第168号
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「二つの試練」に直面する無錫ハイテク産業開発区―3つの措置で質と効率を向上

2020年9月28日 過国忠(科技日報記者)

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(写真:視覚中国)

 今年上半期、無錫ハイテク産業開発区の地区総生産額は854.65億元に達し、前年同期比2%増であった。一定規模以上の工業企業の工業総生産額は毎月のように増加し、582.63億元を達成した。輸出入総額は235.42億米ドルであった。いずれの経済指標も全市1位となった。

 3年分割で1億元(約15.5億円)を投資する計画の航鵠サイエンスパークが8月13日に無錫ハイテク産業開発区梅村街道工業集中区で着工された。このプロジェクトで生産が開始されると、年間販売高は3億元(約46.5億円)に、税収は3,000万元(約4.65億円)に達する見込みだ。

 瀚雲科技有限責任公司の独自開発によるHanClouds工業インターネットプラットフォームでは、企業におけるSaaSの応用・開発のためにスピーディで効率的なクラウドコンポーネントサービスを提供する。現在、このプラットフォームでは企業3,000社以上を対象にサービスを提供しており、接続端末は1,500万台を超える。サービスの提供先企業はエネルギー、電力、ハイテク設備等の多くの業界分野をカバーしている。

 今年上半期、無錫ハイテク産業開発区の地区総生産額は854.65億元(約1.32兆円)に達し、前年同期比2%増であった。一定規模以上の工業企業の工業総生産額は毎月のように増加し、582.63億元(約9,030億円)を達成した。輸出入総額は235.42億米ドル(約2.5兆円)であった。いずれの経済指標も全市1位となった。

 新型コロナウイルスの感染拡大と市場という「二つの試練」に直面し、無錫ハイテク産業開発区ではどのような「強い措置」と「独自の妙計」で困難と障害を切り抜け、パーク経済の質と効率の向上を実現したのだろうか。

待ちの姿勢でも、撤退の姿勢でもなく、パーク経済の成長のための「拠点」を安定化

 最近、筆者は長江デルタ地区でも外国資本の集まる地区で、戦略的新興産業の集積地区でもある無錫ハイテク産業開発区を訪れた。今年最初の2ヶ月間、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による対外輸出への影響のため、この地域の企業は多くの不可抗力にさらされ、パーク経済の成長も困難に見舞われた。

 IoT、集積回路、バイオ医薬品、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、ハイエンド・スマート製造等は、無錫ハイテク産業開発区において10年以上かけて育て上げられ、着実に形成されてきた、高いイノベーション能力と市場競争力を持つ新興の産業体系であり、無錫のイノベーション型経済を支える重要な支柱でもある。

 それでは、今回の新型コロナウイルスによる影響が及ぶ中で、企業はいかにスピーディに操業を再開させ、輸出入に対する障害を解消し、パーク経済の成長のための「拠点」を安定させていくべきであろうか。

「我々は待ちもしないし、撤退もしない。企業の直面する問題に対処するために、過去の常識を捨て去り、さまざまな対策を打ち出す。『一企業一政策』の措置を講じ、操業再開を阻む『詰まり』を開通させ、重点プロジェクトと一定規模以上の企業の操業再開を支援し、生産と経済の正常な運営を保障し、全力を挙げてパーク経済の成長のための『拠点』を安定させる」。無錫市副市長で、無錫ハイテク産業開発区の共産党工作委員会書記でもある蒋敏はこう語る。

 春節以降、無錫ハイテク産業開発区は真っ先に操業再開計画を策定し、全力で「企業を守り、従業員を守り、ルート、発注、資金、研究開発、外資、成長を守る」という要求を打ち出した。無錫ハイテク産業開発区の全区内の組織の幹部と誘致担当者600名余りを第一線に投入し、企業が直面する困難とニーズを明らかにし、運輸・物流、資金援助等で遭遇する深刻な課題の解決を支援し、早期の操業再開に向けて後押しした。

「我々は、無錫ハイテク産業開発区の指導により、グループ請負およびライン請負制度を実施した。データ、稼働、サンプリング、流通の作業チームを設置し、作業効率の向上のために人員の移動を減らし、『データに仕事をさせ、ヒトの雑用を減らす』ように努めた。全市でいち早く『企業の操業再開と感染抑止のための作業プラットフォーム』を構築し、企業の操業再開や情報の届出、日常の管理業務をすべてオンラインで解決できるようにし、企業の『負担』を減らし、『プレッシャー』を解消した」と無錫ハイテク産業開発区の共産党工作委員会副書記で、管理委員会副主任を務める洪延煒は説明する。

