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動力電池廃棄の波が押し寄せる―リサイクルのためのトレーサビリティが焦点に

2019年11月6日 李禾(科技日報記者)

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処理方法が不適格で、最新の技術も有していないリサイクルの「小さな工場」が業界全体の健全な発展にマイナスの影響を及ぼすことを避けるために、改訂版「規範条件」は、環境保護の面での要求をさらに高くしている。例えば、総合利用の過程で発生した廃水、排気、工業固体廃棄物などのオンラインモニタリング装置は、以前の「設置を推奨」から、「設置義務付け」に変わった。

 中国新エネ車の生産台数は世界一をキープしている。中国自動車工業協会が公開している統計によると、2019年1月から8月にかけての中国の新エネ車の販売台数は前年同期比32%増の79万3,000台に達した。新エネ車が大々的に推進、応用されるにつれ、使用済みの動力バッテリーの総合利用問題が際立つようになっている。

 中国工業・情報化部(省)はこのほど、2016年に発表した「新エネ車使用済み動力バッテリー総合利用業界規範条件」(以下「規範条件」)と「新エネ車使用済み動力バッテリー総合利用業界規範公告管理暫定弁法」(以下「弁法」)を改訂し、動力電池の総合利用に関してより整った、より安全で、エコな方法を追求する改訂版に対する社会からの意見募集を行った。

リサイクルは始まったばかり

 中国自動車技術研究センターの試算では、自動車や電池の寿命などの要素を総合的に考慮すると、2018年から2020年までの3年間に中国で廃棄される動力電池は12--20万トン、2025年には35万トンに達するとみられている。つまり新エネ車の動力バッテリー廃棄の大きな波が間もなく押し寄せると言えるだろう。

 天能集団董事局の張天任・主席は取材に対して、「動力バッテリーの寿命は通常5年から8年で、耐用年数は4年から6年だ。つまり、市場に投入された第一陣の新エネ車の動力電池がもうすぐ寿命を迎えるということだ。通常、動力バッテリーの容量が80%以下に劣化すると、自動車に必要な動力を提供できなくなるため、他の分野にリユースすることになる」と説明した。

 工業・情報化部が発表している「新エネ車動力バッテリーリサイクル調査研究報告」によると、今のところ、動力バッテリーのリユースのほとんどは試験的段階にとどまっている。主に、補助バッテリーやエネルギー貯蔵などの分野でその試みが行われている。2018年、中国鉄塔公司は、鉛蓄電池の仕入れをストップし、リチウム電池のリユースに大々的に取り組むようになった。そして、31省・市の基地局約12万ヶ所で、その電池を補助バッテリーとして応用し、さらに、補助バッテリー、エネルギー貯蔵、対外発電応用などの業務を強化している。国家電網は、1兆Whリユースリン酸鉄リチウム電池エネルギー貯蔵システムモデルプロジェクトを実施し、再生可能エネルギー発電、周波数変調などを受け入れている。

 張主席は、「現在、使用済み新エネ車動力電池は主にリユースかリサイクルに回され、廃棄電池は分解して、重金属を取り出し、再利用している。フルライフサイクルからすると、リユースされる電池は最終的に廃棄されても、リサイクルできる」と説明する。中国政府は、動力バッテリーのリサイクルを非常に重視しており、2018年、工業・情報化部、科技部、環境保護部などが共同で「新エネ車動力バッテリーリサイクル管理暫定弁法」などの規定を制定し、動力バッテリーのリサイクル管理強化、業界発展の規範化、資源総合利用の推進などに取り組んでいる。しかし、動力バッテリーのリサイクルは新興分野であり、まだ手探りの状態で、課題も山積みだ。そんな中で「規範条件」と「弁法」がスピーディーに改訂されたというのは非常に注目すべき点だ。

成熟した総合利用データバンクの構築が必要

 今回発表された改訂版「規範条件」と「弁法」は、2016年の関連文書を基礎に改訂したもので、テクノロジーと技術主導で、動力バッテリーのトレーサビリティ・利用などをさらに整え、安全性を高めている。

 廃棄電池のリサイクルの面を見ると、トレーサビリティは特に重要なポイントだ。「新エネ車動力バッテリーリサイクルトレーサビリティ管理暫定規定」は、トレーサビリティ総合管理プラットフォームを構築し、新エネ動力リチウム電池の生産、販売、使用、廃棄、リサイクルなどの全過程の情報を集め、各部分の主体がリサイクルをめぐる責任を履行しているかを監督するとしている。

 張主席は、「現在、中国の電池の回収体系はまだ整っていない。自動車生産企業、電池製造企業、回収企業、リサイクル企業の間の効果的な連携メカニズムもまだできておらず、権限・責任もはっきりしていない。それらの制度や対策は、廃棄電池の効果的な利用強化の面で積極的な役割を果たすことになる。また、動力電池トレーサビリティ管理のさらなる整備が、『規範条件』において際立っている」との見方を示す。

