北斗3号運用開始 測位精度は1センチに
2020年10月21日 李想俣(『中国新聞週刊』記者)、及川佳織/翻訳
衛星測位システム・北斗には、従来の測位・ナビゲーション・報時機能の他にも特徴的なサービスがあり、ショートメッセージ送受信機能は「いまどこにいるか」だけでなく、「いま何をしているか」を伝えられる。
7月31日、人民大会堂において北斗3号衛星測位システムの運用開始式が盛大におこなわれ、大きな話題となった。多くの人の疑問は、すでにあるGPSと比べて、北斗にはどんな違いがあるのか、だろう。まず例を挙げてみよう。今年7月6日、湖南省常徳市石門県雷家山で70年ぶりに大規模な山崩れが発生し、省道の寸断、小型発電所1カ所の損壊、住宅5棟の倒壊を招いた。しかし山崩れの起こる前、住民はすべて避難しており、死傷者はいなかった。
住民が安全に避難できたのは、北斗の高精度な土砂災害モニタリング警報システムが、事前に予報を発していたからだ。石門県では、土砂災害の危険性がある雷家山にこのシステムを設置しており、観測ポイントは11カ所ある。6月24日、石門県はシステムが発する「危険レベル」との土砂災害予報を受け、すぐにそのエリアに住む6世帯20人を避難させた。7月6日午後に山崩れが起きるまでに、現地ではさらに被害が予測されるエリアの8世帯13人も避難させた。
「いまどこで何をしているか」を伝える
北斗にとって、これは小手調べだ。全地球衛星測位システムの新参者である北斗には、従来の測位、ナビゲーション、報時機能の他にも、特徴的なサービスがある。たとえば、北斗にはショートメッセージ送受信機能があり、通信とナビの一体化という独自のモデルを開拓した。
中国衛星ナビゲーションシステム管理弁公室の『北斗衛星測位システム発展レポート』によれば、中国で1980年代から始まった衛星測位システムの発展戦略は3段階に分けられる。第1段階は、2000年年末に北斗1号を完成し、中国にサービスを提供する。第2段階は、2012年に、北斗2号を完成し、アジア太平洋地域にサービスを提供する。第3段階は、2020年に北斗3号を完成し、全世界に向けてサービスを提供する。計画は2035年まで続き、北斗を中心として、どこにでも存在し、あらゆる「モノ」と融合し、よりインテリジェントな総合測位・ナビゲーション・報時体系の整備を目指す。
中国衛星測位システムの3段階戦略の最後の1歩である北斗3号は、2号からの単純な更新ではなく、大きな歴史的飛躍がある。たとえば、前述したショートメッセージ送受信機能は、他の測位システムが受動的測位しかできず、「いまどこにいるか」だけを伝えるのに対し、北斗はほかの人に「いま何をしているか」を伝えられる機能がある。地震や海上遭難によって他の通信手段が使えない状況でも、北斗はショートメッセージ送受信機能で救助要請やSOSを伝えられ、最後の命綱になる。
北斗2号のショートメッセージ送受信サービスをベースとして、北斗3号で送れるエリアショートメッセージは1回につき漢字120字から1,000字に、サポートできるユーザー数は50万から1,200万に増え、さらに全世界の範囲でも漢字40字のショートメッセージ送受信が可能である。何か突発的な状況が起こったときに、字数や言い回しを考える必要はなく、状況を伝えれば済み、写真などの情報も発信できるため、応用できる場面が大きく広がった。
「制限があるとすれば、人類の想像力だけだ」
公式サイトによれば、北斗はすでに交通運輸、農林漁業、水利関連モニター、気象予報、通信報時、電力調整、災害救助・減災、公共の安全などの分野で利用されている。さらに北斗を使ったナビゲーションサービスはEコマース、移動端末製造、位置情報サービスなどの企業に採用され、中国の民間消費、シェア経済、民生分野に進出しており、これを応用した新モデル、新業態、新経済が絶えず登場して、人々の生産と生活を大きく変えている。
土砂災害というのは、目に見えず、突発的に発生し、破壊力があるため、早期警報の中でも最も重要なものである。今年だけでも、北斗の土砂災害モニタリングシステムは湖南省寧郷市、望城区などで何度も災害の早期警報を出している。正確な測位こそが北斗の「本領」である。この機能によって、北斗は山・ダム・川の変形や移動などを24時間リアルタイムで観察し、変形値によって危険度を評価し、起こりうる地滑り、地盤沈下、亀裂、ダムの損壊、川の水位上昇などについて警報を発する。
北斗の高精度土砂災害警報システムのおかげで、断層や土砂災害が頻発する龍門山を有する四川省綿陽市では、9年連続で土砂災害による死傷者を出していない。
この他、北斗の利用はシェア経済、IoT、自動運転などの新分野にも広がる。交通運輸業は、北斗最大のユーザーの1つだ。重要な輸送プロセスの監視、道路インフラの安全監視、高精度な港湾のリアルタイム管理などに幅広く利用されている。『北斗衛星測位システム発展レポート』によると、2019年12月現在、営業用車両650万台、郵便・宅配用車両4万台、36都市のバス8万台が北斗を利用しており、世界最大の営業車両監視システムが構築されている。国内のEコマース企業の輸送車と配送員は、北斗の車載端末やスマートウォッチを使い、車・人・貨物情報のリアルタイム管理をおこなっている。近年、中国では道路輸送の重大事故発生数と死者数はいずれも50%減少した。
水上交通でも、北斗は大きな貢献をしている。内陸河川の施設約3,200カ所、海上誘導施設約2,900カ所に北斗が利用されている。関連部門は「インテリジェント長江」建設において、長江で稼働する公務船舶800隻、民間船舶2,000隻に北斗の端末を搭載し、北斗内陸河川危険警報管理システムと水上輸送情報公共サービスシステムの構築をおこなう予定である。
農機具の分野では、自動運転による種まき機・田植え機が生産効率向上の「黒科技」(日本のアニメ作品「フルメタル・パニック」を指し、超先端技術を意味する)となっている。北斗の測位機能によって、あらかじめ決めたルートに沿って播種機・田植え機に自動で作業させるのである。北斗の高精度な測位機能により、1,000メートルあたりの誤差は2センチ以下で、1ムー(0.67ヘクタール)あたりの出芽率が10%向上した。
北斗を使った農機具の自動運転システムは、全国ですでに2万台以上導入され、作業コストが50%削減されたとの統計もある。北斗による農機具管理プラットフォームとIoTプラットフォームは10万台にサービスを提供しており、作業管理効率を大きく高めた。
まさに北斗衛星測位システムプロジェクトの孫家棟(スン・ジアドン)・初代チーフエンジニアが言うように、「北斗に制限があるとすれば、人類の想像力だけ」なのである。正式な運用開始により、人々の生活に密着した多くの分野で、北斗3号を目にする機会がますます増えることだろう。
6月23日、陝西省漢中市。ドローン操縦士がマルチコプターを操作し、略陽県内の宝成鉄道・王家沱―楽素河間K227+210m地点から離陸させた後、北斗衛星測位システムを利用し、1級水害危険地帯の山で映像と画像データの収集をおこなった。写真/中国新聞社
※本稿は『月刊中国ニュース』2020年11月号(Vol.105)より転載したものである。