第161号
トップ  > 科学技術トピック>  第161号 >  免疫細胞療法 プレシジョン・メディシン最前線

免疫細胞療法 プレシジョン・メディシン最前線

2020年2月19日 姜璇/『中国新聞週刊』記者 郁玫/文 神部明果/翻訳

新型医療分野における発展とリスクのバランスをいかに保つか、これは世界の免疫細胞療法の監督管理者の前に立ちはだかる難題だ。安全性の保証という前提のもと、効能の安定性や持続可能性をどう実現するかに関しては、監督管理部門が具体的な細則を定めることで規範化する必要がある。

 近年、がん治療の領域ではCAR-T〔カーティー〕細胞療法をはじめとする遺伝子改変免疫療法や、免疫チェックポイント阻害薬を使用した免疫療法などの成果が大きな注目を集めている。そうした技術の進歩は、幹細胞および腫瘍免疫細胞を主とした免疫細胞療法の世界的な普及を加速させている。

 2017年、米国は免疫細胞療法の産業化における重要な一歩をいち早く踏み出した。FDA(アメリカ食品医薬品局)が相次いで承認した2種類のCAR-T細胞療法薬(キムリアおよびイエスカルタ)の販売が開始されると、これを皮切りに同治療薬は世界各国の監督管理部門にも承認され、細胞治療産業化の新たな波がわき起こった。

 中国は免疫細胞療法の領域において米国に次ぐ世界第2の市場となっており、複数の国家政策による下支えにより産業規模は急速に拡大している。だが、投資家、企業家、学界関係者は細胞療法の産業化に対する慎重な態度を崩していない。複数の業界関係者は取材に対し、CAR-T細胞療法が血液腫瘍の治療分野で結果を出している点は否定できないものの、固形がんの治療における有効性、安全性および政策による監督管理などの面で依然として多くの課題があり、免疫細胞療法が臨床段階から産業化に向かうには「いくつものハードルがある」との考えを示した。

 この他、中国における細胞療法は実用化の点でも順調とはいえない。3年前の「魏則西事件〔滑膜肉腫の患者が不適切な治療により命を落とした事件〕」により、免疫細胞療法の発展は停滞している。

 世界規模での産業化の新たな波と政策的後押しがあって、上海市の張江産業区、天津市の濱海新区、武漢市の東湖新技術開発区(別名「光谷」)などの地域は産業化にむけた陣形づくりにいっそう力を入れ、なんとか波に乗り遅れまいとしている。だが、業界全体は研究領域の革新性、川上と川下をつなぐ産業チェーン基盤の弱さといった中国特有の問題、さらには、監督管理部門との駆け引きやボトルネックに直面する技術発展といった、グローバル競争への参入で生じる世界共通の問題に直面している。

CAR-T細胞療法ブーム

 2012年4月、アメリカの女の子エミリーは2度の急性リンパ腫の再発を経て一命を取り留めた。その後、彼女の両親はフィラデルフィア小児病院を探し当て、スイスの大手製薬会社ノバルティスによるCAR-T細胞療法の第一期臨床試験プロジェクト(CTL019)に参加した。

 CAR-Tの正式名称はChimeric Antigen Receptor T-Cellで、キメラ抗原受容体T細胞による免疫療法だ。簡潔にいえば、患者自身のT細胞に対し、遺伝子改変によりキメラ抗原受容体(CAR)を発現させ、改変を経たT細胞を体外で大量に増幅培養し、再び患者の体内に戻す。このCAR-T細胞は、体内で特定の抗原を有するがん細胞を識別したうえで攻撃する。すなわち、人体が本来有している免疫反応を活性化させることでがんの治療効果が得られるというものだ。

 しかし、CAR-T細胞を体内に注射した後、エミリーには高熱、呼吸不全およびショック症状が現れたため、ICU(集中治療室)で2週間人工呼吸器に頼って過ごすことになった。CAR-T細胞療法の深刻な副作用の1つはサイトカイン放出症候群(CRS)であり、医師はエミリーの血液サンプルのインターロイキン-6(Interleukin-6)のタンパク質比率が正常値の1000倍であることを発見していた。これはすなわち、彼女の免疫システムが彼女自身を攻撃し続けていたことを示している。

