中国通信設備製造業のイノベーション能力評価(その1)
2014年11月04日 陳芳 穆栄平(中国科学院科技政策与管理科学研究所)
一、中国の通信設備製造業の革新能力に関する評価方法
“十一五”(第11次5カ年計画)期間中、中国の通信設備製造業は急速発展を続け、産業規模は不断に拡大し、リーディング企業は際立った影響をおよぼし、技術革新能力は大きな向上を遂げた。しかし、中国の通信設備製造業は依然として、自主革新能力と国際競争力を高める必要がある任務に直面しており、核心的技術と基準の開発と革新統合が発展のカギとなっている。このため、産業革新能力の確立の進展をチェックし、能力の確立に影響するカギとなる要素を識別することは、革新資源配置の最適化と中国の通信設備製造業の革新能力の確立を進めることに対して重要な意義を持っている。
『中国革新発展報告2009』における製造業革新能力に関する研究を参考とし、中国の通信設備製造業の発展階段と実情を考慮し、本稿では、中国の通信設備製造業の革新能力に関する評価指標体系の構築を図った。「革新の実力」と「イノベーションの効力」という2つの方面から通信設備製造業の革新能力を評価し、「革新投入」「革新産出」「革新成果」という3つの要素を考慮し、通信設備製造業の革新活動の規模、イノベーション活動の効率と効益を総合的に分析した。
本稿では、通信設備製造業の革新実力を表す指標として8つ(革新投入実力指標4、革新産出・革新成果実力指標各2)、通信設備製造業の革新効力を表す指標として9つ(革新投入・革新産出・革新成果効力指標各3)を設けた。
革新投入実力指標には、「R&D(研究開発)人員」「R&D経費」「(導入技術の)消化吸収経費」「研究開発機構数」が含まれる。革新産出実力指標には、「有効発明特許数」と「特許出願数」が含まれる。革新成果実力指標には、「新製品販売収入」と「利潤総額」が含まれる。革新投入効力指標には、「R&D人員の従業員に占める割合」「R&D経費の内部支出が主要業務収入に占める割合」「消化吸収経費支出と技術導入経費支出の割合」が含まれる。革新産出効力指標には、「企業1社当たりの平均有効発明特許数」「R&D人員に対する特許出願数」「R&D経費内部支出に対する特許出願数」が含まれる。革新成果効力指標には、「新製品販売収入が主要業務収入に占める割合」「利潤総額が主要業務収入に占める割合」「1人当たりの工業総生産額」が含まれる[1]。
通信設備製造業[2]は、中国の国民経済産業分類における中級分類であり、「通信伝送設備製造業」「通信交換設備製造業」「通信端末設備製造業」「移動通信・端末設備製造業」「その他の通信設備製造業」の5つが含まれる。本稿では、中国通信設備製造業及び「通信伝送設備」「通信交換設備」「通信端末設備」「移動通信・端末設備」[3]の4分類の革新能力に限って評価を行う。
二、中国の通信設備製造業の革新レベル
1、中国の通信設備製造業の革新投入レベル
“十一五”期間中、中国の通信設備製造業の研究開発投入規模が急速に拡大したのは、移動通信・端末設備と通信交換設備製造業の貢献によるところが大きい。2006年から2010年まで、中国の通信設備製造業のR&D人員(FTE換算)とR&D経費内部支出の年平均成長率は19.3%と23.4%に達した。このうち、移動通信・端末設備製造業のR&D人員の年平均成長率は31.0%に達し、通信交換設備製造業R&D経費内部支出の年平均成長率は25.9%に達した。通信設備製造業研究開発機構数の年平均成長率は16.4%だった。一方、通信交換設備製造業と移動通信・端末設備製造業の年平均成長率は23.8%と23.2%に達した。表1が示す通りである。同期間、中国の通信設備製造業工業総生産額(名目値、以下同様)の年平均成長率は8.2%で、研究開発活動の投入規模の拡大速度よりも低かった。
指標 | 産業分類 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | 年平均 成長率% |
R&D人員 (換算、万人年) |
通信設備製造業 | 4.9 | 7.5 | 9.3 | 8.6 | 9.9 | 19.3% |
通信伝送設備製造 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.7 | 0.8 | 17.8% | |
