回生制動エネルギー利用を考慮した高速列車省エネ最適制御シミュレーションの研究(その2)
2017年 2月28日 王青元, 馮暁雲, 朱金陵, 梁志成(西南交通大学電気工程学院)
(その1よりつづき)
3 省エネ最適制御の数値求解
まず線路の縦断面類型の区分の根拠を与える。線路縦断面は、問題の特異点区分に応じて5種の勾配に分けられ、それぞれ急上昇勾配GSU(Steep Up Gradient)と急下降勾配GSD(Steep Down Gradient)、緩やかな上昇勾配GMU(Minor Up Gradient)、緩やかな下降勾配GMD(Minor Down Gradient)、回生省エネ勾配GRE(Regenerating Energy Gradient)と定義できる。この5種の勾配に対応する線路の付加抵抗値の範囲は表2の通りである。
表2からは次のことが見て取れる。GMUとGREの2類型の勾配はそれぞれ、部分牽引動作定速運行と部分電気制動動作定速運行に対応する。記述の便宜のため、この2種の勾配によってカバーされる区域を「一般定速エリア」と定義する。区間の起点と終点は、最適制御問題の端点の制約であり、保持速度が0である2つの「一般定速エリア」として定義され、車速が線路の速度制限に触れる点エリアとともに、「点定速エリア」にまとめることができる。
勾配類型 | 線路付加抵抗値の範囲 |
GSU |
Ft(v(-)c*)-F0(v(-)c*)<Fs(x) |
GMU |
-F0(v(-)c*)≤Fs(x)≤Ft(v(-)c*)-F0(v(-)c*) |
GMD |
-F0(v(-)c*)<Fs(x)<-F0(v(-)c*) |
GRE |
-Fd(v(-)d*)-F0(v(-)d*)≤Fs(x)≤-F0(v(-)d*) |
GSD |
Fs<-Fd(v(-)d*)-F0(v(-)d*) |
λ1は、区間運行時間を表すパラメータであり、与えられた特定のλ1に対しては、これには1セットのみのvc*とvd*が対応する。アルゴリズムの目標は、ふさわしいλ1を見つけ、部分牽引動作と部分電気制動動作を加える定速運行区間、定速エリア間の最適な連接を確定し、最適速度の軌跡が対応する区間運行時間と与えられた区間運行時間との偏差が設定範囲内に位置するようにすることで、この最適速度軌道は、区間の最適連接と定義される。
3.1 基本アルゴリズム
ステップ1:列車の最大能力運行に必要な区間運行時間を計算し[6]、与えられた区間運行時間と比較し、もしも前者が後者より小さければ、ステップ2に移る。さもなければ区間の最適連接は完成し、最大能力運行制御の動作シーケンス表とそれに対応する区間運行時間に戻る。
ステップ2:λ1とvc*、vd*を初期化する。λ1とvc*、vd*との間には、一対一の対応関係がある。アルゴリズムの効率を高めるため、vc*=X/Tと初期化する。
ステップ3:式(20)に基づき、λ1とvd*を計算する。
ステップ4:線路区間を区分する。vlim(x)とvc*、vd*と結合し、表2に照らして、区間に対して勾配分区の区分を行い、列車に対して仮想運行を行い、異なる性質と異なる保持速度の勾配分区の起点と終点を確定し、勾配分区のリストを構築し、起点と終点の連結した一連の勾配分区によって列車運行区間が連結されるようにする。
ステップ5:勾配分区リストの整理。分区リストの起点と終点をそれぞれ、区間起点の定速エリアと区間終点の定速エリアに挿入する。分区リストを横断し、新たな形式Z={Aj0、Aj1、…、Ajmj、A(j+1)0}を形成する。このうちAj0とA(j+1)0は一般定速エリア、j=1、2、…、l-1、lは定速エリアでl≥2、mjはAj0とA(j+1)0の間の非定速エリアでmj≥0となる。
ステップ6:定速エリアの連接。分区リストを横断し、k番目のペアの定速エリア(Ak0、Ak1)を連接する。k≥1。
(1)定速エリアのペアの前者をAk0=Ap0とする。1≤p<l。