「CAR-T細胞療法の主な副作用には、オフターゲット効果によりT細胞が正常な細胞を攻撃するか、またはT細胞が短期的に大量の腫瘍を死滅させることで発生するサイトカインストームおよび腫瘍崩壊症候群がある。後者は血液腫瘍の治療過程でぶつかる主要な問題だ」。ペンシルバニア大学のアブラムソン・がんセンターの趙陽兵(ジャオ・ヤンピン)博士は2009年にCAR-T細胞療法の研究に加わった先駆者の1人であり、当時の研究責任者カール・ジューン氏の研究チームはCD19抗原を標的としたCAR-T細胞療法の研究業務を現在も継続している。

 米国のFDAが2017年に承認したスイスのノバルティス社および米ギリアド・サイエンシズ社製の2種類のCAR-T細胞療法薬(キムリアおよびイエスカルタ)の発売が相次いで開始されたことで、CAR-T細胞療法をはじめとする細胞療法の産業化の波がわき起こった。

 産業界と投資家が争うようにして同分野に参入した2017年は、免疫細胞療法の商業化元年とされている。米『ネイチャーレビューズ・ドラッグディスカバリー』誌のリポートによれば、2019年3月の時点で計1011件の細胞免疫療法が世界で承認済みまたは開発中となっており、前年比で258件増加したという。注目に値するのは、そのうちCAR-T細胞療法が568件と半数以上を占めており、2018年3月までの件数に比べ164件増加している点だ。医療業界のCAR-T細胞療法ブームは今も続いている。

写真

復星凱特性物科技有限公司のCAR-T細胞療法製品センターの実験室

望まれる監督管理改革

 CAR-T細胞療法の商業化製品であるキムリアおよびイエスカルタが米国で承認され発売されると、世界中で産業化にむけた動きが加速した。現時点ですでにEU、カナダ、日本など世界各国の監督管理部門の承認を受けている。

 しかし、免疫細胞療法が既存の化学医薬品と異なるのは、販売が承認された後、急速に産業化が実現した点だ。復星凱特生物科技有限公司の王立群(ワン・リーチュン)総裁によれば、免疫細胞療法は個体のシステムプロセスに基づく完全な個別化医療であり、たとえ広く応用できる条件を備えていたとしても、個別の製品、技術、臨床状況についての評価や分析が必要になるという。「キムリアおよびイエスカルタの承認は、免疫細胞療法時代の到来を意味するものだが、臨床段階から産業化の実現までには多くの課題がある。例えば免疫細胞療法に適した監督管理方式や、生産プロセスに関する標準の統一化、さらには高額な治療費といった問題だ」[王立群氏]

 免疫細胞療法の効果は、細胞採取や免疫による排除の抑制など多くの臨床データがなければ測定できない。中国はがんの高発症国であり、臨床リソースやデータが豊富であるため、各大手医薬品メーカーにとっては目が離せない免疫細胞療法の産業化市場になっている。

 免疫細胞療法の急激な世界的ブームは、細胞関連産業の集積を加速させている。上海市の張江産業区を例に挙げると、現時点で70社を超える細胞関連企業が産業区内に集積しており、その分野も細胞保存、製品開発、臨床研究から実際の応用に至るまで、細胞にかかわるすべての産業チェーンそれぞれの重要な部分を網羅している。

 あるデータによれば、2019年10月の時点で、臨床試験の許可を受けた中国国内の21件の細胞療法薬のうち、半数以上を占める11件が張江の細胞産業区で開発されたものだ。また全国で細胞療法薬の臨床試験を申請した開発企業の4分の1、また上海市で細胞療法薬の臨床試験を申請した開発企業の8割が張江の細胞産業区にある企業になっている。