通信交換設備製造 | 3.6 | 5.8 | 7.6 | 6.2 | 7.1 | 18.8% | |
通信端末設備製造 | 0.3 | 0.2 | 0.2 | 0.3 | 0.4 | 1.7% | |
移動通信・端末設備製造 | 0.5 | 1.0 | 1.0 | 1.4 | 1.6 | 31.0% | |
R&D経費内部支出 (億元) |
通信設備製造業 | 131.3 | 157.1 | 202.1 | 238.8 | 304.7 | 23.4% |
通信伝送設備製造 | 10.5 | 9.9 | 8.1 | 15.7 | 13.9 | 7.4% | |
通信交換設備製造 | 94.2 | 110.8 | 148.2 | 176.0 | 236.7 | 25.9% | |
通信端末設備製造 | 4.5 | 3.0 | 3.7 | 6.6 | 8.7 | 18.3% | |
移動通信・端末設備製造 | 22.2 | 33.3 | 42.2 | 40.5 | 45.4 | 19.5% | |
(導入技術の) 消化吸収経費 (万元) |
通信設備製造業 | 11629 | 10660 | 7015 | 3252 | 4910 | -19.4% |
通信伝送設備製造 | 797 | 926 | 996 | 580 | 410 | -15.3% | |
通信交換設備製造 | 35 | 28 | - | - | 502 | 94.6% | |
通信端末設備製造 | 171 | 366 | 942 | 180 | 1067 | 58.1% | |
移動通信・端末設備製造 | 10627 | 9340 | 5077 | 2492 | 2931 | -27.5% | |
研究開発機構数 (カ所) |
通信設備製造業 | 161 | 175 | 230 | 239 | 296 | 16.4% |
通信伝送設備製造 | 45 | 49 | 62 | 67 | 73 | 12.9% | |
通信交換設備製造 | 26 | 32 | 36 | 41 | 61 | 23.8% | |
通信端末設備製造 | 34 | 29 | 27 | 28 | 33 | -0.7% | |
移動通信・端末設備製造 | 56 | 65 | 105 | 103 | 129 | 23.2% |
中国の通信設備製造業は全体として、“主に技術を導入し消化・吸収して再革新する”という発展モデルから、“カギとなるコア技術の革新と革新統合”という発展モデルへの転換を実現した。その転換は主に、通信交換設備製造業に体現されている。2006年から2010年までに、中国の通信設備製造業における(導入技術の)消化吸収経費支出は大幅な縮小傾向をたどり、年平均減少率は19.4%となった。同期間、技術改造経費支出と技術導入経費支出も減少傾向を見せ、年平均減少率は9.7%と5.5%となった。こうした減少傾向は、研究開発への投入規模の急速な拡大と鮮やかな対照を示している。2010年、中国の通信交換設備製造業R&D人員(FTE換算)とR&D経費内部支出はそれぞれ7.1万人年と236.7億元となり、通信設備製造業全体のそれぞれ72.1%と77.7%を占めた。通信端末設備製造業R&D人員(FTE換算)とR&D経費内部支出が通信設備製造業全体に占める割合はそれぞれ3.6%と2.9%で、研究開発活動の投入規模は最も小さかった。表1に示す通りである。
先進国と比べると、中国の通信設備製造業の産業研究開発投入規模は依然として大きな格差がある。2010年、中国の通信設備製造業R&D経費内部支出は304.7億元で、米ドル換算で約45億ドルだった。同年、ノキアのR&D支出は65.4億ドル、シスコは52.1億ドル、エリクソンは約40.1億ドルだった。中国の通信設備製造業の研究開発投入規模は、一部の先進国の企業1社の投入レベルをも下回っている[4]。注目すべきなのは、中国の華為技術有限公司(華為)などの通信交換設備製造のリーディング企業の研究開発投入規模と世界のトップ企業との格差はそれほど大きくないということである。2010年、華為のR&D経費支出は23.9億ドルに達し、シスコの45.9%だった[5]。
2、中国の通信設備製造業の革新産出レベル
