「中華の水塔」生態環境の継続的な改善―黄河に清水が流れる
2019年10月17日 李禾(科技日報記者)
―青海省内の黄河の主流の水質が100%「優良」に
畜産企業が転居して青海の塘川河の水質は改善し、川岸に植物が茂る(撮影 李禾)。
黄河流域は、中国の重要な経済エリアであり、全流域において質の高い発展を促進するためには、水質の優れた豊かな水源が必要となる。青海には、黄河、長江、瀾滄江の3本の川の水源があり、「中華の水塔」と呼ばれている。中国国務院新聞弁公室がこのほど開いた記者会見で、青海省党委員会の王建軍書記は、「新中国成立以降、青海省は大きな変化を経験している。生態は継続的に改善され、森林率は1%未満から7.26%まで上昇した。そして、毎年、下流に600億立方メートル以上の水を供給している」と語った。
統計によると、青海省内の黄河、長江、瀾滄江の主流の水質はすでに100%「優良」となっている。
資源の状況を把握するためにテクノロジーを駆使して監督・管理
青海生態環境モニタリングセンターには、遠隔カメラ観測システム「生態の窓」がある。その大スクリーンには、青海省西寧市の各排水口から流れる水のデータがリアルタイムで映し出されている。黄河の源流となる鄂陵湖や扎陵湖、星星海、冬格措納湖などの湖面には水鳥が浮かび、湖の周辺にはバーラルがのんびりと歩いているほのぼのとした光景も見ることができる。
習近平総書記は、青海省生態環境モニタリングセンターを視察した際、「生態環境を保護するためには、まず、資源の状況や動向を把握し、生態環境モニタリングネットワークを構築し、活用する基礎業務をしっかりとしなければならない」と指摘した。
黄河、長江、瀾滄江の水源の生態は複雑で、草原、森林、湿地、氷河、砂漠化した地域など、さまざまな生態系がある。さらに、ユキヒョウやクチジロジカ、チルーなどの希少動物もたくさん生息している。黄河の水源がある果洛州の標高は平均4,500メートルで、一部の地域は、人類の非居住地域だ。また、黄河の水源パークの面積は1万9,100平方キロメートルで、大小5,000以上の湖が散在し、黄河の水43%がそこに源を発している。これほど広大で、複雑な生態状況である同地域を、スタッフがパトロールするというのは、非常に骨の折れる仕事で、至難の業だ。
そのため、黄河、長江、瀾滄江の水源、青海湖、祁連山、柴達木盆地などの重要な生態エリアを中心に、衛星リモートセンシング、マイクロ波レーダー、ドローン、高画質遠隔カメラモニタリング・監視、デジタル通信伝送ネットワーク、地理情報システム、生態環境モニタリングデータの総合サービスプラットフォームなどを活用して、「空・地一体化」生態環境モニタリング評価体系を構築した。そして、それを基礎に、青海の「生態の窓」や黄河、長江、瀾滄江の水源などの重点生態機能エリアで、遠隔カメラ観測システムを構築し、遠隔リアルタイム高画質カメラ観測、モニタリング、研究、評価を実現した。第13次5カ年計画(2016~20年)の終盤には、遠隔カメラ観測ポイントの数が100ヶ所に達する計画だ。
青海省環境情報センターの李宏奇センター長は、「『生態の窓』は既に、黄河、長江、瀾滄江の水源地域で大規模に運用されており、うまく活用されている。同システムは、スピーディーな移動、スマート追跡などのスマート分析機能を備え、黄河、長江、瀾滄江の水源地の生態保護区の野生動物に対するスマート検査、測定、分析、追跡、アラーム機能などを実現している。デジタル化ネットワークを通して、カメラによるモニタリングデータをリアルタイムで、同省の生態環境モニタリングセンターに送信し、モニタリングと監視を組み合わせた管理・保護スタイルを実現している」と説明する。
生態優先、グリーン発展を堅持し、共同で大々的な保護、ガバナンスを推進していることが功を奏している。中国国家発展改革委員会と中国科学院が行った第三者総合評価状況によると、2018年、黄河、長江、瀾滄江の水源地域の生態系の悪化傾向に歯止めがかかり、重点生態建設プロジェクトエリアの生態環境の状況も好転し、生態の防御壁をより強固にしなければならない。
生態回廊を構築し野生の鳥が生息するように
筆者が以前、中国の環境保全活動「中華環保世紀行」の取材班と共に、西寧市の北川河湿地公園を訪れた際、そこには川が流れ、水面は太陽の光できらきらと輝き、両岸には草花が茂り、鳥の声が聞こえ、市民らがそのほのぼのとしたムード漂う場所で、レクリエーションを楽しんでいた。十数年前、その川には工業廃水や生活排水が流され、ゴミが散乱するなど、非常に汚く、川の流れが絶えそうにさえなっていたとは、今では想像もつかない。
