生分解性マグネシウム合金の研究現状及び展望
2011年12月15日
鄭 玉峰(Zheng Yufeng):北京大学工学院材料科学・工程系副主任、
教授、博士課程指導教員
1973年8月生まれ。1998年9月、ハルビン工業大学で博士号取得(材料学専攻)。主な研究分野は生体医療用材料・医療用機械、先進的機能性材料。国及び政府主導の事業20件余りを担当。中国高等教育科学技術二等賞1件、発明特許2件、実用新案特許5件を取得。SCI論文を200本以上発表、引用は2200回以上、著作5件。現在、Materials Letters、Journal of Biomedical Materials Research-Part B: Applied Biomaterials、Journal of Materials Science & Technology、Acta Metallurgica Sinica(English Letters)等の学術誌で編集委員を担当。
1 背景
医療用金属材料には良好な機械的性質があり、セラミックス及び高分子材料に比べ荷重部位のインプラント材料により適しているため、将来的にも生物材料分野で重要な地位を占めるであろう。しかし、その実用化にはいくつかの欠点が存在する。すなわち、(1)腐食により生じた毒性金属イオン又は粒子の放出による炎症の発生。(2)金属材料の弾性率が大き過ぎるため、埋め込み時に「応力遮断」現象が生じること。(3)血管足場、骨釘、骨プレート、骨ピンのような一時的なインプラント材料として用いる際、体外に取り出すための二次手術が必要となるため、患者に経済的・身体的負担を与えることである。
マグネシウム及びマグネシウム合金は生体用医療材料として、現行の生体医療用金属材料より数多くの優れた性質を有する。すなわち、
(1) ヒトのマグネシウム体内含有量の正常値は25gであり、半分は骨格中に存在する。マグネシウム(1.738 g/cm3)及びその合金(1.75 ~1.85g/cm3)は密度が低く、医療用チタン合金密度の1/3未満であり、ヒトの皮質骨(1.75g/cm3)と極めて近い。
(2) マグネシウム及びマグネシウム合金には高い比強度及び比剛性があり、ヤング率は約45GPaで医療用チタン合金の弾性率(109~112GPa)の1/2に満たず、骨インプラントの応力遮断を効果的に緩和できる。
(3) マグネシウムはヒトの体にとって重要な必須元素であり、生命の維持、身体の健康と極めて密接な関係を有する。Mgはヒトの細胞内で2番目に重要な陽イオンであり(最も重要な陽イオンはK)、含有量はKに次ぐ。マグネシウムには多くの特殊な生理的機能があり、体内のさまざまな酵素を活性化し、神経の異常な興奮状態を抑制し、核酸構造の安定を維持し、体内のタンパク質の合成、筋肉の収縮、体温調整に関わる。マグネシウムはさらに、カリウム、ナトリウム、カルシウムの細胞内外の移動に関わる「イオンチャネル」にも影響し、生体膜電位を維持する役割もある。
マグネシウムの化学的性質は非常に活発であるうえ(-2.36VSCE)、腐食媒質中で生じる酸化皮膜が軟らかく多孔質であるために(PBR=0.8)、マグネシウム及びマグネシウム合金の耐腐食性はやや劣っており、塩素イオンを含むヒトの生理環境ではこの傾向が特に顕著である。この問題は工業用マグネシウム合金の欠点として長らく認識されてきており、生体医療分野でのインプラントとしての実用化においても最大の障壁となってきた。20世紀初め、マグネシウムは臨床への応用が試みられており、例えばLambotteは1907年に純マグネシウム及び金メッキした鉄釘を用いて下腿骨の骨折部位の固定を試みたが、純マグネシウムは体内で急速に腐食し、術後8日で純マグネシウム釘は劣化して崩れたうえ、皮下で大量のガスを発生した。一方で、ステンレス及びチタン合金等はより優れた機械的性質を示し、耐腐食性に優れた材料が登場したため、生体医療用マグネシウム及びマグネシウム合金は歴史の舞台から一時姿を消した。