30年の研究を経て高性能製品が水素エネルギー応用を加速
2020年8月05日 操秀英(科技日報記者)
画像提供:視覚中国
7月3日、清華大学原子力・新エネルギー技術研究院の毛宗強教授(73)は取材に対して、「『中汽研汽車検験センター(天津)有限公司』(以下検験センター)の測定によると、当チームが研究開発した40キロワットの自動車用金属バイポーラプレート水冷電池パックは、体積功率密度や強電流持続安定放電能力、単位面積放電電流密度などのコア技術の指標が、トヨタ、ホンダ、ヒュンダイなどの主要な自動車メーカーの製品を超えた」と説明した。
検験センターが6月初めに発効した測定認定書は、水素エネルギーの分野で30年にわたり研究を行ってきた毛教授率いるチームの「成績表」とも言えるだろう。業界関係者は、「これは、同技術が製品開発の段階から大量生産の段階へと移っていることを示している。この技術のブレイクスルーは、中国の水素エネルギー産業の発展の歴史において、一里塚的な意義がある」と評価している。
独自の知的財産権を有する製品が不足
金属バイポーラプレート水冷電池パック技術とはいかなるもので、燃料電池自動車(FCV)の発展においてどんな意義があるのだろう?
毛教授によると、「電池パックは、水素の電気化学反応が起きる場所で、燃料電池の最も基礎なる部分を構成するキーとなるパーツだ。電池パックの水素エネルギー経済における重要性は、情報産業におけるCPUの地位に相当する」。
そして、「燃料電池には、たくさんの技術ルートがあり、車に適しているのは固体高分子形燃料電池(PEMFC)だ。PEMFCを生産するルートは主に、グラファイトバイポーラプレートか、金属バイポーラプレート水冷電池パック技術の2つ」という。
グラファイトバイポーラプレートは、カナダのバラード・パワー・システムズが開発した技術だ。しかし毛教授によると、同社は自動車メーカーではなく、トヨタなどの日本の自動車メーカーが、完成車の開発における必要性を考慮して、第一世代のグラファイトバイポーラプレート水冷電池パックが打ち出された後に、グラファイトパックを完成車に応用する技術案を導入。巨額の資金を投じて、低温起動、体積・パワー、コストなどの面でさらに優位性を誇る金属バイポーラプレート水冷電池パックの開発を展開した。約30年かけた開発を経て、トヨタは2014年末に、金属バイポーラプレート水冷電池パック技術を採用したFCVをいち早く打ち出し、燃料電池乗用車の産業化を実現した。
毛教授によると、「近年、中国の水素エネルギー産業が発展するにつれて、中国国内の企業も金属バイポーラプレート水冷電池パック技術に続々と照準を合わせるようになっている。一部の企業は、技術や製品を打ち出しているものの、公開されているデータによると、その性能は最先端の水準とはまだ一定の差がある。電池パックの単位面積放電パワーが1平方センチ当たり1.0ワットを超えるのは至難の業で、生産コストが高止まりしている。40キロワットの自動車用金属バイポーラプレート水冷電池パックを開発する前、中国国内では依然として知的財産権やコア技術で完全に自主コントロール可能な金属バイポーラプレート水冷電池パックが不足していた」。
できるだけ早く追い付かなければ差は広がるばかり
それは、燃料電池の研究開発は極めて難易度が高いからだ。
毛教授は、「電池パックの設計は、反応物質の伝達や水熱管理、発生する電流が相互にうまく作用するようにしなければならない。そのためには、膜・電極接合体(MEA)などの基礎材料と組み合わせなければならず、パーツの加工技術、加工精度に対する要求が極めて高い」と分析する。
そして、「スタートが遅れたため、中国企業と世界の最先端の水準とは大きな差ができた。海外のリーディング企業は、大量のデータを蓄積しており、自社製品のビッグデータ体系を立ち上げ、整えている。そして、蓄積したビッグデータを製品設計に応用している。できるだけ早く追い付かなければ差は広がるばかりだ」と指摘する。
1993年に、水素エネルギーの研究の分野に足を踏み入れて以降、毛教授率いるチームはずっとMEAなど、最も基本的な研究に取り組んできた。「私たちが開発した金属バイポーラプレート水冷電池パック技術がブレイクスルーを実現できたのは、主に金属板の設計を改善して、性能をかなり向上させることができたから。」
毛教授のチームは、電池パックとコントロール戦略という2つのコア技術を突破口とし、製品開発の過程で、キーテクノロジーのすべての指標が、世界の代表的な企業の製品と肩を並べるように努力。独自の知的財産権を有するコア技術を有する水素燃料電池金属バイポーラプレート水冷電池パックの技術体系を構築し、自ら電池パック開発し、そのアップグレード、改善もできる能力を備えるようになった
大量生産の準備完了
技術の応用推進を加速させ、毛教授は昨年、北京嘉清新能源科技公司(以下「嘉清新能源」)を立ち上げた。これは、北京市大興区政府の重点ハイテク誘致プロジェクトの1つだ。
現在、嘉清新能源の技術チームは、金属バイポーラプレート、セルのモジュール化、電池パックの組み合わせ戦略、電池パックコントロール戦略などのコア技術を有し、自ら電池パックの生産ラインを建設し、大量生産できる条件を整えている。
同社の方謀・総経理は、「当社は製品設計、MEAなどのキーとなる材料やパーツの調製、生産・製造技術などの面で、飛躍的な進歩を実現した。それら技術は、製品に応用することができる。これは、燃料電池というキーとなるコア戦略性産業の製品ランクという面で、海外に大きく水を開けられていた中国は、並走し、一部の分野では追い抜くという戦略的転換を実現したことを意味している」との見方を示す。
方総経理によると、同社のチームは、世界の有名なシステムインテグレーションメーカーと提携する意向で、共同で水素燃料エンジンシステムを開発し、まずバスやトラックなどに応用し、その実験を通して、ビッグデータのさらに蓄積する計画だ。
毛教授によると、「今年、40キロワットの自動車用金属バイポーラプレート水冷電池パックを年間2,000個生産できる生産ラインが完成する計画だ。完成すれば、電池パックがフォークリフトや乗用車、トラックなど、さまざまな応用シーンの産業化応用が実現する。また、100キロワットの金属バイポーラプレート水冷電池シングルパックの開発も進め、その小ロット生産が始まる計画。そのターゲット市場は、バスや大型トラック、鉄道交通、エネルギー貯蔵などでの応用だ」。
※本稿は、科技日報「深耕30年,高性能産品打開氫能利用空間」(2020年7月6日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。