北川河は、湟水河の重要な支流で、湟水河の生態、水質変化の縮図でもある。青海省内黄河の最大の一級支流である湟水河は、青海の「母なる川」であるものの、その流域には、同省の人口の約60%、耕地の52%、鉱工業企業70%以上が集まり、水資源の利用率は60%以上に達し、水資源開発利用の安全警戒ラインを超えていた。アンモニアと窒素、化学的酸素要求量などの主要な汚染排出量は、河川の環境容量をはるかに上回り、湟水河の汚染は日に日に悪化していた。
そのため、青海省は、湟水河とその沿岸の生態改善に力を入れて取り組むことにした。改善のための第一歩は、下水管を修繕し、下水処理場で汚水を処理することだ。西寧市は、1年かけて730ヶ所の生活排水口を修繕し、汚水を汚水処理場に集め、基準をクリアする状態にまで処理したうえで、排出するようにした。2014年、西寧市は湟水流域総合改善プロジェクト、北川河総合改善プロジェクトを実施し、水質の浄化・維持、景観プロジェクトなどを通して、生態防護、緑地、観光スポット、文化のPR、自然生態環境機能回復などを一体化させたグリーン景観生態回廊が構築されている。
西寧市湟投公司総合プロジェクト弁公室の馬貴強主任は、「北川河湿地公園の水域で、貯水、沈砂プロジェクトを実施し、歩道には最先端の透水性舗装を施し、河流の沿線には雨水や汚水全てを集める下水管網を設置し、北川河の汚染を食い止めるために最大限の努力を払った。湟水流域の総合改善の一環として、北川河湿地公園では、湟水河の水質だけでなく、生態環境も改善された。そして、インドガン、オオズグロカモメ、コサギ、アカツクシガモなどが生息するようになり、たくさんの渡り鳥が飛来してくるようにもなった」と説明する。
畜産業と環境の保護を両立させる計画
大雨が降った後、澄み切った空気となる青海省海東市互助県下山城村を流れる塘川河は、土などが流れ込み少し濁っているものの、畜産施設から流れ出る汚染水で、汚染することはなくなっている。
湟水河の一級支流である塘川河の河岸周辺には、かつて畜産企業が25社あった。うち、互助県得虎専業合作社や繁盛養殖専業合作社は、羊を肥育し、年間1万5,000頭を出荷していた。
2017年、中央環境保護監督・観察グループは、同地域の一定規模の畜産企業32社に対して、汚染問題を指摘し、改善を求めた。
互助県生態環境局の盛芳敏局長は、「得虎や繁盛は家畜の糞便、汚水などを直接川に流すことはしていなかったものの、大雨が降ると、水質に一定の影響を及ぼしていた。畜産施設から流れ出る汚染物質の問題を徹底的に解決するために、互助県は、『湟水河流域互助県内の一定規模以上の畜産企業32社の汚染問題改善実施案』を制定した」と説明する。
同案は、それら大規模畜産施設を山地2ヶ所に転居させるとしている。そして、「転居先にも水、電気、道路がきちんと通っており、周辺の水源を汚染することもない。そして、元々畜産施設があった場所を、キノコ類の栽培拠点、中医薬の加工場、老人ホームなどにして、農民をそれらの施設に雇用することで、所得増加を促す」としている。
現在、得虎と繁盛を含む畜産企業23社が既に解体を完了し、さらに、9社が生産物の変更を申請し、土地や建物を片づけ、全面的な開発再開を進めている。
盛局長は、「対策実施後、塘川河の水質が目に見えて改善し、水質がⅢ類(5段階で3番目)に達した。今後は、同地域は湿地を回復させて、水質の浄化、表土の保持などの面でより優れた作用を発揮することになるだろう」と説明する。
海東市の馬傑副市長は、「畜産は、当市の伝統産業であるものの、畜産禁止エリアの畜産企業148社が転居するか、生産物を変えなければならない。市民の貧困脱出と生態保護のバランスを取るのは確かに難しい。産業をなくすわけにはいかないため、政府は、水、電気、道路が完備されている場所に、畜産企業が転居するように計画し、環境保護をめぐる問題も解決した」と強調する。
大きな河も、小さな河も、同時に水質の改善に取り組み、下水管を修繕し下水処理場で下水を処理し、生態を回復させるなどの対策が実施されているのを背景に、湟水河の主流・支流の水質は近年、継続的に改善している。
2018年、湟水河の主流の国控小峡橋で観測された汚染物質は前年比で、アンモニア・窒素の濃度が24.7%、化学的酸素要求量が6.56%、全リンの濃度が56.1%それぞれ低下し、水質をほぼⅣ類(5段階で4番目)の基準に到達させるという目標が達成された。
※本稿は、科技日報「三江源生態持続向好,黄河源頭清水来」(2019年9月27日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。