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フレキシブルディスプレイは未来を映すか?

2019年7月25日 姜璇 王全宝(『中国新聞週刊』記者)/江瑞(翻訳)

折りたたみスマホを実現したのがフレキシブルディスプレイという新たなディスプレイ技術である。この技術をめぐる各企業の努力と競争、議論、さらに今後の課題とは。

フレキシブルディスプレイの生産計画

 モバイル・ワールド・コングレス〔MWC〕2019で火蓋が切って落とされた折りたたみスマホをめぐる戦いの炎は今も燃え広がり続け、数多くのスマートフォンメーカーがこぞって生産計画を発表している。そして、折りたたみスマホを理想から現実にするための核となるフレキシブルディスプレイの話題も尽きることはない。

 フレキシブルディスプレイ、つまりフレキシブルOLEDディスプレイで使用されるOLED(有機発光ダイオード、有機EL)は、LCD(液晶)と比較して、自発光、広視野角、高コントラストという特長がある。OLEDはその形態から、リジッドディスプレイとフレキシブルディスプレイに分けられる。

 フレキシブルディスプレイにはどんな特性があるのだろうか。まずはクイズに挑戦してみよう。次のうち、フレキシブルディスプレイの画面が消えてしまうのはどれか。1.沸騰した熱湯に30秒つける。 2.直径2ミリの金属棒に完全に巻きつけてしまう。 3.油圧プレスで4トンの力をかける。

 これはある科学実験で実際に行われた3つの試験だ。実験の結果は、以上のいずれも画面を消すことはできなかった。この3つの試験は、フレキシブルディスプレイの耐熱性、耐屈曲性、耐圧性という物理的特性に対応している。

 中国科学院院士で理論物理学者の欧陽鐘灿氏によると、フレキシブルディスプレイの特性は、それを支える基板(PI=ポリイミド)、つまり厚さ10ミクロンのプラスチック板に左右される。この基板は、ガラス基板の上にガラスセメントを流して固化体し、さらにPI溶液を加えてつくられる。「この基板の上にさらにOLEDや各種半導体を乗せ、フレキシブルディスプレイができあがる。全体の厚さはわずか0.03ミリ」というから驚きだ。ちなみに、一般的なA4用紙の厚さは約0.08ミリだ。

 この、紙より薄く、ピンポン玉より軽いフレキシブルディスプレイは、京東方科技集団〔BOE〕の成都第6世代フレキシブルOLEDパネル生産ラインで生産されている。2017年10月、この生産ラインによる量産は、フレキシブルディスプレイ分野における韓国企業の独占状態を打破した。

 フレキシブルディスプレイ分野では近年、BOEの他にも、深圳天馬微電子〔深天馬〕、Visionox〔維信諾〕、華星光電などの中国ディスプレイメーカーがOLED生生産能力拡大を図っており、武漢、上海、北京、河北省の固安県などにそれぞれ第6世代フレキシブルOLED生産ラインを建設している。注意しておきたいのは、半導体ディスプレイ業界でいう世代とは、サイズの異なる製品の切断ニーズに応じ、その効率を高めるため、マザーガラス基板の面積に基づき設けられている区分だということだ。数字が低いから古い、高いから新しいということではない。 

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Visionoxのフルフレキシブルディスプレイのモジュール製品。 写真提供/Visionox

 新しいディスプレイ技術であるフレキシブルディスプレイは、既に未来のディスプレイ技術の主勢力になっている。しかし、技術的方向性がまだ不明確だった2013年、フレキシブルディスプレイの生産ラインを計画すべきか否かをめぐり、BOE内部で論争が起こった。

 論点は技術的方向性と生産ラインのリスクについてだった。「市場と技術的展望からみて、フレキシブルディスプレイが今後の方向性の1つではあるが、フレキシブルディスプレイの場合、生産ライン1本につき400~500億元の投資が必要になるため、万一生産にこぎつけられなかった場合、企業にとっては存続に関わるダメージを負うことになる」とBOE高級副総裁の張宇氏は言う。

