができる。増水期において、土砂含有量の少ない河川を研究対象とする外国の多くの生態環境水要求量の計算方法が黄河のような土砂河川に適していないのは明らかであり、これは黄河の生態環境水要求の研究が世界の多くの河川研究と根本的に異なる点でもある。

 渇水期の期間は増水期よりもずっと長い。しかし、表2からわかるように、黄河下流各河区の渇水期における土砂流入量は増水期よりも明らかに少なく、一般には年間流入量の20%を超えることがない。そうであるにも関わらず、土砂河川の特徴から、黄河下流各河区の渇水期における土砂流送の用水要求は依然としてその他機能の用水要求よりもずっと高い。増水期と同様に、渇水期の土砂流送の用水要求が満たされる時、その他機能の用水要求も自動的に満たされる。このため、理想的な状況下では黄河下流各河区の渇水期における総合生態環境水要求量も土砂流送水要求量と同等にすべきであり、この時、河川系の機能は最大限守られるのである。

 しかし、黄河下流では水資源が不足しており、これを効率よく利用することが求められる。土砂流送用水量、即ち河川水の単位質量当たりの土砂を流送するのに必要な水量をその用水効率の具体的な現れとするなら、各河区で渇水期に1t当たりの土砂を流送するのに消費される水量は一般に増水期の水消費量の3倍以上であり、渇水期の水流の土砂流送効率は増水期よりずっと低いことになる。黄河下流は渇水期の土砂流入量が少なく、且つ土砂流送の効率が低いため、この時期においてもなお土砂流送を河川系の主機能とし、河道の総合生態環境水要求量を確定するなら、黄河下流の水資源の深刻な「浪費」を招き、黄河の水資源配分を難しくすることになろう。以上の分析を総合すると、黄河下流の渇水期の総合生態環境水要求量を確定する時は、河川の汚染防止機能と生態機能の用水要求を優先的に考慮すべきである。黄河下流の汚染防止機能と生態機能は切り離すことができず、且つ渇水期におけるその重要度は等しいものであり、この2つの機能の最低限の要求を調和させるには、両者の必要とする限界流量の中で大きい方の値を取ればよい。黄河の水資源状況及び土砂流送の時間分布の特徴から、黄河下流の渇水期における河川系の主機能を選択し、総合土砂流送水要求量を確定することができ、渇水期に土砂の一部を暫時堆積させることを認めるなら、下流のために100億m3前後の水資源を節約することができる。

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 河川系の主機能用水を時期別に最適選択すると、黄河下流各河区の総合生態環境水要求は増水期には河川の土砂流送水要求を主とし、渇水期には水質汚濁防止水要求及び生態水要求を主としたものになる。ここから最終的に確定される年間の総合生態環境水要求量は総合土砂流送水要求量と汚染防止/生態水要求量の間にある。このようにすれば、河川の水質汚濁防止水要求と生態水要求は年間を通じて完全に満たされ、増水期に流入する土砂も完全に流送することができる。渇水期に土砂が一部堆積されるが、その堆積量は年間土砂流入量のごく一部を占めるにすぎない。表3は渇水期の土砂流送の用水要求には目をつぶることで節約できる土砂流送用水量及びこれによってもたらされる土砂堆積の年間土砂流送量に占める割合を示したものである。各河区で毎年節約できる土砂流送用水量はいずれも100億m3以上(三門峡-花園口河区は若干少ない)であることがわかり、その節約される水量は水資源の乏しい黄河下流にとって重要な意義を持つ。

表3 渇水期の部分的な土砂堆積を認めることで節約できる土砂流送水量
及び年間土砂流送量に占める堆積量の割合
  三門峡-花園口 花園口-高村 高村-艾山 艾山-利津
  節約水量/108m3 堆積割合
%
節約水量/108m3 堆積割合
%
節約水量/108m3 堆積割合
%
節約水量/108m3 堆積割合
%
自然状態 124.36 10.81 140.89 11.70 143.72 11.31 153.41 11.80
制御状態 95.56 9.87 118.97 13.85 130.96 16.33 124.10 13.00
複雑状態 89.62 7.58 127.79 12.42 128.97 12.88 118.28 9.08
異常状態 68.71 8.79 106.36 16.98 135.79 24.20 100.32 16.29

 渇水期の土砂流送用水が確保されなければ、土砂の一部が堆積されることになる。しかし、前記の検討からわかるように、土砂河川は増水期の土砂流送効率が渇水期よりもずっと高く、年間を通して見るなら、多目的ダムを利用して水と土砂の調節・制御を行い、渇水期に流入した土砂を増水期に集中して排出することができる。それによって渇水期の土砂流送要求が満たされ、渇水期に流入した土砂の流送効率も高まるのであり、河道の堆積を減らし、水資源の利用効率を高めるという目的が達成される。同時に、多目的ダムの稼働が下流に入り込む水と土砂の条件を変えた。関連の研究と実践が示しているように、ダムの放流水の土砂含有量、流量と放流時間を制御すれば、理論的には土砂流送の用水量を制御することができ、水と土砂の適切な条件下で、その用水効率が大幅に向上する。土砂河川の生態環境水要求の主要部分は土砂流送水要求であり、土砂流送の用水効率向上は生態環境の用水効率向上にもつながる。このため、ダムで水と土砂を調節すれば、土砂河川の生態環境水要求量を減らし、その用水効率を高めることができる。

 土砂河川の特徴は河川系の機能における土砂流送機能の特殊な地位を決定づけている。土砂流送の用水要求が独特なものであることから、河川の生態環境水要求量を確定する時は通常の計算方法をそのまま当てはめることができない。黄河下流の生態環境水要求を例に挙げて分析すると、以下の結論を得ることができる。

  1. 土砂河川で土砂を流送するには大量の水資源を消費する必要がある。土砂流送の用水要求はその他機能の用水要求よりもずっと高く、その水要求は生態環境水要求の大部分を占めている。
  2. 増水期の土砂流送水要求が満たされる時、年間土砂の大部分を流送できるだけでなく、河川のその他機能の用水要求も自動的に満たされる。この時の生態環境水要求量は土砂流送水要求量に等しい。
  3. 渇水期の土砂流送水要求が満たされる時、同じように河川のその他機能の用水要求を満たすことができる。しかし、土砂流送の効率の低さから水資源が大量に浪費されることになる。水資源の高効率利用という視点から考えるなら、この時は土砂流送機能を河川系の主機能とすべきでなく、生態環境水要求量はその他機能の水要求量のうち大きい方の値に合致させるべきである。
  4. 土砂河川は増水期の土砂流送効率が渇水期よりもずっと高い。このため、多目的ダムを利用して調節・制御を行い、渇水期に流入した土砂を増水期に集中して流送し、その流送効率を高めることができ、河道の堆積を減らし、生態環境水要求量を少なくし、水資源の利用効率を高めるという目的が達成される。