 上海張江(集団)有限公司の袁涛(ユエン・タオ)・董事長は次のように言う。「細胞免疫療法や遺伝子療法は現在、バイオメディカルにおいて最も注目を集め、かつ最もポテンシャルのある研究分野だ。張江産業区にはバイオ医薬品領域で20年以上の歴史をもつ産業基盤があり、産業の集積地になっている。細胞関連産業が直面しているのはグローバル競争であり、今後の鍵は産業区内にグローバルな技術対話のためのプラットフォームを構築し、産業の集中度とアピール度を引き上げることだ」

 上海市浦東新区政治協商会議の副主任、科学技術・経済委員会主任の唐石青(タン・シーチン)氏によれば、現在、細胞領域の世界的な大企業は張江産業区に拠点を置いており、細胞産業の研究者や科学者が最も集中するエリアになっている。政府も産業ニーズに基づき、ウイルス分取と同じような基礎的かつ機能的なプラットフォームの構築を進めている。バイオ医学分野での数十年の蓄積で生み出されたものは、産業リソースだけではなく、より重要なのは企業の発展に必要な産業エコシステムとイノベーションエコシステムだと唐氏は考えている。

 事実、国の各部門はすでに複数の政策を公布し、免疫細胞療法技術の産業化を支持している。国務院は2012年12月、バイオ産業発展計画に関する通知を発表し、抗悪性腫瘍薬、治療ワクチン、免疫細胞療法などを重要発展産業および重点支援産業にすることを明確化した。

 細胞療法技術の発展と産業化は引き続き各地で進められているが、そこに上海の張江、武漢の光谷、杭州や南京などの医薬品産業の基盤がある地域が続々と加わっており、監督管理体制の革新と政策イノベーションが今後の重要なカギになっている。袁氏によれば、各地が100億元、1000億元規模の細胞産業集積地づくりに尽力しているということは、細胞関連産業がもたらす莫大な経済的・社会的効果を重視しているということであり、こうしたイノベーション産業の発展には一定の政策的支持と成長空間、さらには監督管理部門との良好な相互作用が必要だという。

「実のところ、企業や人材を最も惹きつけるのは第一に産業集積により形成される産業エコシステム、第二に政策や監督管理の革新によりもたらされる成長空間であって、単純な土地や資金援助ではない」。上海張江(集団)有限公司の王凱栄(ワン・カイロン)副総経理は、産業区では公共実験室などの公共プラットフォームの構築により、関連施設を整備することが必要だと述べている。さらに免疫細胞療法の産業化を阻んでいる課題を解決することも欠かせないという。例えば監督管理部門と共同で細胞試験・標準研究センターを設立し、そこからさらに進んで企業、人材、研究機関、公共プラットフォームの集積を作り出し、トータルなエコシステムをもった完結型産業チェーンをつくりだすことだという。

 免疫細胞療法をめぐる各地の積極的な動きと対照的なのが、監督管理方式における「双軌制」〔二重制度、ここでは規制と緩和を計画経済と市場経済になぞらえている〕という考え方がなかなか明確に定まらない点だ。中国科学院の院士で中国科学技術大学の生命免疫研究所所長を務める田志剛(ティエン・ジーガン)氏によれば、業界は現在2つの大きな障害に直面しているという。第1に免疫細胞療法薬の監督管理方法をめぐる課題、第2に医薬品の供給方式と医薬品そのものが同じ1つのビジネスモデルで括れないという問題である。「免疫細胞療法の監督管理の歴史は30年に及ぶが、ずっと同じ問題を議論しており、いまだ解決に至っていない。昨今、免疫細胞療法の臨床効果はますます顕著になりつつあり、監督管理のキャッチアップが迫られている」

 事実、議論の根っこは免疫細胞療法の特殊性にあり、その特殊性に見合った応用と監督管理主体の間には大きな差異がある。つまり、免疫細胞の採集、処理および患者への再注射の過程は診療手段とみなされるため、病院が業務を主導し、衛生健康委員会が監督管理を実施する一方、体外で処理される細胞は特殊なバイオ薬品とも捉えられるため、医薬品メーカーが業務を主導し、薬品監督管理局が監督管理を実施しているという問題だ。