21世紀に入ってから、マグネシウム合金の研究及び応用は急速に発展し、マグネシウム合金の腐食に関する理解が深まるにつれ、ヒトの体内におけるマグネシウム合金の腐食速度は完全に制御可能となった。このため、医療用マグネシウム及びマグネシウム合金は再び研究者たちに重視されるようになり、その易腐食性という特徴を生かして生分解可能な医療用金属インプラントとして発展させることが期待された。先進的な合金製錬及び加工技術によってマグネシウム及びマグネシウム合金の腐食速度を制御し、高い強度という金属材料としての特徴を一定期間発揮してインプラントとしての機能(新骨組織形成の誘導または血管狭窄の支柱等)を全うするだけでなく、ヒトの病変部位を自ら修復すると同時に体内で徐々に腐食して分解され、かつ、溶出した金属イオンは体内で吸収され、または体外に排泄され、自己修復を完了する際に、「異体」としての金属材料も体内で完全に分解されて消失する。分解メカニズムは医療用高分子材料と全く異なるが、強度の低さ及び難分解性という医療用高分子材料の弱点を克服でき、「生体内腐食性及び生分解性」及び「比較的高い荷重強度」の両立が実現できる。
2003年、ドイツ人のHeubleinらはAE21マグネシウム合金(Al2%及びレアアース1%含有)を用いて冠動脈足場の原型を調製し、ブタの冠動脈に埋め込んだところ、新生内膜の形成のため、フォローアップ35日目の冠動脈造影検査の結果は、フォローアップ10日目に比べ管腔損失率40%(p<0.01)となった。また、血管内超音波の結果、血管再生足場の機械的完全性の消失のため、35-56日目に25%の管腔再肥大(p<0.05)が生じた。この結果から、生分解性マグネシウム合金製の血管足場は永久的金属足場の代替物の選択肢として提供可能であることがわかった。この報告がきっかけで、耐腐食性で劣っているという特徴を逆手に取り、ヒトの体内で吸収され分解され得る材料として使用できるという見地から、マグネシウム及びその合金は生物材料の研究者たちから広く注目されるようになった。
その後、生体医療用マグネシウム合金の研究は急速な発展を見せ、ドイツ、スイス、日本、オーストラリア、米国、英国、ニュージーランド、トルコ及び中国の生物材料の研究グループによって、さまざまな学術誌上で関連論文が数百本報告されているが、年代順にフォローすると、「in vitroからin vivoへ、動物からヒトへ、末梢血管から心血管へ」、そして、「研究内容は年々深まり、論文数も年々増加する」ように発展しつつあることが明らかに見て取れる。更に喜ばしいことは、これまでに世界中のいずれの実験でも、血液及び骨環境下の短期試験でマグネシウム合金に関連して悪い結果が出ていないことである。生物材料に関わる世界中の研究者はマグネシウム合金の生体医療向けフィージビリティについて肯定的な見解を示している。例えば、英国ロンドン王立協会フェローのD.F.Williams (Biomaterials誌主編)は2006年に"New Interests in Magnesium"というテーマの論文で、「既存の外科インプラント材料の腐食産物には潜在的リスクがあると考えられているが、マグネシウムの腐食産物は有害どころか、生理的に有益である可能性が高い」旨をはっきりと指摘している。
2 生分解性マグネシウム合金の研究の現状
2.1 工学用マグネシウム合金体系に対する直接的な生物学的評価
現在、研究者たちの関心は、工業分野で比較的成熟したMg-Al系、Mg-RE系マグネシウム合金の生体医療用途としての評価に主に集中している。Witteはポリ乳酸を対照群に、4種類のマグネシウム合金、すなわちAZ31、AZ91、WE43、そして独自に開発したAl 4%、Li 4%、RE 2%含有LAE442マグネシウム合金(レアアースの構成比率:セリウム51%+ランタン22%+ネオジム16%+プラセオジム8%)の動物体内における腐食挙動及び骨反応について研究した。その結果、モルモットの大腿骨髄腔内部に埋め込んだマグネシウム合金棒はいずれも生分解反応を示した。術後1週間でマグネシウム合金棒の周囲には皮下気泡が観察された。皮下気泡はその後2-3週間で徐々に消失し、モルモットへの悪影響は観察されなかった。実験の結果、マグネシウム合金の腐食層にはカルシウムとリンが豊富に含まれ、周囲の骨組織と直接接触することが観察された。対照群のポリ乳酸と比べ、マグネシウム合金棒の周囲には高い鉱化付着率と骨重量の増加が見られた。また、実験結果を3次元復元したところ、AZ91Dは18週後に完全に分解されたが、LAE442は比較的完全な外形を維持することがわかった。
