中国における核医学イメージングの研究
2010年11月19日
単保慈(Shan Baoci):中国科学院高エネルギー物理研究所核分析技術重点実験室 研究員
1965年5月生まれ。1984年、山東大学物理学科卒業、学士学位取得。2005年、北京医科大学(現北京大学医学部)生物物理学科卒業、修士学位取得。1999年、中国科学院高エネルギー物理研究所卒業、博士学位取得。2006年、中国科学院高エネルギー物理研究所研究員として招聘。
長年にわたり、一貫して核医学及びその他の医用画像方面の研究に従事、主に医学イメージング装置の研究開発、データ処理方法およびその生物医学における応用研究に従事。国家自然科学基金、「973」プロジェクト、「863」プロジェクト、中国科学院設備研究開発プロジェクト、北京市自然科学基金重点プロジェクトなど多くのテーマを相次いで主宰、参加。
核医学(nuclear medicine)は核技術と生物学、医学等が結合した一つの科学であり、核技術、医学、電子技術、コンピュータ技術、化学、物理学、生物学など、多くの現代の科学技術分野に関連している。核技術を採用して疾患の診断、治療、研究を行うことは、すでに今日の注目される研究分野の一つであり、それは疾患に対する人々の認識を、解剖学、形態学の範疇から、生理学、生化学、細胞、さらには分子機能などの分野へと推し広げている[1]。
核医学は画像医学の重要な構成部分である。現在、B型超音波に代表される超音波イメージング装置、X線断層撮影装置(computed tomography, CT)、磁気共鳴イメージング装置(magnetic resonance imaging, MRI)、核医学画像装置は、四大医用画像装置と呼ばれている[2]。核医学イメージングは非密封放射性同位元素を放射性薬物の形で人体に導入し、生体物質の代謝に参与した放射性薬物の産生するγ線について、体外で測定、イメージングを行い、それにより生体の生理学、生化学等方面の機能情報を提供する。そのイメージング方式は機能イメージングに属し、特異性が高く、疾患のメカニズム研究と早期診断にとり非常に有用である。
1. 核医学画像装置の概要
早期の核医学画像装置はAnger型カメラで、これは二次元空間の投影画像を生み出すことができた。20世紀70年代から、人々は三次元空間分解能を具えた新しい核医学イメージング装置の開発をスタートし、そのイメージングの検出する放射線が被検物体内部から放射されていることから、放射断層撮影(Emission Computed Tomography, ECT)技術と呼び、単一光子放射断層撮影(Single-photon Emission Tomography, SPECT)、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography, PET)がある。
SPECTはAnger型カメラから発展し、そのイメージング原理は似通っており、すなわち99mTc、131I、123I、133Xeなど、β-崩壊放射性核種で標識された化合物をトレーサとして採用している。この類の核種は崩壊過程において1個の中性子を1個の陽子に転換するとともに、1個の陰電子を放出し、励起状態の原子核が基底状態にもどるときに、余分なエネルギーがγ光子として放出され、毎回1個の光子を放出する。Anger型カメラには2種類の形式があり、通常のAnger型カメラは二次元的コリメータ配列と二次元的検出器配列によって構成されている。走査式Anger型カメラは、一次元的コリメータ・検出器配列と、この配列に垂直な別の一次元走査システムから構成されている。SPECTはAnger型カメラをベースとして、1つの180°または360°の回転走査機構を追加し、多く(たとえば180個)の等角間隔投影データの収集と断層画像再構成処理を行う。Anger型カメラは二次元投影画像しか得られず、深度方向には分解能がないため、診断に際し、病変部の位置決めに一定の難しさが生じるのに対し、SPECTはまさしくこの欠陥を補っている。コリメータ配列の設計パラメータは、SPECTのイメージング空間分解能に影響を与える主な要因である[3],[4]。