 そもそもなぜ論争が起こったのか。それは、中国のディスプレイ発展史において、「涙の教訓」があったからに他ならない。中国は1970年代から、CRT(ブラウン管)技術の発展を図り、生産能力が急激に拡大し、長虹、TCL、ハイセンスなどの世界的なカラーテレビメーカーを生み出した。しかし2004年、液晶技術が押し寄せてCRTに取って代わると、中国のカラーテレビ産業は手痛い打撃を被り、無残にも淘汰されてしまった。数十億元を投じて建設された生産ラインは、生産を開始する前に水泡に帰した。

「半導体ディスプレイ業界は技術的ハードルの高いアセットヘビー産業で、技術の方向性が企業の存続を左右する。いったん方向性を誤れば、振り出しに戻ってしまう可能性もある」。張宇によると、2010年前後、業界内ではLCDがCRTに取って代わったのと同様にOLED技術はLCD技術に取って代わるだろうかということについて大々的に議論が戦わされたこともあるという。

 この問題に対し、BOEの創業者で現董事長の王東昇氏は「半導体ディスプレイ」という概念を提唱した。王東昇氏は、液晶技術もOLED技術も半導体ディスプレイ技術を基盤に発展してきたもので、連続性と共通性があると考え、代替関係ではなく共存関係だと主張した。当時、比較的早く生産計画に着手した韓国のサムスン電子やLGグループをみると、OLED生産ラインはほぼ全て液晶生産ラインを改造したものだった。

 サムスン電子は大体2000年ごろからOLEDを、2005年にはフレキシブルOLEDの生産を開始しており、既に十数年の生産経験と技術の蓄積がある。 

 BOEは2001年にAMOLEDの実験ラボを設立し、OLED技術の追跡研究を開始した。2013年にはラボでフレキシブルディスプレイ製品を完成させ、その後2年を費やし、最初のフレキシブル専用生産ラインの建設から量産に至った。「フレキシブルディスプレイ分野において、中国は既に日韓などと同じスタートラインに立っている」と張宇氏は言う。

資本運営

 2000年以前、半導体ディスプレイ業界は2度の衰退期を経験した。それからほどなくして、韓国企業と台湾企業がメキメキ力をつけ、またたく間に世界のトップに君臨した。

 現在、OLEDパネル市場はほぼ韓国のサムスンの独占状態にあり、そのシェアはなんと95%にも達する。2018年からは、BOE、深天馬、華星光電、和輝光電をはじめとする中国メーカーも生産能力拡大を図っており、2023年には中国メーカーの生産能力は全世界の40%を占めるに至るという予測もある。

 張宇によると、半導体ディスプレイ業界はアセットヘビー・ハイテク・ハイリスクな業界で、投資額が大きく、リターンを得られるまでの周期が長い。一般的に、生産ライン1本を建設するためには100億元以上の投資が必要で、建設から収益に至るまで5年以上もかかる。この間、企業の収益能力は非常に下がるため、当初の生産経営に頼るだけでは資金繰りが苦しくなる。

 そのためA株市場では、半導体ディスプレイ企業はいつも論議の的となる。地方政府がテコ入れを加速させるわりに、何年も連続赤字を出しているため、一般市民は疑念を抱かざるを得ないのだ。

 だが、半導体業界には、明らかに「逆張り」投資の特徴がある。これは国際的にも前例がある。1993年から1994年にかけて業界が下り坂に入った当時、ほぼ世界市場を独占していた日本の液晶メーカーが生産を縮小させたことで、韓国企業に出し抜くチャンスを与えてしまった。韓国企業は「逆張り」投資戦略で継続的に生産能力拡大を図り、ついにライバルを押しのけて勢力図を塗り替え、絶対的優位性を保ちながら現在に至っている。

 また、2008年の金融危機の際も、世界の家電市場の落ち込みは深刻だったが、中国の半導体ディスプレイメーカーは「逆張り」で生産能の拡大に踏み切った。BOEは赤字を計上しながらも、成都の第4.5世代ライン、合肥の第6世代ライン、北京の第8.5世代ラインを次々と建設した結果、世界の主要TFT-LCD(薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ)メーカーは中国大陸への技術封鎖を断念し、逆に中国大陸での次世代液晶生産計画をスタートさせるに至った。