また、Biotronik社はレアアースWE43マグネシウム合金を用いて吸収可能な血管足場AMS(Absorbable Magnesium Stent)を調製し研究した。316Lステンレス製血管足場と比較したところ、AMS足場をブタの冠動脈に埋め込んでから4週間後の血管造影検査の結果、最小管腔内径(1.49mm)はステンレス群(1.34mm)を上回ることが分かった。その後の報告ではAMS足場の具体的な成分は説明されなかったが、合金に用いた主な元素は、依然としてZr、Y、REであった。ErbelはAMS足場(長さ10-15mm、直径3.0-3.5mm)71個を患者63人に埋め込んだところ、気管狭窄率は61.5±13.1%から12.6±5.6%まで低下し、術後1年たっても血栓、心筋梗塞、または死亡例は見られなかった。
2.2 元素の毒性に基づく新型医療用マグネシウム合金体系の設計及び研究開発
現在までに開発された商業用マグネシウム合金の大部分にはAl及びレアアース元素が含まれるが、Alは神経毒性を持つ元素で、レアアース元素は脳で富化されやすいため、生物材料の研究者たちは無毒性または低毒性元素を含む新型のマグネシウム合金を独自に開発している。
Liはさまざまなカルシウム含有量及び加工状態のマグネシウム・カルシウム合金の力学的性質、耐腐食性、細胞毒性及び体内における腐食・分解性について試験をした結果、カルシウム含有量の増加につれ、マグネシウム・カルシウム合金の強度、塑性、耐腐食性は低下した。Mg-1Caには細胞毒性がなく、術後3ヶ月でインプラントは完全に分解され、インプラント周囲には新骨形成が観察され、血清中のマグネシウム含有量には明らかな増加は見られなかった。
Guは9種類のマグネシウム2元合金(Mg-Al,Mg-Ag,Mg-In,Mg-Mn,Mg-Si,Mg-Sn,Mg-Y,Mg-Zn,Mg-Zr)の力学的性質、腐食・分解性及び生体適合性について研究した。その結果、Mg-1Al、Mg-1Sn、Mg-1Znは線維芽細胞(L-929和NIH3T3)及び骨芽細胞(MC3T3-E1)に対して細胞毒性を持たず、Mg-1Al及びMg-1Znはヒト臍帯静脈内皮細胞(ECV304)及び血管平滑筋細胞(VSMC)に対して細胞毒性を持たないことが分かった。血液適合性試験の結果、Mg-1In、Mg-1Mn、Mg-1Si、Mg-1Yの溶血率は5%を下回り、合金サンプル表面に接着した血小板は円形を呈し、少量の仮足があった。
HortはMg-Y及びMg-Gdのレアアース・マグネシウム2元合金の力学的性質及び耐腐食性を研究した。その結果、局部的凝固法により調整されたMg-Yマグネシウム合金には高い純化作用があるうえ、合金の力学的性質及び耐腐食性を向上させ、結晶粒度を向上させ、デンドライト2次アーム間隔を狭め、操作が簡単という利点があることがわかった。実験の結果、Mg-Gd2元合金の降伏強度は33~200MPaに、引張強度は79~250MPaに、圧縮降伏強度は38~216MPaに、圧縮破断強度は157~395MPaに制御でき、力学的性質の比較的大きな変化範囲により、さまざまな部位及び機能の骨インプラントとしての条件を満たせることが分かった。
2.3 表面改質マグネシウム合金による腐食速度の制御
現在研究されているマグネシウム合金のすべてに、腐食速度が速すぎ、分解速度が組織の修復速度を上回るという問題が存在する。マグネシウム合金をインプラント材料として用いる場合は耐腐食性を一層高める必要があるため、生物材料の研究者たちは表面改質という方法を用いてマグネシウム合金の腐食速度の低減を試みている。