中国の通信設備製造業の発明特許革新能力は大幅に向上した。2006年から2010年まで、中国の通信設備製造業特許出願数の年平均成長率は11.1%に達した。このうち、移動通信・端末設備製造と通信伝送設備製造業の特許出願数の年平均成長率は通信設備製造業全体のレベルを上回り、55.9%と22.2%に達した。同期、中国の通信設備製造業の有効発明特許数の年平均成長率は93.4%に及んだ。このうち、通信交換設備製造業の年平均成長率は最も高く、通信設備製造業全体のレベルを約8ポイント上回った。表2に示す通りである。
特許創造能力が最も強いのは通信交換設備製造業であり、比較的弱いのは通信端末設備・通信伝送設備製造業だった。2010年、中国の通信交換設備製造業の特許出願数は1万2003件で、通信設備製造業の特許出願数の71.1%を占めた。通信交換設備製造業の有効発明特許数は2万1091件で、通信設備製造業の有効発明特許数の88.0%を占めた。表2に示す通りである。
指標 | 産業分類 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | 年平均 成長率% |
特許出願数 (件) |
通信設備製造業 | 11069 | 16342 | 16159 | 18913 | 16886 | 11.1% |
通信伝送設備製造 | 328 | 555 | 748 | 707 | 731 | 22.2% | |
通信交換設備製造 | 8618 | 14591 | 13527 | 15771 | 12003 | 8.6% | |
通信端末設備製造 | 1567 | 147 | 258 | 378 | 867 | -13.8% | |
移動通信・端末設備製造 | 556 | 1049 | 1626 | 2057 | 3285 | 55.9% | |
有効発明特許数 (件) |
通信設備製造業 | 1713 | 3492 | 10222 | 14770 | 23979 | 93.4% |
通信伝送設備製造 | 142 | 346 | 303 | 155 | 727 | 50.4% | |
通信交換設備製造 | 1283 | 2837 | 9059 | 13537 | 21091 | 101.4% | |
通信端末設備製造 | 94 | 73 | 77 | 160 | 465 | 49.1% | |
端移動通信・末設備製造 | 194 | 236 | 783 | 918 | 1696 | 72.0% |
中国の通信設備製造リーディング企業の特許創造能力は大きく向上し、PCT特許の出願数は世界のトップレベルに躍進した。世界知的所有権機関(WIPO)の統計資料によると、2006年から2010年までに、中国の中興通訊公司(中興)のPCT特許出願数は135件から1863件に増加し、企業のPCT特許出願数のランキングは世界92位から2位に躍進した。華為のPCT特許出願数は575件から1528件に増加し、同ランキングは13位から4位に上がった。一方、ノキアのPCT特許出願数は1036件から632件に減少し、同ランキングは世界4位から15位に後退した。このほか、中国は、通信分野の関連国際標準の制定に積極的に参加している。国際電気通信連合(ITU)は2000年、中国が提出したTD-SCDMA技術プランを第3世代移動通信(3G)の国際標準と認定したが、2010年10月にも再び、中国が提出したTD-LTE-Advanced(LTE-Advanced TDD 方式)技術プランを4G国際標準として採用した[6]。
3、中国の通信設備製造業の革新成果レベル
中国の通信設備製造業革新成果レベルは大幅に向上しており、通信交換設備製造業の発展は特に著しい。2006年から2010年まで、中国の通信設備製造業の利潤総額と新製品販売収入の年平均成長率はそれぞれ20.0%と24.6%に達した。このうち、通信交換設備製造業の年平均成長率は最も高く、それぞれ55.4%と29.0%に達した。表3に示す通りである。通信伝送設備・通信交換設備製造業の輸出も急速に成長している。2007年から2010年まで、中国の通信伝送設備製造業と通信交換設備製造業の輸出の年平均成長率はそれぞれ44.0%と21.2%に及んだ。
現在、革新成果規模が比較的大きいのは通信交換設備と移動通信・端末設備製造業であり、比較的小さいのは通信伝送設備と通信端末設備製造業である。2010年、中国の通信交換設備製造業と移動通信・端末設備製造業の利潤総額はそれぞれ376.8億元と194.5億元で、通信設備製造業全体の57.1%と29.5%に達した。新製品販売収入はそれぞれ1544.0億元と2433.1億元で、通信設備製造業全体の36.1%と56.9%だった。同年、通信伝送設備製造業と通信端末設備製造業の利潤総額はそれぞれ通信設備製造業全体の8.3%と5.1%だった。新製品販売収入はそれぞれ通信設備製造業全体の3.2%と3.8%を占めた。表3に示す通りである。