PETとSPECTにはイメージング原理と測定装置の面で大きな違いがある。PETは一般に回旋加速器の生み出す半減期の短いβ+崩壊核種、例えば11C、15O、18F等を採用している。この類の核種が崩壊する時、原子核中の1個の陽子は1個の中性子に転化し、かつ1個の陽電子を放出するが、陽電子は飛程が短く、寿命も短く、その産生後ただちに近くの組織の中の1個の陰電子と消滅反応を起こし、2つの運動方向の相反する、エネルギーがいずれも0.511MeVのγ光子を産生する。測定に際し、PETは電子的コリメータを採用し、その密封されたリング型検出器配列を利用して、逆方向に飛び出した2つのγ光子について一致検出を行い、測定したデータをコンピュータに伝送し、コンピュータは一致検出によって形成した投影データを利用して放射性核種の分布の再構成、すなわち画像再構成を行うことができる。全体として言えば、PETは電子コリメート技術を採用しているため、計数率に対するコリメータの制約から逃れ、そのリング生成面に配置されている検出器配列は機械式走査運動を免れており、減衰補償もSPECTより実現しやすい。一般的に言って、PETイメージングは品質がSPECTよりも高く、空間分解能が優れ、データSN比も比較的高い[3],[4]。
2. 核医学画像装置の研究開発
核医学イメージング技術は核技術の生物医学分野における一つの応用として、人体や動物の生体機能情報を取得する面で代替不可能な役割を有しており、現在すでに広範囲に応用されている。中国科学院高エネルギー物理研究所はその核検出方面における優位性を利用して、早くも前世紀80年代初期には核医学イメージング装置の研究開発を開始し、すでに人体陽電子放射断層スキャナ、動物専用陽電子放射断層スキャナ、陽電子放射マンモグラフィなど、自主知的財産権を持つ核医学イメージング装置の開発に成功している。
2.1 中国初の陽電子放射断層イメージングシステム
1983年6月、中国科学院高エネルギー物理研究所は陽電子放射断層イメージングシステムの研究開発をスタートした。1986年6月、中国初のPET試作機の開発に成功し、同年10月、この成果は関係部門の鑑定にパスし、さらに中国科学院科技進歩二等賞を受賞した[5],[6]。
1990年6月、高エネルギー物理研究所は広東威達医療器械集団公司と協力して、臨床ニーズに適合するPETの研究開発を開始した。1992年9月、中国初の臨床応用に供される陽電子放射断層イメージングシステムPET-BO1が関係部門の技術鑑定に正式にパスし、中日友好医院での臨床使用に付された。この装置は頭部及び全身の動態・静態断層イメージングに用いることができる。
PET-BO1[6],[7]検出器は二重円形リング形構造を採用し、608個のBGO結晶と308個の光電子増倍管によって構成され、これらの結晶はblockの構造方式にしたがって配列されている。検出器リングの内径は600mm、有効視野は全身スキャンを行うときは356mm、頭部の場合は256mmである。単一プローブの空間分解能は6mmより優れ、一致時間分解能は5ns。完成機の空間分解能は静態検査を行うときは、検出器中心で6mmより優れ、辺縁で7mmより優れ、動態の場合には中心で9mmより優れ、一致時間分解能は5±1ns、感度は40kc/s/μci/mlである。北京億仁賽博医療設備有限公司と東軟医療系統有限公司も、それぞれ2005年、2009年に人体用PETの開発に成功した。
2.2 動物専用陽電子放射断層スキャナ
図1 Eplus-166 animal PET スキャナ
中国科学院高エネルギー物理研究所は中国科学院大型装置研究開発プロジェクトの資金援助の下で、2005年、中国初の動物実験専用の小型陽電子放射断層スキャナ(Eplus-166 animal PET)の開発に成功、その性能は世界の同類製品の先進的レベルに達している[8]。