Guはアルカリ・熱法(Na2CO3、Na2HPO4、NaHCO3溶液に24h浸漬、773Kを12h熱処理)によりマグネシウム・カルシウム合金の表面改質を試みた結果、NaHCO3アルカリ・熱処理後のマグネシウム・カルシウム合金の表面には緻密なMgO層が形成された。膜厚は約26μmで、このプロセスで得られたサンプルが耐腐食性で最も優れ、細胞毒性を持たないことが分かった。
Guはさらにキトサン被膜については、分子量及び被膜数のいずれもマグネシウム・カルシウム合金の腐食速度に影響を及ぼすことを見出し、なかでもキトサン被膜が6層(分子量2.7×105)のマグネシウム・カルシウム合金の耐腐食性が最も良いことを発見した。
2.4 新規構造を有する生体医療用マグネシウム合金の開発
多孔質マグネシウム合金材料は、生分解性生物材料として細胞に3次元の成長空間を提供できるため養分と代謝物の交換・輸送に適し、マグネシウム自体に生物活性があるため細胞の分化・成長及び血管への伸長を誘導できる。材料の分解・吸収プロセスで埋め込んだ細胞が増殖・成長し続けるため、もともとの特定機能及び形状を保った新たな組織及び器官を形成することで、創傷の修復及び再建という機能目的を達成することが期待されている。
Guは蓮状の多孔質マグネシウムのモデル体液中における耐腐食挙動及び細胞毒性について研究した結果、多孔質マグネシウムはSBF中の浸漬時間が長くなるにつれて孔が腐食産物により徐々に密閉され、15日間の浸漬後、マグネシウム塊は完全に砕化するものの、多孔質マグネシウムはなお、元の形状を維持することがわかった。細胞毒性試験の結果、細胞毒性レベルはIであった。
Zhengは粉末冶金法によりMg/Ca複合材料を調製したところ、Mg/Ca複合材料の引張強度と伸長速度はCa含有量の増加につれて低下し、Mg/1Caには比較的良好な力学的性質、耐腐食性及び細胞毒性があり、DMEM中で72h浸漬した後の表面腐食産物は主にCaCO3、MgCO3×3H2O、HA、Mg(OH)2であった。
Guはバルク状のMg-Zn-Ca非晶質合金の生分解性生物材料としての可能性を研究した結果、Mg66Zn30Ca4には比較的良好な強度及び耐腐食性があり、既存のマグネシウム合金材料に比べて腐食外観がより均質になることから、均質に腐食する特性が示された。これは、亜鉛を豊富に含む腐食層が表面に形成され、良好な耐腐食作用を果たすためである。浸漬液及び直接法による細胞培養のいずれも、Mg66Zn30Ca4非晶質はL-929及びMG63に細胞毒性を持たず、細胞は表面に接着し、良好に成長することがわかった。MgZnCa非晶質合金の体内インプラント実験の結果、これら非晶質により水素放出速度が顕著に低減されうるため、結晶体のマグネシウム合金と同程度の組織適合性を有することが明らかになった。
3 医療用マグネシウム合金研究で将来的に検討すべきこと
全体的に見て、生分解性生物材料には十分な強度が必要であり、分解周期が組織の癒合周期と整合し、かつ良好な生体適合性を有する必要がある。この章では力学的性質、腐食性、生体適合性の3つの面から現在研究中の生体医療用マグネシウム合金の性質を概観し、ヒトの体の組織(骨格、血管等)と比較することで、生体医療用マグネシウム合金の選択法則を模索する。
3.1 力学的性質
骨学上の固定という見地で言えば、最大強度または最高剛度の内固定物が必要なわけでは決してない。内固定では折れた骨格を永久に代替することはできず、一次的支柱となるに過ぎない。マグネシウム合金の低弾性率という特性によって、既存のチタン合金の応力遮断作用を効果的に緩和できるうえ、マグネシウム合金はセラミックスに比べてより良い伸長性があり、高分子材料に比べて高い強度があるため、力学的性質上、新型の生物材料として有利である。合金化元素や押し出し法、熱間圧延法等の調整により、いずれのマグネシウム合金も骨に近い比較的高い強度に達し、インプラントとしての条件を基本的に満たすことができる。