指標 | 産業分類 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | 年平均 成長率% |
R&D人員 (換算、万人年) |
通信設備製造業 | 4.9 | 7.5 | 9.3 | 8.6 | 9.9 | 19.3% |
通信伝送設備製造 | 0.4 | 0.4 | 0.4 | 0.7 | 0.8 | 17.8% | |
通信交換設備製造 | 3.6 | 5.8 | 7.6 | 6.2 | 7.1 | 18.8% | |
通信端末設備製造 | 0.3 | 0.2 | 0.2 | 0.3 | 0.4 | 1.7% | |
移動通信・端末設備製造 | 0.5 | 1.0 | 1.0 | 1.4 | 1.6 | 31.0% | |
R&D経費内部支出 (億元) |
通信設備製造業 | 131.3 | 157.1 | 202.1 | 238.8 | 304.7 | 23.4% |
通信伝送設備製造 | 10.5 | 9.9 | 8.1 | 15.7 | 13.9 | 7.4% | |
通信交換設備製造 | 94.2 | 110.8 | 148.2 | 176.0 | 236.7 | 25.9% | |
通信端末設備製造 | 4.5 | 3.0 | 3.7 | 6.6 | 8.7 | 18.3% | |
移動通信・端末設備製造 | 22.2 | 33.3 | 42.2 | 40.5 | 45.4 | 19.5% | |
(導入技術の) 消化吸収経費 (万元) |
通信設備製造業 | 11629 | 10660 | 7015 | 3252 | 4910 | -19.4% |
通信伝送設備製造 | 797 | 926 | 996 | 580 | 410 | -15.3% | |
通信交換設備製造 | 35 | 28 | - | - | 502 | 94.6% | |
通信端末設備製造 | 171 | 366 | 942 | 180 | 1067 | 58.1% | |
移動通信・端末設備製造 | 10627 | 9340 | 5077 | 2492 | 2931 | -27.5% | |
研究開発機構数 (カ所) |
通信設備製造業 | 161 | 175 | 230 | 239 | 296 | 16.4% |
通信伝送設備製造 | 45 | 49 | 62 | 67 | 73 | 12.9% | |
通信交換設備製造 | 26 | 32 | 36 | 41 | 61 | 23.8% | |
通信端末設備製造 | 34 | 29 | 27 | 28 | 33 | -0.7% | |
移動通信・端末設備製造 | 56 | 65 | 105 | 103 | 129 | 23.2% |
(その2へつづく)
※本稿は中国科学院編『2012高技術発展報告』(科学出版社,2012年),第四章 高技術産業創新能力与国際競争力評価 陳芳,穆栄平「中国通信設備制造業創新能力評価」を日本語訳・再編集したものである。
※本稿のデータは特段の説明が無い限りすべて国家統計局等編『中国高技術産業統計年鑑』(2010および2011)(北京:中国統計出版社,2011年、2012年)を出典とする。
[1] 1人当たりの工業総生産額=工業総生産額/従業員年平均人数
[2] 『国民経済行業分類』(GB_T4754-2002)による。
[3] 同上。
[4] European Union. 2011. The 2011 EU Industrial R&D Investment
http://iri.jrc.ec.europa.eu/research/docs/2011/SB2011.pdfScoreboard.
[5] 同上。
[6] ITU. ITU paves way for next-generation 4G mobile technologies. 2010.
http://www.itu.int/net/pressoffice/press_releases/2010/40.aspx [2012-01-22]