 例えば、「技術、設備、技法」などに対する全体的な指示において、改訂版「規範条件」には、「新エネ車動力バッテリーリサイクルトレーサビリティ管理に関する要求を満たし、情報化トレーサビリティ能力を備えていなければならない。例えば、トレーサビリティ情報システムやコード認識などの補助施設・設備」という条項が増えている。処理不能な「総合利用の過程で発生した電子部品、金属、グラファイト、プラスチック、ゴム、隔膜、電解液などの部品、材料」については、企業に対して、「政府の関連の指示に基づいて、関連の資質を有する企業によって集中的に処理する」と、また「追跡管理を行う」と要求している。一方、「製品の品質と職業教育」の条項のうち、リサイクル企業に対する指示が、「追跡体系を構築する」から、「情報化生産過程管理体系を構築する」に改定された。これは、より整って成熟した使用済みの動力バッテリー総合利用データバンクの構築を促進することになる。

 安全が動力バッテリーの発展の基礎であると同じく、改訂版「規範条件」でも、動力電池リサイクルの過程の安全性に対する要求がより高くなっている。その中で、「環境保護要求」の条項の「気体」の処理に関する要求がより詳細に規定されており、「総合利用の過程において発生した常温常圧下で燃えたり、爆発したり、有毒な気体が発生したりする残余物は、必ず前処理をしたうえで貯蔵しなければならない。そうすることができない場合は、可燃物・爆発物・危険物として貯蔵しなければならない」、とされている。また、「安全な生産、健康、社会的責任」の条項に、新たに輸送に関する指示が加わり、「使用済みの動力バッテリーの輸送は、政府の関連の法律・法規・基準の要求をクリアしていなければならない。電池の構造をできるだけ元の状態に保ち、輸送前は、使用済みの動力バッテリーの安全特性に基づいて分類し、関連の基準に基づいて相応の輸送方法を選択しなければならない。防火、防水、防爆発、絶縁、断熱などの安全対策を講じ、緊急時対応マニュアルを制定しなければならない」と定められてている。

カギとなる基盤技術のブレイクスルーが必須

 中国のリチウム資源量は約700万トンで、世界4位となっている。しかし、リチウムの鉱石の質が悪く、精錬するのが難しく、コストも高いため、毎年、大量のリチウムの鉱石を輸入している。そしてその対外依存度は85%以上となっている。「中国特需」により、電池に使われるリン酸リチウムの価格が高騰しており、その価格は2015年初めの5万元(約77万円)/トンから、2017年末には18万元(約275万円)/トンと、約3倍まで上昇した。これは新エネ車産業の発展にとって足かせとなっており、中国は資源確保の面で大きな課題を抱えている。

 張主席は、「使用済み動力バッテリーは、貴重な『都市鉱山』だ。金属の含有量は鉱石よりもはるかに高い。そのうちのリチウム、コバルト、ニッケルなどの有価金属はリサイクルでき、資源利用効率を向上させ、対外依存度を低下させることができる。使用済み動力バッテリーは、適切に処理せずに廃棄すると、生態環境に大きな危害をもたらす。例えば、正極材料におけるコバルトやニッケルなどの重金属元素、電解液の有機物、負極材料におけるカーボン材料なども水質や土壌を汚染し、特に重金属が一旦土壤に混ざると、回復するのに数十年はかかる」と指摘する。

 そのため、省エネ環境保護の面で、改訂版「規範条件」は、初めてリチウム元素の回収率を規範化し、85%以上でなければならないとしている。また材料修復技法を採用している場合、材料の回収率は90%以上でなければならない。処理方法が不適格で、最新の技術も有していないリサイクルの「小さな工場」が業界全体の健全な発展にマイナスの影響を及ぼすことを避けるために、改訂版「規範条件」は、環境保護の面での要求をさらに高くしている。総合利用関連の企業が施設を新築、改築、増築する場合、環境評価制度に厳密に従い、固定汚染源汚染物質排出許可分類管理名簿の建設項目に盛り込み、政府の汚染物質排出許可関連の管理規定の指示に基づいて汚染物質排出許可証を申請しなければならない。さらに、総合利用の過程で発生した廃水、排気、工業固体廃棄物などのオンラインモニタリング装置は、以前の「設置を推奨」から、「設置義務付け」に変わった。

 改訂版「規範条件」は、「生産の自動化効率が高く、エネルギー消費指標が良く、環境保護が基準をクリアし、資源の総合利用率が高い生産設備、施設を選択し、省エネ、環境保護、クリーン、高効率、スマートな新技術、新技法を採用しなければならない」と強調している。張主席はまた「現在、リサイクル技術はまだ未成熟で、自動化の水準も低く、コストは高止まりしている。使用済みの動力バッテリーのリサイクルに存在するウィークポイントの改善に、産学研が共同で取り組み、装置の水準、金属抽出技術、省エネ、エネルギー削減の水準を向上させ、カギとなる基盤技術の面でブレイクスルーを実現し、生産コストを効果的に削減し、産業体系を少しずつ育成し、成熟させなければならない」と指摘してする。


※本稿は、科技日報「動力電池報廃潮将至 回収利用須追本溯源」(2019年10月21日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。