3.2 腐食性
材料分解速度の低減は非常に重要である。マグネシウム合金から見れば、分解とはすなわち腐食のことであり、インプラント材料の分解周期と組織の癒合周期がマッチするかという問題に関わるだけでなく、力学的性質の減退速度にも影響を及ぼす。生分解性マグネシウム合金は、主に血管足場及び骨インプラントの2つの面で潜在的応用性がある。骨学的材料にとってみれば、骨折端における仮骨形成から新骨形成後の固着癒合まで3~4ヶ月が必要となるため、生分解性マグネシウム合金は骨学的材料としては少なくとも3ヶ月間は力学的性質を維持する必要があり、その上で初めて術後における固定物の急速過ぎる分解により二次骨折の危険性をもたらさないことが保証される。
3.3 生体適合性
生分解的に吸収される生物材料として、マグネシウム合金のすべての合金化元素は最終的にヒトの体内で分解される必要があるため、生物学的安全性の面から見れば、生体適合性は非常に重要となる。
カルシウム、亜鉛、マンガンはヒトの必須元素であり、体内に進入した後は代謝されて体外に排出されうるため、マグネシウム合金の合金化元素として最初の選択肢となるべきである。シリコンはヒトの必須元素である可能性があるため、微量のシリコンによる合金化も生体医療用マグネシウム合金の選択肢となり得る。
リチウム、アルミニウム、ジルコニウム元素はマグネシウム合金の重要な合金化元素であり、マグネシウム合金の腐食により一日に放出される元素量はいずれもmgオーダーであり、許容一日摂取量を上回ることはない。また、LAE442及びAZ91の体内インプラント実験では、いずれのマグネシウム合金も良好な生体適合性を持つことが示されている。しかし、リチウム及びアルミニウムの毒性による影響が比較的深刻であることを考えると、両者をマグネシウム合金に加えて合金化元素とする場合は、含有量が厳しく制御されなければならない。ジルコニウムはマグネシウム合金中の合金化元素として、一般に含有量は0.8wt.%を上回ることはないうえ、顕著な毒性もないため、マグネシウム合金の結晶粒度を向上させ、マグネシウム合金の力学的性質及び耐腐食性を改善するために添加してよい。
イットリウム及びレアアース元素は非常に特殊な部類であり、現時点では毒性、代謝経路とも明らかでないが、がんの治療に用いることができる。現在、臨床試験段階にあるAMS足場には10wt.%のレアアース元素が含まれるうえ、動物実験及び臨床試験のいずれも良好な結果が得られている。イットリウム及びレアアース元素もマグネシウム合金において、マグネシウム合金の力学的性質及び腐食性を改善する上で非常に重要な元素であるため、レアアース・マグネシウム合金の生体適合性についてはさらなる研究が待たれる。
4 製品開発の状況
世界では現在すでに、多種多様なマグネシウム合金製の医療製品が存在し、これにはプレート材、棒材、管材、多孔質フォーム、複合材料、骨釘、血管足場等のさまざまな形式がある。このことは、マグネシウム合金は医療用製品において良好な加工・成型性と応用上の潜在力があることの表れである。
5 総括及び展望
生分解性医療用マグネシウム合金は、マグネシウム合金の持つ比較的良好な生体適合性及びヒトの体内環境中で腐食しやすいという特性を利用することで発展した生分解性(吸收性)医療用金属材料である。金属材料の持つ優れた総合的な力学的性質(強度、塑性、弾性率)及び加工・成形可能であるという性質を保っていることから、他の生分解性材料(高分子、セラミックス)に対し応用の潜在性で競争力を持つが、ヒトの体内環境の複雑さのために、これら材料の研究にはさらに長いプロセスが必要となる。マグネシウム及びマグネシウム合金の体内腐食性の本質に対する深い理解及び生体適合性に関するシステマチックな研究により初めて、近い将来、マグネシウム及びマグネシウム合金は医療用金属インプラント材料の分野でさらに発展し、成熟するものと信じる。