 気配りによって困難を解消し、工業企業の操業再開を阻む「詰まり」を開通させる。こうして、2月末の時点で、無錫ハイテク産業開発区では工業企業5,302社が操業を再開させた。このうち、一定規模以上の工業企業では845社が操業を再開しており、他の県や地区に比べて1ヶ月前倒しとなった。

「企業の対外進出が難しく、外国資本も入ってこないという局面に対処するために、我々は企業に対してオンライン展示会を構築することを奨励した。インターネットの情報サービスと地域を越えた電子商取引のプラットフォームを頼りに、オフラインでの物流や展示販売、商談の制約による困難の解決を助けた。また、オンラインや関連取引・交流・提携等の方式を通じて、なるべく多くの発注を得られるよう努力した」と無錫ハイテク産業開発区商務局局長の華艶紅は語る。

 特に、操業再開のプロセスで企業に生じた科学研究、生産、経営資金上の課題については、無錫ハイテク産業開発区の科学技術局では金融機関とのマッチングを積極的に行い、「錫科貸」や「新科貸」等の「条件」の低い金融商品をリリースし、オンラインで一対一のセッションや小規模テレビ会議を行い、ニーズのある企業が即座に銀行と深いマッチングを実現できるようにした。

 こうした措置や政策によって、無錫ハイテク産業開発区の企業は力強く励まされ、入居企業全体で心を一つにして「困難と闘い、成長を維持する」ための自信を高めた。

チャンスをつかみ、高度先端技術の実用化を推進

「新型コロナウイルスの感染拡大によって、我々は現実の厳しさと潜在的リスクをはっきりと認識するとともに、新たなチャンスと市場ニーズも見ることができた。したがって、感染の封じ込めと操業再開をしっかりと行うとともに、企業における調査研究や科学技術プロジェクトの立ち上げを進め、技術や条件の整った企業を重点的に支援し、市場ニーズとの積極的なマッチングを行い、業界間の融合・イノベーションを通じ、感染の封じ込めや汚染水の処理、環境モニタリング、金融サービス等の分野で、より多くの高度先端技術が応用されるようにする」と無錫ハイテク産業開発区科学技術局副局長の王波は先を見すえる。

 つまり、危機の中で新たなチャンスを育てるのだ。今年2月以降、無錫ハイテク産業開発区では12の重点産業について、産業チェーンの構築、補充、強化、延伸を主体とした「産業レベルアップ・イノベーションプロジェクト」を全面的に始動させた。

 瀚雲科技は無料のネットワーク連携プラットフォーム「Putallin(蒲公英)」をリリースした。ここでは、オンライン専門の感染封じ込めテンプレートとして、企業の健康管理や届出について、適切な情報化支援を行う。また同時に、リモートメンテナンスやオンラインサービス等の方式によって、企業が自ら問題を解決できるようリモートで支援を行い、従業員の出張を減らしている。

 無錫市の長楽社区では、瀚雲科技は恵山国控と提携し、「Putallin」のオンライン・コミュニティ(社区)隔離サービスを利用して社区の入力作業量を80%削減させた。また、特に技術手段を通じて、同社は販売モデルからリースモデルへと経営モデルの転換も行っており、この逆境の中で収益増を実現している。今年上半期、同社の営業収入は30%増えた。

 また、無錫感知グループは長年の技術開発によるアドバンテージを背景に、製造段階でのブレイクスルーを照準としただけでなく、「IoT+金融サービス」という融合モデルを開拓し、中小零細企業における経営のための融資という難題を解決した。

 今年6月末現在、無錫感知グループではIoT・フィンテックによって実体企業1,323社にサービスを提供している。融資発生額は258.77億元(約4,010億円)に達し、「リスクゼロ、不良債権ゼロ」を実現した。

 現在、無錫ハイテク産業開発区にはこうした企業が多数存在する。彼らはインフラ建設や長江デルタ一体化経済の発展という新たな機会を競い、IoTや製造業の深度融合の分野を開拓するだけでなく、情報インフラ設備の建設に積極的に参加し、急速成長のための新たなチャンスを得ている。

 今年上半期、無錫ハイテク産業開発区全体でハイテク産業が着実な発展を遂げ、工業総生産額に占める割合は69.7%に達した。なかでも、IoT、集積回路、ビッグデータ、バイオ医薬品産業の生産額はそれぞれ10.9%、25.1%、10.3%、11.0%増となった。