 欧米諸国が完全に医薬品基準で監督管理を実施しているのに対し、中国が実施しているのは「双軌制」方式の監督管理だ。1990年代から2012年まで、国内の監督管理は長らく緩い状態にあり、細胞療法の臨床研究や応用が急速に進み、300カ所近くの病院や研究機関が幹細胞療法を実施していた。この期間中、間葉系幹細胞による治療件数は毎年約5000例、また自己骨髄細胞による治療件数は毎年約2000件に上った。

 このようななか、審査承認を経ていない臨床試験や臨床応用プロジェクトが増え、業界は混乱した。2009年に国は重要法規を複数公布し、幹細胞や免疫細胞療法を含む細胞療法を厳格な規制が必要な「第三類治療技術」に組み込み,業界規範を厳格化したことで、細胞療法の発展はいくらか減速した。

 2016年になると、「魏則西事件」のおかげで人々は絶えず免疫細胞療法に関心と疑念を持つようになり、無秩序な業界に対する監督管理の強化につながった。国家衛生計画生育委員会(現在の国家衛生健康委員会)は同年5月、医療機関による細胞免疫療法に関する臨床応用を緊急停止し、臨床研究のみを許可し、有償での治療を禁じた。さらに同12月には国家食品薬品監督管理総局(CFDA、現在の国家薬品監督管理局)が「細胞製剤の研究と評価技術指導原則」(意見募集稿)を発表し、細胞免疫療法の関連製剤を医薬品の監督管理の中に組み込むことを初めて明確化した。

「この決定は、免疫細胞療法薬が医薬品基準で審査認可、販売、臨床研究される道を切り開くと同時に、業界では医薬品の厳格な管理監督基準が免疫細胞療法に適用される、つまり規制強化のシグナルとも捉えられた」。復旦大学薬学院の王明偉(ワン・ミンウェイ)院長はこう述べる。

 実のところ、中国の「双軌制」は日本の監督管理経験を参考にしたものだった。日本は創薬の監督管理に関して開放的なスタンスに立っており、欧米諸国と同時もしくはそれより先に販売される新薬さえ存在する。例えば世界で初めて免疫療法によりがんを治療するPD-1阻害薬オプジーボは、各国に先立ち日本で初めて承認されている。米国で承認・発売されたのはその5カ月後だ。

 こうした開かれた監督管理の方針は細胞療法領域にも適用されている。信州大学の柴佑司教授によれば、2012年に京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことが、同業者に自信をもたらしただけでなく、監督管理にさらなる幅を持たせる重要な契機にもなったという。その数カ月後に安倍晋三首相は、再生医療の発展を後押しするため今後10年で1100億円を投じると約束した。

 国家衛生健康委員会は2019年3月に「体細胞療法の臨床研究および実用化応用管理弁法(試行)」(意見募集稿)を発表した。この意見稿は、体細胞療法実用化プロジェクトについては、届出をおこなった後に臨床での応用に入り、治療費を徴収してもかまわないと明言している。これは医療機関における免疫細胞療法の解禁のシグナル、また免疫細胞療法による有償治療を再始動させ、許可するものとみられている。医療機関は細胞療法分野において医薬品メーカーと同時に競争を繰り広げることになるだろう。

 業界は監督管理面でのブレークスルーにさらなる期待を抱く。「細胞分野の監督管理には多くの部門の協力が欠かせない。グローバル競争に直面する現在、業界の発展には監督管理政策による早急な支援と規範化が必要だ」。上海国際医学園区集団有限公司副総経理の戴月明氏は、監督管理制度の革新においては一部権限の譲渡も検討できると考える。つまり産業園区が審査監督責任を部分的に担い、全国でも衛生関連リソースが豊富な地域においては、臨床試験が成熟した一部の技術を「先行して試行」し、医療行為としての費用徴収を試験的に実施できるといったことだ。

 新型医療分野における発展とリスクのバランスをいかに保つかは、世界の免疫細胞療法の監督管理者の前に立ちはだかる難題だ。「安全性は何としても第一に優先されるべきだが、安全性の保証という前提のもと、効能の安定性や持続可能性をどう実現するかに関しては、監督管理部門が具体的な細則を定めることで規範化すべき」と王明偉氏は述べている。

