中国IT×アフリカIT―米中ハイテク冷戦の行方を占うTICAD7の開催と興隆するアフリカIT
2019年11月7日
三木亮(みき りょう)
略歴
文教大学情報学部広報学科卒業、浙江師範大学アフリカ研究院修士1年として在籍中。大学卒業後、外国にルーツのある学生の学習サポートなどに携わる。現在は中国の対アフリカ援助などをキーワードに研究に取り組んでいる。
8月28日から30日、横浜でTICAD7が開催され、日本がアフリカのIT産業を支援する事が謳われた。しかし、中国もまたIT分野でアフリカに深く進出している。本記事でその一端を皆様にお届けしたい。
8月28日から30日、横浜でTICAD7が開催された。TICADとはTokyo International Conference on African Developmentの略称であり、1993年から日本主導で開催されているアフリカ開発会議である。共催には国連や世界銀行、アフリカ連合委員会なども名を連ね、アフリカの開発協力に興味・関心のある人であればその名を知らない人はいない。
このTICAD7開催に伴い、やはり日本の主要メディアで「中国のアフリカ進出」に関する報道が見られた。NHKでは2019年8月28日(水)に『アンゴラ「脱中国依存」の模索』という特集をウェブに掲載した。産経新聞でも同日「アフリカ開発会議 中国傾斜への警戒共有を」というコラムが掲載された。他にもFuture Questionが2019年8月16日(金)に「人口爆発するアフリカ 2040年までに中国のような進化をたどれるのか?」というタイトルで中国専門家の富坂聰氏とアフリカ経済専門家の平野克己氏の対談をYahoo!に掲載した。その対談の中で、昨今、アフリカでIT分野が発展していることやエチオピアで中国大手通信企業のZTE(中興)が果たした役割について言及されている。
このアフリカのIT分野は昨今非常に注目されている。JICAが発行している『mundi』の2019年2月1日発行号においても「アフリカ イノベーションで未来を変える」という特集が組まれた。TICAD7において採択された「横浜宣言 2019」も「アフリカに躍進を! ひと、技術、イノベーションで」がメインテーマになっている。
中国ITとアフリカの関係性
確かに日本は正真正銘の先進国で技術的に十分アフリカをリードできる。しかしスマホ決済先進国であり越境Eコマースの普及した中国に暮らしている身として、日本が「中国との開発援助競争」においてIT分野で本当に主導的な立場をアフリカで確立できるのか? TICAD7で採択された「横浜宣言 2019」を作成した人々はアフリカと中国ITに関して過小評価していないか?と感じてしまうのも正直な感想だ。
TICAD7の開催直前、2019年8月15日にウォールストリートジャーナルで「ファーウェイ社員、アフリカで国内スパイ支援」というタイトルでファーウェイがウガンダとザンビアで反政府勢力をスパイしていたという報道がされた。しかし直後にザンビア報道官Hon.Dora Siliya氏がその報道を否定。ツイッターでも8月16日午後8時50分に「ウォールストリートジャーナルの記事には悪意がある。当該記事は軽蔑に値する記事であり、我々は反論する。ザンビアでは法と憲法によって市民のプライバシーの権利は保護されている。ザンビア政府は国内および国際的なサイバー犯罪と闘い、犯罪から市民を守っている」という声明を発表した。しかし日本メディアではあまり触れられていない。なぜファーウェイがアフリカ諸国から選ばれるのか? 米中ハイテク冷戦の中でもなぜしぶとくファーウェイは生き残っているのか? それを理解するには「中国ITのアフリカ進出」を知る必要がある。
アフリカで育った? ファーウェイとZTE
中国大手通信メーカーのファーウェイとZTE、この二社とアフリカの関係は1998年にさかのぼることができる。もちろん携帯電話などを販売し業績をあげたわけだが、注目すべきはこの二社が日本のマスコミに登場する際に「大手通信メーカー」と紹介される所だ。これが意味するのは、この二社は携帯電話の会社ではなく「通信基地局などのインフラも手掛ける会社」ということだ。ファーウェイとZTEは中国国内のみならずアフリカでも通信インフラ建設の経験を蓄積させていった。2006年にはファーウェイ、ZTE、ASB、中国国際通信建設公司が共同してエチオピアの農村モバイル普及プロジェクトを落札した(平野克己著『経済大国アフリカ 資源、食糧問題から開発政策まで』中央公論新社、2014年、P35-36)。今や世界的にも認知されるようになった中国のIT技術だが、その技術や経験はアフリカで鍛え上げられたと言っても過言ではないのである。
アフリカ各国大学との産学連携や市民生活向上にも貢献している中国通信機器大手二社。
またこの大手二社はアフリカ各国の大学と産学連携にも取り組んでいる。反政府活動家へのスパイ活動が報道されたザンビアだが、そのザンビアでもファーウェイは大学と連携し、技術者の育成とザンビアの通信環境改善に貢献している。
ザンビア以外でもケニアや南アフリカ、アンゴラなどでもファーウェイは現地アフリカのITの技術者育成のための教育機関の設立に貢献している。教育への投資や援助はそのまま現地の若者の雇用改善や経済の生産性や効率性の向上に直結する。アフリカでスパイ活動疑惑を持たれたファーウェイだが、おそらく西側や日本国内が想像するよりもファーウェイバッシング報道のダメージはアフリカ諸国では少ないだろうと思われる。
米中ハイテク冷戦の行方を占うダークホース アフリカファクター
日本の主要マスコミの論調を見るとファーウェイやZTEは世界的に締め出され窮地に陥っているような印象だが、詳細を見てみると欧州各国でも足並みは必ずしも揃っていない。そしてアフリカなどでも相変わらず根強く支持されている。
ファーウェイとZTEへの支持は政府のプロパガンダや補助金の成果ではない。ファーウェイやZTEが教育現場などの草の根で努力をしてきた成果でもある。そして、その草の根の努力の地がアフリカである。
アフリカは今世紀最後のフロンティア市場で各国の企業も積極的に参入している。米中ハイテク冷戦の行方は意外にもアフリカが握っているのかもしれない。
※本稿は『月刊中国ニュース』2019年12月号(Vol.94)より転載したものである。