「ダブル誘致」で戦略的新興産業の発展に向けて新たなエンジンを増強

 無錫ハイテク産業開発区では一貫してプロジェクトと人材を根本にすえ、エネルギーの源、発展の礎としている。今年、無錫ハイテク産業開発区では資本と人材の誘致を「最大のプロジェクト」として、同区設立以来初の「(プロジェクトと人材の)ダブル誘致」3年行動計画を制定した。同計画では、年間で1億元規模のプロジェクト100件以上と科学技術企業の500社以上の新規誘致を確保することを目標としている。

「今年に入ってから、我々はすべての点においてプロジェクトと人材を中心に据えて運営し、『ダブル誘致』を全力で推進している。特に、産業チェーンやイノベーションチェーンにおいては『クラウド技術』をよりどころとして、『クラウド企業誘致』を活性化させ、『オンライン対面(ディスプレイ対ディスプレイ)』、『オフライン対面(直接対面)』、『オンライン+オフライン』といったさまざまな企業誘致モデルを柔軟に活用し、プロジェクトを確実に推進している」と洪氏は話す。

 変化の中で新たな局面を切り開く。無錫ハイテク産業開発区ではバイオ医薬品と半導体産業において、感染拡大による「封鎖」の解消に努め、全市でも他に先んじて外に出て、企業誘致を集中的に行った。今年2月以降、主な指導者が自ら指揮をとって誘致を行い、「完全武装」した誘致チーム15組が上海、北京、深セン、杭州等の科学技術人材の優良なリソースを保有し、プロジェクトの本部がある地区を訪れ、多数回にわたるプロジェクトマッチングと商談を行った。

「上海で企業誘致活動を行った期間はまさに感染封じ込めのための重要な時期に重なり、入場禁止の住宅地や研究機関、大企業があったため、我々は『単独攻撃作戦』をとった。つまり、会う約束をしたら、コーヒー1杯や短時間のアフタヌーンティー等の形式でマッチングや意思疎通を行うというものだ。こうして、3日間で手付金350億元(約5,400億円)の協力プロジェクトを合意にこぎつけた」と洪氏は続けた。

 まさにこのような決意と不屈の精神によって、無錫ハイテク産業開発区における誘致は、逆境の中でも増加を見せた。今年に入ってから、プロジェクトの「連鎖を断ち切らず、停滞させない」という精神で推進した結果、質の良い多数の「大規模プロジェクト」と「優良プロジェクト」が次から次へと到来した。

 特に、重大な科学技術プロジェクトに関しては、無錫ハイテク産業開発区では米国Herbalmax社のバイオ原薬の研究開発・生産本部基地や航天科工IoTセキュリティ基地等の54の重大科学技術プロジェクトの契約を相次いで締結した。また、戦略的新興産業に関しては、投資総額180億元(約2,800億円)の先進的集積回路装置および材料産業パーク、投資総額50億元(約775億円)の捷普緑点5Gスマート産業基地、ASML社のフォトリソグラフィ装置技術サービス・支援センタープロジェクト等、数多くのフラグシップ・プロジェクトの誘致に成功している。

 今年1~7月の無錫ハイテク産業開発区全体で契約を結んだ各種優良プロジェクトは146件で、投資総額は1,035億元(約1.6兆円)であり、新規に誘致した科学技術企業は715社で、登録資本総額は55.71億元(約863.5億円)であった。登録資本3,000万米ドル以上の重大外資プロジェクトは9件であった。また、国際精鋭創業チャレンジカップを行って海外から募集した人材プロジェクト1,743件のうち44件が正式に入居した。こうした、重要な審査指標では、数の上でも質の上でも全市1位となっている。

「我々は世界に向けて布石を打ち、産業チェーンにおける誘致と地域的な誘致を協調的に推進し、『企業を安心させ、安定させ、守る』という優良なサービスを究極まで突き詰める必要がある。企業サービスとプロジェクト誘致サービスの両方で専任担当制を強化し、ハイテク産業の『拡大」と『価値の向上』という隠れた文脈をも現実のものとし、各種イノベーション資源の集積を加速させる。こうして、『最強の大脳』と『最強の製造』によって、パーク経済の質と効率の向上に向けて活性化を促すのだ」と蒋氏は語る。


※本稿は、科技日報「面対"双考験" 無錫高新区三招実現提質増効」(2020年9月4日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。