(2)Ak0とA(p+1)0を連接する。最適連接は存在するが速度曲線が速度制限を超えるか、最適連接が存在しない場合は、速度制限の制約下での最適連接を行い、連接が成功しなければ(3)へと移る。さもなければ、定速エリアのペアと最適連接動作シーケンスを保存し、定速エリアA(p+1)0の起点と終点を更新し、p+1≥lであれば、ステップ7に移る。さもなければp=p+1、k=k+1と更新し、(1)に移る。
(3)p+1≥lであれば、A(p+1)0=Ak1、k=k-1とし、(2)に移る。p+1<lであれば、p=p+1と更新し、(2)に移る。
ステップ7:区間運行時間を計算し、与えられた区間時間と比較し、偏差が許容要求を満たせば、区間最適連接は完成し、最適制御動作シーケンスとこれに対応する区間運行時間へと戻る。さもなければk=1と置き直し、vc*を調整し、ステップ3に移る。
3.2 定速エリア間の最適連接とその有効性
アルゴリズムのカギとなる部分は、定速エリア間の局部の最適連接である。これにあたって解决しなければならない問題は、線路速度制限を考慮しない場合と線路速度制限を考慮した場合の最適連接が存在するかの判断と、最適連接が存在しない際の処理である。
まず、線路速度制限を受けない最適連接を考慮する。動作を最適連接に切り替える必要条件を随伴変数が満たすことを保証するだけでよい。最適連接速度曲線が速度制限を超えなければ、局部の最適連接が存在することを表す。次に、得られた最適連接速度曲線が線路の速度制限を超えている場合は、線路の速度制限を考慮した最適連接を行う。これには、ふさわしい位置に点定速エリアを挿入し、随伴変数の点定速エリアにおけるジャンプの非負性を最適連接の有効性の判断の根拠とする必要がある。点定速エリアの插入位置として考えられるものには、(1)速度制限の超過を招く急勾配の端点、例えば急上昇勾配の起点、急下降勾配の終点、(2)目標速度が低速度制限である定速エリアの端点、例えば上方向の連接[6]の際の目標低速度の定速エリアの終点、過方向の連接[6]の際の目標低速度の定速エリアの起点――がある。
上述の2種の状況下では最適連接は存在しない。ステップ5の定速エリアリストにおいて次の定速エリアの情報を更新し、新たな定速エリア間の最適連接を継続する。次の定速エリアが最後の定速エリアであり、依然として最適連接が得られなければ、回帰して求解を行う必要がある。詳しくは基本アルゴリズムのステップ6を参照。
4 事例シミュレーション
4M4T(動力車4両、付随車4両)編成のCRH2型動車組を原型として採用し、列車シミュレーションモデルを構築した。関連パラメータは表3参照。本稿が提起する列車省エネ最適制御アルゴリズムの正確性と有効性を十分に検証し、多種の線路勾配と速度制限の組み合わせの下での最適動作切り替え原則が体現されるようにするため、シミュレーション運行線路の縦断面と速度制限データの仮説を立てる。シミュレーション線路の全長は110km、最短運行時間は1 931s、時間裕量は10%とした。電気制動エネルギー利用率αにそれぞれ0.4と0.9を取ると、列車が定時制約を満たす省エネ最適制御速度曲線のシミュレーション結果はそれぞれ図1と図2に示されるものとなった。このうちα=0.4は、既存の車種が旅客輸送専用路線を運行する際の典型的な電気制動エネルギー利用率の値である。動車組が車載エネルギー貯蔵装置を備えた混合動力動車組である時は、合理的なエネルギー管理計画を通じて、比較的高い電気制動エネルギー利用率を得ることができる。本稿は、エネルギー貯蔵装置の充放電効率を考慮し、αの値を0.9と取る。