Eplus-166 animal PETは、検出器直径が166mm、動物入口直径が160mmに達し、最大サジタルFOVは120mm、アキシャルFOVは66mmで、サジタル及びアキシャル空間分解能はいずれも2mmより優れており、齧歯類及び小型霊長類動物の研究に使用することができる。Eplus-16小型動物用陽電子断層イメージングスキャナの検出器システムは、32個の検出器モジュールによって構成され、検出器はシンチレータ結晶配列と位置敏感型光電子増倍管を結合したプランを採用し、各結晶配列は16×16の1.9mm×1.9mm×10mmのLYSO結晶により構成されている。電子学システムは32個の4チャネルアナログ回路ユニット、16個の8チャネルデータ収集回路ユニット、1個のデータ一致回路、1個のクロック回路及びデータ伝送等の部分によって構成されている。プリアンプは低ノイズ技術を採用し、システムのイメージング品質を高めている。データ収集回路は流れ作業方式を採用し、データ一致についてはFPGA技術を採用、データ伝送はTCP/IPネットワークプロトコルを採用して、データの遠隔伝送とコントロールを実現した[9]。
これまでに、Eplus-166小動物用陽電子放射断層スキャナはすでに中国の10以上の大学、科学研究機関、医療機関のために、大量の動物PETイメージング実験を展開してきた[8]。
2.3 陽電子放射マンモグラフィ
図2 PEMiシステム外観図
動物専用PETの研究開発をふまえて、中国科学院高エネルギー物理研究所は国家「863」プロジェクトの資金援助の下、陽電子放射マンモグラフィ(Positron Emission Mammography, PEMi)の研究開発を展開してきた。
PEMiは中国で初の乳腺診断専用PETスキャナであり、その外観構造は図2の通りである。中国人女性の体型に関するわれわれの調査研究と臨床医の提案に基づき、PEMiベッドシステムは東洋女性の特徴に適した腹臥式設計案を採用している。検出器構造設計の面では、まずシミュレーションソフトウェアを利用してシステムシミュレーションを行い、さまざまな検出器設計案に的をしぼって性能比較を行い、最終的にリング型検出器案の採用を決定し、乳腺スキャニングを行う際に乳房が自然に下垂し検出器リングに入るようにした。システムの性能を高めるために、PEMiシステムは自主知的財産権を持つ高性能モジュール化位置敏感型検出器を採用し、多くの検出器が大直径の検出器リングまたは大面積の平面検出器を隙間なく構成することができ、優れた空間分解能と敏感度を具えている。電子学の面では、自主知的財産権を持つ専用の電子学システムを採用し、マルチチャネル信号のリアルタイム並行収集・処理・分析・伝送を実現した。自主開発したソフトウェアシステムはデータ修正、画像再構築、可視化表示、分析などの機能を提供している。
3. 核医学イメージング技術の応用研究
3.1 SPECTの応用
SPECTは核画像技術の一つの重要な構成部分であり、その臨床応用の範囲はきわめて広く、長年にわたり一貫して核医学の一つの一般的検査方法となっている。
臨床面では、SPECTは主に神経系、心臓血管系、内分泌系、骨・関節系、呼吸器系、泌尿・生殖器系、腫瘍などの方面に応用されている。神経系の方では、SPECTの応用は主に脳血流灌注断層造影[9]、脳代謝造影[10]などの方面に集中している。心臓血管系の方では、SPECTは主に冠状動脈性心疾患[11]、心筋梗塞[12]の診断に応用され、冠状動脈性心疾患の治療効果評価及び心筋細胞生存性の評価に用いられている。内分泌系の方では、甲状腺[13]、副腎[14]の造影に応用されており、骨・関節系の方では、主として悪性腫瘍の骨転移有無[15],[16]の調査、各種代謝性骨疾患の診断、骨・関節疾患や急性骨髄炎の診断などの方面に用いられている。呼吸器系の方では、SPECTの肺潅流造影と肺換気造影 [17]を利用して、肺動脈血栓塞栓症、慢性閉塞性肺疾患、気管支閉塞、気管支腫瘍、肺動脈奇形、肺動脈病変などの診断が行われている。泌尿・生殖器系の方では、SPECTの腎動態造影[18]を通じて、腎機能判定、尿路閉塞診断、腎移植術後監視、片側性腎血管性高血圧初期スクリーニングなどの方面に用いられている。腫瘍の診断と治療の方面では、SPECTは肺がん、胃がん、乳がん、甲状腺がん、鼻咽頭がん、結腸・直腸がん、胃腸膵内分泌腫瘍など [19-22]各種腫瘍の前期診断及び治療追跡に広く応用されている。このほか、SPECTはその他の疾患の検査と治療などの方面にも応用されている[23]。