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BOEの成都第6世代フレキシブルAMOLEDパネル生産ライン。 写真提供/BOE

 リスクの高い次世代生産ラインの建設投資であれ、企業が下降サイクルに入った時期の逆張り投資であれ、世界の半導体ディスプレイ業界の発展のためには、政府の資本参入と政策的指導が不可欠だ。

 張宇氏は当初、BOEが銀行融資に奔走した経験を思い出す。BOEの最初の第5世代ラインは2005年前後に完成し生産を開始した。その年の上半期、17インチディスプレイ1台の価格は約2,000~3,000元だったが、年末にはほぼ半額の1,500元にまで下落した。当時、サプライヤーは供給を停止し、キャッシュフローは滞った。銀行融資も最長でわずか3年で、長期融資はなかった。

 最終的に、国際的な産業発展ルールと産業政策、それに金融資本による支援ノウハウを踏襲し、中国建設銀行を筆頭に7行が銀行団を組んで、BOEに10年の長期融資をおこなった。

 BOEの経験は、中国のディスプレイ関連企業の、成長過程における苦境とそれを打破する方法の、ある意味典型と言える。これを基に、地方政府の資本参加・銀行の融資・会社の自己資金による資本運営モデルが徐々に確立されていった。

競争と提携

 OLEDディスプレイは、iPhone Xなどのスマートフォンに採用されることで、技術の産業化が加速していった。同様に、製造設備や材料・工程技術の発展につれ、曲面ディスプレイ、フルスクリーン、さらにはフォルダブルディスプレイが、スマートフォンをはじめとするモバイルデバイスに採用されるようになり、フレキシブルディスプレイの産業化と応用が加速している。

 サムスンやファーウェイなどのスマートフォンメーカーが公表している量産計画をみると、2019年の折りたたみスマホの出荷台数は100万台クラスに上る。しかし、フレキシブルOLEDの歩留まり率と生産能力がネックとなり、折りたたみスマホの普及率は予想を下回るだろうとの見方は少なくない。

 フレキシブルOLEDパネル産業はまだスタート段階にあると張宇氏は言う。目下、フレキシブルOLEDパネルメーカーに共通する問題は、材料と設備だ。「例えば素材ひとつとっても、提供可能な企業は限られている」

 製造設備に関して言えば、目下OLEDパネル製造の主要設備である蒸着装置は、そのほとんどが日本や韓国企業のものだ。これも、フレキシブルディスプレイ分野において外国企業が主導権を握る主な原因の1つになっている。

 華南理工大学材料科学・工程学院院長の彭俊彪教授は、フレキシブルディスプレイは材料不足と供給ルートの脆弱さがコスト高の原因だと指摘する。「ハイテク材料はまだほとんどを輸入に頼っているが、中国国内で材料の供給拡大を進めているため、1~2年もすれば状況は好転するだろう」

 彭俊彪の華南理工大学チームは、フレキシブルディスプレイ製造に欠かせないもう1つのコア技術であるTFTバックプレーン技術の研究に取り組んでいる。2009年に国家科学技術部「863」タブレットディスプレイ重大特別プロジェクトのメンバーに選ばれると、チームは酸化物TFTバックプレーン技術(LnIZO TFT 技術)を確立していき、日本による技術特許を阻止するに至った。華南理工大学は創維集団(スカイワース)と合同で広州新視界光電科技有限公司を設立し、研究成果の実用化を加速させている。

 材料と設備の限界の他、製造技術の差も歩留まりに影響を与える重要要素だ。「同一メーカーの材料を調達し、同一メーカーの設備を導入しても、できあがる製品に差が生じることがある。生産ラインを建設する際は、マザーガラス基板の運搬、蒸着、露出などの各工程で使用する材料や設備に関して、事前にサプライヤーと共同でテスト開発することが望ましい」と張宇氏は指摘する。

 現在、業界は生産能力、歩留まり率共に上昇期にあり、各半導体ディスプレイメーカーのノウハウ、管理モデル、及び使用する材料は必ずしも同じではない。「技術が向上し成熟していくにつれ、将来的には、よい点は普及し悪い点は淘汰される。いまはその多くが商業秘密だろうが、最終的にはどの企業も均一化に向かう」と彭俊彪氏は解説する。 