業界の苦境

 事実の問題として、米国と中国ではすでに細胞免疫療法が最も活発に実施されている。

「中国での治療件数は米国とほぼ同じであり、CAR-T療法による治療件数では米国を上回っている。しかし現時点で国内の研究全体に言えることだが、基礎分野の研究に中国独自の発見はなく、革新性や新規性が不足している。これが米国との最大の違いだ」と田志剛教授は言う。同氏によれば、免疫細胞療法の各段階には解決すべき基礎科学上の問題がいまだに多いという。

 CAR-Tをはじめとする免疫細胞療法の前には、研究の方向性の偏り、固形がん治療では効果が限定的なこと、高額な治療費など産業化を阻む世界共通の問題がいまなお立ちはだかる。

 上海恒潤達生生物科技有限公司の黄飛(ホアン・フェイ)副総経理によれば、後発企業は医薬品の研究開発で失敗リスクを軽減したいと考えるため、同一標的への集中が深刻で、今後は不必要かつ過度な市場競争が発生する恐れがあると分析している。しかし、実のところ腫瘍全体の9割を占める固形がんこそ免疫細胞療法における最大の課題であり、かつ将来的な拡大市場であるため、各企業も固形がんに特化した研究開発体制を敷き始めている。

 趙陽兵氏は以前、CAR-T療法技術の固形がん治療におけるボトルネックを総括したことがある。「第1に腫瘍特異抗原(TSA)を標的とした安全性の高い製剤がないため、一般的な治療に使われる量が少なすぎて実際の治療効果が見極めにくい。第2に大多数の固形がんのヘテロ耐性のため、CD19、BCMA、CD123などの血液系のがん抗原とは異なり、患者の身体のすべての(または絶対数の)がん細胞が同一の抗原を発現することは難しい。第3に多くの腫瘍における微小環境の抑制メカニズムは非常に強力であり、T細胞ががんの部位にまったく到達できないことがある。たとえがんの部位に到達できたとしてもその機能が瞬く間に抑制され、ときにはがんが助長されてしまうこともある」

 この他、高額な治療費も産業化に影響を与える一大要因だ。キムリアによる治療費は47.5万ドル、またイエスカルタでは37.3万ドルに及び、多くの患者が尻込みせざるを得ない価格となっている。中国では現時点で承認・発売済みの製剤は存在しないが、黄飛氏によれば、現在業界が予想している治療費は30~50万元で、世界でも相対的に競争力のある価格帯に収まる見込みだ。

 上海市東方医院の劉中民院長は、幹細胞の研究開発期間の長さやコストの高さといった問題を考えると、政府主導でいくつかの公共サービスプラットフォームを構築する必要があるとみている。幹細胞の作製を例にとれば、国が認定し、業界が認可した能力あるプラットフォームで細胞を作製し、各機関や企業が研究を実施する際は独自に作製しないということだ。このプラットフォームから必要な細胞を入手しさえすれば、最終的な標準を共有することができ、時間的コストも削減されるという仕組みだ。これは現在のボトルネックを解決するうえで重要な措置になると同氏は考えている。

「張江細胞産業区の発展の基軸となっているのは、医療・医薬品産業集積地から生まれる革新的リソース、ならびに水準の高い複数の病院を抱える環境的な優位性だ」。上海テクノロジーイノベーション推進センター建設弁公室の専任副主任を務める呉強氏によれば、張江にとって細胞産業の発展は「もう一度創業するぐらいの気持ちで挑む新たな道程」である。国内外の細胞産業のイノベーション的発展の発信地となり、同時に成果の集積地となるためには、政策的な観点から細胞産業の立ち位置を明確化し便宜を図る産業上のサポートが欠かせない。同氏はそう考えている。

写真

張江細胞産業区の俯瞰写真


※本稿は『月刊中国ニュース』2020年3月号(Vol.97)より転載したものである。