列車省エネ最適制御の統計結果は表4に示す通り。α=0.9の時、vd*=236.2km·h-1である。キロポスト70~80kmの地点に比較的長い再生省エネ勾配があり、列車は部分電気制動を実施する。αが0.4にまで減少した時には、vd*=339.6km· h-1で、線路速度制限よりも全プロセスで高くなり、vd*を保持速度とする省エネ運行の部分電気制動が最適動作シーケンスから消失する。図1と図2によって与えられた最適制御動作シークエンスと運行速度曲線図を結合すると、αの低下に伴い、惰行動作の作用範囲は増大することがわかる。これには主に、低速度制限を過ぎた時、下降勾配の位置エネルギーの利用、駅進入・停車前の減速過程などが含まれ、牽引動作と電気制動動作(部分電気制動と最大電気制動)はいずれも減少する。エネルギー消費においては、牽引エネルギー消費と電気制動フィードバックエネルギーがいずれも減少するが、最終的な総エネルギー消費から見ると、回生制動の利用率が高いほど、この値は小さくなる。また最適速度軌跡から見ると、惰行動作の応用の増加は列車の平均車速を降下させる。部分牽引と部分電気制動の最適保持速度値を高めることにより、定時性制約を満たす必要がある。
パラメータ/単位 | 数値 |
列車編成/両 | 8 |
編成重量/t | 345 |
定員編成重量/t | 408.5 |
編成長さ/m | 201.4 |
最高運行速度/(km·h-1) | 250 |
単位当たりの基本運行抵抗/(N·t-1) | 8.63+0.072 95v+0.001 12v2 |
伝動系統の牽引動作の機械効率 | 0.9 |
伝動系統の制動動作の機械効率 | 0.9 |
快適性制約下の常用制動級数 | 5 |
図1 α=0.9時の列車省エネ最適制御速度曲線
図2 α=0.4時の定時制約を満たす列車省エネ最適制御速度曲線
番号 | 回生制動利用率 | 運行時間/s | vc*/(km·h-1) | vd*/(km·h-1) | 牽引エネルギー消費/(kW·h) | 再生フィードバックエネルギー/(kW·h) | 再生利用エネルギー/(kW·h) | 総エネルギー消費/(kW·h) |
1 | 1 931.0 | 1 416.66 | 562.44 | |||||
2 | 0.9 | 2 124.9 | 219.5 | 236.2 | 834.68 | 239.78 | 215.80 | 618.88 |
3 | 0.4 | 2 124.1 | 238.6 | 339.6 | 804.50 | 207.83 | 83.13 | 721.37 |
5 結論
(1)電力回生制動動作と空気制動動作を総合的な制動特性から分離し、高速列車に適用される運動学モデルを構築する。列車の牽引伝動系統の効率と電力回生制動のエネルギー利用率をエネルギー消費関数に導入し、列車省エネ最適制御の完全な動作セットと最適制御動作の必要条件を理論的に初めて推論し、高速列車の定時運行を満たす省エネ最適化制御アルゴリズムを提起した。
(2)本稿で与えられた高速列車省エネ最適制御問題の記述形式と動作シーケンスの求解アルゴリズムは、回生制動利用率が1の理想状況と電気制動利用率が0(牽引エネルギー消費または電気制動方式が発電ブレーキである場合だけを考慮)の状況の下での省エネ最適化研究に適用される。このため制御量が連続量である列車の省エネ最適化研究に普遍的な適用性を備えている。
(3)列車がデッドセクションを通過する際には、規定の操縦動作を行わなければならない。このため後続研究においては、このような制限条件下での列車省エネ最適制御問題とその求解アルゴリズムを検討すべきである。
(おわり)
参考文献
[6] 朱金陵,李会超,王青元,等.列車節能控制的優化分析[J].中国鉄道科学,2008,29(2):104-108.
(ZHU Jinling,LI Huichao,WANG Qingyuan,et al.Optimization Analysis on the Energy Saving Control for Trains[J]. China Railway Science,2008,29(2):104-108.in Chinese)
※本稿は王青元, 馮暁雲, 朱金陵, 梁志成「考慮再生制動能量利用的高速列車節能最優控制倣真研究」(『中国鉄道科学』第36卷第1期、2015年1月、pp.96-103)を『中国鉄道科学』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司