さらに、SPECTは基礎医学研究にも応用されている。20世紀90年代初期、中国はすでにSPECTを用いて、人の脳血流量に対する刺鍼の影響について研究を開始した[24-27]。劉美娟[28]らはSPECTを利用して、卒中患者の脳血流量に対する頭皮刺鍼の影響について研究した。時傑らはSPECTの脳潅流造影を利用して、MDMA乱用者の局所脳血流量(rCBF)及び脳機能活動に対する電気鍼の影響を観察し[29]、刺鍼が簡単、有効な、副作用のない一つの方法として、MDMA乱用者の陥る薬物中毒の治療に使用可能であることを示した。また郭継竜らはSPECTを利用して、全身麻酔下における電気鍼刺激の人体の生命徴候に対する影響について研究し、刺鍼信号の伝導における植物神経系の役割を追究した[30]。
3.2 PETの応用
PETは70年代の登場以来、高品質の無侵襲性画像診断技術として、すでに臨床及び基礎研究に広く応用されてきた。
臨床応用の面では、PETは神経系疾患、心臓脳血管疾患、腫瘍など、人類の健康を甚だしく脅かす重大疾患の診断に用いることができ、また治療計画の補助設計及び治療効果評価にも用いることができ、さらにいくつかの疾患の発病メカニズムを探るために利用することができる。中国では、神経系疾患の診断におけるPETの応用は主に、てんかん[31]、統合失調症、運動障害性疾患、認知症[32]などの方面に集中している。心臓脳血管疾患の診断においては、主に冠状動脈性心疾患の診断[33]及び心筋生存性の評価、一過性脳虚血発作(TIA)[34]ならびに脳梗塞巣周辺半影部の評価などに用いられている。腫瘍の診断と治療の方面では、18F-FDG PETが消化管腫瘍[35]、悪性リンパ腫[36]、頭頸部腫瘍[37]、頭蓋内腫瘍[38]、乳がん[39]、肺がん[40]などに応用されている。張霞らは、血清腫瘍抗原検査とCTを併用した場合と、PET-CTの肺がんに対する確定診断率を比較し、PET-CTは血清腫瘍抗原検査とCTを併用した場合よりも肺がんに対する診断陽性率が高いうえ、肺がんに対する臨床ステージングがより正確であり、PET-CTの全身代謝造影は肺がんを診断し、肺がんのステージングをいっそう明確にする一つの優れた方法であるということを示した[41]。
基礎研究の方面で、鍼灸はPET技術が応用されている重要な分野の一つである。黄泳らはPETを利用して、血管性認知症患者の百会(ひゃくえ)、水溝(すいこう)、神門(しんもん)等ツボへの刺鍼に関する多くの研究を行い、一定の成果を収めている[42-45]。尹嶺らはPETイメージング技術を利用して、人体の足三里(あしのさんり)穴への鍼灸が関連脳領域のブドウ糖代謝に与える影響について研究を行った[46]。李学智らは少陽(しょうよう)経穴への刺鍼が慢性偏頭痛患者の脳内ブドウ糖代謝に与える影響について研究し、循経取穴法(訳注:患者の一番の愁訴の場所を通る経絡を第一に考えてツボを選ぶこと)刺鍼に対する人の脳の応答特徴を観察し、循経取穴法の中枢神経メカニズムを追究した[47]。張向宇らはさまざまなツボを組み合わせた刺鍼の、脳梗塞患者の脳内ブドウ糖代謝に対する影響について研究し、それぞれのツボを組み合わせた刺鍼はそれぞれ異なる脳領域を活性化することを指摘、ツボと脳機能領域には特異なつながりが存在することを明らかにした[48]。曽芳らはさらに機能性消化不良患者の大脳活動に対する鍼灸刺激の影響について研究した[49]。王愛成らは肝気鬱結(かんきうっけつ)(訳注:肝の新陳代謝の機能が精神的その他の原因により失調する病症)に関わる脳領域のPETイメージングについての研究を行った[50]。鍼灸方面の研究以外に、PETはその他の方面のいくつかの基礎研究、たとえばアルツハイマー病(AD)[51]などにも用いられている。
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