 別の言い方をすれば、半導体ディスプレイメーカーは、横から見れば競争あるいは提携関係にあるが、縦方向から見れば、ひとつの産業として成長していくために、相互協力が求められるということだ。

5G時代を迎えて

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2018年11月7日、サムスンは開発者会議でInfinity Flex Displayを採用した折りたたみスマホを披露。写真/視覚中国

 2019年に入り、5Gの実用化が近づいてきた。様々な業界で産業のあり方が飛躍的にグレードアップし、企業のビジネスモデルにも個人のライフモデルにも変化が生じ、IoE(Internet of Everything)がごく当たり前のことになろうとしている。デバイス製品を用いたインタラクティブ体験は、ユーザーが最も直感的な刺激を感じられる部分だ。例えばファーウェイの5G対応折りたたみスマホMate Xはハイビジョン映画1本を3秒でダウンロードしたり、8Kのスーパーハイビジョンカメラでバルセロナの海岸を実況中継したりすることができるという。

 ファーウェイのコンシューマー向け端末事業グループCEO余承東〔リチャード・ユー〕はウェイボー〔微博〕でつぶやいた。「5Gは想像の翼が高速で羽ばたく時代を生み、折りたたみスマホはインテリジェントな未来を切り開く」

 折りたたみの未来はもうそこまで来ているのだろうか。黄秀頎〔Visionox副総裁〕は次のように考えている。「折りたたみスマホは現時点ではまだ、製品として大々的に普及するに足る形態になっていない。今後もしばらくは、リジッドディスプレイとフレキシブルではない曲面ディスプレイが主流であり続けるだろう。企業にとって最も重要なのは、いまの曲面ディスプレイとフルスクリーンを製品として完成させ、大量供給能力をつけると同時に、未来に向けた新製品の応用開発をおこない、技術の更新におけるブレイクスルーを果たすことだ」

 黄秀頎はフレキシブルディスプレイを、リジッド曲面フルスクリーン固定単軸折りたたみ、平行多軸折りたたみ、そしてフルフレキシブル――つまり、任意に折りたたんだり引き伸ばしたりできる――の4つの段階に分類している。

 張宇〔BOE高級副総裁〕は、フレキシブルディスプレイの用途は無限大で、将来はディスプレイがIoT時代のインタラクティブポートになり、「自由自在に変形する」ようになると考えている。「革命的変化というのは、全ての技術が同一の地点に達したときに起こる質的変化のこと。例えば、スマートフォンの普及は、通信技術と液晶技術が同時にある地点に達したことで実現した。iPhone3はまさにそのタイミングで発表された」IoEの時代になれば、当然のごとくDoE(Display of Everything)が必要になる。そしてフレキシブルディスプレイがさらにIoEを加速させる」

 黄秀頎は、フレキシブルディスプレイはディスプレイという機能に留まらず、インタラクティブデバイスとして、モノとモノとをつなげる役割を果たすようになると指摘する。スマートホーム、車載ディスプレイ、VR、AIといったデバイス製品にフレキシブルディスプレイが応用されることで、ディスプレイはどこにでも存在する「ユビキタスディスプレイ」に近づいていくという。

 彭俊彪は技術的側面からフレキシブルディスプレイの未来を展望する。「ディスプレイというものを物理的に考えたとき、フレキシブルディスプレイはほぼその最高峰だと言える。技術的なことを言えば、将来、印刷方式の有機ELにより、新聞を刷るようにディスプレイを製造することが可能になる。また、Roll-To-Roll(ロール・ツー・ロール方式)はコストを引き下げ、生産効率を高めることが予測される」

 中国科学院院士で華南理工大学高分子光電子材料・デバイス所所長の曹鏞は、印刷方式有機ELとフレキシブルディスプレイこそが未来の方向だと言う。「今後しばらくはOLEDがLCDに取って代わるのではなく、共存し相互補完しあう時代が続く」。そしてLCDとOLEDのうちどちらが主流になるかは、製品のコストパフォーマンスにより市場が決めるだろうとした。


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年8月号(Vol.90)より転載したものである。