都市鉄道輸送の制動エネルギー回収技術
2012年 6月27日
楊 儉(Yang Jian):上海工程技術大学三級教授、
学科主任、工学博士、大学院生指導教員
1962年2月生まれ。2005年、浙江大学流体動力・機電系統国家重点実験室機械電子工程専攻、工学博士。05年7月以来、上 海工程技術大学都市軌道交通学院に勤務。主な研究分野は、都 市軌道車両の制動エネルギー回収技術を巡る基礎研究。現在の主な研究目標は、都市軌道交通車両の運行における省エネ技術。
都市鉄道輸送は、輸送量が大きい、運行速度が速い、快適性に優れている、といった長所がある。また、電気駆動を採用し、汚染や排出が少ないため、大都市では優先的に選ばれる交通手段となっている。
都市鉄道輸送は、先進国の大都市だけでなく、中国、インド、ブラジルの大都市でも、急速に普及している。中国では、北京、上海、天津、広州、深圳、大連、南京で営業運行され、さ らに多くの都市で計画されている。都市鉄道輸送の環境配慮と省エネ問題の重要性への関心が高まっている。
都市鉄道輸送は、駅間距離が短い、運行密度が高い、といった特徴があり、頻繁に加速と減速を繰り返す過程で、相当の運動エネルギーが生じる。回生ブレーキを作動させた際に生じる運動エネルギーは、電 動機によって電気エネルギーに転換され、架線(あるいは第三軌条)に戻され、大部分が他の列車によって利用される。
一般的には、30%~50%の制動エネルギーしか利用されていないが、制動エネルギーの利用効率向上によって、省エネが図られるだけでなく、安定運行にも役立つ。
車両の制動方式及び制動過程
車両の制動は、回生ブレーキ、発電ブレーキ、機械ブレーキの三つに分類される。
列車は制動を開始する際、架線(第三軌条)からの受電を停止し、モーターが発電モードに変わって、運動エネルギーを電気エネルギーに転換して制動力を生じることで、列車を減速させる。
架線の電圧が過電圧、もしくは電圧低下、あるいは一定距離内に他の車両がなく、エネルギーが吸収されないときは、回生ブレーキを実施することができない。その際、列車は自動的に回路を切断し、発 電ブレーキを実施する。
列車の速度が時速約8kmを下回る際は、圧縮空気をエネルギー源として利用し、列車が停止するまで、機械ブレーキを作動させる。
都市鉄道輸送の制動では、回生ブレーキを優先的に採用し、回生ブレーキが作動できない時は、発電ブレーキを採用する。回生ブレーキと発電ブレーキは通常、電気ブレーキという。
制動エネルギー回収技術の現状
実際の車両運行では、以下のような制約から、回生制動エネルギー回収効率が低い。
(1)電力蓄積装置の体積が巨大であること。
電力蓄積装置型の制動エネルギー回収技術には、車両又は変電所に、電力を蓄積する設備を設置する必要がある。しかし、都市鉄道輸送は空間に限りがあるため、車両又は変電所の改造は非常に困難である。
(2)列車の回生ブレーキ作動時の非線形性。
回生ブレーキで生じるエネルギー分布は、システムの非線形性によって、制動時のモデリングは非常に複雑になる。
(3)回収効率の改善策は実用化に向けた評価が必要である。
(4)技術研究領域の注目度が不十分である。
発電ブレーキは、運動エネルギーを電気エネルギーに転化したものであり、抵抗器によって熱を発生させ、エネルギーを捨てる制動方式である。エネルギー消散型は、国内外で広く応用されている方式である。
これは、制御が簡単で、コストが低く、動作が安定的で、信頼性がある、といった長所がある。しかし、消散される熱エネルギーは、周辺の環境温度を上昇させ、駅 の空調システムや変電所の空調システムの電力消費量を増加させる上、制動エネルギーは回収されないため、エネルギーの利用効率を大きく低下させる。
今後の研究の見通し
今後の制動エネルギー回収技術の研究は、以下のような点で注目を集めるだろう。
(1)列車の運行方法の改善によるエネルギー利用効率の向上。
回生ブレーキ作動には、付近の列車によるエネルギー吸収が必要であるため、列車のダイヤ編成の改善は重要である。実現可能な省エネ型の時刻表により、回生エネルギーの利用効率が改善するだろう。
(2)回生ブレーキと発電ブレーキの総合利用。
発電ブレーキは、電気ブレーキの中で比較的大きな比率を占めるため、回生ブレーキだけを考慮しても、一層の省エネに対する要求を満たすことはできない。発電ブレーキのエネルギー回収は、関 心の高い研究テーマである。
(3)制動エネルギー回収システムを送電網の中での分布式供給システムとすること。
制動エネルギー回収システムによって、制動エネルギーの自給自足が可能となるため、分布式エネルギー供給システムの基本概念を満足させることができる。近い将来、都市鉄道輸送と鉄道周辺の住宅地区、又 は工業地区の電源を組み合わせて、コンビネーション型の分布式エネルギー供給システムに発展させることで、エネルギー供給システムの安全性及び経済性を向上させられる可能性がある。
(4)制動エネルギー回収システムの研究開発機関と車両メーカーが、効果的な交流及び技術協力を行うことで、回収システムと車両組み立ての全体的な改善を図り、車両組み立て技術の改善が実現できる。
克服すべき困難には、以下のような点がある。
- 列車の数と運行環境による制約。
- 部品に対する強い電流の衝撃。
- 分布式エネルギー供給システム理論の改善、及び使い勝手に対する検証。
- 車両メーカーと制動エネルギー回収システムの研究機関が良好な協力を推進できるかどうかが、省エネ効果を最大限に発揮できるかどうか、の鍵を握っている。
結び
都市鉄道輸送の普及、整備に伴って、制動エネルギーの回収利用は、関心を集めるようになった。部品製造技術の飛躍的な発展により、制動エネルギー回収システムは多様化し、研究開発の選択肢が広がっている。h h h h h h h h h h 回収技術と応用には、技術的な制約が存在するが、技術革新や商品化の推進に伴い、経済面や環境面の効果が現れ、さまざまなタイプの車両に応用されることによって、社 会的な効果が生まれるだろう。